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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
135/168

敵と戦いましょう

(多分)R15の範疇ですが、不快な言葉が入ってる可能性があります。

一応注意を。

 土管を出た私たちの目に飛び込んできたのは、煙の上がるバグッタの町。

 何が何だか分からない私たちの目の前に、着の身着のまま逃げて来たと思われる人たちが次々にやってきた。


「ひっ! あ、あんたらも連中の仲間で、先回りしてたのか!?」

「え? な、何の事……?」


 その一団の先頭を走る中年の男性が、私達を見るなり震えた声を上げる。

 ……私達、何もしてないけど……?


「ち、違うならそこを通してくれ! い、いきなり変な連中がやってきて、町を焼いてるんだ!」

「露店の商品も根こそぎ奪われちまった! もちろん稼いだ金もだ!」

「勇者の行いとか妙なことを言って、俺たちの家を……」


 な、何が起きてるの……?


「……ルーチェさん、この人たちを逃がした後で考えましょう」

「だね。……私達は別に何もしないから、危険だったらすぐに逃げて!」


 私のその言葉を聞くや否や、すぐに土管に飛び込むように避難していく逃げてきた一団。

 相手は魔物、じゃないよね…………?

 だって……。


「勇者の行い、か……」

「正気とは思えない言動だけど、相手は誰かな、ルーチェ?」

「……とにかく、町の方へ!」


 無言で頷く三人。

 皆が走り出したかどうかの確認もせず、私はバグッタの町へと走り出していた。

 何が起きたのか、確認しないと――――!











「奪え奪え! 全部俺たちの物だ!」

「女! 女! 女はどこだ! 今すぐにでも抱かせやがれ!」

「金だ金! 奪い尽くせ!」


 町の中心部目指して駆ける私の耳に、複数の男の叫び声が入ってきた。

 足を止め、声のした方に目を向けると、槍を構え、鎧を着こんだ兵士が五人、民家を荒らして略奪行為を働いている光景が目に入る。



「えっ……兵士!? 貴方達、何処の……」


 何故兵士が町で略奪を行っているのかは分からないけど、とにかく止め――――


「ん!? おい、お前ら! 女だ女! どう見てもガキだが、結構な上玉だぞおい!」

「……っ!?」


 こちらに向き直った兵士達の目を見て、言葉が出なくなる。

 私の方を見た兵士の目は、とても兵士の向ける物では無かった。

 まるで売り物を見つけた奴隷商人のような、否、獲物を見つけた山賊のような、見ただけで嫌悪感がこみ上げてきそうな目を彼らは私に向けてきたのだから。


「揉む胸こそねえが、そんなこと関係ねえよなあ!」

「違いねえ! 捕まえればやりたい放題だぜ!」

「これが兵士ですか!? このおぞましい視線と下劣な言葉、山賊か何かの間違いでしょう!?」


 追いついたジルもまた、兵士の言葉を聞いて私と同じ感想を抱いたらしく、眼前の兵士を山賊か山賊相当の何かだと口にする。


「おい! 連れもかなりの上玉じゃねえか! こいつら生け捕りにできれば俺たち隊長格への出世間違いなしだろ!? もしかしたら大将の椅子もアリだぜ!」

「何言ってやがる! こんな上玉勇者に渡すわけねえだろ! 俺たちで楽しむ方が一万倍マシだぜ!」

「軍で出世するより女かよおい!? ……まあ、こんなお宝献上するのはもったいなさすぎるよな! 巨大な宝石が金塊ぶら下げて降って来たようなもんだぜ!」


 目の前の兵士達の口から出てくる言葉に、何も言えなくなる。

 これが……兵士の言葉なの……?


「うわあ……」

「最悪だな……」


 マディスとルシファーも呆れて言葉が出ないらしい。

 当然、だよね……。


「って、おいおい。野郎持ちかよ。中古品かあ?」

「構わねえよ! 傷物でもアレは上玉には違いねえからな! 今まで見たどの女よりも良さそうだ! というか、あの野郎共も生け捕りに出来れば最低でも強制労働の労働力、どころか、大将さえ満足すれば俺ら大出世だぜ!?」

「毎晩大将がガキのケツ貫くってかぁ? おいおい、俺らはあの変態猿の餌を探しに来たわけじゃねえぞ? あいつは本陣でここから逃げた労働力を捕まえて満足するのが仕事だろうが! 男の鳴き声聞いても興奮しねえよ!」


 ……蛮族だよね? 間違いなく蛮族だよねこれ!?

