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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
139/168

敵を倒しましょう

11/5 誤字修正。「いあっ」って何よマジで。

何故気づかなかったし。

「ふざけるなあぁぁぁっ!」


 仲間、否、仲間だった、者達目がけ、ヒローズ勇者が剣を構えて突撃する!

 その目線の先には一人の少女と一人の老人。

 勇者教会から勇者の仲間にとつけられた僧侶の少女と魔術師の老人だ。


「ゆ、勇者様!?」

「ど、どうして儂らを狙って……おるのじゃ!?」


 狙われた二人は味方であるはずの勇者が突如裏切ったことに驚きを隠せない。

 勇者と自分たちの敵は、勇者の後ろに居る四人の冒険者のはずなのだ。

 そのはずなのに、なぜ自分たちが狙われているのか分からない。

 困惑の表情を浮かべ、勇者の方を見ていた。


「な、何を考えておるのじゃ!? 儂らは仲間じゃぞ!?」

「ああそうだ! 仲間だと、思っていた! ああ、思って、いたさ! さっきまでな!」


 魔術師の老人の困惑の叫びを聞き、勇者が怒りを隠そうともせずに叫ぶ。

 ――――そう、魔術師の老人の言うとおり、仲間、だったのだ。

 ついさっきまで、勇者とこの二人は、否、地上に逃げ出した騎士団長を含めた三人は、固い結束に結ばれた仲間であったのだ。

 だが、その強固だったはずの絆は崩れ去り、勇者の瞳には仲間だと信じていた者達への怒りと憎しみだけが映っている。


「何が「一緒に強くなる」だ! ふざけやがって! お前たちは、最初から! 今まで! ずっと! 手を抜いて戦ってたんだろ!? そうなんだろ!?」


 そして、勇者の口から吐き出された言葉にも、勇者の激しい怒りが込められていた。

 仲間だと信じていた存在。

 一緒に強くなると思っていた大切な仲間。

 しかし、それは大嘘だったのだ。

 彼らは、最初から自分の力量に合わせるように手を抜いて自分の仲間になっていた。

 命がけで魔物と戦い、死の恐怖を味わいながら魔物と戦い続けた自分。

 共に歩く仲間たちもまた、自分と同じように全力で戦い、死の恐怖を感じながら戦っているように彼は思っていたのだ。

 ――――――――しかし、それは勇者の幻想であった。実際には、勇者が一人死に物狂いで戦っているその横で、彼らは手を抜いて戦っていた。

 何度死の恐怖を感じたか。

 何日悪夢を見続けたか。

 しかし、その恐怖も、彼らが共に味わっていると考えていたからこそ耐えられたのだ。

 自分を勇者と崇め、仲間として受け入れてくれた人々。そのために、働こうと考えていたのだ。少なくとも彼は。

 にもかかわらず――――


「な、何を言うんです!? そんなことありません! 私は――――」

「黙れえええええ!」


 自分の言葉を必死に否定する女僧侶。

 その言葉が、彼の怒りを更に激しくする。

 魔術師の老人は女僧侶の後ろに隠れてしまい、見えないがそんなの構わない。

 まずはこいつから斬り捨てる。

 そんな思いと共に、勇者は僧侶を、その手にした勇者教会の聖剣で斬りつけたのだった。

 ――――残念ながらその剣が僧侶を捉えることは無かったが。


「お前だって、さっき明らかに本気の戦いをしただろ! 僕はあんな魔術見たことも無い! お前はいつも、回復とファイアボールくらいしか使わなかったじゃないか!」

「それは……っ!」


 少女は勇者の剣をかわし、素早く距離を取った。

 その少女目がけて追撃をかけながら、勇者は叫ぶ。

 その追撃の刃を避けながら紡がれた少女の呟きには焦りのようなものが見て取れる。




「……おいおい、どうするんだこれ?」

「まさか敵を目の前にして仲間割れするなんて……信じられないよ。本当に仲間?」

「これは酷いね~。傭兵の方がよっぽどマシだよ」

「仲間だと言ってるくせに手抜きなんてするからです。信じてほしいなら、自分も相手に手札を晒すくらいの覚悟はしないといけませんよ。命を互いに預けるわけですし」


 そして、勇者の暴挙によって完全に置いてきぼりとなった冒険者四人は、彼らを見ながら思い思いの感想を呟いているのだった。

 だが、そんな彼女たちの事など今の勇者の目には映っていない。

 彼の目に映っているのは、大切な仲間とか言っておきながら手を抜いて戦っていた連中だけだ。


