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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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次の試合に行ってみましょう

「ああーっと! まさか! まさかの展開が! 王者オルス、まさかの反撃に遭って逆転負け! あの動かないことで有名なザザーギが! まさかの逆転勝利を果たしました!」


 開幕から呪いの煙が四肢を縛っていて、全く動く気配すらなかったザザーギ。

 しかし、呪いの煙が離れたその瞬間に反撃に転じ、見事に逆転勝利を収めた。

 ……潰されたオルスとオルスに賭けていた人たちは本当に運が無かったね……。


「ウガアアアー! グオオオオー!」


 オルスを粉砕して逆転勝利を収めたザザーギは、ハンマーを高く掲げて勝利の雄叫びを上げる。

 その姿を見て、ザザーギに賭けていた人たちの表情が一気に明るくなっていく。


「ようやくじゃ! ようやく当たった! これも、私の黄金の天使像のおかげじゃな!」

「これだ! これが俺は見たかったんだ! ザザーギ! よくやったぜ!」


 ザザーギに賭けていた人たちが次々に喜びの声を上げ、受付に走る。

 倍率200倍だもんね。呪いのせいで全くと言っていいほどに動けないからほぼ外れるけど、当たったら本当にすごい利益だよ。


「ルーチェさん! 開始早々大当たりですよ! 200倍です200倍!」

「わ、分かったから落ち着いてよ……」


 受付からお金を受け取ってきたジルは開幕大当たりがよほど嬉しかったのか、私に抱き着いてきて大はしゃぎしている。

 ……もう。これ、一応実験なんだからね?


「さて、先ほどの試合で色々あったかもしれませんが、次の試合の登場選手の紹介を行います。Aブロック、その余裕っぷりは他の追随を許さない! 闘士イバール! Bブロック、もはや何がしたいのか分からない! 混迷の魔闘士パニッカー! 試合は三分後に行われます! さあ、予想される皆様は受付までどうぞ!」


 イバール、パニッカーって……。

 名前からしてどんな行動をするのか読めたような……。


「ルーチェさん、どちらに賭けます?」

「そうだね……」


 どっちがいいかな?

 余裕っぷりとか言われてる辺り、よっぽど酷い状態なのかもしれないけど、もう片方も相当だよね……。


「実際に買うわけじゃないが、俺はパニッカーに賭ける。マディスは?」

「そうだね~……余裕って言葉が気になるけど、イバールかな? ジルは?」

「当然、パニッカーです。余裕っぷりとか言われていますし、余程酷い事の証明でしょう」


 ……あれ? 何でだろ。

 どっちも負けるような気がしてくる……。

 さっきはこのなんとなくが当たってたわけだし、今回は止めておこうかな?


「……今回はパスで。どうしてか分からないけど、両方負ける気がしてきたから。ごめんね、ジル?」

「賭けはしたいですけど、ルーチェさんが財布を持ってる以上、どうしようもないですね。じゃあ、今回は見るだけにしましょうか。ルシファーさん、どうせなので100ゴールド賭けません?」

「まあ、身内で賭けてもパーティの財布には全く意味はないが、せっかくだしやってみるか。マディスは?」

「構わないよ」


 って、結局賭けはするんだ……。

 まあ、身内で賭けの真似だけしてるのを何か言うつもりはないし、別にかまわないけど。


「よし、この調子で勝ちまくってやるぜ!」

「先ほど奇跡が起きたのだ! 奇跡は何度でも起きる! 先ほどの儲けの半分をこの試合につぎ込む!」

「畜生! オルスがやられちまうとは……! こうなったら、この試合に30000ゴールド投資して損失を……」


 ジルやマディスの方を見るのを止めて周りを見てみると、先ほどの試合に賭けていた人たちもまた勝負に臨むみたいで、気合を入れなおしていた。

 って、最後の人なんだかどんどん悪い方向に落ちていきそうな気がするんだけど……。

 負けを取り返そうとして更に高いリスクを……って、これも外れたらどうするつもりなんだろ……。

 いくら他人でも、見ていて心配になるよ……。


「ルーチェさん、賭博場の常連になった人は大抵ああいう風になってしまうんですよ。楽に稼げる感覚が忘れられなくなり、真面目に稼ごうと言う気を無くすわけです。まあ、真面目に稼いだ結果バグリャで全部奪われた人も居るでしょうけど」

「……ジルはああならないでね?」


 負けた!? だったら次はもっと大量の金をつぎ込んで今回の損失を取り返す!

