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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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バグリャ周辺の様子を見てみましょう

「さて、バグリャへの使者、ムーノウ・クケンリョーがバグリャへと足を踏み入れたわけだが……バグリャ側の反応はどうだと思う?」


 ヒローズの使者がバグリャに入って行ってから半日、バグリャ手前の街道に布陣するヒローズ軍の天幕では数名の重鎮と軍による会議が行われていた。

 会議の内容はもちろん今朝バグリャに向かった使者に対するバグリャ側の反応である。


「まあ、生きて戻ってこれるとは思っておりません。すでに殺されてしまっているでしょう」

「バグリャ勇者の暴挙を考えると、真面目に対応することも無く、城門に近づいた途端に首を落とされて話すらできないと考えます」

「正直、彼が居なければこの対応は絶対にできなかったですね。まあ、悪い意味で有能でしたので当然だったのですが」

「彼は帰ってくるまい。そうなったら、ヒローズとしてはバグリャが和平の使者を斬り捨てたとして攻撃を行えばいいのだ」

「同感です。元々そのための捨て駒だったのでしょう?」


 しかし、その会議の中でヒローズが送り出した使者が生きて帰ってくることを信じている者は誰一人として居なかった。

 相手は「あの」バグリャ勇者なのだから当然である。


「それにしてもバグリャ王は何をやっているのだ。関所を破壊してここまで進軍する際に斥候を使って付近にあるはずの集落を探してみたが、数年前にはそこにあったはずの集落がいずれも破壊され尽くしていて何も残っていなかったではないか」


 そんな話が続く中、会議に参加している一人の将軍が進軍中の付近の様子をふと口にする。

 バグリャへの進軍中、バグリャ勇者が勝手に作った関所を片っ端から掃除(=破壊)しながらヒローズ軍はここまで来たわけであるが、進軍中は付近に敵がいないかを確認するために当然斥候を放っている。

 この時にその斥候についでに付近の集落の様子を調べさせたのであるが、いずれの集落も見事に破壊されており、残骸しか残っていなかったのである。


「確かにバグリャの王都からは離れてはいますが……バグリャ軍は何もしなかったのでしょうか? 自国領の集落を見捨てるなど、正気とは思えません」

「まさか、バグリャ勇者は自国領の集落すら平気で潰していたのか?」

「いくらバグリャ勇者とはいえ、まさか自国領の村を潰すとは……」


 バグリャ勇者の暴挙を目の当たりにしているヒローズの面々ではあるが、それでも今回の斥候が発見してきたバグリャの現状には驚きを隠せない。

 いくらバグリャ勇者がどうしようもない害悪と言えど、まさか自国領の集落を潰すとは思っていなかったからである。


「バグリャ城前の担当部隊からご報告申し上げます。バグリャ軍が城壁の上に集まってきています。何やら大量の樽らしきものを城壁の中に仕込んでいるようですが……」

「城壁の上? どこの城壁だ?」


 ヒローズ軍がそんなバグリャの状態に驚き、呆れていると、前線部隊の兵士が報告に訪れ、前線からの報告を伝える。

 報告を聞いた将軍の一人が即座に伝令の兵士にどの城壁かを尋ねた。

 城壁の中に大量の樽らしきものを仕込んでいる……そんな妙な話題を出されて、将軍たちが反応しないはずはない。この時期にそのような真似をするとなると、間違いなく開戦の準備だろう。


