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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
124/168

薬のレシピを見てみましょう

お待たせしました。

何とか書きあがったので投稿。

「さて、じゃあどれから作って行こうかな?」

「一通り見せてくれればいいですよ、マディスさん」

「分かった。じゃあ、これからかな?」


 広場の中央に立ったマディスが骨と鉱石を取り出し、素材を持った両手を重ね合わせるようにして調合する。

 いつもならこの直後に私達の誰かに光の粉が纏わりつくはずなんだけど、今回は誰にも光の粉が纏わりつかず、代わりにマディスの右手に白と鈍い銀色の混ざり合った不思議な塊が握られていた。


「この妙な塊、何だと思う?」


 右手に出現した塊を私たちに見せるようにして、マディスが問いかけてきた。

 ……普段マディスが使っている薬、なの?


「……材料が骨と鉱石ですし、マディスさんが良く使っている防御力を上げる薬、ですか? でも、粉になっていませんね」

「普段は光の粉が発生するのに、どうして?」


 マディスの調合のレシピを知っているわけじゃないけど、今マディスが見せているのが普段使っている「ガードパウダー」と同じものだってことはわかる。

 ……けど、どうして光の粉になっていないの?


「ジルとルーチェの推測通り、これは紛れも無くガードパウダーだよ。使用したルーチェの頭がクリスタル製の鈍器で殴られてもびくともしなくなるくらいに頑丈になったよね」


 あの時、グリーダーにいきなりクリスタルのピコピコハンマーで殴られたんだよね……。

 マディスの薬が強かったから無傷で済んだけど……。


「じゃあ、これが何か分かるかな?」


 そう言いつつ先ほど作った薬を収納具に入れ、代わりに鉱石と樹皮を取り出して調合するマディス。

 今度は、鉱石と木片が混ざり合った塊が出来たけど……あれ?

 これとさっきの塊、素材は違うけど、同じ物――――?


「……おかしいですよ。見た目は明らかに違うのに、中身が同じように思えてきます」

「俺もだ。というか、出会った当初マディスがそんな感じの事を言っていたな」


 い、言ってたっけ?

 全く覚えてないよ……。


「ルシファーは覚えてたんだね。そうなんだよ。今手に持ってる鉱石と樹皮で作った塊と、骨と鉱石で作り出した塊。材料は違うけど、中身は全く同じ物なんだ。色と材料は違うけど、どちらも全く同じガードパウダーなんだよね」

「え? 材料が違うのに同じ物が作れるの?」


 ……じゃあ、この二つの塊って全く同じ物?


「こういう強化用の薬だけだけどね。複数の素材の使いまわしが出来るんだよ。だから、骨が無くなったときは樹皮を使って、とか、樹皮が尽きそうになったから骨を使って、って感じで使い分けられるんだよ」


 そんなことまで出来るんだ……。


「……まあ、そうは言ってもこの辺はあまり詳しく実験してないんだよ。とにかく作れる薬の種類を増やそうとしてたから、違う素材で同じ薬を作る方法はあまり知らないんだよね」

「確かに、同じ薬の作り方よりも薬の種類の方が欲しくなりますよね」


 薬の種類がそのまま戦いでの行動に影響するもんね。

 同じ薬を違う方法で作る方法を知っておくのも重要かもしれないけど……。


「ところで、この塊はどうやって使うんだ?」


 ルシファーがマディスの右手に握られた塊を見て言う。

 ……水に溶かして服用するのかな?


「ルーチェ、いくらなんでも、鉱石と樹皮の調合品を直接飲むのはありえないよ。というか、そんな物飲んだら、間違いなく身体を壊すと思うしね」

「そ、そうだよね……」


 ……けど、ジルならそんなやり方でも案外何の影響も無さそうだよ……。


「ルーチェさんは私を何だと思ってるんですか? このフォークで刺すから妙な物でも食べられるのであって、こう言う物を水に溶かして飲んでも平気で居られるような体質と言うわけじゃないんですよ」

