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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
142/168

奇襲しましょう

「はははははは! 本当に呆気ねえなあヒローズ軍は! 俺たちに手も足も出ねえじゃねえか!」

「あんな連中、さっさとヒローズの国ごと潰しちまってよかったんだよ! 勇者様の優しさに救われてたなあ!」


 炎の中に隠れて奇襲準備を始める私たちの目の前で、バグリャ軍の兵士が石の高台の下を覗きこんでゲラゲラ笑っている。

 ヒローズ軍、って言ってたけど、まさか戦争でもしてるのかな?

 まあ、今はそんなことどうでもいいか。とりあえず――――


「今すぐ全員倒すだけ! シャイニングレイン!」

「動き出す前に卒倒させてやる! デモニックブラスター!」

「石の高台ごと潰してあげます! デモンスピア!」


 奇襲を仕掛けて一気に叩き潰すだけ!


「ん? なんdぐおおおおおおおおおおおあああああ!?」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!??」

「炎の中から攻撃が!?」

「う、上から光の雨と紫の槍がいきなrぎええええええええええええええええ!」


 炎の中からルシファーが放った無数の黒い光線が突如バグリャ軍を襲った。

 と同時に、私とジルの魔術が上空からバグリャ軍を狙って降り注ぐ。

 完全に油断していたバグリャ軍は攻撃を防ぐこともできず、次々に範囲攻撃の餌食になって倒れていく。

 ――――けど、これで終わりじゃないよ!


「油なんて持ち出したんだから、燃やされる覚悟はあるよね? 着火!」


 マディスの手から炎の渦が放たれ、バグリャ軍の居る高台に置いてある巨大な樽を直撃した。

 直後、樽から爆炎が上がり、辺りに油と炎が飛び散っていく。


「うわあ!? な、何だ!? 炎の中から攻撃が!?」

「油の入った樽が! 不味い! すぐに火を消s」


 慌てふためき大混乱に陥るバグリャ軍。

 けど、私たちの攻撃はまだ始まったばかりだよ?


「火を消す前に樽ごと爆破してしまうから! シャイニングスピア!」


 油の入った樽を守ろうと動き出すバグリャ兵。

 そのバグリャ兵ごとシャイニングスピアで樽を貫き、即座に爆破する。

 四散したバグリャ兵の身体が樽から流れ出した油に包まれ、燃え上がって瞬く間に灰になった。

 ……よかったじゃない。自分が燃やした仲間みたいに苦しまなくて。


「炎の中に敵がいる! 相手は油作戦が通用しない化け物だ!」

「化け物で結構だ! 少なくともお前らみたいな蛮族よりはマシだと思えるからな!」


 無事な仲間に警戒を呼び掛けるバグリャ兵目がけ、炎の中からルシファーが斬りかかり、瞬く間に斬り捨てた。

 高台に上がったルシファーの身体は炎に包まれており、ルシファーが石の高台に乗った途端に床に溢れた油に次々に引火していき、高台が炎に包まれていく。


「ほ、炎に包まれながら平然と歩いてやがる! 化け物じゃねえか!」

「ひ、怯むな! あんな炎に包まれて平気なわけあるか! 火矢を当てたり油をぶちまければ……」

「させないよ。石の壁ごと吹き飛んじゃって」


 ルシファーを見て恐怖に震えあがるバグリャ軍が火矢を用意したり無事な樽を使おうとするけど、マディスの薬がそれを許さない。

 突如発生した風の渦が火矢を取り出した兵士を吹き飛ばし、言葉通り石の壁の一部を破壊してバグリャ兵を高台の向こうに突き落とす。


「じょ、城壁が……!」

「ま、不味い! これを好機と捉えられれば下のゴミ屑まで勢いづくんじゃ……」

「これ以上好きにさせるな! 正義のバグリャ軍の力を見せろ!」

「声を聞く限り、相手はたった数人だ! どうとでもなる!」

「生かして帰すな! バグリャ勇者様の裁きを教えてやれ!」

「バグッタの怪物を仕留めた力を見せるんだ!」


 大混乱に陥っていたバグリャ軍。しかし、落ち着いたのか冷静さを取り戻してきた。

 けど、ここまででも打撃はかなり与えたよね?


