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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
130/168

探索しましょう

大量の用事にスランプが重なり、まともに執筆できず、遅くなりました。

本当にお待たせしました。

「さて、ルーチェが掃除してくれたおかげで安全に進めるわけだが……広間の奥の通路に何か落ちてるな。何だ?」


 槍の残骸が転がっている広間を抜けて奥の通路に繋がる扉の所まで歩く。

 周囲に散らばっている槍の残骸が爆発することが無い事を確認して一息ついていると、一人扉の奥の通路を覗きこんでいたルシファーが気になることを呟いた。

 ――――落ちてる? 「居る」じゃなくて?


「ああ、どうみても地面に物が落ちてる。見てみろ、ルーチェ」


 ルシファーに促されて扉の奥を覗きこんでみる。

 すると、ルシファーの言うとおり、確かに何かが通路のど真ん中に置いてある。

 暗くてよく見えなかったので光を通路に近づけてよく観察してみると、置いてあったのは人の顔程度の大きさの赤く輝く半透明の球体だと分かった。

 ……水晶玉? 何でこんな危険な場所のど真ん中に水晶玉が置いてあるんだろ?


「……魔物じゃないなら無視しても大丈夫そうだが、どうする?」

「一応、警戒だけはしておこう」


 ……何があるのか分からないし。

 というか、こんな危険な場所の通路のど真ん中に置いてあるって明らかに怪しいよ。


「魔物じゃないなら拾っておいて、どこかで適当に売りさばきましょうよ」

「ん~……まあ、それが妥当なんじゃないかな? どうする、ルーチェ?」

「売れる保証はないけど……一応持って行く?」


 ジルの言葉がきっかけで、魔物じゃ無ければとりあえず拾って持って行くことに。

 念のためにジルが武器で軽く叩いていたけど、反応は無い。

 どうやら完全にただの大きな水晶玉みたい。


「安心ですね。じゃあ、回収しますよ」


 武器で叩いても反応が無かったことに安心したジルが水晶玉を回収するために手を触れた。

 その瞬間――――――――ジルの身体が三倍ほどの大きさに巨大化した。




「……え?」

「あれ? いきなり天井が低くなったような気が……」


 な、何でいきなりジルが巨人になってるの!?

 まさかさっきの水晶玉に触ったら巨大化しちゃうの!?


「い、一体何が起きたんでしょうか? 急に天井が低くなったんですけど……」

「ジルが突然巨大化しちゃったんだよ!」

「え? 何言ってるんですか……? って、何ですかこれは!? どうしてこんなことになってるんですか!?」


 私の言葉を聞いて信じられないと言った様子で振り返ったジル。

 本来背丈が同じはずの私達を見下ろさないといけない自分の状態を見たら異変に気付くよね。

 というか、本当にそれは私が聞きたいよ……。


「……参りましたね。どうして私だけ巨大化してるんですか。何故か武器まで巨大化していますし」


 ジルが呟いた通り、ジルの持っていたテーブルナイフもジルの身体の巨大化に合わせたのか非常に大きくなっている。

 元々ジルの背丈と同じくらいの大きさだったそれは、巨大なゴーレムにでも搭載するような超大型ナイフへと変貌していた。


「参ったな……。いきなりジルが巨大化したのもそうだが、そんな状態のジルの前に出て一緒に戦うのは危険すぎる。振り回す武器の巻き添えになりかねない」

「そうですね……。もし前に誰かが出てしまったら、横薙ぎに振るった時に巻き添えにしてしまいそうです。……しばらく、前衛は私だけになるでしょうね」

「そもそも、巨大化したジルの横に並んで戦えるほど通路が広くないよ」


 通路の横幅は巨大化したジルが入るとほとんど横幅に余裕が無い。

 これじゃジルの足元や横を抜けて前に出るのはほぼ不可能だろう。

 それに天井も……。


「この高さだと頭をぶつけるようなことはないですけど、全力で武器を振り回したら普通に天井に当たりそうですからね……。さっきの炎みたいに天井をすり抜けてくれるんでしょうか?」


 どうだろ……。

 ジルの武器が天井を貫通して振り下ろせるんだったら何の問題も無さそうだけど……。


「疑問に思ったらその場で実行するに限る。という事で、一度天井に武器を当ててみたらどうだ? 天井にぶつかったら使えないが、天井をすり抜けたら普通に振り下ろせるだろ?」

「そんな天井あり得るわけ……って言いたいけど、ここはバグッタだからね……」

「まあ、やるだけやってみますね」

「念のためにジルに薬を使っておくよ」


 マディスの手から薬――――多分ガードパウダー、の粉末がジル目がけて放たれ、ジルの身体を包み込む。 これでジルが天井を叩き斬ってしまって崩落させても大丈夫かな?