「あはは……。ところでマディス、どうやってそれを使うの?」

「こうするんだよ」


 使用法を尋ねると、マディスは何の躊躇も無く右手に持っていた薬を握り潰してしまった。

 すると、砕けた薬は普段マディスが使うときのように光の粉になり、マディスの身体に纏わりつく。


「普段は薬をその場で砕くから、光の粉の状態しか見たこと無かったよね。というか、普段はわざわざ作って砕いてってやってられないしね」

「確かにな。それに、砕く前にうっかり奪われたりしたら意味が無い」


 マディスの薬って強力だからね。もし奪われたらかなりの被害が出るかもしれないよ。


「それもあるからね。だから、作り置きはあまりしないようにしてるんだよ。素材の状態だと誰も使えないだろうし、安全だからね」

「なるほど。だから素材の状態で運ぶんですね」


 ジルが納得したように頷く。

 確かに、マディスみたいに素材を調合するような戦い方をする人はまず居ないだろうから素材の状態で持ち運んだ方が安心だよね。

 かさばってしまうのがちょっと問題かもしれないけど。


「そういう事だよ。……さて、それじゃ、他の薬も作って見せていくよ。まあ、勿体ないからここでは使わないけど」


 そう言って話を打ち切り、肝と骨を取り出したマディス。

 肝と骨が粉末になり、混ざり合ってまたもや妙な物体が出来上がる。

 ……肝と骨……見たことあるよね。確か……。


「この組み合わせで出来る薬はパワーブースト。文字通り力――――腕力や脚力全般を強化する薬だよ。異次元野球の時は大活躍したよね」

「あの野球以外にも、普段から役立ってますよ? ねえ、ルシファーさん」

「ああ。腕力強化は単純に役立つ」


 鍔迫り合いになるような状況でこちらだけ腕力を強化できれば、非常に有利になるもんね。


「次はこれ。ルーチェによく使ってたよね」


 今度は骨と魔石を調合したマディス。

 骨が魔石を包み込むように変形し、包み込まれた魔石と骨が互いに所々癒着して繋がっている。


「マジックブースト。魔術師に使うパワーブーストみたいなものかな」

「魔力を強化できるなら、確かに魔術師御用達になりそうですね」

「まあ、僕には何の意味も無いんだけどね」


 そう言えば、マディスは魔術を一切使わないよね。

 まあ、薬があったら要らないのかもしれないけど。


「そもそも、僕は魔術を使えないからね。魔力もほとんど無いから、仮に使えたとしてもまともに戦えないと思うよ」

「ねえ、マディス。魔術が使えないっておかしくない? 訓練すれば誰でも当たり前のように使えるのに……」


 多分、マディスだって訓練すれば使えると思うんだけど……。


「いや、無理だよ。そもそも、身体に魔力が溜めこめないって言うのかな? 魔力を回復させる薬を飲んでも全く魔力が集まらないんだよ」

「どうしてですかね?」


 マディスの答えを聞いたジルが首を傾げる。


「分からない。最初はこの調合で魔力を使ってる……要するに調合が魔術の一種だと思ってたけど、どれだけ作っても魔力を回復できないし、その可能性はないって確信したよ」

「だが、それだと尚更変じゃないか? この世界の人間で何故魔力が無いんだ?」


 ルシファーがマディスに尋ねる。

 本当に、どうしてなのかな?


「さあね。まあ、代わり……と言っていいのかは知らないけどこれ(調合)があるし、別に不便に感じたことはないけどね」


 薬を作れる方が下手な魔術より便利って言うのがね……。

 殺傷力だって毒薬をばらまけばどうにかなりそうだし。


「そう言う事。だから、別に不便だとは思ってないんだよね。……さて、続きをやっていくよ」


 次は甲羅と水らしきものを取り出し、調合するマディス。

 ……甲羅と水で何ができるの?


「水じゃなくて王水だけどね。出来る薬の名前はディフブレイク。食らった相手の防御能力を一気に下げる薬だよ」


 出来上がった薬――――ひびだらけで今にも割れそうな赤色の甲羅を右手に持って、作成した薬の効力をマディスが告げた。

 ……防御能力を一気に下げる……。

 頑丈な相手を一気に弱体化できるかな?