 目が完全に道を踏み外した人間の目だし、寒気がするような事ばっかり口走ってるし……。


「ルーチェさん、今すぐ始末しましょう」

「……手加減なんて要らないよね?」


 私達を見て山賊と同レベルの欲望丸出しの会話を繰り広げる兵士の一団。

 ……さっさと片付けようか。


「よし、まずはあの銀髪の抱き心地良さそうな女からその服破いて」


 兵士の下劣な言葉はそこで途切れることになる。

 最後まで言い切る前に、ジルが放った紫色の槍が兵士の股間を貫いたからだ。

 ……同情したくなるような気もするけど相手は明らかに山賊だし、自業自得だよね、うん。


「ついぇいじゅhさyんぃhdckgふdsだhyんgkfdすあdjckewats!?」

「貴様! 我らに刃向かうか!」

「殺せ! 抱けるなら死体でも構わん!」


 意味不明な叫びを上げて倒れた兵士を見て、殺意をむき出しにした他の兵士が武器を構える。

 ……遅いよ。


「サンダーボルト!」


 兵士が武器を構える時には私の詠唱は既に完了している。

 兵士の方に向けた私の右手から電撃が拡散しながら放たれ、槍を構えた四人の兵士を貫いた。


「「「「ギャアアアアアアアアアアアアア!?」」」」

「……何なのこいつら……」


 昏倒した兵士を見て、そんな言葉が口から出た。

 山賊と同じような腐りきった下種すぎる思考と言動、そしてどこかの正式な兵士のような外見。

 明らかに釣り合わないこの二つの現実に、頭が少し混乱しそうになる。


「分かっているのは、こいつらと同じような連中がバグッタの町を襲撃している、という事だけですね」

「これを叩き起こしてもまともな話など出来そうにないな。死体を見つけられても面倒だし、壁にでも埋めるか?」

「……そうだね。とにかく、逃げられないようにしよう。後で町の人達に処遇を決めてもらわないといけないし」


 被害を受けたのは私達じゃなくてこの町の人だし。

 じゃあ……。


「生首にすればいいよね」

「ちょっ……!?」


 私が止めるよりも早くマディスが兵士たちに薬をぶちまける。

 薬を浴びた五人の兵士は全員首だけの生物へと変化してしまい、動くことすらできなくなってしまった。


「その薬は使わないって……!」

「さすがに、放っておいたら逃げだしたり仲間が助けに来そうな山賊相手じゃね~。町の人も逃げちゃったし、こうでもしないと見張りがいないから逃げちゃうよ?」

「ああ、もう! 物騒な劇薬を使って良いのは今回だけだよマディス!? 相手が蛮族だし、今は呑気に話していられないからこれ以上は言わないけど!」

「ありがと~。じゃあ、蛮族の生首でバグッタを彩ろうか。木に飾り付けて名所にしても良いよね」


 ……前言撤回していいかな?

 とにかく、他の場所に……。






「キョエエエエエエエエエエ!!!!」

「ギャアアア! 何だこの怪物は! 建物の中から生首の怪物が飛び出してきたぞ!」

「怯むな! 我々は正義の軍団だ!」

「ええい! 試合を滅茶苦茶にしやがって! こうなったら、行けお前ら! 野外試合だ野外試合!」


 ……行こうとした直後、近くの建物が吹き飛んで瓦礫の山となり、そこから十人ほどの山賊兵士と様々な怪物が飛び出してきた。

 そう言えば呪いの格闘場なんて物があったよね……。


「行けパニッカー! オルス! のろい2号の復活の呪文で再生したその力を見せてやれ!」

「くそ! 本当にバグッタには怪物が居たのか!」

「怯むな! 我々は正義の軍だ!」

「グオオオオオオオオオオ! コロス! コロス!」


 兵士の怒号とバグッタ格闘場の怪物の絶叫が響き渡る。

 ……わざわざ近づかなくていいか。放っておいても大丈夫そうだし。


「別の場所に行きましょう」


 ジルの言葉に無言で頷き、私達は格闘場の魔物たちが飛び出してきた場所から離れるように移動を始めた。

 ……正直、アレと戦って五体満足で済むか怪しいし、避けられるなら避けた方が良いよね?

