補給しましょう
結構強烈な残酷描写があります。
その点にご注意を。
R15入れたからには自重していませんので。
「はは……ひゃははははははは。殺した……殺したか? ひゃははははははははははははははは!!」
未だに地面から立ち上る衝撃波。
それを見ながら、ヒローズ勇者は高笑いする。
自分が敵を仕留めたと確信したように口元には邪悪な笑みを浮かべたまま。
その手に持つ聖剣の柄は薬で強化されたヒローズ勇者の驚異的な握力により、今にも粉々に砕けそうになっている。
「ど、どうするの? アレ……本当に止まるの?」
「大丈夫だよ。……まあ、まだ止まらないけど、こっちには興味も関心も無さそうだし見ておこう」
その後方で、自分の事を見ている連中が居ても、彼の関心はそちらには向かない。
自分の事を散々利用し、騙していた屑共。
そいつらの生死だけが、今の彼の関心事だった。
「……う、うう……助けてください、勇者様……!」
「ゆ、勇者様……助けてくだされ……。化け物が、化け物が襲ってきて儂らを…………!」
「ああ? まだ生きてたのかこいつら……?」
そして、その屑共は生きていた。
衝撃波が収まると、地面の亀裂に引っかかるように倒れている二人の姿があったのだ。
二人とも相当なダメージを受けているものの、命に別状は無さそうである。
「…………」
そして、二人を見た勇者の顔は、醜悪な笑みを浮かべて二人の所へと歩いていく。
「次は何をしてやろうか」
「どうやって痛めつけてやろうか」
そんな考えをしているのだろう。その目には狂気が宿っている。
「スロウリー……ククク……今まで散々余計な事を言ったり調子に乗ってたな……」
「ひい!? は、離せ化け物! 儂は勇者様の重要にして最も信頼できる仲間のスロウリー・スペラーじゃ! この儂に手を上げることはすなわち勇者様への挑戦状も良いところじゃぞこの化け物が!」
唐突に勇者に頭を持ち上げられ、抗議の叫びを上げるスロウリー。
だが、その妄言が勇者に届くことはない。
スロウリーの顔を掴んでいる手を離し、そのままスロウリーの頭を足で踏みつけた勇者は両手で聖剣を構え――――
「今までお前が手抜きしたりしたせいで僕が受けた分の迷惑料、払ってもらうからなあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!???」
――――スロウリーの右手に思いっきり突き刺す!
突き刺した痛みでスロウリーが何か叫ぶが、勇者はそんな物気にも留めず、刺した剣を強引に回転させた!
肉が抉られる音が、血が噴き出す音が聞こえる。
勇者の身体が、下半身の衣服が、スロウリーの血で染まり、服を真っ赤に染め上げた。
眼前で行われている化け物による残虐行為にレミッタの顔が恐怖で歪む。
後方で様子を見ている四人のうち、金髪の少女の表情が強張り、微かに身体を震わせる。
だが、それらをものともせず、勇者はスロウリーへの攻撃を続ける。
「次は……」
右手を抉ることに飽きたのか、勇者はスロウリーの右手から聖剣を引き抜く。
スロウリーの右手には大きな穴が開いており、もはや使い物にはならないだろう。
だが、勇者はそれで終わらせるつもりはない。
「ここだあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぅっっっ!!!!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!????」
痛みに悶えるスロウリーの右足を狙い、聖剣を何度も突き刺す!
