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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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服を受け取りましょう

 ルーチェside



「あら、丁度よかったわ。お望みの衣装……もとい防具、完成したわよ」


 広場での技能公開から数日後、私達は再び土管を通り、服屋「職衣装」を訪れていた。

 目的はもちろん、頼んでいた私たちの防具。

 これが出来るまで地下道の探索を避けようって話になってたから今まで訓練に回してたしね。


「早速着てみていいですか?」


 ジルが店主の女性に尋ねる。

 楽しみにしてたのか、普段よりちょっと声が明るくなってるような気がする。


「そういうルーチェだって楽しみなんじゃないの?」

「まあ、そうなんだけど……」


 だって、自分で着たいって思った服をそのまま作ってもらったんだよ?

 楽しみじゃないはずがないよ。


「ジルとルーチェは新しい服だったからな。俺とマディスは強度だけ上げた普段着だ」

「僕はともかく、ルシファーの場合は仕方ないよね。どんな服を着たって鎧の下に隠れちゃうし」


 そうなんだよね……。

 鎧の防御力は頼りになるけど、その点がちょっと残念かな?


「ええと、あなたは……これね。注文通りの黒い長袖長ズボン、そして上着には灰色のコート。コートも含めて銀色のルーンも刻んであるわよ。光に照らして見てみて?」

「……凄いです……光に当てると銀色のルーンがはっきりと見えますね」


 ジルが店主の女性に言われたとおりに渡された服を光源に近づけ、服を照らすと、服に縫いこまれた銀色のルーンがはっきりと視認できる。

 ジルが服を照らす角度を変えると、ルーンの模様がその部分に浮き出てくる。

 服全体に縫い込まれているらしく、服のどの部分を照らしてもちゃんとルーンが確認できた。


「どう? 気に入ってくれた?」

「ええ! 今すぐこの服に着替えてみたいんですけど、構いませんか?」

「もちろんよ。着替えるなら奥の部屋――――倉庫を使って」

「ありがとうございます。……ちょっと行ってきますね」


 さっそく着替えることを決めたらしく、ジルは店の奥に行ってしまった。

 ……まあ、気持ちは分かるけどね。

 私だって、ちょっと楽しみなんだから。


「貴方も早速着替えてみる? 着心地も気になるでしょ?」

「そうですね……じゃあ、私も今から着替えてみようかな?」

「じゃあ、はいこれ。着替えるときは倉庫を使ってね」


 女性に手渡された白色のコート型ローブには、うっすらと金色のルーンが縫い込まれている。

 ……それにしても、ここまで完璧に仕上げられるんだね……。


「この店の商品は見た目だけが自慢じゃないわよ。まあ、着てみたら分かると思うけどね」

「そう言えば防具なんだよね? 強度は大丈夫なのかな?」


 マディスが不意にそんな事を呟いた。

 ……確かに、見た目は完璧でも強度が足りないと困るよね……。


「心配は無用よ。貴方たちの服の材料に使った生地の余りで作った肩当てがここにあるんだけど、試しに武器で斬ってみる?」

「武器で!? さすがにそれはやりすぎのような……」


 女性が取り出したのは黒色と白色の生地を軽く縫い合わせて作ったような肩当てらしき物だった。

 どう見ても獣の皮を加工したものなどと比べて頼りない。


「大丈夫よ。その辺のなまくらでは絶対に切り裂くことすらできないから」

「……じゃあ、試すぞ?」


 女性の言葉を本気にしたのか、突然グリーダーの時に愛用していた斧を取り出したルシファー。

 それを見た女性は持っていた肩当てを近くにあった鎧に取りつけ、店の外に運び出す。

 ルシファーとマディスはついて行っちゃったし、私も興味あるけど……私だけでも残っておかないとジルが戻ってきたときに誰も居なくて混乱させちゃうかもしれないよね。




「あれ? ルーチェさんだけですか?」

「うん。……服の強度が確かなのかどうか、余った生地で作った肩当てをルシファーが斧で切り付けて確かめるって……」


 私だけが店の中に残って少しすると、着替え終わったジルが戻ってきた。

 動きやすさを重視した黒色の長袖長ズボン、上着の灰色のコート。

 いずれも、光に当たるとうっすらと銀色のルーンが浮かび上がり、凄く綺麗。

 色も含めて大人っぽい雰囲気の服だし、ジルに凄く似合ってると思う。


「ありがとうございます。ところで、さっきの話は一体……」

「さっき言った通りだよ。ルシファーが生地に斧で斬りつけて、生地の防御力を確かめるって。見に行こう」


 着替えてきたジルと共に店の外に出ると、女性とマディスが見守る中、ルシファーが鎧に着けられた肩当て目がけて斧を振り下ろしている一見妙な光景が飛び込んできた。

 ……さて、どうなったのかな?


