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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
122/168

出来ることを確認しましょう

 のろい2号が見事勝ち残り、賭けは無事に当たった。

 って事は、25倍払い戻し?


「……のろい2号、見事勝ち残りました。格闘場の趣旨には反していますが、一応勝ち残ったことは事実です。払い戻しを行います」


 苦々しい表情を浮かべ、そう告げる受付の男性。

 まあ、呪いの格闘場なのに、呪いを打ち消す魔術を使われちゃあね……。


「ルーチェさん! 大儲けしましたよ! 25倍の払い戻しです!」

「もう、はしゃぎすぎだよ……」


 受付からもらってきたお金の入った袋をマディスに渡すなり、大はしゃぎするジル。

 ……まあ、大勝ちしたわけだし、嬉しい気持ちは分かるけどね。


「幸運強化の加護の効果は確かだったな。ルーチェの勘が見事に的中していた」

「半信半疑だったけどね……。でも、試合の結果まで当たったらもう信じるしかないよ」


 だって、相打ちで両者共倒れ、没収試合になっちゃうなんて普通は予想できないよ。

 この髪飾りをつけてなかったら、試合を流そうなんて思わなかったと思う。


「……もう賭けるつもりはないし、戻ろうか。次に何をするか考えないと」


 と言っても、加護をつけるか訓練するかの二択になると思うんだけど。


「そうですね。とりあえず、外に出てから考えましょう。試合に賭けるわけでも見物するわけでもないのにここに居たら迷惑になるでしょう」

「そうだね。早くここを出よう」


 一旦宿に戻って、それからこの後の事を考えよう。

 そう考えながら、呪いの格闘場を後にした。

 私達が出ていく間際にまた新しい試合が始まったみたいだけど、受付の男性が「止めろ! 呪いを消すな! 格闘場の趣旨が無くなってしまうんだ! 頼むから呪いを消さないでくれ! のろい2号ー!」って叫んでいるのが聞こえた辺り、もうこの格闘場は呪いの格闘場としてやっていけるか凄く怪しい感じがする。






「それにしても、かなりの強さでしたよね。あの魔物達」


 ドームの外に出たところでジルが口を開いた。

 確かに、のろい2号もキャントベルも呪いの影響が無ければかなり強そうな魔物だったよね。

 ……今の私たちが戦って、勝てる相手なのかな?


「――――キャントベルはともかく、のろい2号はかなり厳しそうですね。呪いが無くなる魔術を使ってきますし、あの剣技はかなり厄介そうですよ。単に強力な装備を着けているだけでは勝てそうにありません」

「動きが遅いままだったらジルとルーチェの魔術で一方的に攻撃しては離れて、を繰り返せばいいだろうけど、呪いを消す魔術を使える相手にその方法は通じないよね」


 ……戦ったと仮定しても、かなり厳しい戦いになるかな?

 ルシファーはどう思う?


「前衛として俺とジルが敵を食い止めると思うが、敵の攻撃を防いで足を止めないとかなり厳しいだろうな。自由に動き回られたら、間違いなくルーチェやマディスから潰される」


 私達のパーティだとやっぱりそういう立ち回りになるよね。ジルとルシファーが前衛に立って、私とマディスが後ろから魔術と薬で攻撃や支援をする感じになるかな。

 けど、その戦法だと、敵に自由に動かれてしまうとキャントベルのような素早い動きの魔物相手にかなり厳しくなるよね……。

 私もマディスも接近戦は出来ないから、距離を詰められると辛くなるしね。


「……ねえ、この後の時間、加護じゃなくて訓練に回さない?」

「訓練に? まあ、俺は構わないが。お前らは?」


 ルシファーがジルとマディスの方を見て尋ねる。


「実戦で鍛える! なんて言う前に、ちゃんと動けるように訓練しないと使い物にならないからね。やっておくよ。まあ、薬は訓練で使うような物じゃないし、僕が出来るのは盾の使い方くらいだけどね……。ジルは?」

「構いませんよ。少し確認したいこともありますから」

「確認したいこと?」


 何か確認するような事ってあったっけ?


