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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
133/168

戻りましょう

「ルーチェさん、大丈夫ですか?」

「……うん。本当に間一髪、って感じだったけど」


 巨大化した魔物を倒した後、ジルが話しかけてきた。


「まあ、無事だった以上特に言う事は無いんだが、何があったのかだけは聞きたいな」

「もちろん話すけど、その前に、皆の側から見たあの時の状況を教えてくれる?」


 一体どうしてあんなことになったのか知りたいし。

 まあ、魔物に食べられたってのは確定しているけど。


「と言ってもね~……ルーチェの腕が青い水晶玉に当たったと思ったら突然ルーチェが小さくなっちゃって、その直後に水路から青白い肌をした人型の魔物が飛び出してきたんだよ。で、その魔物はこちらには見向きもせずに反対側の水路に落ちて潜って消えただけなんだよね」

「青白い肌の魔物……やっぱり……」


 あの時食べられたんだ……。

 急に目の前が真っ暗になったのは文字通り口の中に放り込まれたからだよね。


「というか、どこに消えたんですか? 魔物が通り過ぎた後で周囲を探しましたが、全く見つからなかったんですけど」

「……その魔物に、丸飲みされたの。身体が小さくなった瞬間に襲われたから避けようも無くて、そのまま……」

「魔物に丸飲み? よく無事だったな」


 落ちた場所が悪かったら胃酸で溶かされて即死だったし、さっきまで魔物と戦ってて絶体絶命だったし、全然無事じゃないような……。

 でもまあ、生きて帰ってこれたから結果的には無事なのかな?


「というか、マディスは何拾ってるの……?」

「ああ、さっきの魔物が居た場所にこんなのが落ちてたんだけどね」


 そう言ってマディスが見せたのは赤色の輝きを放つガラス片のような何かの欠片。

 ……まさかこれって、あの水晶の?


「そうなんじゃないかな? まあ、あの水晶と違って触っても巨大化はしないけど、調合のやり方次第で何か出来るかもね」


 また妙な物を拾うよね……。

 巨大化も小人化もロクなことになりそうに無いよ。


「まあ、それでも使えそうなものをかき集めて何か作るのが調合の基本だからね~。本当にガラクタになる物も多いけどさ」

「そういう物なんだ……」


 まあ、よっぽど変な薬じゃなかったら大丈夫だとは思うけど。

 とりあえず、魔物の巣の方に行ってみる?


「そうですね。何かあるかもしれませんし」

「巨大化なんて芸当ができる魔物だ、何かしらのお宝は持ってそうだけどな」

「調合の実験用にこれがもうちょっと確保できたらいいんだけどね」


 誰も反対するわけないか。

 まあ、小物は全部片づけたはずだし、さっそく向かおう。











「……なかなかの惨状ですね」

「随分派手に爆破したな」

「囲まれてたから、一刻も早く倒さないとって思ったんだよ……」


 青白い肌の人型魔物の棲み処だった場所に戻ってくると、そこは酷い有様だった。

 辺りには原型すら残さないくらいにばらばらになった魔物らしき残骸が無数に転がり、通路の床にも壁にも亀裂がたくさん入っている。

 更に床の一部は完全に破壊されて水路に沈み、あちこちに小さな池を作り出していた。

 ……生きて帰るためには仕方なかったとはいえ、ちょっとやりすぎたかな?


「なかなかに惨いけど、まあ先に仕掛けたのは向こうだからね~。で、これが無謀にもルーチェを丸飲みした魔物、と」


 辺りに魔物の残骸が転がる中、マディスは頭が吹き飛んだ魔物の死体を見つけ、その魔物の腹部をナイフで切り開いた。

 ……って、何やってるの、マディス!?


「見ての通り解剖だよ。飲み込まれた後どうやって脱出したのかはこの魔物の死体から大体想像がつくけどさ」

「胃に大きな穴が開いていますね……。ですけど、ここから脱出したわけじゃなさそうですね?」

「……溶かされる前に胃をシャイニングスピアで爆破して、気絶した魔物が倒れた隙に喉を通って脱出したんだ……。本当に、死ぬかと思ったよ……」


 いきなり砕かれた肉や魚らしき物が降ってきたと思ったら、壁から酸が噴き出してきたんだよ?

