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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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勇者一行の絆を砕きましょう

「絶対に許さない! お前たちだけは、何があっても絶対に許さないからなあああぁぁぁぁっ!」


 そう叫びながら強引に身体を動かし、剣を構えるヒローズ勇者。

 身体中に絡みついたマディスの薬の効果でまともに動けないはずなのに動けるのは怒りの力なのか勇者の力に目覚めたからなのか。


「スロウリーさんとベルナルドさんの大切な……命よりも大切な物を破壊して酷い事まで言うなんて! 貴方たちだけは生かしておきません! ……裁きの炎よ! ブレイズカッター!」


 そして、勇者の怒りに呼応するように放たれたレミッタの魔術も、これまでとは比べ物にならないほどに威力を増して放たれた。

 上空に出現した9枚の半円状の灼熱の刃が私たちの方目がけて飛来する。

 先ほどまでのファイアボールと違い、この魔術は完全に殺意のある一撃らしく、当たったらそれなりに危険かもしれない。


「……まあ、炎には水で対抗するだけだけどね。アクアウォール」


 けど、どんなに殺意を込めようと当たらなければ意味が無い。

 私が魔術で作り出した水の壁がレミッタの放った刃を全て受け止めて消し去っていく。

 ……残念だったね。


「くそっ! また通じないのか!」

「というか、こんな魔術あったならどうして今まで使おうとしなかったんですか? レミッタさん」


 レミッタの怒りの魔術が通じず、悔しげにする勇者。

 そしてジルが、レミッタが今初めて使ったその魔術を見て疑問を口にする。


「……?」


 ジルの疑問の意味が分からなかったのか、こちらを睨みながらも首を傾げるレミッタ。

 その様子を見て、ジルがさらに口を開く。


「いえ、だって、そんな魔術使えるなら普通最初から使いますよね? わざわざファイアボールなんて使わなくても、それ使って戦えば良いだけの話ですし」

「……っ」

「え……?」

「…………」


 告げられたジルの言葉を聞き、勇者一行の空気が微妙に変わった。

 自身の帽子の残骸の灰を見ながら死んだ魚のような目をして座り込んでいたスロウリーはレミッタの方を静かに向き、激昂していたはずの勇者は信じられないと言った様子でこちらの言葉に耳を傾ける。

 そして、その言葉を告げられたレミッタは静かに杖を構えてこちらを見据えている。


「ジル、それはいつか話したアレだ。他人の時や敵対しているときだけ文字通り全力で戦う癖に、いざ味方になったら何故か敵の時より弱くなるって言う……」

「ああ! アレですね! 手抜き加入です」


 ジルの言葉に反応を返した三人を見て、ルシファーがジルの言葉に便乗する。

 確かに言ってたね……手抜きがどうとか言う話。

 そんなことしてないって証明する意味も込めて、ヒローズ勇者一行を叩き潰した時以来私はもう出し惜しみ無しで魔術使ってるけど。

 ……ただでさえ弱いのに、そんなことやってるの? この勇者一行。


「――――出鱈目です! 私たちがそんなことするはずないじゃないですか!」

「おかしいですねえ。じゃあ、どうして今までこんな魔術使おうとしなかったんですk」

「っ! もう黙ってください! 今すぐその口を閉じなさい! サンダーボルト!」

「って、サンダーボルトまで!? ジル! フォーク!」


 完全に図星だったのか、レミッタはジルの言葉を途中で遮って魔術――――サンダーボルトを放ってきた。

 ……サンダーボルトって……。明らかに中級魔術で、普段使っているファイアボールよりも強いじゃない。

 この魔術は私自身も多用しているから分かるけど、放射状に広がっていく電撃のおかげで死角が少なく、しかも距離を開けるほど当たりやすくなる魔術だから明らかに強い。

 無論、拡散する前に至近距離で電撃が当たった時の威力なんて飛びぬけている。

 …………そんな強力な魔術、温存する理由なんてないと思うんだけど……。


「ほら、こんな強力な魔術使ってるじゃないですか。どうしてファイアボールだけしか」

「煩いです! その口を閉じなさい! アクアカッター! ブレイズカッター!」

「連続で使えるの!?」


 レミッタが叫ぶと同時に上空から水と炎の刃が私たち目がけて降って来た。

 ジルが対処したから無傷で済んだけど……普通に強いよねこの子!?

 なんで今までファイアボールしか撃たなかったの!?


「れ、レミッタ……?」

「な、なんじゃ。その……魔術は……」 


 だけど、レミッタが本気を出したことで勇者や老人は完全に呆気にとられてる。

 ……このまま煽り続けて一行の互いへの信用を破壊しちゃおう!