 こんなのを繰り返してると、どんどん悪い方に転がり落ちていっちゃうよ……。


「分かっていますよ。賭博は命を捧げる物じゃありませんからね。……まあ、これがルーレット等だったら、回す人をチャームで操って望みの場所に入れされて大儲け! とか出来るんですけど」

「……そんな方法で勝ったりしたら、やってるのを見つけた段階で稼いだお金全部返すよ?」


 ジルの事だし口で言ってるだけで実際にはやらないとは思うけど、一応言っておかないと……。

 もし何も言わなかった結果ジルがそういう事を実行したりしたら、私たちが犯罪者になっちゃうよ……。


「全く、いつになっても固いですよね、ルーチェさんは」

「本当に堅物だったら、そもそもこういう所には一歩も踏み込まないと思うけどね」


 だって、もし私が使命を第一に考える勇者だったりしたら、こんなところで寄り道してる暇があったり息抜きしてる暇があるなら、今すぐにでも魔王討伐の旅の続きをやるべきだ! って思ってしまうと思うし。

 息抜きはおろか、休息に回す時間すら惜しんでどんどん先に進もうとしていきそうだよ。


「そんな状態じゃ身体が保ちませんね」

「多分、そのうちどこかで疲れて動けなくなるんじゃないかな?」


 まあ、こんな調子で旅をしてるうちは大丈夫だと思うけど。

 大体魔王なんてテラントの馬鹿王が騒いでるだけで居るかどうかも分からないし。


「いっそ使命を放り出して、世界中を観光しながら旅する物見遊山の旅にでも変えますか?」

「ジル、流石にそれはやらないよ?」


 今まで旅して他の国も見て来たけど、勇者がいるし(中身は弱すぎる戦士や気持ち悪い色男だったけど)、魔族も居たから、やっぱり魔王も居るんだろうな、とは思ってる。

 けど、はっきり言って実感が無いんだよね。世界が危機に陥れられてるわけでもないんだし。


「本当ですよね。国が滅ぼされた、町が魔物の大群に潰された、などの大きな事件があるならともかく、今の所そう言った出来事には一切遭遇していませんからね。そんな状態で魔王の存在を信じようとしても、魔王の脅威が全く目に見えないんですから疑ってしまって当然です」


 まあ、何も起きないのが一番だとは思うけど、魔物の被害とか本当に無いんだよね。

 むしろ人間による被害の方が酷いような……。


「ルーチェ。いつの時代も、人間が一方的に正義で絶対的に正しい! などと言うのはあり得ない。仮にその考えで物事を見ると、ヒローズの馬鹿勇者や教皇すらも正義の人間で正しいことになる。あいつらは正義か?」

「あんな酷い事をやってた教皇が正義のわけないじゃない!」


 部下もろとも攻撃して酷い目に遭わせてたり、明らかに向こうが悪いのに何故か私達を一方的に悪人扱いして手配してたり……。

 冒険者ハンターを名乗って略奪行為を行ってたワイナー共々悪に決まってるよ!


「まあ、普通はそうだな。俺もそう思う。あの馬鹿共は牢獄にぶち込んで正解だ。だが、正義も悪も、結局決めるのはそれを見た奴の主観だ。見る人間によって全部変わる。信じられないかもしれないが、あんな馬鹿共のやってたことでも、その馬鹿共にとってはやはり正しい事で、正義の行いだったりするんだ」

「……」


 ルシファーの言ってることは分からなくもない。

 だけど……だからってあんなことをやってる人間を許すわけにはいかないよ……。


「そうなんですよね。ただ、いくらやっている本人が正しい事だと思っていることでも、だからと言ってあんな真似をしている人間を許すわけにはいかないですよ」

「何もしていない人を苦しめる事を正義の行いだなんて、認められないよ……」


 確かに、綺麗ごとだけでは通用しないのかもしれないけど……。

 それでもあれは正しい事だとは言えないし、あれが正しい事とは認めたくない。


「恐らく、またああいった輩や連中に匹敵する極悪人を叩き潰すことになると思うが、ただ自分たちの正義を信じて叩き潰しただけだと、俺たちも結果が善行なだけで同じ状態になる。その事だけは覚えておいた方が良いと思うぞ」

「……」


 でも、仮に相手が山賊で、酷い事をやってるけど俺は国に恨みがあるからこんな略奪や襲撃をしてるんだ! とか言ってこられても、やっぱり許せそうにないんだよね……。

 その国が本当に酷い国で、誰彼構わず苦しめているような国家だったりするならともかく。


「……まあ、正義だ悪だって言って区別しようとしても、結局最後は個人の信念や価値観の違いで判断されると思うんだよね。だって、僕個人は薬を作って使う事を別にかまわない事だと考えていても、周りがそうは思わなかったし」


 マディスがルシファーの話を聞いて呟く。

 ……正義か、悪か……。

 正しい事なのか、悪い事なのか……。

 答えが人それぞれなんだから、絶対に正しい答えって無いよね?