肉の薄い老人の右足が瞬く間に穴だらけになり、足の至る所から血が流れる。
「ははははははははははははははは! 楽しいよなスロウリー! ほらあ、もっと泣き叫べ! 今まで君が僕にかけた迷惑料、しっかり払えよひゃはははははは!!!!!!」
「お、お助けくだされ勇者様……! このおぞましい化け物から、どうか儂を……!」
「お前らの呼んだ勇者はなあ……この僕なんだよ。ひゃっはははははははははははは!!! 傑作だよなあスロウリー!? あーはっはっは! ぎゃはははははははははは!」
痛みに悶え、幻想の勇者に助けを求めるスロウリーを見て大笑いするヒローズ勇者。
もはやその姿は勇者では無く、快楽殺人者の類になるだろう。
だが、そんな彼が、ヒローズの呼び出した「勇者」なのだ。
この暴力の化身のような存在が、ヒローズの勇者なのである。
「ああ……助けてください。真の勇者様。私たちが……化け物の餌食にされようとしています。どうか、私の言葉を聞いた正義の勇者様、どうか……」
「レミッタ……。お前の声ってさ、いつもいつも……………………とにかく、甲高くってさああああ……耳障りでうるせえんだよおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!」
無論、その暴力はレミッタにも振るわれる。
魔物のような恐ろしい表情を浮かべたまま、勇者は少女の顔を無慈悲にも蹴り上げた。
蹴り上げられた勢いのまま地面に叩きつけられた少女の頭を、今度は踏みつけて髪を靴で踏みにじる。
その顔には狂喜が浮かんでおり、少女にこの暴力を振るう事に何の躊躇いもないようだ。
「口を開けばいつもいつも勇者様、勇者様、勇者様、勇者様! お前の口からは、勇者様以外の言葉は出ねえのかあああああぁぁぁぁぁぁぁあ!??」
「ああっ……勇者様、助けてください、勇者様……!」
「だから勇者様以外の言葉は無いのかって聞いてんだよおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
髪を踏みつけられ、痛みに耐える彼女が助けを呼ぶのはまたしても「勇者様」であった。
その事が更にヒローズ勇者の怒りを増し、ヒローズ勇者は少女の頭を何度も踏みつけるという暴挙に及び始める。
ヒローズ勇者の手により、僧侶の少女の顔は瞬く間にボロボロになっていく。髪の毛が強引に踏み千切られ、地面に叩きつけられることで顔にも傷が出来ていく。
「ああ……イライラする……。その甲高い声で勇者様勇者様。その声が一番鬱陶しい。何が大切な仲間だ。俺を内心馬鹿にしていたんだろうが……!」
「……っ」
トドメだとばかりに背中に踵を叩きつけられ、少女が呻いた。
直後に少女の瞼が閉じて動かなくなり、腹部が微かに動く程度の反応しかしなくなる。
ヒローズ勇者の攻撃で意識を絶たれたようだ。
「ちっ……気絶しやがったか。まあいい。……裏切り者は、この屑共だけじゃなかったよな」
レミッタの意識を確かめるように何度も踏みつけ、それでも反応しないと確認するとヒローズ勇者はレミッタの背中から足をどけ、地面に降ろす。
痛々しい姿になったレミッタは、それが元は美少女の部類に入る少女だとは思えないほどに酷い姿になっていたが、ヒローズ勇者がその姿に罪悪感を抱くことは決してない。
むしろ、その姿を見下ろしてヒローズ勇者は笑っていたのだった。
「ははは……ベルナルド……。お前も、僕が壊してやる。壊してやるるるるるるるるる……う……っ?」
そのまま逃げ出したベルナルドを探し出して同じ目に遭わせる。
勇者はそう考えていたようだが、突如腹部を押さえて動きを止めた。
「は……腹が……お、おかしいな……。僕は沢山食べてから出陣したのに……。…………ケド、食ベタイ」
そう呟いた直後、勇者の口からは異常な量の唾液が落ちる。
勇者の様子が一変し、彼の目から、言動から、理性が失われていく。
「美味シソウナ肉ガソコニアルナ…………年頃ノ娘ノ肉ノ臭イダ……!」
歩き出した足を止め、再びレミッタの方を見たヒローズ勇者の目は、既に人の物ではなくなっていた。
猛獣が餌を見つけたような、狂気と野生の混じりあった目を向け、彼はレミッタを見つめていた。
「マディス! あれってどういう事……っ!?」
突如変貌したヒローズ勇者を見て、ルーチェがマディスに強い口調で尋ねる。
「ああ……時間切れだね。爆発的に成長と進化をするけど、エネルギーが切れたらもちろん動けなくなるでしょ。そうなる前に強烈な食欲が襲ってくるんだよ」
「って、アレはそういう次元じゃないよね……? 狂暴な猛獣みたいな目をしてるけど……」
「まあ、極限まで空腹状態が進んじゃったわけだからね。ああなると、土でも石でも食べようとするから見物だよ」
「……もう元に戻らないんじゃ……」