「はっ。町を覆っている城壁……つまり、これから我々が攻撃する予定の城壁です。バグリャ軍は我々の斥候には目もくれず、攻撃してくる気配すらありません」

「……何を考えているのだ? いくら距離があるとはいえ、堂々と斥候が見ているにも関わらず何もしてこないとは……」


 そして、兵士の報告の詳細を聞いてますますヒローズ軍の幹部たちは困惑することとなる。

 バグリャ軍は自軍の行動がヒローズ側に筒抜けになっているにも関わらず、斥候を攻撃してくる気配すらないのだ。

 いくら安全のために弓の射程外から監視しているとはいえ、明らかに不用心すぎる。


「それと……どうやら、バグリャ軍は全てあの城壁の中に居るようです。外に配備している兵士は斥候の報告でも確認できず、我々の部隊が奇襲を受けた様子もありません」

「尚更わけが分からん。こんなに近くに敵軍が居るのに傍観する? 自国領なのに周辺には兵士の配備すらしていない? ……何を考えている?」


 兵士の報告から浮かび上がってくるバグリャの軍は、明らかに異様であった。

 元から不気味な相手ではあるが、行動までも破天荒で何が狙いなのか全く読むことが出来ない。

 つまり、戦争における定石のような物が一切通用していないのだ。


「失礼します。……バグリャ側から何の妨害も無く、ポートルまでの街道を解放することが出来ました。これは何かの罠でしょうか?」

「詳細を」

「はっ。我々の部隊は指示通りにポートルまでの街道を進軍していましたが、こちらも間にバグリャ軍の気配などは一切なく、邪魔な関所が立ち並ぶだけでした。当然ポートルとの行き来を回復させるため、関所は全て破壊しておきましたが……」

「……妙だ。一体何を考えているのだ? ますますわけが分からない……」


 兵士の報告を聞き、ヒローズの幹部勢は揃って頭を抱えることとなった。

 これまでヒローズやポートルを移動する行商人を苦しめてきた無数の関所は、今向かってみると兵士一人居ないのだ。

 今までの光景から考えると、悪夢のような光景は全て夢だったのかと疑ってもおかしくないだろう。

 劣勢でもないのに開戦前から周囲の領地を完全に捨て、バグリャの町だけ守っている今のバグリャ軍の様子はそれだけおかしい事なのだ。


「町の中の様子を知ることができれば……」

「不可能でしょう。使者が入って数刻後、町の入り口は完全に封鎖されました。その後出てきた者は居ません。おまけにあの門、以前は確認できた門の扉の隙間が埋められているのかして完全に消えており、一枚の大きな鉄の板になっています。おそらく使者を招き入れた後、我々の攻撃に備えて門を閉ざし、溶接してしまったのでしょう」

「……奴らは本当に何を考えているのだ? それだと囲んで籠城すれば何もしなくても餓死させられるのではないか? 動くか?」


 更にバグリャの奇行が報告されると、会議の参加者たちはもう開いた口が塞がらないと言った様子になってしまった。

 バグリャが門を自ら閉ざした以上、こちらから攻めずとも囲んで籠城させれば物流を絶つことで困窮させられるはずである。

 いくらバグリャ勇者でも、それが分からないわけがないだろう。

 しかし、バグリャはまだ完全に封鎖されているわけでは無かった。


「いえ、確かに我々の軍でバグリャの町を包囲すれば封鎖は出来ますが、完全には出来ません。周囲を確認してみましたがバグッタへの街道はバグリャにしか無く、他の場所からは繋がっていません」

「……つまりバグッタを逃げ道兼補給路にすると? しかし、バグッタは魔境ではないのか? 魔境にそのような物資があるとは思えないのだが……」


 バグッタへの街道だけは、ヒローズ側からは絶対に封鎖することが出来なかったのだ。

 城の修繕と共に新しく増設されたバグリャの城の城壁がバグッタへの道を阻むように作られており、これをバグリャ側の攻撃を凌ぎながら強引に破壊して突破するのは一筋縄ではいかないからである。

 とはいえ、噂ではバグッタは魔境であり、そのような場所に食料などがあるはずもない。

 そう、噂が本当ならば。


「それが……そうでもないようです。どうもバグッタには、バグリャから逃げ出した住民たちが集まって作った町があるようで……今まではバグッタは魔境だと主張するような噂を流し、妙な原住生物を外に放り出すことでバグリャの接近を防いでいたようです。しかし、最近外に出た冒険者がどうもバグッタの真実を公言してしまったようで……」

