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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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勇者一行を倒しましょう

「行くぞ、ベルナルド!」

「遅れないでくださいよ、勇者様!」

「私達が援護します!」

「安心して戦うのじゃ!」


 ヒローズの勇者と騎士団長が突っ込んで来て、魔術師と僧侶がそれぞれ魔術を使おうと詠唱を始めた。

 マディスの薬も効いてる今、普通に戦ったらこんなの数秒で瞬殺できるんだけど……。


「どうかしたんですか?」

「普通に勝っても意味が無いよね、って思ったの」


 だって、ここでヒローズの勇者一行を叩きのめしたって、体力が回復したら立ち上がって、また同じことするよね?

 ここで倒した後にどこかへ投獄されても、自分たちが正義だって思い込んで脱走しそうだし。


「あり得るな。だが、だからといって殺す気はないんだろ?」

「うん。私達にアレを殺す権利はないから」


 その権利があるのは、今の所ヒローズかバグッタの人達だからね。

 別に私達自身の仲間が殺されたわけじゃないし。


「じゃあさ、どうするの? 倒さないといけないのは同じでしょ?」

「もちろん、あいつらは倒すよ。だけど、ただ倒すんじゃないの」


 この言葉を皆に告げた私は、どんな表情を浮かべてるんだろ……。


「あいつらの――――ヒローズの勇者一行の、生きる気力も心の拠り所も全部徹底的に砕くの。もう二度と立ち上がれないように、旅をしようとも正義の行いをしようとも思えないように、徹底的に」

「思いきりましたね、ルーチェさん」


 私の方を見たジルが、感心したような表情を浮かべる。

 マディスとルシファーも似たような表情だ。


「だから、敢えて傍から見ると最低な言動や行動をするよ。バグッタの人達に見られたらもちろん私達の印象は最悪になるかもしれないけど、こうすればあいつらは二度と立ち上がることも出来なくなっちゃうから。……皆が嫌なら、私一人でやるけど」


 だけど、実力で倒しても通用しないあいつらに止めを刺すにはこんな方法しか……。


「何言ってるんです? やってやりましょうよ、ルーチェさん」

「そう言う事なら大得意だったりするよ、僕」

「元々、俺らは物語に出てくるような気品溢れる勇者じゃないだろ? それに、二度と訪れない場所でどんな印象が残ろうと、構わないさ」

「……そう。じゃあ、遠慮しないで、行こうか。あいつらの心も誇りも何もかも、徹底的に潰すよ」


 ……命は保証してあげる。

 けど、二度と立てないようにしてあげるよ、ヒローズ勇者。


「敵を前にして仲間同士で雑談とは、余裕ですね! 食らいなさい!」


 ヒローズ一行の倒し方を話し終えたとき、丁度ベルナルドがジル目がけて斬りかかってきた。

 その手には勇者教会の聖剣が握られている。

 その剣を、ジルは難なく左手で鷲掴みにして止めた。

 ――――さあ、ここからだよ。

 正義だなんて絶対に言えない。むしろ最低なやり方だし、誇れるような戦い方でもない。

 だけど、こいつらの暴挙を完全に止めるための、戦いは――――!


