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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
117/168

呪いの格闘場で遊んでみましょう

「いらっしゃい! 誰もが手に汗握るバグッタの裏名物、呪いの格闘場! 受付はこちらだよ!」


 あれから受付らしい場所を探して格闘場の中を歩いていると、椅子に座っていた男の人が声をかけてきた。

 ここが受付なんだね。


「すいません、初めて訪れたんですけど、ルールの説明をお願いできますか?」


 こういう場所は初めてだから、遊び方も分からないよ。


「遊び方かい? 至って単純さ! 君たちはお金を払って魔物の掛札を買えばいい! 後は、試合が始まったら真ん中のコロシアムで魔物同士の戦いが始まって、最後まで立っていた方が勝者だ! 予想が当たれば賞金を支払うよ!」


 本当に単純な仕様なんだ……。

 ところで、魔物の情報は知ることができるの?


「もちろんだ! しかし、それはあくまで個人の研究によって判明することだ! つまり、当格闘場では魔物の能力や性質の開示は行っていないのだ! どうしても知りたいのならば、しばらく観戦するなり試合に賭けるなりして知識を集めてくれ!」


 さすがにそこまで甘くはないよね……。

 というか、魔物の外見も分からないんじゃ、どっちに賭けたらいいのか……。


「おっと、そろそろ次の試合が始まるよ! どうだい、早速どちらかに賭けてみないかい? 掛札は一枚5000ゴールドだ!」

「5000ゴールド……」


 まあ、私達からすると安い金額ではあるけど……どうなんだろ?

 ここしか知らないけど……高い、のかな?


「買ってみましょう。物は試しです」

「買うのかい? じゃあこれが掛札だ! どっちを買うか決めてくれ!」


 ジルが買う事を伝えると男の人が掛札を出した。

 って、AとBしか書いてないじゃない……。

 魔物の名前すら分からないよ……。


「ルーチェさん、どっちにします?」

「……」


 Bかな?

 確証はないけど、Aは最後の最後に酷い目に遭う……予感がする。

 まあ、多分気のせいだけど。


「Bの札でお願いします」

「B……暴虐の狂戦士、大魔神ザザーギだね! まいどあり!」


 ジルがお金を渡すと、男の人は札を渡して魔物の名前を明かした。

 何この格闘場……。

 買ってからようやく魔物の名前を教えるとか詐欺みたいなものじゃない……。

 まあ、名前だけ教えられてもやっぱり予想は出来そうにないけど。


「まあ、大丈夫でしょう。私たち本当に何も知りませんしね」

「それで、試合はどこで行われるの?」

「試合は……全部そこのコロシアムで行われる! さあ、観客席が埋まる前に行った行った!」


 コロシアムって……ここから見る限り、ただあの場所だけ床を低くしただけにしか見えないけど……。


「そんな物ですよ。観客が高いところから見るのはコロシアムの伝統ですから。さあ、行きましょう」

「うん……」


 まあ、もう賭けちゃったものは仕方ないし、後は試合を見てみるしかないよね。

 そう考えつつ、ジルの後を追って観客席に移動した。





 ジルについて行き、私たちは無事に観客席の最前列に座ることができた。

 辺りを見回すと、小さな紙と筆記具を携えた人たちがコロシアムの中を睨みつけるように凝視していた。

 ……この人たちも賭けに参加してるんだろうね。目がちょっと怖いけど……。


「最前列か。良い場所に座れたんじゃないのか?」

「確かに良い眺めですね。コロシアムの中の様子がはっきり見えます」


 ルシファーとジルが短い会話を交わす。

 確かに、最前列だったら前の人が邪魔になって見えない! って事は無いよね。


「……それにしても、結局、対戦相手の魔物が何なのか、とか、賭けた魔物……ザザーギ、だっけ? がどんな戦い方をするのかとか、一切わからないままだよ……」


 言っていることは尤もだけど、でも、何度も観戦して知識をつけろ! はあんまりだと思う……。

 まあ、常連の人なら魔物の知識も揃ってそうだけど。


「観客席の皆さん、お待たせしました! ただ今より、本日の第252試合目を行いたいと思います!」


 受付から声が聞こえた直後、歓声に包まれる観客席。

 周りから絶叫みたいな歓声が聞こえてきて、耳が痛くなっちゃいそう……。


「今回の試合、勝つのは一体どちらの魔物か! さあ、Aブロックの魔物の入場だ! ――――Aブロックより現れるは数多の不幸に見舞われ、裏切りの連続によって絶望に落とされてもなお生き続ける不幸の勇者・オルス! この格闘場唯一の人間魔物です!」


