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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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賭博場を探しましょう

調子が良かったので早く書きあがりました。

 あの後、体調が回復するまで待ってからもう一つの魔法陣の上に作った呪いの首輪を置き、再び魔力を流し込んだ。

 魔法陣から再び黒い煙が噴き出して首輪を包み込んでいき、二つの呪いを共有した呪いの首輪は無事に完成した。

 ……そう、呪いの首輪そのものは完成したんだけど……。




「ね、ねえ、ジル……。本当に、これを持って行くの? 一応、出来たのは確かだけど……」

「あ、当たり前じゃないですか……。せっかく作ったんですよ? 持って行かないと……」


 魔法陣の上に置かれた一つの首輪。

 役目を終えて光を失った魔法陣の上で金色のまばゆい輝きを放つそれは、つい先ほど、私とジルが二つ目の呪いの魔法陣を起動させて完成させたものだ。

 ジルの提案で同じ装備に呪いを二重にかけることになったそれは、元が単なる装飾品だったとは思えないほど、不気味な存在に成り果てていた。

 一見すると美しい金色の輝きを放っているように見える。けどその輝きは、見ていると文字通り精神を吸い込まれてしまいそうになる不気味な輝きで、しばらく見ていると、この首輪を手放せなくなってしまいそうになる。

 更に、首輪全体から染み出す黒い煙は、ただ首輪を持っているだけでもその邪悪な触手を伸ばしてきて、首輪をつける方向に意識を持って行こうとする。

 当然、この煙に意識を奪われて首輪をつけてしまったりなんかしたら、その瞬間に身体は呪いの魔力に支配され、身体がまともに動かなくなり、頭は目についた物を食べる事以外何も考えられなくなる。

 私達、とんでもない物を作ってしまった事だけは確かみたい……。


「あはは……これは箱に入れてもマシになるのか不安だね……」

「大丈夫だ。……というか、大丈夫だよな?」


 ルシファーやマディスも不安を隠し切れていない。

 私達全員、呪いの装備品を甘く見ていたことだけは確かみたいだね……。

 私だって、こんな不気味な存在だとは思わなかったよ……。


「ルーチェさん、分かっていると思いますが……」

「絶対に着けないよ。あれは……着けたらもう戻ってこれなくなっちゃう。ジルも、分かってるよね?」

「ええ……もちろん、です……」


 私もジルも、互いに声を掛け合って意識を少しでも首輪から逸らしている。

 というか、そうでもしないとあの首輪に意識を引き寄せられてしまいそうになる。

 後ろで収納用の箱を作っているマディスとルシファーも、私達同様互いに声を掛け合っている。

 こうしないと正気を保てる気がしないよ……。


「……箱は出来たよ。だから、それをさっさと入れて封印しよう」

「う、うん。貸してくれる?」


 箱を渡すマディスの手は少し震えている。

 もちろん、私の手だって震えが止まらない。

 でも、この首輪を封印するためには、仕方ないよね……。


「その箱に封印しましょう」

「……うん」


 マディスに渡された箱は、箱の外にも中にもびっしりと魔法陣が刻まれている。

 呪いの魔力を遮断するための魔法陣かな?


「じゃあ、持つよ……」


 意を決して、呪いの首輪に手を伸ばす。

 首輪を持った瞬間に首輪から私の頭目がけて黒い煙が伸びてきて、首輪を着けるように意識を誘導しようとする。

 一瞬でも気を抜いたら、何も考えずにこの首輪を自分の首に着けようとしてしまう。

 ……それにしても本当に綺麗な首輪……。

 呪われてるのは知ってるけど、こんなに綺麗だし、ちょっと着けてみても……。


「ルーチェさん!」

「……っ!」


 ジルの叫び声で意識が引き戻された。

 気が付いたときには私の首元に首輪を持った手が。

 意識が戻った私はすぐさま手に持っていた首輪を箱に入れ、そのまま蓋を閉じて全力で箱に魔力を流し込む。

 箱全体に刻まれた魔法陣が起動し、黒い煙を文字通り箱の内側に封じ込めていく。

 すると、先ほどまで私たちの意識を引き寄せて呪いの首輪をつけさせようとしていた禍々しい気配は完全に消滅し、箱の中に封じ込められた。

 この箱を開けない限りもう呪いの首輪に意識を吸い寄せられることはないよね?


