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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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次の試合に賭けましょう

「なんと、両方の魔物が消え去ってしまいました! 突如戦う気力が出たと思ったら、両者、相手の攻撃で倒されてしまい、勝者が存在しないと言う事態に!」


 イバールとパニッカーの試合を最後まで見ていたけど、最初と最後でまるで別の魔物みたいになっちゃったからね……。

 だけど、両方倒されちゃうなんて……。


「え、えっと、こういう場合はどうすればいいんでしょうか? 賭けは外れたって事になりますか?」

「全員外れか? そもそも、両方が倒れる結果になるって予想が出来た奴はルーチェ以外に居るのか?」

「あーあ、共倒れかー。残念だね」


 私も「両方が負ける」に賭けたわけじゃないんだけど……。

 というか、本当にこの場合どうなるの?


「まあ、こういう状態になった場合は仕方ありません。通常通り、没収試合にさせていただきます。何せ、立っている魔物は居ないのですから」


 受付からは没収試合にすると言う無常な通告が。

 せめて返却試合にすればよかったのに……。


「くそ……残金が無くなっちまった……。こうなったら、また借金してでも……」

「うぬぬ……私の稼ぎが吹っ飛んでしまったではないか! おのれ!」

「私の金が! 金が全部奪われちまった!」

「ふざけんな! 相打ちでも倒してるじゃねえか! くそっ! 金が無くなったから借りるしかない!」

「金が無い! 続けるためにあの人に金を借りるしか……!」

「行くしかない! もっと金を……!」

「指輪を担保にしてでも、家を捨てても……」


 没収試合にされたことで、観客席からは様々な嘆きの声が。

 借金……誰にお金を借りてるんだろ?

 というか、バグッタにはそんな人まで居るの?

 沢山の人が席を立ってどこかに向かって歩いて行っちゃったけど……。


「そりゃ居るでしょう。魔物同士を戦わせると言う特殊な場所ではありますが、賭博場があるんです。となると、当然この人たちのような負け組が出ます。彼らに賭博を続けさせるためには、お金を供給できる人が必要になっていますからね」

「表の世界には無いかもしれないけど、裏の世界にはそういう商売はいっぱいあるよ? ヒローズにだって金を貸して利息を取って生計を立てる人達はいるからね」


 ジルとマディスは知ってるんだ……。

 ……テラントにも、私が普段利用しないだけでそういう場所があるのかな?

 ルシファーはそういうの知ってるの?


「いや、全く知らない。魔物討伐や依頼の報酬で生活することが基本の勇者や冒険者が金を借りる事態に陥るなどありえないからな。商売をして暮らす人間なら、そういう場所の事も知ってるんだろうが……」

「確かに、冒険者や勇者が利用するような場所じゃなさそうだもんね」


 私達だって、依頼を達成して得た報酬で旅を続けてたりするわけだし。

 そう考えると、勇者や冒険者がお世話になる場所じゃないよね。


「ええ。それに、お世話にならない方が良い場所ですよ。一度金を借りたが最後、利息の支払いだけで生活が出来なくなることもあり得ますから」

「その利息って、そんなに酷いの?」


 私はそういう人の話自体聞いたことが無いから、想像もできないけど……。


「そうですね……私が知っている限りでは、十日五割や六割の外道金貸しも居ますよ。二十日放置していたら借りた金額の二倍の金額を要求されます」

「ええ!? いくらなんでも高すぎない!?」


 十日経ったら借りた金額の半額以上追加って……。


「金貸しってそういう物だからね~。まあ、命の次に大事なお金を差し出すわけだから、暴利を取らないと安心できないのかもしれないけど」

「お金を貸した翌日に逃げられたりするケースも多いらしいですからね。実際、傭兵を雇っていない金貸しはむしろ金を借り逃げされることの方が多いです」


 ……まあ、相手がちゃんとお金を返してくれる保証なんてないんだよね……。

 実際、悪知恵が働く人だったら金だけ借りてさっさと逃げていきそう……。


「だから、金貸しが暴利を取るようになってるんですよ。相手がちゃんと返してくれる人ばっかりなら、こんな暴利はあり得ません。まあ、その暴利がますます借り逃げする人を増やしているのかもしれませんけど」

「悪循環に陥ってない、それ……?」


 お金を返してくれないから、暴利を取って賄おうとするんだよね?

 でも、暴利を取ったら返す意思のある人も返せなくなって逃げ出すような……。


「ええ。そうなってしまうんですよね……と、そろそろ次の試合の予告がありそうですよ」

「出て行った人が戻って来たね。皆手に袋を握ってるよ」


 マディスの言うとおり、先ほどの試合終了の直後に席を立ち、今戻ってきた人たちの手には袋が握られていた。

 大きさは様々だけど、あの中にはやっぱり……。


「ええ。借りてきたお金でしょう。一部の人が出ていく前に金を借りるって言っていましたし」

「本当にお金を借りてまで続けるなんて……」


 ジルの話からすると完全な暴利みたいだし……破滅しないのかな?


