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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
126/168

開戦しましょう

事前に構成決まってるとやっぱ早い。

文字通りサクサクですね。

 三人称side


 ルーチェたちがバグッタで各々の手札を公開し、互いに技術を高めようと訓練しているちょうどその時、地上――――バグリャでは新しい動きがあった。


「何者だ!? このバグリャの城に訪れるとは……奉仕労働の志願者か!?」

「何が奉仕労働の志願者じゃ! 無礼な! わしはヒローズより貴国を訪れた使者であるぞ! 兵士風情がわしの道を阻むでない! 早くバグリャの王に取り次ぐのだ!」


 ヒローズの使者がバグリャを唐突に尋ねてきたのである。

 もちろん、目的はバグリャの勇者が起こした町の破壊事件に対する謝罪と賠償、更に国境に設けられた大量の関所に対する抗議である。


「ヒローズの使者……おい、どうする?」

「……一応、話だけは通すぞ。伝えるなとは言われていない」

「貴様はここで待つがいい!」


 ヒローズの使者が訪問してきたことを「一応」上に報告しに向かうバグリャ兵士。


「ふん! 弱小国家のバグリャめが! ちょっと勇者が強いからと偉そうにしおって! 先日の暴挙の礼は、たっぷりとしてくれるわ! 屑勇者の害虫国家めが!」


 そんな兵士を見送ったヒローズの使者の口からはバグリャに対する暴言が飛び出す。

 本来であれば、こんな使者を出すなど大問題であり、国際的にみても最悪の選択であろう。

 相手国で、相手国に対する暴言をぶちまけるような使者など、使者とは呼べないからである。

 だが、それでもヒローズはこのような無能者を使者に立てた。

 先日のバグリャ勇者による暴挙を見たヒローズは、この国に送った使者が生きて帰ってくるなどとは初めから思っておらず、単にこちら側の要求だけ突きつければ良いと考えていたのだ。

 仮に使者が殺されればそれを口実にバグリャに宣戦布告し、攻め込める。

 もちろん要求を突き付け、返事を聞いた使者が相手の返答を聞き、生きて帰ってくるならそれもそれで構わない。

 その時のバグリャ側の返答が要求を拒む返事なら、そのままバグリャに攻め込むだけなのだから。

 故に、このような無能者を使者に立てたのである。

 無能なゴミを処分するだけで相手の反応を安全に見られるのだから、これ以上の適任は居ない。


「おい! そこの使者! 城に入る許可が下りた! さっさと入ってこい!」


 とても使者に対する口調とは思えぬ乱暴な口調で、兵士が使者を城に招く。

 ちなみに、現在バグリャで勇者に重用されている兵士は皆このような連中であり、人格的に大きな問題点を抱えている者ばかりである。

 まともな兵士は勇者の暴虐に異を唱えて左遷ないし処罰されており、代わりにこのような無能の集団が兵士になっているのである。


「全く、使者に対する態度とはとても思えんわ! この国の兵士は使者に対する正しい接し方すら知らんのか! バグリャなどとんだ屑国家じゃな!」


 己を呼んだ兵士の態度に対し文句を口にしながら城に向かうヒローズの使者。

 非礼に対し、同じく非礼を返すという、外交とすら言えない外交がそこにあった。








「ああ、ヒローズの使者? わざわざご苦労様」


 ヒローズの使者が通されたのは、バグリャの「奉仕労働」によって強引に再建されたバグリャ城の新たなる玉座の間であった。

 匠の襲撃によって一度ほぼ崩壊したバグリャ城であったが、町の男全員と冒険者をかき集めて行わせた不眠不休の「奉仕労働」によってほぼ再建され、かつてのような大理石の王宮が再び建てられているのであった。


「バグリャ国王……いや、バグリャ勇者か。玉座に頬杖をつきながら使者を迎え入れるとは、さぞかしご立派な教育を受けていらっしゃるようですなあ」


 使者の言葉通り、玉座に座るバグリャ勇者は玉座に肘を乗せて頬杖をつきながら使者の言葉を聞いていた。

 使者が周りに目を向けると、側近――――勇者一行の少女たちはヒローズの使者の事など眼中にないかのように我が身を飾りたてる宝石類を漁っており、彼女たちを大量の兵士が守っていた。


「ふふふ……ヒローズの使者様も、素晴らしい教育を受けているみたいだね。バグリャの王であり、世界を救うために現れた勇者でもある僕相手に様すらつけないとは。城に入る前からバグリャの事を愚痴るとは、ヒローズの使者も随分素晴らしいようだね」


 嫌味に嫌味で返す「交渉」の幕が上げられた。


「で、いきなりやってきて何の用、ヒローズの使者? 聞いてやるから言ってみなよ。それとも……先日のヒローズでの僕の活躍に対して感謝状でも持ってきた?」


 相変わらず玉座に頬杖をついたまま、舐めた口調でヒローズ勇者が口を開く。

 一応、話だけは聞くつもりのようだ。


「ふん。誰が貴様らなぞに感謝状を持ってくるか。わしはな、ヒローズの使者として、貴様がヒローズの町を破壊した件と無数の関所を配置して我が国に迷惑をかけた件に関する賠償を求めに来たのじゃ」