「ルシファー、どうなった?」

「まあ、いくらミスリルを縫い込んだと言っても、ミスリルの塊ではありませんし、斧を使ってたらあっさり真っ二つになっちゃいますよね?」


 ジルはあの斧なら切り裂けるって考えたのかな?

 まあ、私も正直斧に耐えられるような強度は無いと思うんだけど……。


「あら? あの生地がその辺のなまくらに負けるわけないでしょう? 着る人の命を守るための防具なのに、その辺のなまくらでやられたら……ううん、命を守ると言う役割がある以上、この町全ての鍛冶屋、武器屋の武器に強度で負けるわけにはいかないのよ」


 ジルの言葉にそう返す店主の女性。

 とは言っても、さすがに斧が負けるわけ……。


「……何故斧で何度も斬りつけて、肩当て一枚潰せないんだ?」

「だよね。やっぱり……え?」


 ルシファーは何言ってるの?

 グリーダーの斧を使って壊せないっておかしくない……?


「……それどころか斧が刃こぼれしてやがる……」

「うわあ……」


 ルシファーに斧を見せられたマディスが左手を口に当てて絶句した。

 近づいて見てみると、大斧の刃先は肩当ての強度に負けてしまったのか刃が砕けてボロボロになってしまっている。

 鍛冶屋にでも頼んで修理してもらわないと使い物になりそうにない。


「当然よ。ミスリルの糸を何重にも縫い込んだ特別性だもの。ただでさえ頑丈なミスリルを格子状に編み込んだものを重ね合わせて、更に表面の生地ともしっかり縫い合わせたのよ? 普通の武器でこれを破壊するには、強力な加護でも持ってこないと不可能でしょうね。それが使える人が居るかは別として」


 茫然とする二人に店主の女性が肩当ての説明をする。

 ……というか、いくら何重にも重ね合わせたミスリルだって言っても、細い糸なんでしょ?

 だったらすぐに斬れそうな気がするんだけど……。


「ミスリルの事を誤解していないかしら? 確かに細い糸なら切り裂きやすいって思えてしまうけど、それでもミスリルはミスリルなのよ? 鉄や鋼の武器では傷一つつかないわ」

「こうして目の当たりにすると、嘘だろとは言えないな。これでもかなり長い期間愛用していた斧なんだが……」

「……品質は悪くないけど、素材が鋼鉄って時点で無理ね。それじゃこの肩当てもあの服も切り裂けないわ」


 斧の刃を見た女性が感想を漏らす。

 それにしても、鋼鉄って時点でって普通おかしいよ……。

 普通の武器は全部鋼鉄が限度なのに……。


「ミスリル……それも混ざりっ気無しの最高品質の物よ? 普通のミスリルだとどうしても不純物が混ざったりするから質の悪い物なら一応鋼鉄でも壊せなくはないけど、純粋なミスリルだけで出来た物となると同じミスリルか、強い加護付きの武器、もしくは強力な魔物の攻撃でもないと通用しないわ」


 ……どれだけ頑丈なの……。

 細い糸にしてもミスリルはミスリルなんだね……。


「もちろん、貴方達が頼んだ服にもその肩当ての中にある物と同じ物が縫い込んであるわ。その肩当てと同じくらいの強度はあるから、よっぽど手強い魔物との戦いでもなければ、破損は気にしなくていいわ。加護があったら万全ね」


 これ以上頑丈にする必要が感じられないような気がするけどどうなのかな……。

 けど、防具はちゃんと固められるだけ固めておいた方が良いかな?


「もちろんです。動きに影響しないのなら、なるべく頑丈にしておいた方が良いですよ。加護で何かしら悪いことが起きるわけではないですし」

「落ち着いたらまた加護の事を考えていいかもね~」


 まあ、防具を強化しておいて損はないよね。

 落ち着いたらまた考えていこうか。


「さて、私は残りの服も持ってくるけど、貴方達はこれからどうするつもりなの? 旅の続き?」

「そうなりますね」


 まあ、土管の地下の空洞の調査だから旅じゃなくて冒険って感じだけど。


「せっかくだから、貴方達も着替えていったら? これから服を持ってくるわけだし」

「俺とマディスか?」

「良いんじゃないかな? 私も今からこれに着替えようとしてたし、二人もここで着替えちゃおうよ」


 新しい服の着心地が一番気になるのは確かだけど、何よりもこれは「防具」だしね。


「……そうするか。じゃあ先に着替えてこい、ルーチェ」

「うん」


 さっそく店の倉庫で着替えてこよう。

 ……新しい服の着心地、どうかな?