「次は、その高台ごと木端微塵にする! シャイニングスピア!」


 光の槍を何本も降り注がせ、石で出来た高台を片っ端から爆破した。

 バグリャ軍の悲鳴のような叫びと共に光の槍が爆ぜて石の高台が爆破され、崩れた高台が瓦礫の山へと変貌する。

 石の山に光の槍が突き刺さって爆発し、高台だった瓦礫を四方八方に吹き飛ばす。

 当然、バグリャ兵は飛んできた瓦礫や石、シャイニングスピアの爆風に飲まれて高台から叩き出されることとなった。


「うわあああああああああああああああああああ!!??」

「熱い! くそっ! 油が! 火が消えねえ!」

「おい! 不味いぞ! さっきの攻撃で城壁が崩されて……!」

「よそ見している場合ですか? ダークボム!」


 私の攻撃で崩れた城壁を見て動きを止めた一角に対し、ジルが即座に追撃をかけた。

 黒い爆風が生じ、兵士を高台から吹き飛ばして炎の海へと突き落とす。

 当然、炎の中に落とされた兵士の絶叫が辺りに響き渡る。




「おい! ヒローズ軍が突然こっち側に進軍を……って、何だこれは! お前ら! 敵襲だ! 急いでこっちに来い!」

「城壁がやられてる!? 不味いぞ! この場所を死守しろ!」

「くそっ! 急いで守れ! 城壁を築きなおす時間が無い!」

「ルシファー! 見つかる前に一旦下がって! 増援が来た!」


 バグリャ軍の増援がバグリャの町の方からやってきて、破壊された城壁を見て驚愕する。

 その姿を見たルシファーは一旦炎の中に飛び込み敵から隠れた。

 遅れてその場に殺到する後続のバグリャ兵は、辺りの様子を見て愕然としている。


「ば、馬鹿な……」

「我々の精鋭はともかく、何故城壁まで……」

「ヒローズ軍がやってくる前に、急いで対策をしなければ……。城壁の上に上がってこられると苦しくなる」

「すぐに伝令を城に送れ! 城壁のつなぎ目を爆弾で爆破して、防衛線を下げるぞ! バグッタの包囲は捨てる! 城の守りを固めろ!」

「了解!」


 私たちが炎の中に潜んでいることに気づかないバグリャ軍がヒローズ軍対策を話し合い、実行に移す。

 ……本当にヒローズと戦争してたんだ。

 だったらわざわざバグッタまで攻めなければよかったのに……。


「……薬が切れる前にバグリャまで逃げない?」

「私も相手がこれでなければそう言いたいけど……」


 炎の中に身を屈めて隠れている私の所にマディスが来て、小声で尋ねてくる。

 そうしたいのは確かなんだけど、こいつら放っておいたら、何を仕出かすか分からないし……。


「じゃあ、こいつらも片付けようか」

「良いのか? ヒローズ軍に押し付けても良い気がするが」

「確実に仕留めるには私たちが倒した方が良いでしょ?」


 というか、あんな教皇を止められなかったヒローズ軍じゃ……。

 それに、人に任せるより自分でやった方が良いと思うし。






「ん? おい、今炎の中で何か動かなかったか?」


 !? 見つかった?


「何? どこだ?」

「今、確かあの辺で」


 見つかったと思い、警戒を強める私の心配とは裏腹に、バグリャ軍の兵士は見当違いの方向を指さす。

 見つかっていないと考えてほっと胸をなでおろした。その瞬間


「グオオオオオオオオオオ!!!!」

「な、何だ!? 炎が飛んでき……」

「……っ!?」


 私たちとバグリャ軍、双方を飲み込むほどの広範囲に炎が吹き付けられた。

 マディスの薬で事なきを得た私たちとは対照的に、バグリャ軍は一瞬で灰へと姿を変えていき、全滅した。

 炎が飛んできた方向を見ると、そこには――――


「ウウウウウウウウウ……!」

「ヒローズ勇者……!?」


 身体中が炭と化し、開けた口から、鼻の穴から呼吸と共に炎を噴き出す怪人へと変貌を遂げたヒローズ勇者が炎の中から姿を現した。

 まさか炎を食べたの!? ……一体どこまで進化するつもり!?