「うん。ああなったら、後は何でも食べて命を繋ごうとするか、空腹に耐えかねて気絶してそのまま餓死するか、再生できないまま身体が壊れて激痛のなかで死んでいくかのどれかじゃないかな?」
「自業自得とはいっても、なんだか……」
理性を失い、狂暴な猛獣へと変貌していくヒローズ勇者。
マディスが認めたとおり、彼はもう元には戻らない。
身体は薬の効果で異常進化を続けようとするが既に身体の中にはエネルギーが残っていない。つまり、進化しようとして身体の組織が自ら自壊して受けたダメージを修復することができないのだ。
更に、強烈な空腹感が彼の理性を奪ってしまった。瞬く間に極限まで強まった空腹感が限界を超えて更に強まり、身体のエネルギー不足と相まって彼の理性をかき消していく。
奪われた理性を取り戻すにはまずこの空腹感をなんとかしなければいけないのだが、この異常進化を止める術が無い以上、仮に空腹を満たせたとしてもすぐに空腹感が襲ってくる。
そして、空腹感を満たせるほどのエネルギーを補充したとしても、異常進化が進むにつれて身体の消費するエネルギーもまた増え続ける。
発達しすぎた筋組織が消費するエネルギーは常人の物とは比べ物にならないほどに多いのだ。
それを賄うには、膨大な食事が必要になるだろう。それも、常時である。そしてそうすることで今度はより多くのエネルギーを必要とするようになるのだ。これが永久に繰り返される。
そんな事をしていたら、いずれどれだけ食べても足りなくなり、世界中の食料や生物が消えてしまうだろう。
無論、異常進化した勇者自身も、最終的に食料が無くなって餓死することとなる。
「肉! 肉! 肉ダアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!!!!!!!!」
「あああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!????」
そんな己の運命を知ってか知らずか、勇者はレミッタの右足に文字通り食らいついた。
足を骨ごと食い千切られそうになる激痛で再びレミッタの意識が覚醒し、彼女は突如襲ってきた激痛に絶叫を上げる。
「肉! 肉! 肉ウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ば、化け物……離しな……さいっ! ファイアボー……ルッ!」
それが仲間だった物だという理性すら残って無さそうなヒローズ勇者がレミッタの右足を噛み千切ろうとするが、再び意識の戻ったレミッタは抵抗を試みる。
痛みに耐えながら詠唱を完了させたレミッタの右手から飛び出した火球が、レミッタの右足を食物としか認識していないヒローズ勇者の顔に吸い込まれるように直撃し、爆発した。
「グバアアアアアアアアアアアアアッッ!!??」
攻撃が来ることを考えていなかったのか、防御すらせずに攻撃を受けたヒローズ勇者の身体が大きく吹き飛ぶ。
彼が噛みついていたレミッタの右足の肉には深い歯形が刻まれており、そこから血が滲み出る。
もう少し遅かったら完全に食いちぎられていただろう。
噛み千切られなかった理由は、単に骨をかみ砕くのに手間取っていたからである。
「うっ……ヒール…………」
「グ……腹減ッタ……! 肉……肉……!」
レミッタが自身の傷を手早くヒールで治療し終えると同時に、ヒローズ勇者が立ち上がる。
その腕や足の一部は進化に伴う自壊と再生に賄うエネルギーが完全に無くなったのか、所々に小さな傷が出来て血が滲む。
このままエネルギーの補給が出来なかった場合、彼の身体は薬の作用で勝手に崩壊して死を迎えるだろう。
「す、スロウリーさん! 起きてください! 化け物が!」
「…………」
こちらを狙っている化け物を見たレミッタの叫びは、スロウリーには届かない。
彼もまた、ヒローズ勇者の暴虐によって意識を刈り取られてしまったのだ。
右手に剣を突き刺されて執拗に抉られた上に、右足にはいくつもの深い刺し傷が。
あまりに強烈な激痛は、ほとんどまともな戦いなどしたことも無いボケ老人には耐えられなかったのだろう。
「肉! 飯! 食料! 餌! 俺ノ……俺ノ……!!!!!!」
「ち、近づかないでください、邪悪な魔物! ブレイズカッター!」
そして、起き上がったヒローズ勇者が再びレミッタ目がけて走り出す。
その口から出てくる言葉は目の前の相手を食料だと認識している言葉ばかりである。
その猛獣相手に、レミッタは無数の炎の刃を上空から落として迎撃しようとするが、二足歩行の猛獣は進路を巧みに変えて向かってくるために当たらない。
攻撃をかわされたレミッタが次の魔術を発動するよりも早く、勇者がレミッタの首目がけて食らいつこうと飛びかかる。
間に合わないと判断したレミッタは即座に距離を取ろうとするが、飛びのこうとした時にはもう攻撃を避けきれず――――
「飯――――――――!!!!!!!!」
咆哮する猛獣の牙が少女の胸部を捉え、無残にも食い千切った。