「真実を確かめるためにバグッタを調べはじめた、という事か?」

「恐らく……。仮にバグッタが町だった場合、バグリャ軍による大虐殺と略奪が起きるのは避けられないでしょうね」


 実際のバグッタは多少変なところはある物の、魔境でもなんでも無いただの町である。

 そんな場所にバグリャ軍を侵入させれば、大虐殺と略奪が起きるのは避けられないだろう。


「そして物資の略奪と搬入によって籠城を強固にする、か……。面倒な軍だ。魔物のように空を飛べれば直接バグッタに乗り込んで押さえられるのだが」

「そんなことは不可能ですからね……。一刻も早く城壁を破壊し、バグリャを攻め落とすしかないでしょうか?」


 無論、そのような事態は何としても避けたいのがヒローズ側の考えである。

 しかし、実際にはヒローズ側には飛行手段が無く、バグッタへの道はバグリャの城壁で完全に塞がれているのだ。

 となると、ヒローズ軍がバグッタを守るには一刻も早く城壁を突破して市街地を押さえ、バグリャを横切ってバグッタに向かうしかないだろう。

 しかし、そうなると問題が浮上する。

 バグリャ軍が城壁の上に搭載している怪しい樽の中身である。

 これが仮に毒だった場合、下手に軍を突っ込ませてバグリャの城壁を壊そうとすると一網打尽にされかねないのだ。


「バグリャ軍が準備している樽について詳細が分かるか?」

「いえ。我々の密偵が中に潜り込もうにも、どこにも入口が無く、町に入ることすらできないので詳細は分からないままです」

「しかし、これがポーションの類や矢とはとても思えません。そのような物でしたら木箱で運べばいいと思いますし、わざわざ樽にしているからには何か理由があると思います」

「ふむ……。引き続き、警戒しておくか。バグッタが気になるが、敵を突破しなければいけない以上、今の我々にはどうしようもないな」

「それよりも付近の集落を調べた方が良いでしょう。もしかしたら生き残りを探し出せるかもしれません。斥候を増員しますか?」

「頼む。一応、明日の朝には全軍戻すように」

「了解しました」


 ただ、現状でどれだけ悩んでもバグリャ軍の作戦が把握しきれない以上、今のヒローズ軍には目先のバグリャ軍を倒すことくらいしか出来ることはないのであった。












 ヒローズ軍が着々と戦闘の準備を整えているその時、バグリャの町でも人々は異変に気づきはじめる。

 バグリャの町の女性たちは日に日に増える箱や樽の中身を不審に思い、冒険者も町に急に現れ出したバグリャ軍が殺気立っているのを察知し始めた。


「ねえ、アスカ。なんだか町の中の様子がおかしくないかしら?」

「……そうね。なんだか町の空気がピリピリしている。おまけに、城壁に上っている兵士の数が増えているわ。早くあの子を見つけて脱出したいんだけど……」


 そんな町の異変をベルツェの勇者一行も当然察知する。のだが……。


「魔物が現れて危険だから町の外に出ないように、って通達があったわね。門を溶接した挙句石を積み上げて後ろから完全に塞いでいるけど、そんなに厄介な魔物なのかしら?」

「というか、あの城壁ってあんなに長かったかしら? 今朝確認してみたけど、バグッタの方まで伸びているわね」

「高さは町の物と比べたらそれほどでもないけど、上に大量の樽があったら十分高いわね」

「それにしても、出られないってあんまりよ。さっさと旅を続けなければいけないのに……」


 バグッタの町の住民や冒険者は現在町の中に閉じ込められており、脱出することすらできないのだ。

 名目的には「魔物が町の外に居て危険」であるのだが、実際には言うまでも無くヒローズとの戦争の際の生贄だろう。

 町に置かれた大量の樽や箱の中身が軒並み油であることとバグリャ勇者の作戦からしてそれは明らかである。そんな物を置いてある場所に町の住民を放置している時点で殺す気しか感じられないだろう。


「まあ、今は仕方ないわ。魔物が排除されたら出られるようになるから、それまでの辛抱よ、パトラ」

「アスカ……私達で討伐できないのかしら? その魔物」

「……依頼でもないのに勝手に動くわけにもいかないでしょ。我慢しましょう」

「はあ……今の私達は公的には冒険者。依頼が無いと動けない、か……。こういう時に何もできないのがもどかしいわね」

「同感だわ。だけど、これも仕方ない事なのよ。とにかく、魔物が町に入ってきたときに備えて訓練だけはしておきましょう」


 そして、町から出られないためにとりあえず訓練をしておくことに決めたベルツェの勇者一行。

 彼女達と同じく町に残っている者達はバグリャの城壁が破られた時、一体どうなってしまうのだろうか――――。

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