 ……もし当たってたらひとたまりも無かったと思う。


「頭が原型すら残ってないな。何があったんだ?」

「口の中から外の魔物を倒そうとしたら、小型化の効果が切れて魔物の頭を……」

「……聞いて悪かった」


 多少マシになってきたけど、また気分が悪くなってきたよ……。


「まあ、さっさと水路に捨ててしまいましょうか」

「だね。ついでにルーチェも全身に水を浴びておいたら? さすがに気持ち悪いでしょ?」

「……何を使って水を出すのが大体察しがついたし、ちょっと不安だけど、頼んでいい、マディス?」

「分かったよ。じゃあ……」


 そう言いつつマディスが青い結晶と水晶を調合し、薬を私の身体にかけた。

 直後に再び青い結晶を、今度は二つ調合する。

 その瞬間、私の身体を激流、ううん、水の刃? が飲み込んだ。


「マディスさん、いくらルーチェさんが丈夫でも、大丈夫なんですか、それ?」

「爆発の直撃を受けても大丈夫だったが、お前の薬はさすがに不味くないか?」


 二人もまあ、同じ意見だよね……。

 でも、何で私は水の刃と言っていいほどのこの激流の中で「普通に立ってられるし息もできる」んだろ?


「大丈夫だよ。さすがに仲間を殺すような真似はしないから。ルーチェ、そのまま全身に水を浴びてくれる?」

「え? えっと……」


 正直頭がついていかないけど、とりあえず言われたとおり水を身体全体に当てるように動いてみた。

 すると、身体や服にこびりついていた魔物の残骸が瞬く間に水に飲まれて飛んでいく。

 それでも、私の身体や服には何一つ影響が出ていない。

 ……数秒経って激流が消滅した時には私の身体からは魔物の残骸が綺麗に落ちていた。

 なのに服も私の身体も全く濡れていない。これってどういう事?


「(激流だけど)水をかけるんだから、当然水の攻撃を無効化すればいい、って事だよ」

「ああ、なるほど……。最初に使っていた薬は水の攻撃を無効化する薬だったんですね? だから躊躇なく調合して……」

「そう言う事。まあ、先に言った方がよかったかもしれないけどね」


 まあ、私達にもどんな薬を使ったのかが分からないわけだしね。

 本人以外知らないってそう言う事だし。


「今更な説明になるけど、最初に使った薬で水を使った攻撃を全部防げるようになるんだよ。だから、こんな事も出来るってわけ。何も戦闘だけに使うわけじゃないからね」

「まあ、いきなりこんなことをされたら相変わらず心臓には悪いけどね……」


 いきなり水の刃と言っていいほどの激流に飲み込まれたわけだし。


「中身の説明もせずに使ったのはさすがに悪かったかな、って思うけど、ここの水路の水を浴びるよりはマシじゃないかな、ルーチェ?」

「そりゃそうだけどさ……」


 この辺りの水路の中の一体何が棲みついているのか想像もできない緑色に濁った水よりも、マディスの薬で作った水の方が、水自体は安全だとは思うけど……。


「だよね? まあ、この話は切り上げて、奥に進もうよ。こんな所早く出たいしね」

「あ、ちょっと……」




 話を切り上げて歩き出したマディスを追うように、私達も魔物の巣の奥へと進んでいった。

 難なく辿りついた魔物の巣の最深部。そこにあったのは――――










「何、これ……?」


 ――――天井が見えないほどの高さの空洞。その壁一面に広がった赤色と青色の結晶のような物が、じわじわと壁を侵食しながら争うように肥大化していき、地面にそれぞれの色の欠片を無数に落としている光景だった。

 地面には赤と青、そして紫の輝きが所狭しと散らばっていて、見ているだけならとても幻想的な光景になっている。


「これは……何だ? 赤色の結晶と青色の結晶が壁から突き出ているが」

「見てください。地面にさっきマディスさんが拾ったのと同じような欠片が沢山落ちています。どうやら、これがあの水晶の原料のようですよ」

「魔物自らあれを作ってたんだね~……。半円形の穴が開いた鉄板のような物まであるよ」


 マディスが指さした半円形の穴が開いた物体の中には複数の赤色の欠片が入っており、中には粉々に砕かれたものまで存在する。

 砕かれた水晶の欠片からは赤色の液体が染み出しており、これが水晶の欠片同士をくっつける役割をしているらしい。

 もちろん、その横には例の赤い水晶がいくつも転がっていた。下手に触るとまた巨大化して大変だから触らないけど。


「さて、それで、この結晶はどうする? 放っておいたらどこまでも巨大化しかねないぞ?」


 ルシファーが結晶の張りだした壁を見ながらそう尋ねる。

 ……確かに、これをこのまま放っていくのもね……。


「だったらさ、壁ごと爆破して持って行かない? これさえあったら実験材料にも困らないし」


 けどまあ、マディスだったらこう言うよね。

 じゃあ、どうやって爆破する?