「とっくに破滅に片足突っ込んでいますよ、ああいう人は。まあ、止まれないんでしょうけど」

「だから余計に可哀想になってくるよ……」


 自分の意思で止まれないんだから……。


「さて、そろそろ次の試合の発表といこうか! Aブロック――――怨念によってひたすら吼え続ける! 貴様はそれ以外に何もできないのか!? バグッタ原産の合成魔物、キャントベル!」


 また妙な魔物が……。

 ひたすら吼え続けるってどうなの……。


「そしてBブロック! 今回初参戦! 異界より引っ張り込まれた邪気の塊! あまりにおぞましいその姿故、誰にも好かれることはないだろう! 勇者プログラム? とかいう物らしいが、その存在自体が謎に包まれている! 本体についていた名札によると、勇者プログラム第257番、異界の戦士・のろい2号という名だ! 異界の装備品は全て呪われているのか、全身完全に呪われている!」


 のろい2号!?

 というか、2号って何!? どこかに1号とかいるの!?


「のろい2号……「あいつ」とは違うみたいだが……関係でもあるのか?」

「2号って……ゴーレムか何かなんでしょうか? 3号とか1号がどこかに居そうですよね」


 ルシファーは微妙な表情を浮かべていた。

 まあ、ルシファーの居た世界にも「のろい」って名前の人が居たみたいだからね……。


「で、どっちに賭けます? ルーチェさん」

「のろい2号一択だよ」


 というか、こいつ以外に賭けたら駄目だ! 絶対に負ける! って何かが頭に語りかけてきてるみたい……。

 まだのろい2号の姿は見たこともないけど、圧倒的な強さなのかな?


「じゃあ、呪い2号に賭けてきます」

「ところでルーチェ、後どれくらい続けるの?」

「え? ……そうだね……」


 幸運強化の効果は多分確認できてるし、もうそろそろいいかな? って思ってるんだけど……。

 これを最後にする?


「最後ですか? じゃあ、追加で10万ゴールド……」

「……ジル、外れたらどうするつもり?」


 勘はのろい2号に賭けろ! って言ってるけど、確実かどうかは分からないんだよ?

 まあ、ここまで試合の結末がなんとなく予想できちゃってたから、この試合も当たるかも、とは思うけど。

 だけど、やっぱり万が一があるから……。


「大丈夫ですよ。ルーチェさんなら当てられます。と言う事で、勝手に7万ゴールド賭けておきました。倍率は25倍なので、当たると175万ゴールドになりますよ」

「って、勝手にそんな大金……!」


 ……まあ、7万ゴールド程度なら痛くも痒くもない、っていうのが正直なところなんだけど……。仮に外れても依頼一回で取り返せるし。

 それに、依頼で稼いだお金も、あまり使わないから相当残ってるし、保険……にしては明らかに多すぎるけど、ヒローズからジルが巻き上げたお金もあるから金欠はありえない。


「ルーチェ、節約ばかり考えず、一度派手に遊んだりしても良いんじゃないか?」

「派手に遊ぶのが「一度」ですむと思う? その時の感覚が忘れられなくなって、また何度も繰り返すよ」


 確かに、大きな勝負をしたり後先考えず派手に遊ぶのってすごく楽しそうだし、私もやってみたいと思う。

 だけど、それは絶対に一度きりじゃすまないだろうから……。


「本当に堅物ですね」

「堅実って言ってよ……」


 というか、ジルはちょっと楽天的すぎないかな……?

 悪い結果になった時のこと考えてないの?


「ええ。特には。だって悪い結果に転ぼうと、取り返す方法はいくらでもありますから」

「……悪い方法じゃないよね?」


 仮にジルが賭博で酷く負けたりしたら、放っておいたらチャームでも泥棒でもやりかねないよね……。


「もちろんです。強盗、暗殺してからの略奪、チャームでの洗脳、保険をかけてからの毒殺、破壊工作と火事場泥棒……いくらでも損失を埋め合わせる方法はありますよ」

「お願いだからそれは実行しないで! どう考えても極悪人の発想だよ!」


 というか、どうしていつもこんな物騒な事ばっかり思いつくのかな……?

 冒険者として依頼を受けてお金を稼ぐって答えくらい出ても良いだろうけど……。


「私みたいな慈悲深くて慈愛の精神に満ち溢れた人間には、そんな崇高な考えは思いつきません」

「……その言葉の意味、一度図書館で調べたら?」


 しれっとそんなこと言ってるけど、ヒローズから根こそぎお金を巻き上げるために自作自演の怪我まで作った人間が言える言葉じゃないよ、それ。


「ジト目で睨まれてそう言う事言われても反応に困るじゃないですか……面白くないです」

「ルーチェの対応が随分大人しくなってきてるからな」

「いつまでも過剰な反応返すのもそれはそれでどうかと思うよ……」


 というか、そんなこと話してる場合じゃないよね?

 試合の魔物の解説聞こうよ。


「まあ、それもそうですね。マディスさん、あれから何か言ってました?」

「ああ、試合の準備が終わるってことくらいだよ。後は、魔物の入場が「さあ、まずは魔物の紹介だ!」今から始まるって事かな」

「言ってる間に始まったね」


 ジルがマディスに尋ねた直後に、受付の言葉が響いてきた。

 魔物の入場……か。どんな魔物が来るのかな?