「くっ! 通じない……! だったら、今度は……!」

「ヒローズ勇者とそこのボケ老人さん。これが貴方達の関係ですよ。わざわざその子は手抜きをして仲間になっていたんです。明らかに弱くて情けない貴方達と肩を並べて戦おうとする「演技」のために」

「な……う、嘘だよね……?」

「まさ、か……!」


 レミッタの攻撃の合間を縫って、ジルがヒローズ勇者とスロウリーに声をかける。

 普通だったらこんなの聞き流すだろうけど、目の前でいきなりレミッタが本気を出してたら、ジルの言葉も説得力が高くなるよね。


「大方教会にでも頼まれたんじゃないのか? 大事な大事な勇者様が自信喪失するから~とか、そこのボケ老人の存在意義を食ってしまうから~なんてくっだらない理由でな」

「…………!」


 ルシファーの言葉を聞いたレミッタの目がわずかに細められた。

 ……って、まさか本当なの?


「うわ~……出まかせだったんだけど本当だったなんて……」

「仕方ないですよ、マディスさん。そこのお荷物と勇者(笑)とさっき逃亡した役立たずのゴミ騎士団長様はいずれも雑魚ですからね。こんな雑魚の仲間の演技をする以上、本気で戦うわけにもいかないでしょう。何せあの勇者教会ですからね。腐った教皇様が支配している勇者ごっこのスタート地点ですよ」

「黙ってください! 勇者教会を、教皇様を、スロウリーさんを、ベルナルドさんを、勇者様を愚弄することは許しません!」


 ジルの言葉を聞いたレミッタから更に魔力が吹き上げる。

 ただ一人戦意に満ちたレミッタの言葉と気迫と裏腹に、ヒローズの勇者とスロウリーはレミッタの事を複雑な目で見ていた。


「……儂は、お荷物なのか?」

「スロウリーさん! 敵の言葉に耳を貸さないでください! スロウリーさんはお荷物などではありません!」


 スロウリーがレミッタを見上げ、呟く。

 その言葉に即座にレミッタが反応して言葉を聞かないよう注意し、更にスロウリーの呟きを否定するけど、今の貴方が言っても全く説得力が無いんだよね。


「れ……レミッタが、僕より強くて、しかもその力を隠していた……? じゃあ、僕は、僕は何なんだ? 僕は……」


 ヒローズ勇者も心に結構疑念や無力感を植え付けられたかな?


「勇者様はヒローズの勇者様です! この世界を救うために呼び出された、正真正銘の!」

「あはは……何言ってるんだい。僕なんかより、よっぽど強いじゃないか……。レミッタは、僕より……よっぽど…………」

「そうだよ。分かったか、ゴミ勇者。レミッタはな、お前みたいな雑魚に力量をわざわざ合わせて、仲間のふりをしながら旅をしていたんだよ。大方、お前らが魔物に苦戦しているときに、心の中ではいつも笑っていたんじゃないのか?」

「……ふざけないでください! 私がそんなことするわけありません! 私は、勇者様の仲間なんです!」

「じゃあさ、どうして最初から全力を出さなかったの?」


 レミッタが必死にフォローするけど、無力感に苛まれた勇者にレミッタが励ましの言葉を言っても意味が無いよね。

 それに、いきなり本気を出してきた事はもうフォローのしようが無いし。


「私は……!」

「教皇様が、言ったのか? 勇者様を育てるために、力量を勇者様に合わせろ、と」

「スロウリーさん、何を言って……!?」


 ……スロウリーがレミッタに手抜きの話を切り出したね。

 馬鹿な連中。


「す、スロウリー……君まで何を言ってるんだ?」

「どうなんじゃ! 答えろ!」


 レミッタに詰め寄るスロウリー。

 というか、こいつらよく敵を目の前にして警戒心も無く話せるよね。


「……それは……」

「勇者様より仲間の方があまりに強いと勇者様の自信喪失につながる。教皇様はそう言っておった。じゃから、ベルナルドは常に手を抜いておったのじゃ! お前も、そうなんじゃろ!」

「スロウリー!? ……そんな、嘘だろ? ベルナルドが手抜きなんて……」


 勇者をほったらかしにして、レミッタを問い詰めるスロウリー。

 多分周りが見えてないんだろう。

 横の勇者が岩で殴られたような表情をしているけど、全く気付く様子が無い。


「あ、貴方じゃありません! 私は、ちゃんと戦ってました! 貴方みたいに戦闘中に遊んでまともに戦う意思も見せないようなことはしていません!」

「何を言うのじゃ! 儂は真剣に戦っておるじゃろ! 」

「どこがですか! 私の方がよっぽどマシな戦いが出来ます!」

「……そんな……どうして……」


 あ、勇者が絶望してきてる。

 スロウリーとレミッタも自分たち以外見えてないし、チャンスだね。


「分かった? ヒローズの勇者。貴方は結局、勇者ごっこをやってただけなんだよ。周りは貴方なんかよりずっとずっと強いの。ただ、貴方に合わせて遊んであげていただけなの。 本気で遊んだら、貴方なんて比べ物にならない強さになっちゃうから、わざわざ手抜きをしてまで、ね」