 格闘場の主の指示なら聞くみたいだけど、私たちまで襲われそうだし。
















「儂らは正義の軍団なのじゃ! 正義は儂らにある! このスロウリー・スペラー様の最強魔術にひれ伏すがよいわ!」

「って、あなたは……!」


 化け物を避けるように町を駆け抜ける私たちの前に、見覚えのある顔が現れた。

 数十人の兵士を従え、宝石で彩られたいかにもなコートを着た魔術師の老人、スロウリー。

 ヒローズの勇者教会の幹部になって教会と組んで好き勝手やってた連中の一人だったのは覚えてるけど……まさかこの蛮族の軍団を率いてるなんて!


「ん!? き、貴様らは……! その顔忘れておらんぞ! お前たちのせいで、儂らの人生は滅茶苦茶じゃ! よくも儂らの勇者教会を! 教皇様を! 何もかもお前たちのせいじゃ! 勇者教会を潰され、ヒローズから追い出された恨みと怒りを……儂の究極魔術がぶつけてくれるぞ!」


 私たちの方を見たスロウリーの表情が一変し、親の仇を見るような表情を浮かべる。

 ……覚えてたんだ……。というか!


「逆恨みもいい加減にしてほしいんだけど!? というか、いくら雑魚でもヒローズの勇者だったくせに、蛮族にまで落ちぶれたっていうの!?」


 あんなに弱くても「一応」ヒローズの勇者一行だったのに!

 これじゃただの蛮族の親玉じゃない!


「黙れ小娘! よくも教皇様を! ヒローズの勇者教会を! お前たち、こいつらを何としても始末するぞ! バグッタを潰すのはその後じゃ! こやつらを仕留めた後で、好きなだけ暴れさせてやるわ! 女でも財産でも好きにせい!」

「「「「「「「うおおおおおおお! 勇者様万歳! 偉大なるスロウリー様!」」」」」」」


 私の言葉に逆上し、周囲の兵士に町の襲撃を後回しにするように指示を出したスロウリー。

 その言葉を聞き、周囲の兵士たちのテンションが最高潮になる。


「とうとう……いえ、元から話は通じませんでしたよね」

「勇者がこの蛮族の親玉なんて……」


 って事は、周りに居るこいつらは……。


「十中八九バグリャの兵士だな」

「最悪だよ……!」


 勇者一行が町を襲撃する蛮族のリーダーで、蛮族が全部バグリャの兵士だなんて……!


「貴様ら、行くのじゃ! バグリャとヒローズの結束の力の見せどころじゃ!」

「はっ!」


 スロウリーの号令と共に、周囲のバグリャ軍がこちらに向けて武器を構える。

 スロウリーの率いる兵士は最初に戦った兵士のように山賊の親玉のような視線こそ向けてこなかった。

 その代わりに自分の行いを正義の行いであると確信している狂気に染まった瞳をこちらに向けてくる。


「自分のやることを正解と確信している目だな」


 言いながらルシファーが私の前に立ち、剣を抜いた。

 剣の刃先には既にどす黒いオーラが収束していて、ルシファーがその気になればいつでも光線を放てるようになっている。


「当然だ! 我らバグリャ軍、および総大将スロウリー様! この作戦には異議も異論も何もない! 我らの正義を見せつけてやるのだ!」

「話はここまでじゃ! やれ!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」」」


 スロウリーの号令と共に彼の前に立っていたバグリャ軍が一斉に動き出した。

 数十人の兵士が一斉に私たちの方に向かってくる。

 ……普通なら激戦になる、と思うんだけど……。


「まあ、お前らは邪魔だ。デュランダル、放て」


 ルシファーが剣を構えてそう言い放った次の瞬間には、刀身から放たれた黒い光線に貫かれてバグリャ兵は一人残らず地に伏していた。

 まあ、もっと強い魔物と日常的に戦ってる私達と山賊同然のバグリャの兵士じゃこうなるよね……。


「……な……。ば、馬鹿な…………」

「で、どうする? まともに魔術も使えないボケ老人。ここで死ぬか?」


 一瞬で倒れ伏したバグリャ兵を見て絶句したスロウリーにルシファーが近づいていく。

 歯ごたえが無いと言うか、あまりにもあっけないような……。


「お、おのれ! 覚えておれ!」


 ルシファーの言葉を聞き、即座に尻尾を巻いて逃げ出していくスロウリー。

 ……逃がしていいの、ルシファー?


「あんな雑魚、バグリャの本陣まで追いかけてまとめて倒した方が手っ取り早いだろ?」

「……まあ、そうだよね」


 どうしようもない雑魚なんだよね……あれ。

 正直あの巨人の方が数千倍強いような気がするし。

 まあ、とりあえず追いかけてみようか。

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