「ぶ、無事に封印できた……?」

「……大丈夫ですか、ルーチェさん?」

「う、うん……ジルが声をかけてくれなかったらどうなってたか分からないけど……」


 呪いの首輪を封印した箱から手を放した私に対し、ジルが心配そうに声をかけてくる。

 一瞬だったけど本当に意識を奪われてたし、ジルが声をかけてくれなかったら今頃私は……。


「呪いの装備品って恐ろしいですね……。少しでも意識を失うとその瞬間に呪いの虜になってしまいます」

「本当だな……。あいつがそういう趣味の人間かと勘違いしていただけで、実際は文字通り吸い寄せられていたのかも、な……」


 そう言えばルシファーの居た世界には呪われた装備品を着けまくった人が居たんだよね……。

 でも、呪いの装備品がこんなに恐ろしい物だったなら、着けまくってしまうのも納得できる、かも……。


「今のルーチェを見てる限り、呪いの虜になってしまったら、もう一人ではどうしようもなさそうだね……。気が付いたら呪いの装備品を身に着けてるわけだし」

「恐ろしいなんてものじゃないよ……。もし一人だったら……」


 マディスも言ってるけど、もし一人だったら、今みたいに意識を失っても誰も止めてくれない。

 だから、そのまま呪われた装備品を何の躊躇いも無く着けてしまうよ……。

 私も呪いの首輪にあっさり意識を奪われていたし……。


「呪いの装備品の扱い方はともかく、作った後の事も考えないといけませんね。いくら悪人へのお仕置きに使う強力な呪いの装備品を作ったとしても、私たち自身がその装備品に魅入られてしまったらおしまいです」

「……ジル、まだ懲りてないの? こんな物騒な物幾つも作る必要ないじゃない……」


 そこにあるだけで勝手に装着しようとさせるような物騒な装備品、そばに置いておくだけでも危険だよ……。


「マディスさんが用意してくれた箱に入れたらどうにかなりましたし、大丈夫ですよ。というか、私はこの程度で諦めません」

「……だったら、せめてもうちょっと効果が弱い呪いにしてよ……」


 こんな物騒な呪いの装備品、そう何度も作ってられないよ……。


「確かにそうですね。今も、私が声をかけたから正気に戻って事なきを得ただけで、少しでも遅れたらルーチェさんは眼前にある物全てに見境なく齧りつく狂人に変貌していたかもしれません。どんな呪いをつけるのか、慎重に考えなおしてみる必要がありますね」

「お願いだからそうして……」


 はあ……。なんか一気に疲れちゃったよ……。


「じゃあ、息抜きに賭博でもどうですか?」

「もう……ちょっとだけだよ?」


 あんまり勝ちまくって悪目立ちはしたくないし……。


「分かっていますよ。何試合も連続で的中させたりしなければ大丈夫でしょう」

「ルーチェ。当てる時は徹底的に当てて金を巻き上げてくるんだ」

「ルシファー、そんなに簡単に当たる保証はないからね?」


 幸運強化と言っても、どれだけの効果があるのかは分からないんだから……。


「じゃあ、賭博が出来る場所を知るために酒場に行ってみようか」

「ええ。早速行きましょう」


 以前訪ねた酒場を目指して歩き出したマディスとジル。

 二人を追うように、私とルシファーも酒場を目指して歩き出す。





「いらっしゃ……って、子供が酒場に来てどうするつもりだ? あの時来た大男はどうしたんだ?」


 酒場に入ると、沢山の人がお酒を飲みに集まっていた。

 お酒や葉巻の臭いと酒を飲んでいる人たちの声のせいで、居心地はあまりよくない。

 一応店主が迎えてくれたけど、やっぱり未成年ばっかりじゃこんな対応になっちゃうよね。

 グリーダーぐらいしか大人だと言える人居なかったし……。


「すいません。この町には賭博場はありますか?」

「賭博場? あんたら、呪いの格闘場にでも行く気か?」


 の、呪いの格闘場? なんなのその物騒な名前……。


「初めて聞きましたけど、なんですかそれ?」

「知らないのか? 冒険者が売りさばいた呪われた装備品を集める男がこの町に居るんだが、そいつが人型の魔物にその呪われた装備品を大量に装備させ、互いに殺し合わせてどちらが勝つのか当てさせる遊びをやってるんだ」

「それはまた……斬新な遊びですね。魔物を殺し合わせるだけならともかく、魔物に呪われた装備を大量に装備させて戦わせるなんて」


 店主と話すジルも驚きを隠せないみたい。

 呪いの装備品を実際に見たから分かるけど、あんな恐ろしい物をたくさん装備させた魔物を互いに殺し合わせるなんて正気じゃないよ……。


「呪いの格闘場はバグッタ・ドームの地下にあるんだ。受付の男に「呪いの格闘場に行きたい」と言ったら連れて行ってくれるはずさ。この町での賭け事はそれ以外ほぼ存在しない」


 バグッタ唯一の賭け事が随分物騒な気がするんだけど……。


「バグッタ・ドームにまた行ってみましょう、ルーチェさん」

「まあ、私も呪いの格闘場がどんなところか気にはなるし、行ってみるけど……」


 でも、やっていることがやっていることだし、絶対正気じゃないよね。

 いくら魔物でも、呪いの装備品を大量に装備させて殺し合わせるって……。


「そう言えば最近行ってねえな。まあ、酒場にやってくる人間が居る以上店は離れられないし仕方ないか。さ、商売の邪魔だからもう行ってくれ」

「ええ、それでは失礼します」


 酒場の店主に出ていくよう促されたのでもう出ていくことに。

 まあ、私たちはお客になりえないからね……。


「とりあえず、教えられたとおりにあのドームの受付に聞いてみましょう」

「そうだね、行ってみよう」


 酒場を出た私達は、そのままバグッタ・ドームに再び向かう事に。

 呪いの格闘場か……どんな場所なのかな?