「まあ、訓練するときに言います。とりあえず、移動しましょう」

「そうだね。……装備品の町に繋がっている土管のある空き地でいいかな? 泉の裏手の……」

「良いんじゃない? 行こう、ルーチェ」


 歩き出したマディスを追うように私の足も動き出す。

 ……それにしても、ジルは何を確認したいんだろ?

 まあ、訓練の時に言うって言ってたし、今はとりあえず土管のあった空き地に移動しないとね。






「それで、ジル。確認したいことって何?」


 土管のある空き地にやってきたところで、ジルに尋ねた。

 思いつかないけど、本当に何かあった?


「ええ。――――私達、互いに何が出来るのか未だにちゃんと見せていないんじゃないか、って思いましたので。というか、ここまで旅を続けていますけど、私も自分が具体的にどんな魔術を使えるのか説明すらしていないと思います」

「……互いに何が出来るのか……?」


 少し目を閉じて、これまでの戦いを思い出してみる。

 ――――ジルはテーブルナイフを振り回して戦ってるけど、遠距離に回っても闇属性の魔術で戦えたよね。他には、フォークで敵の使った攻撃魔術を防いでたよね。

 ルシファーは――――グリーダーの時のあのどす黒い光線が剣から放つように変わったくらいじゃないの? グリーダーの時は、大斧を地面に叩きつけて衝撃波を発生させたり、氷の刃を発生させたりと言った豪快な攻撃を得意としてたけど。

 マディスは――――薬で酷い怪我でも治してくれてたよね。他には……力を強化するような薬も作れたっけ。色々な薬を使えるけど、強化、弱体化問わず全体的に治療や補助に特化しているよね。

 …………各々がどんな戦い方をするのかは一緒に戦ってきて知ってる。けど、具体的に「こんな攻撃手段がある、使える」とそれぞれがやって見せたことって実戦以外にないような……。


「ルーチェさんもそう思いますよね。私も、ルーチェさんが魔術師で、後衛に立って光属性の魔術やサンダーボルトで敵の集団を一掃したり出来るのは知っていますけど、ルーチェさんが具体的にどんな魔術を使えるのかはあまり詳しく知らないですから」

「……俺もルーチェも、互いにどんな攻撃手段があるのか話したことは一度も無かったな」

「僕の薬の具体的なリストも、そう言えば見せていないような……」


 …………まさか私達、他の皆が使える攻撃手段を曖昧にしか把握してないの?

 マディスがどんな薬を作れるのか、とか私把握してないよね……。


「……確かに、大問題だな。各々の攻撃手段が把握できていない状態で乱戦になったりしたら、俺の攻撃でジルを巻き込んだり、ルーチェの放った魔術に巻き込まれる、なんてこともあり得るかもしれない」

「普段使わない攻撃をいきなり使って、初めて見た攻撃に動揺した味方も一緒に攻撃してしまいました。では話にならないですからね」


 どうしてそんな大事な事を今まで気にしてなかったんだろ……。

 敵の攻撃以外にも、私達自身の攻撃で同士討ち、なんてこともあり得るのに……。


「本当ですよ。というか、ルーチェさんもルシファーさん――――最初はグリーダーでしたけど、も、互いにどんな攻撃を使えるのか確認すらしていなかったんですね」

「どうして互いの攻撃の確認すらしなかったんだろ、私達……」


 というか、私とグリーダーが旅立った時、簡単な自己紹介すら全くしていなかったような気がするんだよね。


「ルーチェ、ルシファー。自己紹介すらしてないって、いくらなんでもおかしいと思うんだけど……」

「……だって、その時はただ単にグリーダーの後ろをついて行くだけだったし……」

「ルーチェは監視のためについてきた荷物としか思ってなかった」

「…………」


 私達の言葉に呆れを隠せない様子のマディス。

 だって仕方ないじゃん……。あの時の私にとって、グリーダーは暴力の化身みたいな大男だったんだよ?