「……じゃあ、一度全力で振り抜いてみますね」


 マディスの薬の効果で防御力が強化されたジルが、その言葉と共に大木のような大きさのテーブルナイフを後ろ手に構え、天井ごと両断する勢いで一気に前方まで振り下ろす。

 天井に当たって止まると思ったその一撃は、天井など元々存在しないかのように天井をすり抜け、そのままジルの前方の床へと振り下ろされる。

 その刃が地面に叩きつけられた瞬間、地響きのような轟音と共にジルの前方に巨大な衝撃波が発生し、地面を削り取りながら突き進んでいった。


「どうやらここの天井は私達の攻撃も貫通するみたいですね。これで心置きなく前衛で戦えます。行きましょう」

「その前にちょっと待って! なんなの今の衝撃波!?」


 一体いつそんな攻撃が使えるようになったの!?


「いえ、私はこんな攻撃出せませんよ。おそらく、巨大化したことで身体の力も武器の威力も大幅に引き上げられてるんでしょうね。身体の力、武器の重さと大きさが増せばその分破壊力は上がりますから」

「これってそう言う次元じゃないような……」


 というか、巨大化しただけでそんな破壊力の攻撃が出来るようになるって……。


「バグッタ故仕方なしですよ。さあ、この奥に進みましょう」

「ルーチェ、いい加減ここが常識の通用しない世界だと認めろ」

「十分おかしな場所だって分かってるけどさ……」


 そもそも、喋る動物が居たりしてる時点で十分おかしな場所だし……。

 だけど、あまりに異常すぎてなんていうか……。


「やっぱりちょっとついていけなかったりするの、ルーチェ?」

「……ちょっと、ね」


 さっきの巨大化もそうだけど、あまりに自分の常識が通用しない世界だから……。

 まあ、ここで立ってても仕方ないし、先に進もうか。

 さっきのジルの攻撃で雑魚は全部吹っ飛んだと思うし。









「それにしても、敵の残骸以外なにも見当たりませんね。真っ直ぐに伸びる通路が延々と続くだけで、変化が全くありません」


 相変わらず真っ直ぐに伸びる通路を歩き続ける中、巨大化したまま先頭を歩くジルが口を開いた。

 ……確かに、いまだに変化が無いって変だよね。

 もう結構な距離を歩いたような気がするけど……。


「また通路が伸びて戻されてたりするのかな?」


 ジルの言葉を聞き、ふと頭に浮かんだのは以前ジルが強引に走り抜けた遺跡の仕掛け。

 通路そのものが伸び縮みするように作ってあって、一気に走り抜けないと戻されるって厄介な代物だったけど……。


「いや、さすがにそれは無いだろ。それなら後ろを振り返った時にすぐにさっきの通路まで戻れるようになっているはずだ」

「向こう側が全く見えないってことは、相当進んでるんだと思うよ」


 後ろを振り返ったルシファーとマディスの言葉が私の考えを否定する。

 実際に振り返ってみると、私たちが入ってきた通路の入り口は全く見えず、前に進んでいることだけは確信できた。


「それにしても、バグッタって何なのかな? あの鍛冶屋や明らかに不思議な間取りの宿屋と言い、魔物と言い……おかしなところが多すぎない?」

「まあ、言われてみればおかしな点がありすぎるんですけど……考えたところで答えなど出ませんよ?」


 今まで感じたバグッタの疑問。

 確かにジルの言うとおり、何も知らない現状で考えたところで答えなんて出せないだろうけど……。


「まあ、考えるくらいいいんじゃないのか?」

「あの鍛冶屋や服屋は本当に不思議だよね~。ミスリルの加工が出来る鍛冶屋なんてほとんどないのに」

「……そうなの?」


 武器や防具に関する事なんて興味すらなかったから全然分からないけど……。


「そうですよ。私が知る限り、ミスリル製の装備を使っている国なんてほとんどありません」

「召喚されてからここまで、ミスリル製の装備を持った冒険者を見た事は無いな」

「この辺りだとせいぜい鋼鉄が限度だからね~。平和ボケの象徴かもしれないけど」


 そ、そうなんだ……。

 でも、言われてみれば確かにその通りかも……。

 普通勇者や王宮の騎士なんて言ったら最高級の装備をしてるはずなのに鋼鉄製の鎧だったりしたよね。

 剣は一応勇者の聖剣だったみたいだけど。


「そうですよ。そんな明らかに貧弱な装備しか扱っていない国の隣に、ミスリルを加工できる鍛冶屋が居るってこと自体が普通なら異常です」


 まあ、鋼鉄の装備が限度の所で何故かミスリルを使った装備がある(買えないかもしれないけど)ってなったらね……。


「捕獲して二度と脱走できないようにしましたけど匠の例もあります。気づいていないだけで地下には異常な技術を持った集団が居る、って言われても不思議ではないですよ」

