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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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脱出しましょう

 マディスがパトラを薬でやっつけた後、パトラが起き上がってくることは無く、私達は静かな一日を過ごすことができた。

 そして、その日一日警戒してたけどバグリャの町にも何の動きも無く、静かな一日が過ぎていく。

 私達も警戒はしていたけど杞憂に終わり、マディスの薬だけ持って解散することになる。

 私とジルはマディスに渡された薬を即座に使えるように準備したうえで、それぞれの部屋に戻って寝ることにした。






「ルーチェさん! 大変です! 起きてください!」

「!? な、何!?」


 そして、私がバグリャの宿の部屋で寝ていた時、突然ジルがドアを激しく叩いて私を叩き起こした。

 な、何なのいきなり……?


「今すぐマディスさん、ルシファーさんと合流しましょう! 外が大変なことになっています!」

「まさか……!」


 ジルの言葉を聞き、即座に窓の方を見る。

 そこには――――城壁以外の全てが燃え上がる、バグリャの町があった――――!






「ヒャアッヒャッヒャッヒャア!!! 馬鹿なヒローズ軍め! お前達も、労働力の連中も、全員皆殺しだあ! このバグリャの城壁が、お前たちを焼き尽くす地獄のかまどになるんだよ!」


 何処からともなく聞こえてきた声。

 窓を開けると、バグリャ軍の兵士が城壁の上から滝のように油をバグリャの町に注いでいる光景が目に飛び込んできた。

 バグリャの町中は次々に注ぎ込まれる油によって瞬く間に炎に包まれ、更に城壁の上から放たれた火矢が町の至る所にあった木箱や樽を直撃、そこから爆炎と火柱が立ち上る。

 ……その光景は、まさにこの世の地獄といった方が良いのかもしれない。

 油の滝に包囲された町の中。

 分厚いバグリャの城壁――――石の壁と城門を突破する術などないまま、四方から降り注ぐ火矢と町中の仕掛け、油の滝によって中に居る者はこの町の住民含めて全て焼き殺される。

 その光景は、何処をどう見ても地獄の光景を再現したような物だった。


「酷い……」

「ここも危険です! 今は無事ですが、多分」


 ジルの言葉が最後まで終わらないうちに、私の部屋の隣から爆音が響き、その部屋の扉が吹き飛んで熱気が廊下に流れ込む。

 その直後に私の部屋からも爆音が聞こえたあたり、もしかしたら宿の窓の下にも仕掛けがあったのかもしれない。


「二人の所に急ごう!」

「ええ! このままここに居たら焼け死にます!」


 マディスに渡された薬を握り潰し、光の粉を身体に纏わりつかせた。

 すると、感じていた熱気が無くなり、私とジルの身体をうっすらと赤い光が包み込むような感覚を覚える。

 ……今のうちに合流しよう!






「ルーチェ! ジル! 無事か!?」

「一刻も早くここを出るよ! この建物恐らくあまり保たない!」


 宿の階段を駆け下りると、ルシファーとマディスが宿の入り口を開けて待っていた。

 宿の外は真っ赤な炎で埋め尽くされており、更にどんどん流し込まれる油が炎の勢いを増しているため、普通の人では恐らく逃げることもできない。


「そうだね! ルシファーの盾で炎を吸収しながら広場まで急ごう! あそこなら!」

「広場か! あの鉄屑のおかげで仕掛けは無いな! マディスの薬で守りを固めればあそこなら安全だ! 行くぞ!」


 マディスが薬を全員に使い、火矢による攻撃の対策を固める。

 直後、ルシファーを先頭に私達は宿の外に飛び出した。

 外に出た瞬間にルシファーの盾が次々に周囲の炎を吸い込んでいき、焼け跡にある物を映し出す。

 そこには、地獄のような光景が広がっていた。

 足の踏み場もないほどに散乱する、真っ黒に焼け焦げた人の形の炭。

 原型すら残さぬほどに焼け焦げ、崩れ落ちたバグリャの建物。

 炎が消えても流され続ける油により、異様な臭いを放つバグリャの町中。

 町の水路と言う水路は油に埋め尽くされ、バグリャ軍の放った流れ弾が当たると瞬く間に水路全体が燃え上がる。


「……酷いですね……。まるで地獄の再現です」

「地獄そのものだよ……」

「ここまで惨い光景は……ちょっと引いちゃうよ」

「手段を選ばない戦い、か……」


 あまりに惨たらしい光景に言葉が出なくなる。

 けれど、ここでじっとしているわけにはいかない。

 とにかく、安全な場所に……!