 バグリャ勇者の妄言のような言葉を否定し、ヒローズの使者が要求を伝える。

 この時点でこの使者の役割は八割方終わった。

 後この使者に残された役割は、要求を飲まなかったらバグリャに対して宣戦布告すると伝える事だけだ。


「はあ……ヒローズのゴミ共は何寝言を言ってるの? 僕が、君たちに、賠償を? 払うの? ……君さあ、寝言は寝て言えって言葉知ってる? 起きてる人間が寝言言っても意味無いんだよ?」

「貴様こそ、妄言を言うのも大概にするのだ。貴様らが要求を飲まぬと言うのなら、こちらにも考えがあるのだぞ?」


 ヒローズの使者が突きつけた要求を寝言と切り捨てたバグリャ勇者。

 そして、そのバグリャ勇者の言葉を妄言と切り捨て、要求を飲まなかった場合の「脅し」を口にするヒローズの使者。

 もはや単なる罵り合いと言っても過言ではない外交交渉がバグリャの王宮で繰り広げられる。


「へえ……要求を無視したり拒否したらどうなるわけ? 是非とも聞かせてほしいねえ。ヒローズなんてゴミ国家がどんな行動をするのかすごく興味があるよ」

「その減らず口が叩けるのも今のうちじゃ。バグリャ勇者、わしが先ほど伝えた要求を飲まなければヒローズは貴様らに対して宣戦布告し、ヒローズの全軍がバグリャの国を破壊するだろう。そうなったら、バグリャ王国は滅亡し、地上から一つの国が消えるぞ?」

「……(宣戦布告……要するにヒローズは僕たちに対して戦争を仕掛けるって? ……ククク、君たちほどの馬鹿は居ないよ。僕がヒローズの町に仕掛けた「細工」は既に完成していると言うのに)」

「どうじゃ? これでも要求を飲むつもりはないのか? んん?」


 ヒローズの使者は先ほどの要求をバグリャが飲まなかった場合に取る行動――――宣戦布告をバグリャ勇者に伝える。

 しかし、ヒローズの使者が伝えた「宣戦布告」の言葉を聞いてもバグリャ勇者の表情や態度は一切変わることが無かった。


「む……? もしや貴様、今の言葉が聞こえなかったのか? わしは「宣戦布告」と言ったのだぞ? このバグリャの町を我が国の軍が踏み潰すのだぞ? 分かっているのか? それとも、バグリャの害虫勇者にはそれすら分からんか?」


 バグリャ勇者が黙ったままなのを良い事に挑発的な言葉でもう一度「宣戦布告」の可能性を告げるヒローズ使者。

 通常の国同士の外交交渉でこのような使者を出したら、それこそ国交問題に関わるだろう。


「ふ……ふふふふふ……」


 そして、ヒローズの使者の言葉を聞いて突如笑い出したバグリャ勇者。


「何がおかしいのだ? バグリャ勇者?」

「ここまで馬鹿な国だとは思わなかったよ、ヒローズ。僕の治めるバグリャを攻撃すると言う事は、すなわち神に逆らうも同義なんだけどねえ……。まあいいさ、君の言葉がそのままヒローズの主張になるんだろう?」

「当然であろう! わしはヒローズの使者なのだぞ!」

「そうかいそうかい……。だったら、ヒローズのお偉方にはこう伝えるとしようか。――――――――君たちを滅ぼすのは僕たちだ。神とバグリャ勇者に逆らった愚か者には神罰を下す。無能な君にも分かるように説明してやると、戦争してあげようって事だよ」


 バグリャのヒローズに対する返答は「戦争」であった。

 ヒローズの要求を突っぱね、叩き潰すと言うのである。


「貴様……その言葉、後悔するぞ! わしはこれで失礼する!」


 バグリャ勇者の言葉を聞き、ヒローズの使者は踵を返して王宮を出ようと歩き出す。

 ……直後、ヒローズの使者を兵士が取り囲んだ。


「な、何じゃ貴様ら!? どけ! わしはこれからヒローズに……!」

「おいおい、何勘違いしてるんだい? 君さあ、生きて帰れると初めから思ってるの? 君もヒローズのゴミの一種なんだから、今すぐ駆除しないとこの王宮が汚くなるんだよねえ」