「勇者様! 落ち着いてくだされ! お気を確かに!」

「黙れええええええ!」


 魔術師の老人が僧侶の少女の後ろから顔だけを出して叫ぶが、怒りに飲まれた勇者には届かない。

 殺意を乗せた聖剣が僧侶の少女を再び襲う。


「勇者様を手にかけるわけには……ストーンウォール!」

「何だこの壁は!? ええい! 邪魔だ! 邪魔だ邪魔だ邪魔だぁぁぁぁぁ!」


 しかし、僧侶の少女には勇者を始末することなどできない。

 故に、彼女は勇者の周囲に石の壁を出現させ、勇者の理性が戻るまでの足止めに徹するのだった。


「落ち着いてください、勇者様! 私たちは仲間なのです! 敵の言葉に惑わされてはいけません!」

「煩い! 出せ! 今すぐこの壁を解除しろぉぉぉぉぉっ!」


 自身が出現させた石の壁に閉じ込めた勇者に対し、落ち着くように僧侶の少女が諭す。

 だが、その言葉も対応も、勇者の怒りに油を注ぎ込み、更に激しい炎を点けるだけであった。

 石の壁の内側からは、勇者が怒りにまかせて聖剣をストーンウォールに叩きつけている音が響き続ける。


「止めてください! 正気に戻ってください勇者様! あなたは私達と世界を救うんです! 救わなければいけないんです!」

「そうじゃそうじゃ! 勇者様は儂らと共に世界を救わねばならんのじゃ! 味方で素晴らしい仲間のはずの儂らに剣を向けるなど、あってはならぬのじゃ! 敵の術より解放され、落ち着くまでそこに居るのじゃ!」

「畜生! お前ら今すぐ殺してやる! 出せえええええええええええええええええええええええええええええっっっっっ!!!」


 石の壁の中に閉じ込められ、叫ぶ勇者だが、その叫びはこの仲間たちには届くことなど無い。

 勇者の仲間二人は、このまま勇者が落ち着くまで石の壁に放り込み、落ち着いたら出せばいい、などと考えているのだろう。

 ……無論、邪魔が無ければそれでよかったかもしれない。

 勇者をこのまま石の壁に閉じ込め、言う事を聞かないと永久にこのまま閉じ込めると言う、脅迫じみた「説得」を行って納得させればいいのだ。

 しかし、そうはいかない。




「良いよ。そこの酷い人たちの代わりに、僕がそこから出してあげるね~」


 石の壁に閉じ込められた勇者の耳に、後方からそんな声が入ってきた。

 直後――――石の壁が文字通り溶けて無くなったのだ。

 勇者の目には、突如自分の魔術が消滅したことで驚愕の表情を浮かべる僧侶の姿が映る。


「ついでだからあいつらを倒すための力もあげるよ。さあ、頑張ろうよ。ヒローズ勇者」


 唐突に石の壁が消滅したことで唖然としたヒローズ勇者の身体に、突如力が湧いてきた。

 身体が熱くなり、腕や足の感覚が、視覚が、研ぎ澄まされていく。

 聖剣を握る手に凄まじいほどの力が漲り、一度は消えかけた闘志が再び燃え上がる。


「……勇者に薬なんて使っていいの、マディス? アレ、弱いけど敵だよ?」

「大丈夫だよ~。投与したのは身体の限界を破壊して際限なく力を引き出す危険な薬だからね。効果が終わったら酷い事になって副作用であの勇者は使い物にならなくなるけど、今「だけ」は、かなり使える戦力になるよ?」

「そんな危険な薬じゃ、こんな時でもなければ使えませんね」

「失敗作の一つだからね~あれ。薬の効果が切れたら全身ボロボロになるから味方には絶対に使えないし、敵に使うにも爆発的に強化しちゃうからリスクが大きすぎるしで戦闘で使う気自体無かったから、紹介すらしてなかったけど」

「漲る! 力が漲ってくる! あいつらを殺せる力が! 勇者の力がああぁぁぁぁぁ!」


 後方では何か話しているらしいが、ヒローズ勇者の耳には何も入らない。

 己の中に漲る圧倒的な力が、周囲の言葉に耳を傾ける意識すら失わせていく。

 己の中から漲る力。

 今まで感じたことのない圧倒的な昂揚感。

 全身の感覚がみるみる研ぎ澄まされていき、敵である僧侶と魔術師の動きすら止まって見えるほどに動体視力が良くなっていく。






「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!! この力で殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! 行ぃぃぃぃくうぅぅぅぅぅぞおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!!」