「……おそらく、全員が正しいと答える行動や答えなんて無いだろうな。相手によっては当たり前の常識だって通用しないことがある。だが、たとえそうだとしても、その事を忘れずに考え続ける事は必要なんじゃないのか? 単に自分の信念を決めて、その信念に従って自分と違う物を斬り捨てる! なんて考えは、それこそ独善的すぎるだろ?」


 トマト畑とピーマン畑を荒らしに来た二人組みたいに、常識が一切通用しないこともあるからね……。

 もちろん、討伐の依頼だったから倒したけど、仮に依頼を受けていない状態であの二人組に出くわしたとしても「こんな悪い事を平気でやる人達は即倒す!」って感じで攻撃したかもしれないよね……。

 ……でも、道徳的に悪い事をやってるんだから倒したって何の問題も……って、これが思考停止の考えなのかな?


「まもなく、試合が始まります! 観客の皆さまは、観客席にお座りください!」

「時間か。……まあ、一方的に正義だ悪だと決めつけて思考停止になるのは良くない、という話だ。勇者なんて、王の道具になって動く都合上、本当に思考停止しかねないからな。王が指示したからこいつを倒す。王が指示したから魔王を討つ、とかな」


 ……確かに、勇者の目的は魔王討伐で、そう指示した王の命令に従って動くよね。

 他にも、国の兵士なんて、王が命令したら即座に相手を斬り捨てたりするし……。


「……思考停止、か……」


 私は、どうなんだろ。

 ……一方的に正義か悪かを決めつけないように、か……。


「まあ、難しすぎる難問ですけど、ゆっくり考えていきましょうよ、ルーチェさん。今は試合を見ましょう」

「そう、だね。そうするよ」


 ジルに促されてコロシアムの方に目を向けると、すでに魔物の入場は終わっていた。

 片方は口元から頭まである大きな耳と避雷針みたいに頭に生えた五本の黒い角、白く輝く鱗がびっしりとついた身体が特徴の二足歩行する青白い怪物で、二本の腕にそれぞれ大きな魔術書を持っており、その魔術書から呪いの煙が頭に纏わりついている。

 見た目は化物だけど、魔術師なのかな?


 もう片方の魔物は、空中に浮く巨大な能面から細くて黒い紐のような物が二本生え、それが巨大な斧と盾を掴んでいると言う奇妙な生物だった。

 斧と盾、そして能面自体からも呪いの煙が発生しており、それらが能面の目の中に入り込んで怪しい輝きを放っている。

 というか、生物ですらないんじゃないの、アレ……。


「あの本を持っている怪物がイバールです。受付のメモを盗み見してみましたが、あの魔術書には「最強魔術」なる物騒な物が書きこまれていて、その魔術を習得した代償に戦闘中も戦いを忘れてひたすら威張り散らしてしまうようになっているのだとか」

「習得しただけで威張り散らすようになる魔術って……」


 そんな魔術、あっても役に立たないよ……。

 詠唱時間が極端に短くて威力が非常に高い、とかだったとしても、使えないと意味が無いもん……。


「なんでも、光と闇の複合魔術なのだとか。対の属性を組み合わせて放つ最強の魔術で、成功したときは一発で相手を消し飛ばすほどの威力があると書いてありました」

「そんな大げさな……」


 というか、光と闇の属性を組み合わせて放つって……。

 普通、対の属性の魔力は相殺されちゃうのに……。

 実際、炎と氷の魔術や水と雷の魔術をぶつけあったりしたら、消えちゃうし。


「ですよね。まあ、多分出鱈目でしょう。実際は、光か闇の威力が高い魔術ですよ」

「まあ、見られるかどうかは分からないけどね。それで、もう一方が……」

「あの能面がパニッカーなんだって。何をしでかすか分からないから、常に監視が欠かせないって言われてたよ」


 あんな化け物だったら、確かに何をしでかすか分からないよね。

 そもそも、生物なのかな?


「多分生物でしょう。というか、機械仕掛けの怪物だって魔物扱いですし、細かいことはどうでもいいんでしょうね」

「そんな適当な……」

「さあ、勝つのはイバールなのか、それともパニッカーか! いよいよ、開幕です!」


 パニッカーが生物なのかどうか気になってしまうけど、今はとりあえず試合を見ないとね。

 ……まあ、何故か両方外れる予感がしたから賭けずに流しちゃったんだけど。

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