「とりあえず足元の結晶だけ拾ってから、ルーチェさんの魔術でいいのでは?」

「そうだな。目の前の結晶はともかく、足元の欠片は触れても問題ない以上、すぐさま実験材料に使えるだろ」

「じゃあ、この辺に落ちている欠片を全部拾おう。それから、ルーチェの魔術で爆破すればいいよね」


 ……まあ、私の魔術なら離れてから爆破できるし、妥当なのかな?

 とは言っても、念のために何かしておかない?


「爆破したときに結晶の奥から何か出てきたときのですか? この部屋の入り口を塞げば良いと思いますよ」


 即答したジル。

 まあ、それが一番だよね。

 魔物の巣を結晶もろとも封じれば巨大化や縮小の効果を生じる水晶も作れないわけだしね。






「拾い終わったからこの結晶を爆破して、ルーチェ」

「って、もう終わったの!?」


 確か床一面に散らばってたはずなのに、マディスの言葉通り、床には結晶の欠片らしき物は全く残っていなかった。

 さすがに触っただけで巨大化してしまう赤色の水晶は回収できなかったらしく、そのまま置かれている。

 まあそれはともかく、爆破して良いならこんな危険な結晶はさっさと爆破しよう!


「シャイニングスピア!」


 魔術が発動し、無数の光の槍が赤と青の結晶に突き刺さる。

 結晶に槍が突き刺さると、その部分から結晶と同じ色の液体が流れ出してきた。

 今はまだ量が少ないけど、もし爆破したら大変なことにならないかな?


「どう考えても爆破したら不味いような……」

「ですね。この部屋の入り口を上の方以外塞いで安全を確保してから爆破しましょう」

「この部屋ごと永久封印かな、これは。外から封鎖するよ」


 事前に対策の事を考えててよかったかも。

 じゃあ……部屋の外に出て壁も作ったし




「爆破!」




 直後、槍が次々に爆発し、壁に張り出していた結晶が吹き飛んで崩れていく。

 そして結晶があった場所の奥からおびただしい量の赤と青の液体が流れ込み始め、床にあった物を全部液体の中に飲み込んで固めていってしまった。

 その光景を見た直後に入り口を完全に塞いで部屋を密室にしたため、中の様子は分からない。

 だけど、少なくともこの部屋の入り口だけは開けてはいけないって事だけは確信していいかも。

 まあ、こんな所にはもう誰も来ないだろうけど。これから入口も崩して塞ぐ予定だし。


「それが一番だな。さ、帰るぞ」

「あっさり終わると思ったのに、かなり大変な冒険だったよ……」


 魔物に丸飲みされるなんて夢にも思わなかったよ……。











「ここも……爆破!」


 洞窟の入り口――――土管の地下通路の中の色が少し違っていた壁の奥を爆破し、瓦礫で通路を塞いでおく。

 これと同じ仕掛けを洞窟の奥の水路からここまで至る所で行って、更にマディスの薬で通路の床を崩落させてある。

 これだけやったら、普通の冒険者では絶対に奥地まで足を踏み入れられないだろう。

 というか、洞窟を潰した私たち自身も踏み込むのにかなり苦労すると思う。


「さて、ようやく帰ってこれたわけだけど、次はどうする?」

「そろそろ、次の場所に行こうと思うよ」


 バグッタも良いけど、いつまでも居るわけにはいかないし。


「そうですね。じゃあ、土管を上がってそのままバグリャ側まで行きましょう」

「うん。――――この土管を通るのもこれで最後なんだね」


 底が見えないほど深い土管を梯子を伝って下りるなんて経験、他じゃ出来ないよね。


「ま、中々新鮮な経験は出来たな」

「ええ。この場所は色々斬新でしたよね。さ、帰りましょう、ルーチェさん」

「うん」


 土管の中の梯子を上り、バグッタの地上に出る。

 後はここの門から地上に帰るだけ――――だった。


「え? 何、これ……?」


 土管の地下通路のダンジョンの探索を終え、宿のある方に戻ってきたた私たちの目に飛び込んできたのは、あちこちから煙と火の手が上がっているバグッタの町だった。

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