 どす黒いオーラも表情も怖かったし、野盗も弱い魔物も虫けらみたいに叩き潰して、追いはぎして、踏みつぶしていく姿は悪魔か何かだとさえ思ってたし……。


「互いの攻撃方法を確認しておいた方が良いでしょうね。互いの使える攻撃を把握してあれば事故も防げますし、他にも役に立つことがあると思います」


 真剣な表情でそう言うジル。

 ……そうだね。互いに味方の攻撃を知っておくことで味方同士で攻撃を当ててしまうと言う事故も防げるし、もしかしたら攻撃の改良も出来るかもしれない……。


「決まりですね。じゃあルーチェさん」

「私から?」

「ああ。――――とりあえず、使える魔術全部、この場で使ってみてくれ。敵に当てるわけじゃないから威力は抑えて構わない」


 ……使える魔術、か。

 一通り、使って行こうかな。

 威力は気にしなくていいから詠唱は無しで……。


「――――ファイアボール!」


 どこにも当たらないように手を空に掲げ、ファイアボールを放つ。

 空に向けられた私の掌から飛び出した火球はそのまま空目がけて飛んでいき、自然消滅した。


「――――炎の防壁! ファイアウォール!」


 ファイアボールが消えたのを確認し、次の魔術を発動させる。

 突如私の前に出現した燃え広がる炎の壁。

 今は敵が居ないし攻撃の流れ弾も飛んでこないから意味はないけど、流れ弾から身を守る時には凄く役に立ったよね。


「炎の壁を作る魔術か~。使い方次第で色々な事が出来そうだね」

「防御と足止め以外に使えるかな?」


 けど、マディスの言うように、工夫次第で他にも使えそうだよね。

 まあ、それはファイアウォールに限った話じゃないかな?


「次の魔術、使うよ。――――アクアボール!」


 燃え広がる炎の壁目がけ、投げつけるように右手から水の塊を飛ばす。

 炎の壁に当たった水の塊が弾け、炎の壁を消し去る。

 炎か水かというだけで、ほとんどファイアボールとやっていることは変わらないよね。


「あれ? そんな魔術使えましたっけ?」

「……一応、畑荒らしを助けようと乱入してきたヒローズ一行相手に使ったんだけど……」


 とはいっても、その時以外使った記憶が無いんだよね。

 同じような威力だと、自然とファイアボールを使ってるから。


「次、行くよ。――――アクアウォール!」


 先ほどまで炎の壁があった場所に、今度は水の壁が出現する。

 ……ヒローズに向かう直前の依頼の魔物相手以外で使ったことが無い気がするけど。

 普段使わないから、どうしても咄嗟に出てこなくなるんだよね。


「アクアウォール……ねえ、ルーチェ。これってさっき使ったファイアウォールとの違いはあるの?」

「属性の違いくらい、かな? 大半の炎攻撃は防げるけど、雷の攻撃を受けるとすぐに壊れちゃうよ」


 マディスの疑問に答えつつ、次の魔術を詠唱する。

 もちろん、目標は今作り出したアクアウォール。

 雷の攻撃を受けたら消えるって口で言うより、実際に見せた方が早いから実演することにした。


「こんなふうに、ね。――――サンダー!」


 詠唱を即座に終え、魔術を発動させる。

 直後、アクアウォールの方に向けた私の右手から雷の球が飛び出してアクアウォールを貫く。

 雷の球に貫かれたアクアウォールは形を保てなくなってあえなく崩れ去り、地面に落ちてただの水たまりになった。


「その魔術、特定の属性には極端に弱いのか? 以前使った時、炎は防いだが直後に崩れたよな?」


 崩れ去ったアクアウォールを見たルシファーが尋ねてきた。


「うん。ファイアウォールは水ですぐに消えるし、アクアウォールも今みたいに雷の攻撃を受けるとあっさり崩れるよ」


 この辺りはもうどうしようもないかな?