「あ、ああ……」


 みるみる顔を青ざめさせ、目が潤み始めたヒローズ勇者。

 そんな勇者の様子に自称仲間二人は全く気付かない。


「分かりましたか? 貴方なんて、所詮勇者教会が道楽で呼び出した暇つぶし用の演劇の小道具なんですよ。勇者ごっこをしてもらって、自分たちが楽しむために呼び出した、ね」

「う……嘘だ……」

「嘘じゃないよ。嘘だったら、今まで全く同じ程度の実力だったのに、急にレミッタがあんなに魔術を連発し始めたことの説明がつかないでしょ?」

「う、うう……」


 ヒローズ勇者の心は順調に抉れてるね。

 で、二人は……。


「そもそも、何で貴方が魔術師担当なんですか! 貴方みたいな元々まともに魔術も使えない役立たずより、私が最初から魔術を使う立場になれば少しは――――!」

「黙れ! 黙れ黙れ黙れ! 教皇様は、儂なら自然体で勇者様の仲間になれると言ったのじゃ! じゃから、儂が勇者様のお供になっているのじゃ! そもそも、お前の方が――――!」

「貴方なんかに合わせたせいで、私はファイアボールと回復程度しか使えない状態だったんですよ!?」

「貴方「なんか」じゃと!? 小娘がでかい口を叩くでないわ!」

「仲間割れを始めたようですよ、ルーチェさん」

「…………呆れた。敵が目の前に居るのに」


 私達じゃ無かったら、すぐさま勇者の首を落としてからあなたたち二人に不意打ちを仕掛けて終わらせるよ?

 というか、そうしたっていいんだよ? 勇者の仲間の生死なんて心底どうでもいいし。


「レミッタが、手抜き……ベルナルド、も……」

「そうだよ~。君みたいな子供のお遊びに付き合うために、わざわざ手抜きをしてついて行ってたんだよ」

「まあ、私たち相手に戦っていた時も手抜きしていたのは笑えましたけど」

「そんな……教皇様が、一緒に強くなるって言っていたのは……」


 既に精神がボロボロになっていそうなヒローズ勇者。

 けど、もっと追い打ちしないとね。馬鹿な事をしようと立ち上がれないように、そして、二度と仲間を信じないように――――。


「そんなのアレだよ。貴方が強くなるにつれて、手抜きしていた分の強さを発揮していくんでしょ。明らかに弱いくせに最初から全力で戦うつもりが無いってずいぶん舐められたものだけどさ」

「一緒に強くなる仲間(笑)を演出するための演技ですよ。よかったですねヒローズ勇者。また一つ知識が増えましたよ」

「あんな馬鹿どもを信じたから、手抜きした状態で仲間になったりしたんだ。お前が信じていいのはあいつらじゃない」


 まあ、だからって誰を信じればいいのかは知らないけどね。


「……な」

「え? 何か言いました、ヒローズ勇者?」


 ある程度煽ったところで、ヒローズ勇者が何か呟いたみたい。

 ……なんて言ったの?


「ふざけるな……」

「ふざけるなって? ふざけてるのはそっちだよn……って、あれ?」


 実力も無いのに勇者ごっことか本当にふざけてるの?

 ……って言おうとしたけど、勇者の言葉が向いているのは私達じゃ、ない?


「だから、儂は悪くないのじゃ!」

「貴方のせいです! 勇者様だけならもう少しくらい本気出せたのに! それを貴方は……!」

「黙れ小娘! わしは悪くないのじゃ!」

「まだやってる……」


 一方、何やら不穏な勇者の様子など一切気づかないまま二人で口喧嘩を繰り広げるスロウリーとレミッタ。

 レミッタには山ほどスロウリーへの不満や憤りがあったのか、言葉が止まる様子が無い。

 そんな二人の方に、勇者が向き直った。

 ――――勇者教会の聖剣を握りしめて!


「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな! 僕たちは仲間じゃなかったのか!? 手抜きだって!? レミッタもベルナルドも! 口では仲間だの大切だの言ってたくせに、僕の事を常に見下してたのか!」


 勇者の叫びを聞き、レミッタとスロウリーが勇者の方に目を向け……驚愕の表情を浮かべていた。

 自分たちの味方のはずのヒローズ勇者が、自分たちに勇者教会の聖剣を向けていたのだから、


「なっ……勇者様!?」

「何故儂らに剣を向けてるのじゃ!? 儂らは……」

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁっ!」


 そして、驚愕の表情を浮かべる二人目がけ、ヒローズ勇者が突撃した――――!

実際、城や勇者教会からついてきた仲間のレベルが1からってのはおかしいような気がしなくもない。

お前らそれまでなにやってたんだ、って思う。

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