 受付の選手紹介が終わった直後、Aと書かれた扉が開いて中から一人の騎士が歩いてきた。

 まるでグリーダーのような邪悪なオーラを纏ったその騎士の瞳には光は無く、手に持った剣と盾、そして彼が被っている兜からは黒い煙が常に噴き出し続けている。

 錆びているのか赤茶けた色をした鎧には、髑髏どくろの装飾が施されているのがかすかに確認できる。見た目には呪われてなさそうだけど、あの見た目はどう考えても禍々しい。


「「「ウオオオオオ――――! オルス! オルス! オ・ル・ス!」」」

「頼んだぜオルス! お前の実力で勝利を引き寄せるんだ! 俺に金をまた入れてくれ!」

「お前ならできる! 親友(笑)や姫(笑)に不幸の呪いを浴びせられても克服することができたんだ! だから、お前なら大丈夫だ!」


 す、すごい歓声……。

 この格闘場の大本命なのかな?


「続きまして、Bブロック! 不幸の勇者オルスを迎え撃つのは、怪力と圧倒的防御力が自慢のこの魔物! 大魔神の異名を持つ怪生物! ザザーギだぁぁぁぁぁ!」


 オルスの入場の時と同じように、Bと書かれた扉が開き、中から魔物が現れる。

 尻尾が生えた赤い巨体と、兜を貫くように生えた一本の角? が特徴的な魔物だった。……何の種族だろ?

 鎧の隙間からのぞく筋骨隆々とした赤い肉体、そしてその手には無数の釘が打ちつけられた私の背丈と同じくらいの長さのハンマーが握られている。

 このハンマーと、彼? が身に着けている漆黒の鎧と兜からはオルスの物とは比べ物にならないほど大量の黒い煙が常に噴き出していて、戦いが始まる前から既にザザーギの身体に纏わりつきかけている。

 ……動けるのかな? あの魔物。


「来たか。今度こそ勝てる! そう私の勘が告げている! 奴は今日こそ動くとな! 私の夢に出たのだ! 金の天使がザザーギを勝利に導く、とな! だから私は、全財産をはたいて、借金をしてまで黄金の天使像を作らせたのだ!」

「ザザーギ! 今度こそ頼むぜ! 勝利数一桁にもかかわらず未だ生きている圧倒的体力と! 格闘場最大の倍率200倍! これらの貫録を見せてやりな!」


 に、200倍……!?

 一体どれだけ負けてるの……!?


「ふふふ……これは頂きましたね、ルーチェさん!」

「か、勝てると決まったわけじゃないんだよ……?」


 というか、あの魔物そもそも戦えるの……?

 オルスの方はやる気満々って感じなのに、ザザーギからは戦意がまったく感じられないよ……。

 何と言うか、最初から諦めてるような感じがする……。


「両者登場! さあ、試合開始!」


 敵が目の前に居るのに動く気配すらないザザーギ。

 私の心配をよそに、試合は始まってしまった。




「ウガアアアアアアア! コロス! コロス! コロス……! 貴様を殺す! 殺してやる殺してやる殺してやるぞぉぉぉぉ!」


 試合開始の合図の直後、オルスは剣を構え、狂気の叫びをあげながらザザーギに突進する。

 その殺気は本物で、無関係だと分かっていても、思わず私の身体はこわばってしまう。

 どす黒いオーラをまき散らしながら振るわれるその剣がザザーギを襲う……が、何故か全く当たらない。


「え……あれ!? 何で当たらないの!? 相手は全く動いてないのに!」

「本当だね~。けど手抜きしてるようには見えないよ?」

「オルスの不幸病がいきなりだと!? ザザーギ! 動け! チャンスだ!」


 不幸病……? 一体何が起きてるの……?


「って、オルスの装備から出てる黒い煙が腕や剣に巻きついて勝手に矛先を逸らしてる!?」


 不幸病と言う言葉が気になってオルスを観察してみた私の目に飛び込んできたのは、オルスの装備品から発生している黒い煙がオルスの腕や武器に絡みつき、オルスの攻撃の矛先を文字通り逸らしてまともに攻撃を当てられないようにしている光景だった。