「まずはAブロック! バグッタ原産の珍獣! キャントベル!」


 受付の声が響くと同時に門が開き、中から魔物が跳び出してきた。

 猫の顔に牛のような身体、馬の脚、犬の尻尾に竜のような耳を持った怪物だった。

 な、何なの? この様々な動物を無理やり合体させたような魔物……。

 受付が言っていた珍獣って言葉がしっくりくるよ。


「キャンキャン! ワンワン! ニャーニャー! ヒヒーン! モーモー! ニャーニャー!」


 飛び出してきたその怪物はコロシアムに入るなり突如様々な動物の鳴き声を上げ始めた。

 猫の顔で犬や馬の鳴き声を発する異様な光景に圧倒されるけど、全然強そうには見えない。

 頭に着けられたリングから呪いの煙が纏わりついているから呪われてるのかもしれないけど、でも、あれって元々そういう生態なんじゃ……。

 いずれにしろ、今までの化け物と比べて驚きは少ない。


「さて、続いてBブロック! 期待の新顔! 新たなる挑戦者! のろい2号の登場だー!」


 受付のその言葉と共にBと書かれた扉から魔物が飛び出してきた。

 グリーダーすら凌ぐほどの体躯を誇るその魔物は、全身に見たことが無い装備をつけている。

 頭には岩か何かで出来ているのか、非常に頑丈そうなカツラらしき物を被っており、顔には鬼のような不気味なお面をつけている。これらで覆われていて顔の表情は窺えないけど、それが余計に不気味さを引き立てている。

 更に、異様なのが胴体だった。身に着けている鎧は返り血に染まっているのか赤黒く、この鎧の持ち主に殺された者達の嘆きや無念の叫びのような表情を浮かべたレリーフがたくさん彫り込まれていてとっても不気味だ。

 腕と足も同じように赤黒い防具が覆っており、これらも当然不気味なレリーフが。これだけでも十分怪しい存在で、見ているだけでも危ない相手だという事が伝わってくる。だけど、この怪物の不気味さはこれだけじゃなかった。

 腕の防具と鎧の隙間から覗く筋肉質そうな腕は、黒緑色の不気味な物だったのだ。

 腐り果てているんじゃないかと一瞬思ってしまったほどの不気味な色をしているそれは、化け物が腕を動かしても朽ち果てて落ちない辺り、多分腐っているわけじゃないのかもしれない。けど、グリーダー以上の大きさを誇る大男らしき存在で、全身が黒緑色の肌をしているなんて、どう考えても化物にしか見えなかった。


「な、何なんですか、あの化け物は……。危険な魔物だとは分かりますが……」

「おいおい、化け物にも限度があるだろ……」

「おぞましい見た目だね……」

「というか、何なのあの黒緑色の腕!? 見た目が人間っぽいから、余計に不気味だよ!」


 グリーダーを一回り大きくしたような見た目だから、尚更人間とはかけ離れた黒緑色の腕の異様さが引き立っている。

 どこから捕まえて来たのこんな化け物……。


「ワンワン! ワンワン!」

『ユウシャプログラムキドウ。ブソウテンカイ』


 目の前に現れた怪物に吼え始めたキャントベルの前で、のろい2号がゴーレムの制御音声のような無機質な声を発する。

 と同時に、のろい2号の腕を覆っていた防具の中から無数の0と1が飛び出してきて、のろい2号の手に纏わりついていく。

 纏わりついた0と1がどんどん形を変えていき、彼(?)の左手に、人の顔の骨のような物が埋め込まれた真っ赤な盾が出現した。盾からは常に赤い液体が流れだし、盾から落ちたそれが地面に赤い染みを作り出していく。


「常に血が流れ出る盾なんてありえないですよ。というか、何なんですかあの0と1は……」

「分からないよ……あんなの初めて見るもん」


 というか、この世の技術じゃないよね、あれ……。


『ブキテンカイ。ソウビメイ「ジゴクノヨウケン」』


 左手に出現した盾を見たのろい2号が再び無機質な声を出す。

 すると、右手に纏わりついていた0と1がみるみる形を変えていき、ジルが使っているテーブルナイフのような巨大な剣へとその姿を変えていく。

 黒い煙を常に発するその剣の刀身からは毒々しい紫色をした瘴気が吹き出し、見ているだけでも気分が悪くなってくる。

 柄の部分には大きな赤黒い宝石らしき物がはめ込まれていて一見綺麗な装飾に見える。

 けど、よく見るとそれは固まった血液で、時折怨念を発するように黒い輝きを放っている。


「地獄の妖剣……でしょうか? 不気味な剣ですね……」

「剣どころか、存在自体が不気味すぎるよ……。というか、あれは本当に生き物なの?」


 防具から飛び出してきた無数の0と1がどうしても頭から離れない。

 あれは一体何なんだろう……。


「さあ、両者準備は終えたようだな! では、そろそろ試合を始めよう! 勝つのは一体、どちらの魔物なのか! ――――試合、開始――――――――!」


 私の思考をかき消すように試合開始の合図が告げられ、戦闘が始まった――――。

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