「た、助けてくれ! この町の住人なんだ! 助けてくれ!」

「隊長! バグリャの町の人間が助けを求めて!」

「強制労働させられていたと訴えて……とにかく、援助を!」

「くそっ! バグリャの連中め! ここまでやるとは!」

「よーし! 労働力に気を取られたヒローズ軍を油の餌食にしてやれ! 労働力ごと焼き殺すんだ!」

「ヒローズ軍さえ皆殺しにすれば、ヒローズの町の人間全員を俺たちの道具に出来る! そうなればヒローズ~バグリャ間の広大な領土が全部俺たちの物だ!」


 バグリャの広場目指して走っていた時、バグリャ城の方から逃げてきたと思われる人の集団とヒローズ軍の兵士を見つけた。

 ……このまま放っておいたら、あの人達全員死んじゃうよね?


「だろうね~。一応助ける?」

「見つけたぞ! 連中は皆殺しだ! 一人も生かして帰すな! 火矢放て!」


 マディスに返事を返す事なく、私はバグリャ軍の攻撃から目の前の人達を守るための魔術の詠唱を始めた。

 ルシファーは盾を構えて彼らの方に駆け寄っていき、火矢の着弾によって発生する火災に備える。

 直後、無数の火矢がヒローズ軍とバグリャの住民の周辺に着弾し、瞬く間に炎の包囲網を築き上げようとする。

 ルシファーが事前に盾を構えていなかったら一瞬でこの人たちは死んでいたかもしれない。


「と言っても、油相手じゃ効果があるかは微妙だけど……アクアウォール!」

「無事か!? さっさと広場に逃げろ!」

「あ、貴方達は!?」

「そんなことどうでもいいです! 死にたくなければ早く広場に!」


 ルシファーと水の壁を見て驚くヒローズ軍には悪いけど、今は時間が無いの!

 早く逃げて!


「何だ!? あいつら死んでないぞ!? おい! もっと火矢と油を投入しろ!」

「皆殺しにするんだ! 早く!」


 私たちが攻撃を防いだことに気付いたのか、バグリャ軍が城壁の上で叫んでいる。


「――――皆殺しにされるのは、貴方達の方だよ! ホーリー・カノン!」

「同感です! デモンスピア!」


 ジルの放った魔術が発動し、紫の槍が夜の闇に紛れて豪雨のようにバグリャ軍を襲い、貫く。

 攻撃が飛んできたことに怯んだバグリャ軍を光の砲弾が足元の城壁ごと粉砕し、上に居た者全てを地上へと、火矢と油で燃え続ける地獄へと叩き落とす。


「くっ……一体何が」

「風結晶二つ……吹き飛んじゃってね?」

「な、何がギャアアアアアアアアアアア!?」


 追撃は終わらない。

 城壁だった瓦礫と共に落ちてきたバグリャ軍目がけ、マディスが薬で攻撃する。

 突如発生した大竜巻は周囲の炎を次々に取り込んで天まで届くほどの大きさの火炎の渦となり、暴風を伴いながらバグリャ軍をなぎ倒していく。

 未だ無傷の城壁に居た兵士たちも城壁ごと炎の竜巻に飲み込まれていき、竜巻が通り過ぎた後にはバグリャ軍の死骸と城壁の残骸だけが転がっていた。


「他の場所は!?」

「急ぐぞ!」


 けど、倒したバグリャ軍の事など構ってられない。

 急いで他の人達も助けに行かないと!

 まだ助けられるならだけど……!






「な、なんて酷い事するのよ! 私の防具が! 大切な相棒が! 燃え尽きるじゃないの!」

「パトラふざけてる場合!? 今はこの人たちの命が大事でしょ!?」

「ぐっ……卑怯な事ばかりするわね! 男はいつもいつも卑怯な事ばかり! こいつらを安全な場所に逃がしたら、覚えておきなさいよ!?」


「アレは放っておいたって大丈夫そう、かな?」


 広場に向かう途中、パトラやアスカを見かけたけど、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。

 とにかく、助けた人たちの逃げる場所を……!


「街道側の城門が開かない! 溶接されてる! その上炎が邪魔して近づけない!」

「崩れた城壁の側は!?」

「駄目です! 溶接されてしまったようで開きません! それに、それを伝えようとしたときには上からの攻撃で道は塞がれました!」

「被害は!?」

「住民、我々共にかなりの犠牲が出ています! このままではこの広場に居る者以外……」


 ようやく広場まで来たとき、広場の入口にいる兵士たちがそんな会話をしているのを耳に挟んだ。

 ……城門?

 そうだ! 城門や周囲の城壁を壊せば!