 いくらオルスが剣を振っても、その剣の矛先が黒い煙によって勝手に逸らされている。

 これじゃ、どれだけ頑張っても相手を捉える事は出来ない。

 手元を妨害されてる以上、オルスが何をやっても当てられない。


「ルーチェさん、何を言ってるんですか?」

「ルーチェ、また妙な物が見えてるのか?」

「……あんまり見えたくなかったけど……」


 呪いの効果を直接見せられるとは思わなかったよ……。

 なんていうか、手品その物を見ていないのに手品のネタバレを見せられてるような気分……。


「って、まさかザザーギも……」


 オルスがこんな状態なら、試合前から煙が纏わりついていたザザーギはどうなっているのか。

 そう考えて私はザザーギを観察する。

 すると案の定……。


「ザザーギはザザーギで腕と脚を両方呪いの煙で縛り付けられていて、一歩も動けそうにないよ……。しかも目を呪いの煙で覆われていて全く攻撃が当てられそうにない……」


 想像以上に酷い有様だった。

 腕も足も縛り付けられていてそもそも一歩も動けそうにないのに、更に目まで煙で覆われてしまっている、

 これじゃそもそも動けないし、仮に動けてもその攻撃が相手を捉えることは絶対にないだろう。


「…………」

「殺す、殺す! 殺してやる!」


 一方は文字通り殺す気で攻撃を仕掛けているのに呪いのせいで絶対に当たらず、もう一方は完全に諦めたように棒立ちのまま動かない。

 これじゃそもそも勝負にならないよ。


「ザザーギ! 動け! 今日こそ勝つのだ!」

「オルス! 仕留めろ! 負けるなぁぁぁ!」


 周りの人たちはどんどんヒートアップしてきて、立ち上がって声援を送る人まで現れ始めた。

 ……そう言えば、この人たちには呪いが見えないんだよね……。


「というか、ルーチェ以外誰も何がどうなってるのか分からないと思うよ?」

「まあ、ジルやマディスも呪いの煙が見えないからね……」


 本当に、ごうして私にだけこんな物が見えるんだろ……。



「さあ、試合開始から三分が経過しました! しかし、まだ……おおっと!? オルスの攻撃がザザーギに当たりはじめました!」


 戦況が膠着したまま動かない……と思ったその時、流れが変わった。

 オルスの腕や武器に纏わりついて邪魔をしていた呪いの煙が突然オルスの身体から離れ、大人しくなったのだ。

 妨害が無くなったオルスの攻撃は、動かないザザーギの身体に次々に吸い込まれていく。


「死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね!」

「くそ! またか! またザザーギは何もできずにやられるのか!」


 オルスが叫びながらザザーギを切り刻んでいく。

 ザザーギに賭けている人達はこの展開を見てまた駄目か、と落胆したような様子になっていく。

 そのザザーギは時折腕や足を動かそうとしているものの、両手両足を呪いの煙が縛り付けているので全く動けない。

 戦闘前の諦めた様子からしても、どうやら常日頃からこの呪いによって何もできずに負けているみたい。

 まあ、動けないし何も見えないしで、戦う事すらできないよね。


「ああ、いつものようにザザーギが一方的に切り刻まれて負けてしまうのか! 毎回こんな状態になっても軽いけがで済むあたり、生命力は立派ですが、ザザーギはやはり動けない!」


 ザザーギの身体には未だに小さな傷しかない。

 多分あの呪いには、相当強力な守備の効果がかかってるんだろうね。

 ……けど、その守備能力を考慮しても、あまりにも酷い呪いだよ、これ……。

 戦う戦わない以前に、ずっと身動きが取れないんじゃどうしようもないよ。


「って、あれ? ザザーギの身体を縛ってる煙の様子が……」


 開幕から一歩も動けず、オルスに一方的に切り刻まれているザザーギ。

 けど、よく見ると身体を縛りつけている呪いの煙の様子に変化が表れている。

 両手を縛りつけている呪いの煙が少しずつ細くなっていき、目を覆っている煙が離れていく。

 あれ? これってもしかして……。


「ああ……もう駄目ですね。ルーチェさんの加護の効果も大外れですか」

「待って。ジル、もしかしたら、逆転が来るかも……」


 諦めきったようなジル。

 だけど、まだ諦めるのは早いかも……。


「え? 何言ってるんですかルーチェさん。こんな状態からどうやって」

「煙が離れた……! ザザーギが動く!」


 私の口からその言葉が出たのと、ザザーギが突然ハンマーを振りかぶったのはほぼ同時だった。

 自由になった両手でハンマーを構えたザザーギが、攻撃に夢中で反撃など想定していないオルスの脳天目がけて一気にハンマーを振り下ろした。


「ウガアアアアアアー!」

「殺す! 殺っ……!?」


 突如として反撃を仕掛けたザザーギ。

 オルスは反撃などまったく想定していなかったのか、ザザーギの突然の反撃に対処することが出来ず、巨大なハンマーを脳天に叩き込まれてしまった。


 鳴り響く轟音、振動する格闘場。

 観客の誰もが、目の前の光景が信じられないといった表情を浮かべる、


 オルスが立っていた場所には巨大なハンマーが振り下ろされ、ハンマーの周囲には肉片と血とオルスの装備だった物が混ざりあった真っ赤な池が出現した。

 ザザーギがハンマーをどけると、そこにはオルスだった残骸が転がっていた。

 動く動けない以前にオルスは間違いなく即死している。

 勝負は、決した。

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