「よっぽど堅くなければこの薬一発で脆くなると思うよ。最初の一撃を受けるまではこれの影響はそこまで警戒しないだろうし、余計に有効かもね」

「自覚症状は無いんですか?」

「これに限らず、薬のほとんどは当たっても何か身体の調子がおかしくなる、というような効果は無いからね。これまで何度も強化用の薬を使ったけど、何か身体に違和感があったりした?」

「いや、全く無いな」

「確かに、これまで何度も使われているのに、何の変化もありませんよね」


 マディスの薬はこれまで何度も私達にも使われてるけど、その時に身体に何か異常や違和感を感じたかって言われると、そんなことは全く無いんだよね。

 だからこそ、こういう敵に使う薬の効果が実感しやすいのかもしれないけど。

 最初の一回だけでも無防備に受けてくれれば、その一回が致命傷になる可能性だってあるわけだからね。


「さて、これと似たような使い方の薬はまだあるから、次はそれを作るよ。炎結晶と亡者の欠片で――――」


 作った薬を収納し、二つの素材を取り出して調合するマディス。

 今度は、何ができるのかな?


「ウィークファイアの出来上がり。ワイナーにぶつけてから火炙りにしたよね」


 不気味に輝く赤黒い結晶を私達に見せるマディス。

 ……確かに、ワイナーにマディスがこの薬を使った後、私のファイアボールもマディスが使った薬もかなりのダメージを与えていたよね。


「覚えてたんだね。この薬を使うと、たとえ炎の攻撃に強い耐性があっても一瞬で弱点になると思うよ。非常に燃えやすくなるし、一度燃えるとなかなか火が消えない」


 ……だからワイナーにかなりのダメージが与えられたんだね。


「これの属性違いに、材料の結晶を変えただけのものが七つほどあるんだけど、対応する属性が違うだけだから省略するよ。構わない?」

「属性が違うだけで中身は一緒なんですか?」

「うん。属性以外完全に一緒だね」


 属性が違うだけで中身は一緒?

 って事は、どの属性の魔術も通るようにできるの?


「出来ると思うよ。炎以外にも、氷、風、土、水、雷、光、闇の各属性、対応する結晶があるからね」

「じゃあ、魔術を吸収するような相手に出会った場合は、任せていいかな?」

「もちろん。ほとんどそのために使う薬だからね、これは」


 ワイナーやあの傭兵……ササキみたいな魔術が通じない相手に出会った時には、本当に有効な攻撃になるよね、この薬。


「そして、今から作る薬は反対に魔術を無効化するための薬だよ。炎結晶と水晶で……レジストファイアの出来上がり。こっちも、八つの結晶のどれかと水晶でそれぞれ属性違いがあるね」

「これを使ったら炎攻撃が効かなくなるんですか?」


 マディスが調合を済ませると真っ赤な輝きを放つ水晶が出現し、マディスの左手にすっぽり収まる。

 その水晶をマディスの手から取ったジルが興味深そうに尋ねる。


「うん。……と言っても、さっき作ったウィークファイアとは互いに上書きして消しあうし、そうでなくても一時的な効果しか出せないけどね。この点では防具の加護を使った方が強いかもしれないよ」

「薬の効果が永久に続けば便利なんだがな」


 マディスの薬が一時的にしか作用しないと言う事を聞いたルシファーがそんな事を口にする。

 確かに、マディスの薬が永久に続いたら凄い事になるよね。

 パワーブーストなどの強化系の薬が永久に続いたら……。


「もし永続するとしたら、下手すると冗談で軽く叩いただけで相手を吹っ飛ばすかもね。まあ、薬の効果を永続させる方法は分からないから、そんなこと出来ないんだけどね」

「……戦いでは便利だけど、日常生活ではかなり不便な気がするね」


 軽く叩いただけで相手を吹っ飛ばすって……。

 まあ、明らかに力負けしていた相手を押し返せるくらいに強くなるしね。


「ま、そう言う事を考えると僕の薬が役立つのはあくまで戦闘だけって事なのかもね。さて、次の薬はこれかな? 蜘蛛の糸とスライムの欠片で……スロウバインド」


 次にマディスが作った薬は、一見しただけだとちょっと大きな蜘蛛の巣にしか見えない。

 けど、よく見ると蜘蛛の巣が玉状に重ね合わさっており、蜘蛛の巣自体も少し緑っぽい色をしている。


「見えない糸で雁字搦がんじがらめにして、相手の行動を文字通り遅くするよ。魔族相手に使った時は大活躍したよね」

「動きを遅くするのって攻めるにも守るにもかなり重要だもんね」


 相手が速すぎたらとても守りきれないし、相手が非常に遅かったら攻撃を当ててから離れてまた攻撃して……と繰り返して一方的に攻撃する戦法も取れるからね。


「ところでマディスさん。そういう薬の名前、普段はあまり言わないような気がしますけど、どうしてですか?」

「ああ、そうだね。あまり使っている薬の名前を言わないよね、僕」

「確かに、マディスが薬の名前を言う事ってあまりないよね。素材同士を調合するときに素材の種類は口にしたりするけど……」


 あれってどうしてなの、マディス?