 魔術の属性の相性が原因だし。


「なるほどな。逆に言うと、今使った二つの壁の魔術で、相性がいい氷と炎の攻撃なら防げるって事か」

「と言っても、威力が高いと防ぎきれない可能性はあるよ? まあ、大体の攻撃なら大丈夫だろうけど」


 いくら氷に強い炎の壁でも、極端に大きかったり威力があまりに高い氷の魔術は完全に防ぎきれないかもしれないからね。

 まあ、グリーダーの攻撃を防げる時点でだいたいの攻撃は大丈夫なはずだけど。

 ……次の魔術、行くよ。


「――――サンダーボルト!」


 手を再び空に向けて魔術を放つ。

 空に向けられた掌から電撃の光線が放たれ、空を突きぬけていく。

 放たれた電撃は空を進むにつれて扇状に拡散していき、広範囲の空を切り裂いた。


「至近距離で当てると本当に強力そうですよね、その魔術。高威力の電撃を避けようとして離れると今度は範囲が広くなって避けにくくなりますし、とりあえず当てる、という目的なら非常に優秀だと思います」

「ルーチェが多用するのが分かる気がするかも」


 おまけに、当て方によったら相手を麻痺させることもできるしね。

 自然と使う頻度も高くなるよ。


「次の魔術、使うよ。――――烈風刃となれ! ウインドカッター!」


 魔術を発動させると、不可視の刃が空中に出現して、鎌のように空を切り裂いた……けど、何もない場所を狙ったから、一瞬空気が歪んだようにしか見えない。

 これも一度しか使ったことがなかったよね。

 咄嗟に木を切り倒して魔物を下敷きにしたっけ。


「……ほとんど見えないですね。ちょっと空気が歪んだようにしか見えないです」

「風の刃だからね。炎や水みたいに見えるわけじゃないから、下手に使ったら味方まで巻き込みかねないよ」


 自分一人で戦うときには攻撃を見切られにくいからそれが長所なのかもしれないけど、パーティを組むと一気に使いにくくなるんだよね……。

 味方にもほとんど見えないから、場所やタイミングを間違えると……。


「確かに危険だな。何も考えずにルーチェがこれを多用してたら、敵と一緒に俺やジルも攻撃を食らいかねない」


 使うことが分かってても、そもそも見えにくい攻撃だから危ないんだよね。この魔術。

 範囲の指定は一応できるけど、うっかり発動を見逃してしまって、直後に不意に移動して当たってしまう可能性があるからね。


「他には、光属性の魔術と凍らせる魔術、チャームとシューティングスターでしたっけ?」

「そうだよ。まあ、シューティングスターは魔術書だから自分の技術ってわけじゃないだろうけど」


 チャームとフリーズはともかく、シャイニングレインもホーリー・カノンも何度もみんなの前で使ってるし、これらは使う必要はないよね?


「まあ、シャイニングレインもホーリー・カノンもルーチェが良く使ってる魔術だからね。使えるけど普段使っていない魔術を見ておきたかっただけだから、それらは使わなくても大丈夫だよ」

「ああ。お前がどんな魔術を使えるのかを把握するために使ってもらっただけだからな。……じゃあ、次は」

「ジルの番だね。やってくれる?」

「ええ。事故を防ぐためにも、互いの攻撃手段は知っておいた方が良いですからね」

小説を読んでても、意外と各自がどんな攻撃を使えるのか確認する場面が出てこない不思議。

もし味方がメガンテの無差別版のような魔術を使えるのに言ってなくて、唐突に戦闘中に使われて吹っ飛ばされたらどうするつもりなんだ? と思ってしまいました。

そこが気になったのでこんな話を入れてしまったわけなのですが。

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