「肉……!」

「……っ!」


 ギロリ。

 そう音が聞こえてきそうなほどの威圧感を持った目で、ヒローズ勇者がこちらを見た。

 その目は既に人間の物ではなくなり、更に火炙りにされ、油や炎を食べたことで全身が更なる進化を遂げている。

 油と炎で丸焼きにされ、炭と化した肉体。

 その身体は血液の代わりになったであろう油で覆われ、燃え続けている。

 ヒローズ勇者は、もう人間だった頃の面影など残していなかった。


「先にこっちだね」

「化け物に育ったね~。まあ、ここで駆除しないと駄目だろうけど」

「太刀打ちできる相手ですよね?」

「元は雑魚だ。かなり変貌しているが知能は獣以下だし、大丈夫だろ。それに」

「グオオオオオオオオオオ!!!!」


 ルシファーが言い終える前にヒローズ勇者がその口から炎を吐きつけてきた。

 常人なら一瞬で灰と化すであろう灼熱の炎が私達を飲み込む。

 しかし――――


「これがある。何度炎を吐いても無駄だ」


 そう言って私達を庇うように前に立ったルシファー。

 ルシファーが取り出した炎を吸収する盾が、ヒローズ勇者の攻撃を、辺りで燃え続ける炎を、根こそぎ吸い込んでいく。

 ルシファーの持つ盾が赤い光を放つと、私達の身体に纏わりついている炎も片っ端から吸収され、辺りから瞬く間に火の手が消えていく。

 周囲の平原は、すべて焼け野原となり、広大な荒れ地が広がっていた。




「グアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!!」


 自分の炎が吸収されたことが理解できないのか、ヒローズ勇者は炎を纏った巨大な炭の拳を大地に叩きつけ、今度は地面から大量の火柱を発生させてルシファーを攻撃する。

 当たれば人間などひとたまりもない攻撃なのは間違いないけど、当然、それも通用しない。全てルシファーの掲げた盾に吸い込まれていく。




「焼ケロ! 肉! 焼ケロ! 燃エ尽キロ!」


 それでも懲りずに攻撃を続けるヒローズ勇者。

 口から隕石かと錯覚するほどの特大の火球を発射したり、両腕を合わせて灼熱の光線を発射してルシファーを狙う。

 しかし、全部ルシファーの持つ盾に阻まれ、傷一つ、否、火の粉一つも私達には届かない。




「ウガアアアアアアア!!!!!!!! 燃エロオオオオオオオオ!!!!!!!!」


 自分の攻撃がさっきから全く通用しないことに苛立ったのか、ヒローズ勇者は今度は口から発射した火球を蹴り飛ばしてくる。

 怪物の強烈な脚力で蹴り飛ばされたことで口から放たれた時よりも更に加速する大火球。

 鉄の壁など一発で爆砕されるほどの威力を有するであろうその攻撃も、盾が吸い込んでいく。

 どれだけ強力な攻撃でも、炎である以上マディスの薬や加護の無効化と吸収には勝てないよね……。


「ほら、な。炎はこの盾があればどうという事は無い」

「アアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」


 放った攻撃がことごとく通用しない現実がヒローズ勇者を更に怒らせたのか、悔しげに地団駄を踏む。

 その足踏みが地面から先ほどの両腕叩きつけのように火柱を発生させるけど、それも一切通用しない。

 ……実験的に作っておいてなんだけど、対炎攻撃に関しては最強なんじゃない? その盾。


「さて、そろそろ終わらせるか。こんなところで遊んでいる場合じゃないしな」

「ッ!?」


 ルシファーはそう呟くと同時にヒローズ勇者に一気に接近。

 その身体に盾を押し付けた。

 瞬間、ヒローズ勇者の様子が一変する。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………!?」

「これで終わりだ。さっさと朽ち果てろ」


 ヒローズ勇者の腹部に押し当てられた盾から光が放たれると、勇者の顔が苦痛に歪み、苦しげな声を上げる。

 それと同時に、勇者の口や鼻から漏れ出す炎が盾へと吸い込まれていき、炭と化している勇者の身体がひび割れはじめた。

 ……まさか、直接本体から炎を吸い上げてるの?


「考えたね~。でもまあ、そうしちゃったら勇者も動けなくなるよね。倒れた勇者が死ぬまで根こそぎ吸い上げて、ルシファー! そうすれば進化も止まるから!」

「分かった!」

「ウアアアアアアア……ッ! 離セ! 離セッ……!」


 怯んだヒローズ勇者をルシファーがそのまま押し倒し、その身体から全ての炎を吸い上げていく。

 もちろん勇者も抵抗するけど、馬乗りになったルシファーを引きはがそうとしても力を吸い上げられてまともに動けないらしく、抵抗にもならない。

 そして、抵抗する力を失った勇者の腕が地面に落ち、マディスの薬の力で進化する事も出来なくなったその身体が、崩壊と再生を繰り返すためにどんどん自壊していく。

 身体が自壊する痛みが、ヒローズ勇者の理性を再び呼び戻す。


「!? う、うあああああああああああああああああああっ!? 痛い! 痛い! 身体が、僕の身体が崩れっ……! 何か、何か食べないt」


 崩れ始めた自分の身体。

 その痛みに悶えるヒローズ勇者は力の入らない右手を無理矢理動かし、炭化した地面を削って食べようとする。

 直後、その右手が手首から千切れ、血と油の混ざったような色をした液体が流れ出す。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ! 右手が、僕の、右手があああああああああああああっっ!!」


 右手が文字通り取れてしまったヒローズ勇者が苦悶の叫びを上げる。

 その直後、取れてしまった右手に異変が起きた。

 取れてしまった右手が突然光り出し、次の瞬間には右手から無数の0と1が出現し、空中に消えていく。

 唖然とする私たちの目の前で、ヒローズ勇者の右手は無数の0と1になって消え去ってしまい、影も形も無くなってしまった――――。

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