 私達もどんな薬を使ったのか分からないから最初は「何やってるの!?」って思っちゃった事もある。

 唐突にササキに薬を使ったりしたから……。


「あれにはちゃんと理由があるんだよ。確かに、薬を使う度に僕がその薬の名前を言えばルーチェ達にも薬の効果が分かるかもしれないけど、それって、相手にも薬の名前と効果が伝わっちゃうって事だからね。例えば、ルシファーと僕が敵同士で対峙していると仮定して、僕が「炎結晶と亡者の欠片調合! ウィークファイア!」と叫んで薬をルシファーに使ったら、ルシファーはその後どう動く?」

「炎攻撃を食らった時の被害が深刻になる以上、炎の攻撃を受けないように警戒しながら立ち回る……ああ、そう言う事か」

「確かに、使った薬の効果が筒抜けになるのは不味いですよね」


 ルシファーじゃなくても、そんな風に言われて薬を使われたら炎攻撃を警戒するしかないよね。

 だから、薬の名前を言わずに調合するんだね。

 それだと、最初の一撃は警戒されないから……。


「そう言う事。…………さて、補助用に使う薬はこんな感じかな。これらの薬は戦闘専用って感じだから、普段使うことはまずないと思うよ」

「各属性対応の薬が八種類ずつあると考えると、戦闘中の補助用の薬だけでもかなりありますね」


 けど、まだマディスの薬のレシピの一部なんだよね?


「うん。他にもまだあるんだよね。まあ、攻撃用に作った薬の大部分は危険すぎて使えないと思うけどね。辺り一帯を猛毒の煙で腐食させたり、数年間生物が入り込めない死の大地に変えるような薬はさすがに使っちゃ駄目でしょ?」

「当たり前じゃない。そんな物使っちゃ駄目だからね? 私たちまで巻き込まれかねないし……」


 まともな薬だけならともかく、無差別殺戮兵器まであるのがなあ……。

 普通の薬なら良いけど、そんな酷い物使わせるわけにはいかないよ。


「だから、後戦闘で使える物は結晶を組み合わせた各種攻撃道具と、特効薬に竜の血を混ぜた強化特効薬、魔力回復用のMPポーションEX――――激甘の液体だけだと思うよ。増血剤はまだ反動が消せていないから余程の事が無いと使えないし」

「その攻撃道具って作らないの?」


 まあ、大体予想はつくけど。

 マディスがワイナーを火炙りにした薬とか、私とグリーダーが泉の水に押しつぶされた時に使った薬だよね?


「そうだよ。……まあ、同じ結晶を二つ組み合わせるだけの作業を調合と言っていいのかは疑問だけどね」

「同じ素材を二つ組み合わせるだけ? そんなに単純なの?」


 それであの炎攻撃を使えるって考えたら、下手な魔術より強いような……。


「まあ、確かに便利だけど、結晶は希少品扱いだから値段が張るんだよね。それに、補助の薬で使うから乱発できないよ」

「そっか。補助でも使うから攻撃だけに回せないんだ……」


 そう考えたら、補給が出来ないと辛いのかな?

 魔術は魔力があれば使い放題で、薬は材料があれば使い放題だけど、物が必要な分薬が不利かな?


「そうなんだよね。だから、攻撃用の薬は作らないでおくよ。結晶の無駄遣いは出来ないしね」

「まあ、それは仕方ないな。……さて、次は俺の番か?」


 マディスとルシファーが入れ替わるように歩き、ルシファーが剣を抜く。


「そうなりますね。お願いします、ルシファーさん」


 最後はルシファーか……。

 大部分の攻撃は予想できそうだけど、どうなのかな?

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