 突然兵士に取り囲まれ、武器を突きつけられて固まるヒローズの使者に対し、バグリャ勇者が相変わらずヘラヘラ笑いながらそう告げる。


「……そう言う事だから、今すぐ死んで♪ ゴミは掃除しないとねえ」

「な、何をす……ガ……ガッ…………アア…………!」


 バグリャ勇者の言葉が終わった直後、ヒローズの使者の身体に四方八方から武器が突き刺さる。

 使者の身体から鮮血が吹き出し、玉座の間の床を真っ赤に染め上げる。


「あ~あ~……汚いねえ。ゴミの血は」

「勇者様、ヒローズの軍が攻めてくると思われますが、どうしましょうか?」


 ヒローズの使者の血で真っ赤に染まった床を見てそう吐き捨てるバグリャ勇者。

 その勇者に対し、バグリャの兵士が次の対応を尋ねる。


「決まってるじゃないか。――――まずは町の入り口の門を壊そうと集まるゴミ共に第一城壁の上から油をぶちまけて火矢の雨で皆殺しにしてやるんだ。平原ごと火の海に変えてゴミ共を纏めて焼却だ! 石で出来ている城壁が燃えても別に構わない。徹底的にやれ!」

「はっ。第一城壁の守備隊に伝達してまいります!」

「失礼します! 第二城壁……城の城壁の守備隊はどう動けばよろしいでしょうか!」


 第一城壁……すなわち、バグリャの町を囲んでいる城壁に居る部隊の伝令にバグリャ勇者が指示を出す。

 命令を受けた兵士が走り去ると同時に別の守備隊――――城を守る城壁の守備隊の伝令が指示を仰ぎに来る。


「君たちは多分使わないとは思うが……念のために町中の仕掛けの最終確認と仕掛け起動の準備だ。万が一第一城壁が破られて敵が町に入ってきたら、遠慮なく町を火の海に変えろ。連中もまさか国民を生贄にするとは思わないだろうしねえ」

「国民ごと火の海に沈めろと言う事ですね。直ちに通達してまいります!」

「頼むよ。……で、第三部隊。ヒローズ勇者の率いる部隊だが……」

「ヒローズは僕たちの国だった。だが、今やあの国は僕たちの敵だ。バグリャを守るためだ。僕たちにも遠慮せずに指示を出してくれ、バグリャ勇者」

「我々に何かできることはあるでしょうか?」

「儂らの力を見せる時ですぞ!」

「……」


 第二部隊……城の城壁部隊に指示を出したバグリャ勇者が次に目を向けたのは、ヒローズの元勇者たちだった。

 教会が潰され、後ろ盾の無くなった彼らはそのままバグリャに流れ着き、成り行きでバグリャ勇者一行の保護下に入っている。


「ふふ……勇ましいところ残念なんだが、君たちにはこの町を出てバグッタに向かってもらうよ」

「バグッタ? 確か、未踏の危険地帯ではありませんでしたか?」


 バグッタと言う言葉を聞き、ヒローズ一行の騎士ベルナルドが反応する。

 実際には全然そんなことはないのだが、バグリャ国内ではバグッタは文字通りの危険地帯であると認識されているのだ。


「ああ。そのはずだねえ。向かった人間は誰一人戻ってこないし、バグッタから怪物が出てこない保証も無い。だから、君たちの部隊にはヒローズが攻めてくる少し前に、バグッタに向かってほしいんだ。理由は……」

「ヒローズの兵とバグッタの怪物による挟み撃ちや、バグッタの怪物という厄介な増援を僕たちが防ぐと言う事だね?」

「そう言う事だよ。頼めるかい?」

「分かった。そう言う事なら任せてくれ。第三部隊、準備を整えるよ」

「強くなった我々の力の見せ所です、勇者様」


 第三部隊……ヒローズの元勇者の率いる部隊に対し、バグリャ勇者はバグッタを制圧するように指示を出す。

 バグリャでの噂のような怪物がヒローズとの戦争中に突如現れ、ヒローズの兵士と共闘などされたらたまった物ではないからだ。

 その指示を快諾したヒローズの元勇者たちは、バグリャの兵士と共に出撃の準備を始める。


「さて、最後は君たちだね。奉仕労働で集め、城の地下に収容したゴミ共の様子は?」

「奉仕労働は終了しており、特に仕置きもしていませんので、今の所反抗も無く、脱獄してでも逃げだそうなどと言う輩は居ません。どうします?」

「今は放置しておけ。第二部隊の仕掛け起動前に、城から逃がすんだ。そして……」

「ヒローズの連中、バグッタの住民、労働者。全員火矢と仕掛けで皆殺しにするんですね」

「その通りだよ。物わかりが良いねえ。そう言うわけだから、あいつらは勝手に殺さないでおくように。もちろん、痛めつけるのも禁止だ」

「承知しました!」


 更に、バグリャ勇者は別の作戦も用意していた。

 城の地下に集めた奉仕労働の労働者たちを何かに使うようである。


「さて……僕たちの準備はほぼ完了しているんだよ。さて、君たちはどう出るのかな? せいぜい僕たちを楽しませてくれるかな、ヒローズのゴミ共は……」


 慌ただしく戦争の準備に走る兵士たちを見ながら、バグリャ勇者は不気味な笑みを浮かべていた。

出番が来たよ! やったね勇者達!

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