「何ですかこれは? あっさり片手で止められましたけど、子供の玩具でしょうか?」

「なっ!?」


 ベルナルドの聖剣を左手一本で止めたジルが、ベルナルドの方を見て不思議そうな表情でこう問いかけた。

 一方のベルナルドは、自慢の聖剣が片手であっさりと鷲掴みにされるなんて思わなかったからか、驚愕の表情を浮かべる。


「食らえええええええええええええええええええええええええええええ!!!」

「飛べ、炎よ! ファイアボール!」

「我が灼熱の意にて貴様らを焼き払わん! 行くのじゃ業炎よ! ファイアボール!」


 だけど、ベルナルドの剣を止めたことでジルには隙が出来たように見える。

 その機会を逃さず、残りのメンバーが攻撃を仕掛けてきた。

 魔術師と僧侶のファイアボールがジルの横に立つ私達をジルから遠ざけ、その間に勇者の聖剣がジルを切り裂く。

 そんな作戦だったらしい。

 ――――だけど、無意味だよ。


「無駄ですよ。こんな玩具、私には効きませんから」


 ジルの言葉通り、勇者が振るった聖剣はジルの身体に傷一つつけることなく、彼女の身体に阻まれて止まってしまった。

 マディスの薬と新しい防具で防御面がかなり強化された私達には、勇者教会なんてふざけた団体の玩具なんて通用するはずがない。


「ぼ、僕の剣も通らない!?」

「くっ、勇者様! 一度下がってください! 私も聖剣を回収して、すぐに戻ります! ……なんて力ですか! 全く抜けない! ええい! 私の剣を離しなさい!」


 ベルナルドの言葉に従い、勇者はジルから離れて距離を取る。

 追撃なんて余裕だけど、別に仕掛ける必要も無い。

 一人ずつ、確実に再起不能になるように心をへし折るんだからね。


「――――くだらないですね。こんな玩具を持って、勇者の真似事をして、いい年した大人が子供に負ける。恥ずかしくないんですか? 勇者ごっこなんてやってますけど」


 勇者が距離を取ったところで、ジルがベルナルドに声をかける。

 ……正直、本当に「勇者ごっこ」なんだよね。こいつらの行動。


「なっ!? こともあろうに私の、私たちの行動を「勇者ごっこ」ですって!? 尚更生かしておくわけにはまいりません! 今すぐ聖剣を離しなさい! そして私の手で裁きを……」

「聖剣聖剣……こんな玩具、こうしちゃえばすぐに壊れますよ?」


 ジルが左手に力を込めると、鷲掴みにされている勇者教会の聖剣から亀裂が入ったような嫌な音が周囲に響く。

 剣自体の悲鳴のようなその音を意にも介さず、ジルがさらに力を込めると、ベルナルドの顔が急速に青ざめていく。

 いくら大馬鹿な騎士団長でも、ジルの左手から聞こえる音が何かの察しくらいはつくみたいだね。


「な……や、止めなさい! 私の聖剣を今すぐっ……!」

「な、なんてことを! ファイアボール!」


 必死にジルの手から聖剣を取り返そうとするベルナルドを助けるため、僧侶――――レミッタが火球を飛ばしてきた。

 その火球の前に私が立ちふさがり、この前作った炎を吸収する盾を構える。

 ジル目がけて飛んできたファイアボールは、あっさりと盾に吸い込まれてしまった。


「……っ! 僕も、手伝う!」

「無駄だよ」


 そして、一度は距離を取った勇者も再びジルの方に接近してきた。けど、直後にマディスが使った薬の効果で動けなくなる。

 見えない糸のような物で絡め取られたみたいだけど、勇者は弱いから完全に動けなくなったのかな?

 まあ、丁度いいや。これから完全に絶望させるわけだし。


「は、離しなさ」

「いいで「パキーン!」……ああごめんなさい、玩具相手じゃ力の加減が分からないんですよ。つい力を入れすぎてしまいました」


 倒れた勇者から目を離し、ベルナルドの方に目を向ける。

 直後、ジルの手からようやくベルナルドの剣が抜けた。否、剣の中央で真っ二つに破壊され、砕かれた部分が離れたから、ベルナルドの力に合わせて引っ張られただけだった。


「あらら。これじゃその玩具は使い物になりませんね。まあいいです。この玩具はどんな味がするんでしょうね? 砕けてしまいましたし、こっちの刃先の部分と砕けた欠片はいただきます」


 そして、ベルナルドの目の前でジルがフォークに聖剣の欠片を突き刺し、そのまま口に運んだ。

 確かフォークの効果で大丈夫なんだっけ?

 それはそうと、目の前で自分の大切な聖剣を破壊され、その刃を食べられるってどんな気分なんだろ……。


「な……あ……」

「せっかくですし、貴方の持ってる方も貰って良いですか?」


 目の前で自身の愛剣を文字通り食べられ、茫然とするベルナルドにジルが近づいていく。

 腰を抜かしたベルナルドは立ち上がることができず、尻餅をついたまま無様に後ろに逃げようとする。

 他の面々も完全に放心状態になってしまったらしく、戦闘中であることすら忘れて茫然とした表情でジルを見ていた。


「ゆ、勇者教会から賜った私の剣が……へし折られた挙句、食べられ……」


 近づいてくるジルが残りの部分も狙っていることを察したのか、震える身体をなんとか奮い立たせて立ち上がったベルナルド。

 だが、その身体は震えており、既に戦う気力等無くなっていた。


「ほら、早くくださいよ。そっちの部分も食べたいんですよ」

「ば、化け物……」


 ジルは舌なめずりしながら右手に持った巨大テーブルナイフを肩に担ぎ、ベルナルドへと一歩ずつ近づいていく。

 このままヒローズの面々が立ち上がらなかったら、ベルナルドの聖剣は完全に消滅するね。


「ほr」

「う、うああああああああああああああああああああああああああ!! 剣が! 私の剣がああああああああああああああああ!!」

「ベルナルド!?」

「おや、逃げちゃいましたね」


 けど、そこまでベルナルドは大人しくは無かった。

 近づいてくるジルから己の聖剣を守るように懐に抱えるとすぐに立ち上がり、踵を返して逃げ出してしまった。

 ――――他の面々を置き去りにして。


「な、なにをやっておるのじゃ! 戻ってこんか!」

「勇者教会より賜った私の剣が……化け物に……! うわあああああああああ!」


 スロウリーの言葉も聞こえないかのように、ベルナルドは走り去った。

 行き先はバグリャ軍の本陣のあるゲート。

 こういう雑魚って、逃げ足だけは早いんだよね……。


「まあ、あの人は後で更に追い詰めればいいでしょう? 今は……」

「この雑魚の始末だね」


 未だに地面に縛り付けられてしまい、薬の効果から逃げられないヒローズ勇者、詠唱が長いくせに効果はゴミなやる気のない老人、唯一まとも? な僧侶を先に何とかしないとね。