「城門を吹き飛ばそう!」

「だな……。何をするにしろ、こいつら逃がすのが先か」


 幸い広場からでも城門は見えている。

 と言っても、城壁共々激しく燃え上がっていてそのままではとても近づけないんだけど。


「逃げ道が無いと、その内息が出来なくなりますよ……。今まで気づかなかったですけど、少し息苦しいです……」

「かも、ね……」


 ルシファーの盾が炎を吸い込むとはいえ、他の場所の炎は常に燃えている。

 そうなると、一部壊したとはいえ城壁と城門で完全に閉ざされたバグリャの町は空気が足りなくなっていく。

 もちろん、人がたくさん居ると更に無くなるのが早くなるわけだし……そう言う意味でも早く城壁を破壊しないと……!


「ルーチェの魔術で城門を攻撃して。僕が城門の左右の城壁を潰すから」

「分かった。ジルとルシファーは、ここに居る人を逃がすための準備を」

「分かりました!」


 広場からでも城門ははっきり見えていて、ホーリー・カノンを当てられる。

 これなら……溶接されてても吹き飛ばして町の人を逃がせる!


「おい? 何であの一角燃えてないんだ? 広場だったかあそこ?」

「誰かが火を消したか? それにしては妙だな。そんな事出来る奴居るのか?」

「良いじゃねえか! どこに居ようと逃げ場なんてねえんだ! 皆殺しだぜ皆殺し!」


 城門の上や周囲の城壁にはバグリャ軍が居て、何か話している。

 彼らを見ていると、バグリャ軍のそんな声が聞こえてきそうな気がした。

 けど、皆殺しなんてさせないから!


「吹き飛ばせ光の砲弾! ホーリー・カノン!」

「もう一度、周囲の炎も取り込んで城壁を薙ぎ払え!」


 私の手から撃ちだされた光弾は寸分の狂いも無く溶接された城門の中心に直撃。

 光の爆風が城門を吹き飛ばし、跡形も無く粉砕する。

 直後に城壁を二つの灼熱の大竜巻が襲い、城門と周囲の城壁は瞬く間に崩壊した。

 城壁の上に居た兵士や油もろとも飲み込んだ竜巻が過ぎ去ると、後には崩れた城門と城壁、そして脱出口だけが残り、勢いよく風が吹き込んでくる。

 攻撃を受けず、壊れなかった城壁の上ではバグリャ軍が慌てているけど、今なら!


「今です! 早く脱出を!」

「敵の攻撃も炎の障害も無い! 死にたくなければさっさとヒローズまで行け!」


 ジルとルシファーの声を聞き、弾かれたように立ち上がってバグリャを脱出する生き残り。

 彼らを見たバグリャ軍が当然火矢と油で攻撃するけど、ルシファーが持っている盾が炎を吸収してしまうのでまともに手が出せない。

 そうしているうちに無事に広場に居た人は脱出し、二人が戻ってきた。

 次は――――――――


「他の生き残りを探そう!」

「だね! 急ぐよルーチェ!」


 こうしている間に他の場所で何が起きてるか分からない。

 バグリャ勇者を叩き潰す前に、助けられるなら一人でも多く助けよう!






「許さないわよあんたたち! よくも私の大切な鎧達を炎の中に沈めてくれたわね!?」

「おい! あそこに生き残りが居るぞ! やっちまえ!」

「城壁を壊したのはあいつか!? あの鎧女め! 炭にしてやる!」

「ちょっ……パトラ!? 何喧嘩売ってるのよ!?」

「許さないわよ! あたしの鎧を! 兜を! 盾を! 大切な相棒をよくもおおおおおおお!!!」

「おい! 火矢と油持ってこい! そこの鎧豚を丸焼きにするぞ!」


 怒鳴り声が聞こえて来たので宿の方を見てみると、パトラが城壁の上に居る敵を見て叫んでいる。

 ……放っておこう!

 今はルシファーの盾が火を吸収したから辺りも燃えてないけど、危険になったら多分逃げるでしょ!


「アスカは手出ししなくていいわ! こんな卑怯者の集団! 私一人で十分よ!」

「はいはい! そこまで言うなら勝手にしなさい! 私は勝手に動くから呼ばないでよ!?」

「そんなことしないわよ! 私の力をこの卑怯者共に見せてや」

「火矢放てえ!」


 ……敵の目がアレに引き付けられれば少し楽になるかな?

 多分殺しても死ななそうだし囮にしようか。


「ですね。と言っても、あまり役に立ちませんよ。早く他の人を探しましょう」

「行くぞ!」


 他に生き残りが居ないか探すため、私達はまだ炎に包まれているバグリャの一角に踏み込んだ。

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