「まあ、その可能性もあり得るかもしれないけど……」


 仮に地下に転移させられてるんだとしたら、あの門の役割も繋がってくるけど……。


「それに、調べてはいないですけど、ここへの入り口があの門一つだけって事は無いと思いますよ?」

「あの門以外にバグッタへの入り口があるかもしれないって事?」


 ……まあ、この世界を隅々まで調べたわけじゃないからあり得るかもしれないけど。

 というか、他の場所からバグッタに入って技術を持ち込んだ、なんてこともあるかもしれないし。


「その可能性は高いな。この世界に何があるのかなんて分からないだろ?」

「まあ、僕たちはたまたまここに立ち寄っただけだからね~」


 そう考えるとじっくり調べてみたいような気もする。けど――――。


「やらないといけないことはあるし、調べてられないよ」


 魔王討伐――――実際に魔王が居るかどうかはともかく、これだけは絶対にやらないといけないから。

 というか、明らかにその辺の勇者や冒険者じゃ対処できない強さの怪物が各地に居る時点で十分私たちが旅しないといけない理由になってるんだけどね。

 あんな化け物放っておいたら大変なことになっちゃうし。


「その通りですね。貧弱な勇者にはとても任せられないですk」


 貧弱な勇者にはとても任せられないですから。

 そう言おうとしていたジルの言葉が途中で途切れ、身に着けている装備ごとジルの身体が急速に小さくなる。

 ここまで巨大化していたジルの身体は、何の前触れも無く突然縮んで元の大きさに戻ってしまった。


「から……あれ? 私、今度はどうなりました?」

「ああ、良かった。ジルの身体が元の大きさに戻った……」


 突然見ている景色が変わったのか、慌てて辺りを見回すジル。

 元の背丈に戻ったみたいだし、もう安心?


「……本当ですね。――――安心しました。戻らなかったらどうしようかと……」

「なるほど。これなら、僕が変な薬を作らなくても大丈夫そうだね。結局どうしてあの水晶に触ったら巨大化したのかは分からないままだけど」


 自分の身体が元の大きさに戻ったことで心底ほっとした様子のジル。

 ちょうど通路の終わりも見えてきたし、これから安心して探索できるかな?


「そうですね。これで――――って、辺りの様子が変わってきましたね」

「……水路、かな?」


 先頭を歩いているジルの言葉通り、通路の出口が見えたあたりから周囲の様子が変わってきている。

 どこかから水が流れる音が聞こえはじめ、出口の先には横の壁が無い通路が姿を見せ始めていた。

 その通路の入り口すぐのところに、青い光を放つ何かが落ちている。


「また水晶ですか?」

「……そうみたい。何でこんなところに水晶が落ちてるのかはともかく、さっきジルが水晶に触ったら突然巨大化したんだし、下手に触るのは危険かな?」


 さっきの水晶は赤色でこれは青色だから同じことは起きないと思うけど……。

 どうしよう?


「とりあえず、近くまで行きましょう。水の音も近いですし、最悪水路に落とせばいいんです。武器が当たっても問題なかったんですし、直接触れなければ大丈夫でしょう」

「それが一番かな?」


 卑怯な方法かもしれないけどね。

 じゃあ、とりあえず武器で水晶を転がして落とそうか。

 水晶の置かれている壁の無い通路の横は本当に水路みたいだし。


「ああ。ルーチェ、磁力棒で叩いて落としてしまえ」

「うん」


 磁力棒をマディスから受け取り、青色の水晶を動かすために水晶の横から棒で押してみる。

 ……けど、青色の水晶はびくともしない。


「どうした?」

「あ、うん。何でか知らないけど動かせなくて……」


 力を入れて棒で押してみても、何故か全く動かない青色の水晶。

 それでも動かそうと力を入れていた時、不意に腕が滑って棒がずれ、勢いを止められずに私の腕が水晶に当たってしまった。

 水晶に腕が触れた瞬間、急に通路が広くなり、天井がまるで空の上のように遠くなる。


「ルーチェ!?」

「え!? 一体何が……」


 振り返った私の目に飛び込んできたのは、巨人と化した皆の姿。

 そして――――突如私の視界を塞ぐように現れた暗闇だった。

 それが何なのか確認することすら出来ず、闇の中に飲み込まれる。

 私は何が起きたのか理解する事も出来ないまま、闇の中で方向感覚すら無くすほどの勢いで身体を振り回され、壁に叩きつけられながら奈落に落とされた。

 そこで、私の意識は途切れた――――。

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