 こいつらバグリャ軍の司令官みたいなものだし。


「黙るがよいわ! この儂の……」

「シャイニングスピア」


 スロウリーが喋り終える前に魔術を発動させ、光の槍を放つ。

 目標はスロウリー本体じゃなく、帽子の方。

 こいつも勇者教会に忠誠を誓ってそうだし、さっきのベルナルドみたいに帽子を消滅させたら非常に効きそうな気がしてくる。


「こんなもの避ければ終――!」

「爆破」

「ぬおおおおおおおお!?」


 自分の頭の上を目がけて飛来した槍を見て、自信満々に避けてみせたスロウリー。

 その背後に飛んだ直後に槍が爆発し、スロウリーの被っていた帽子を私達の方へと弾き飛ばす。


「しまった! 儂の帽子が……」


 爆風に巻き込まれたスロウリーが頭を上げた時にはもう手遅れ。

 帽子は私の手元まで飛んできていて、既に私の魔術は放てる段階だ。


「こんな危険な宗教団体の遺物は全部焼却しないといけないよね」

「な、何をする気じゃ! まさか……」

「!! これいじょうさせません! ファイアボール!」

「くっ! 止めろ! 今すぐ帽子をスロウリーに返せ!」


 私の言葉を聞き、咄嗟に魔術を放ったレミッタ。

 ……多分、このメンバーで無かったらまともな扱いだったのかもしれないね。

 まあ、せっかくファイアボールを飛ばしてきたなら――――


「ファイアボールにこの帽子を当てるよね?」

「基本ですよね」


 レミッタの放ったファイアボールの射線にスロウリーの帽子を掲げ、そのまま消滅させる。

 ファイアボールが当たった帽子はみるみる燃え上がり、瞬く間に灰へとその姿を変えた。


「あーあ、大切な帽子が燃えちまったな」

「まあ、薄汚い宗教団体だったし、丁度良いんじゃないの? ゴミの処分って感じでさ」

「あ……あ……。儂の、帽子が……勇者教会の、儂の……」

「酷い……!」

「よくも! よくもスロウリーの帽子を!」


 帽子が灰になる瞬間を見届けたスロウリーは先ほどまでのやかましさが一転、大切な物を失ったような表情を浮かべて呆然と立ち尽くしている。

 その視線の先には、帽子だった灰だけが残っていた。

 その光景を見て怒りを露わにするヒローズ勇者とレミッタ。


「これで最低最悪な屑集団の遺物が一つ消えたね。よかったよかった」

「ですね。ゴミは地面に埋めても良いですけど、やっぱり燃やすに限りますよ。燃やせば全て灰になりますから」

「まあ、そんなゴミでも、勇者ごっこに勤しむボケ老人にとっては大事だったんだろ。ゴミだけどな」

「ボケ老人だから仕方ないよね~。正義感と見た目だけが勇者っぽくて、力が弱い勇者とかそれただの喜劇だよね」


 当然、そんなスロウリーの心を抉るような会話を笑いながら繰り広げる私達。

 大切な帽子を目の前で燃やされ、更にこんな会話をされるってどんな気分なのかな?

 無力な人の気持ちなんか分からないけど。


「うあああああ! 貴様らぁぁぁ! よくも儂の、儂の~~~!」


 逆ギレでもしたのか、涙を流しながら丸腰で突っ込んでくるスロウリー。

 ……ルシファー、お願い。


「雑魚は引っ込んでろ」

「ぐはあっ!」


 ルシファーに思いっきり腹部を蹴り上げられ、そのまま地面を転がっていく。

 ……って、老人蹴っ飛ばして大丈夫なのかな?


「死にはしないだろ、多分」

「ううう……儂の、儂の帽子が……。教皇様から賜った、儂の……」

「ほらな?」


 まあ、それならいいか。


「ううう……儂の、儂の帽子が……」

「おいおいボケ老人。やったのはレミッタとか言うその女だぞ?」

「ですよね。私達はファイアボールを使っていませんし」

「黙れ! よくもベルナルドの勇者の聖剣を! スロウリーの帽子を! お前たちは、僕が絶対に成敗してやる!」

「……こんな酷い事……。許さない……。絶対に、許しません!」


 そして、無様に泣き崩れるスロウリーを見て怒りに震えるヒローズ勇者とレミッタ。

 まあ、心配しなくても次は二人の番だよ。

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