「……さて、ようやく着替えるわけだけど……」


 ずっと抱えていたローブを倉庫にあった机に置き、改めて眺めてみた。

 ローブは注文した通りに仕上がっており、白色のコートのような見た目をしている。


「あ、ローブにちゃんと金色のルーンも入ってるんだね。魔法陣みたいな模様……」


 ローブを注意深く観察すると、全体を覆うように金色のルーンが縫い込まれており、光を当てるとうっすらと輝く。

 魔方陣に刻む不思議な模様と同じようなルーンが白いローブを彩っており、見ていると不思議と気分が落ち着いてくる感じがする。


「……それにしても、このローブ。こうしてみると結構大きいような感じがするのに、全然重さを感じなかったような気がする。そんなに軽いのかな?」


 というか、いくら糸でもミスリルが縫い込まれてたら重そうな気がするんだけどね。 

 ……まあ、その辺は後で考えればいいか。とにかく今はこれを着よう。







「えっと、これで良いかな? さて、と……」


 ひとまず着替え終わったので服を着たまま少し身体を動かしてみる事に。

 腕を上げたり身体を軽く曲げ、服が動きの邪魔をしないか確かめてみる。


「あれ? 全然服が身体の邪魔にならないのかな? 腕や足を動かしても全然不自由が無い……」


 普通の服だと、どれだけ身体の大きさに近い服を買っても大抵どこかの長さがずれるはずなのに、このローブはそれがまったく無い。

 また、服の袖もかなり絶妙に調整してあり、手首を曲げても手がローブの袖に入って邪魔になることがないようになっている。

 それに……。


「この服、涼しいのか暖かいのかどっちなんだろ……?」


 一見すると分厚いコート状のローブでいかにも暖かそうなのに、実際に着てみるとそこまで暖かくなく、むしろ涼しいような感じがしてくる。

 快適と言えば凄く快適なんだけど、見た目が明らかに分厚いローブなだけに涼しく感じるのは明らかに不思議だよね。


「……まあ、動きに不自由しないし大丈夫か。外に出よう」


 明らかに不思議な感じはするけど、そのことは後回しで良いよね。

 動きに不自由しない、厚さも寒さも感じない、重くない。

 これに強度も保障されてれば、防具としてはこれ以上ない一級品だよ。









「随分雰囲気が変わりましたね、ルーチェさん。羽飾りとローブの両方が白色になったからか、雰囲気が明るくなったような気がしますよ」

「そうかな? まあ、今まで来ていた服と随分違うからね」


 着替えを済ませて倉庫を出ると、導師の衣装を抱えたジルが出迎えてくれた。

 私が着替えている間に持ってきてもらったのかな?


「ええ。ルシファーさんとマディスさんも別の倉庫で着替えていますし、二人が戻ってきたらようやくあの土管の地下道の奥に行けますね」

「あの壁の奥だっけ?」


 一ヶ所だけ明らかにおかしな壁があったからね。

 マディスの薬であの壁を破壊したら奥に進めそうだけど。


「そう考えると、ここで着替えていって正解ですね。防具は持ってるだけじゃ意味がありませんから」

「手に入れたらちゃんと装備しろ、って事だよね」


 誰が言ってるかは知らないけど、当たり前の事だよね。


「まあ、これはどっちかというと新しい服を買ったような感覚なんでしょうけどね。着心地も良いですし、防具という感覚があまりしません」

「ここまで素敵な服だと、防具って印象はあまりしないんだよね」


 というか、普段着にしても全然違和感が無いよね?

 私のローブもジルの服も、確かに服にしては頑丈かもしれないけど、別に重かったり動きを制限するようなことはないんだし。


「そうですよね。身体に丁度合うと言えば良いんでしょうか」

「今日初めて着てここまで身体にぴったり合う服が出来てるってそれもそれで不思議なんだけどね」


 ……まあ、ここの店主の人が凄かったって事なのかな?

 そんな話をしていると着替え終わったルシファーとマディスがこっちに向かってくるのが見えた。

 皆の防具も整えたし、ようやく土管の地下道の壁の奥を調べられるね。

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