 狂人のような叫びを上げ、ヒローズ勇者は自分を石の壁に閉じ込めた僧侶目がけて駆けだす。

 当然、僧侶レミッタはすぐさま先ほどの魔術を使おうとするのだが――――




「死ねえええええええええええええええええええええええええええええええええええぃ!」

「っ!? さっきまでの勇者様より明らかに速い!?」


 その詠唱が間に合う事は無かった。

 先ほどまでのヒローズ勇者であればすぐさま詠唱を行えば石の壁に閉じ込めることが可能であった。

 しかし――――マディスが投与した劇薬の効果で爆発的な力を得ているヒローズ勇者にはその感覚は通用しない。

 詠唱を完了するより前にヒローズ勇者がレミッタの眼前まで接近。その剣を振り上げた。

 レミッタの前まで接近したことでヒローズ勇者の顔をレミッタは直視する。

 その目は血走ったように真っ赤に染まり、その顔は憎悪と怒りと薬の作用で得た力によって鬼か悪魔のようなおぞましい表情を浮かべている。

 その姿は、とても「勇者」とは呼べない醜悪な物であった。




「ひっ!? ば、化け物……っ!」


 その姿に危険を感じた彼女は咄嗟に詠唱を解除し、持っていた杖で振り下ろされる剣を受け止め、さっと後方に飛びのく。その口から咄嗟に「化け物」という言葉が出たのも無理はないだろう。

 後方に飛びのいた彼女の表情は恐怖に染まり、その目はとてもさっきまで自分が慕っていた「勇者」を見ている物ではない。

 恐ろしい怪物を見ているような表情を彼女は浮かべていたのだった。




「だぁぁぁぁああああれぇぇぇぇがああぁぁぁぁぁぁぁばぁぁぁぁあぁぁぁぁけぇぇぇぇもぉぉぉのぉぉぉぉぉだぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!!!!??????????」


 しかし、その言葉が更に「化け物」の怒りに火を点けることとなった。

 レミッタの言葉で更に激昂したヒローズ勇者の口からは、狂暴な魔獣の雄叫びのような、聞く者全てが震え上がるほどのおぞましい声が吐き出される。


「ひいいいいいいっ……!? ち、近寄らないでください、化け物!」

「お、おのれ! 化け物め! 儂らの勇者様をどこへやったのじゃ!?」


 震える身体を強引に奮い立たせたレミッタと、眼前の化け物を勇者だと認めないスロウリーが互いに息を合わせることも無く、完全なタイミングで魔術を放った。

 スロウリーが放ったファイアボールを追うようにレミッタが風の魔術を放ち、自分たちの方を見て叫ぶ化け物を攻撃する。

 火球は着弾した直後に後ろから送り込まれた空気の塊によって爆発的に燃え上がり、勇者の身体を炎と煙が包んだ。

 普段からこのような戦い方をしていれば、少しは彼らの評価も上がっていたのかもしれない。そう言えるほどの連携だった。だが――――


「無意味なんだよね~。確かにダメージを受けるかもしれないけど、身体のあらゆる限界が壊れるから、異常再生もつくんだよ。時間が切れたら一瞬で廃人になるk」

「熱いじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! この屑共ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 マディスの呟きをかき消すように響き渡った叫び声。

 そして、一瞬で煙が吹き飛ぶ。

 煙の中から現れたのは、鎧などの装備に破損が見られるだけで、身体の方には全く傷がついていない勇者の姿だった。

 連携攻撃の直撃を受けて壊れた鎧はもはや鎧として機能しなくなり、中に着こんでいた服も一瞬で焼失したために勇者の上半身が完全に露わとなる。

 細身で筋肉質なはずだったその身体はもはや別の生き物のように変貌していた。

 薬の作用で限界を破壊されたために全身の筋肉が再生と破壊を繰り返し、みるみる強靭な肉体へと進化していく。見ると、鎧の腕の部分は今にも千切れそうなほどだ。

 それは胸筋も同じで、胸板は細身の少年だったとは思えないほどに分厚く、強靭な物に、その内側にあると思われる心臓も限界を超えて進化しているらしく、胸板の一部が時々隆起するほどの強い拍動を起こしている。

 腹筋にしても、少し割れていた程度だったであろうそれが、今では強靭な鎧と言っても良いほどに分厚く、固く成長している。


「なっ……!」

「…………!!」


 そして、もはやかつての勇者の面影を残してすらいない姿を見た二人が思わず絶句して動きを止めた。

 その隙を見逃すほど、勇者は甘くない。


「死ねえええええええええええっ!」


 叫びながら勇者が剣を地面に突き立てた。直後、バグッタの地面が破壊されるほどの威力の衝撃波が噴出し、地面を破壊しながら二人目がけて突き進む。

 二人が気づいたときには、遅かった。


「しまっ――――」

「間に合わな――――――――」


 僧侶の少女レミッタ。魔術師の老人スロウリー。

 二人の身体を、勇者の放った一撃が飲み込んだ。

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