「やはり男装の麗人に対抗するには女装の美少年か……いや、女装の良い男……?」


 バグッタ・ドームに入ると、入口では相変わらず受付の男性が妙な事を呟いていた。

 女装の美少年ならともかく、女装のいい男ってそれただの変な人だよ……。


「あの、すいません。呪いの格闘場に行きたいんですけど」

「ああ、呪いの格闘場……って、なんであなたたちがそれを知っているんです? あれはバグッタの人間でもほんの一握りの人しか知らないと言うのに」


 声をかけて呪いの格闘場に行きたい旨を伝えると驚かれた。

 何で知ってるかって言われても……。

 酒場の店主がその一握りの人に入ってたからじゃないかな?


「……まあいいです。呪いの格闘場に行きたいんですね?」

「ええ。お願いします」


 どこから行くのかな?


「こちらにどうぞ。カウンターの奥ですが、気にしないでください」


 受付の男性がカウンターの壁を外して外からカウンターの中に入れるようにし、私達を手招きする。

 一体どこに行くんだろ?


「ここの奥ですよ」


 案内されたのは、明らかな行き止まりだった。

 って、ここも鍛冶屋の手前にあったような偽物の壁があるの……?


「知っている人以外は絶対に訪れられない楽しい賭博場、それが呪いの格闘場なのですよ」


 私の方を向いてそう説明しながら、案内してくれた男性が壁に手を突っ込む。

 すると、壁を通り抜けるように手が消えてしまった。

 そのまま男性は壁の方に歩いていき、壁の向こうへ。

 それを見て、ジルが壁の中に入っていく。

 私達も行かないと。


「ようこそ。ここが、呪いの格闘場の入り口になります。それでは、私はこの辺で失礼します」

「ありがとうございます」


 男性の後を追って壁を抜けた場所には門のような巨大な扉が。

 その奥から歓声のような物が聞こえてくる。

 ……この奥で何が行われてるんだろ。


「さ、行くぞ、ルーチェ」

「沢山遊んで、勝っていきましょう!」

「楽しみだね~。ほら、早く行こう」

「全く、もう……。熱中しないでよ?」


 こう言う物に熱中すると止められなくなるって言うから……。


「大丈夫ですよ。ルーチェさんが勝ってくれれば大丈夫です」


 呑気なんだから……。


「……まあ、たまには息抜きも必要、だよね。行こう」

「ええ。扉の向こうに行きましょう」


 大きな扉に手をかけ、ジルと二人で扉を開く。

 扉の奥へ足を踏み入れた。





「行け! そこだ! 敵が余裕かましてるうちに仕留めちまえ!」

「ああ! 馬鹿! 止めろ! お前弱いんだから弱者の余裕かますな! 馬鹿! 動け! お前には俺の全財産がかかっているんだ!」

「うわあああ! 肝心な時に呪いで動けないは止めてくれ! あと一歩で勝てるんだよ! あと一歩なんだ!」

「今だ! 逆転の自爆攻撃ぶちかませ!」

「こんな時に不幸病発症するなー! 痛恨食らって負けやがって! 俺の金返せー!」


 扉の奥に入ると、まず聞こえてきたのは声援と野次と落胆の叫びが入り混じった大歓声。

 皆が皆戦っている魔物にお金を賭けているみたいで、自分の応援している魔物が劣勢になったりすると必死で応援している。

 ……一体、どんな魔物が戦ってるんだろ?


「あそこに対戦している魔物の絵が飾られていますよ」

「え? どこ?」


 ジルが指差す方向に目を向けると、現在試合中の魔物と大きく書かれた板に魔物の絵が四枚取り付けられていた。

 ……二枚一組になっているらしく、犬顔の人間らしき絵と猫の頭にトカゲの腕の魔物らしき絵が間に「VS」という文字を挟んで上の段に、下の段には虎の顔と牛の身体を混ぜ合わせたような二足歩行の怪物と竜の頭と犬の身体を持った怪物の絵が、上の絵と同じくVSの文字を挟んで飾られていた。


「な、なんなのこの奇妙な怪物……」

「バグッタですからね。もしかすると、怪物も集めているのかもしれません」


 怪物に呪いの装備品を装備させて戦わせてるのかな?

 ……とにかく、まずはここの事をよく知らないと。


「そうだな。とりあえず、受付に行ってみるか?」

「うん。とにかく、まずは受付で話を聞かないと」


 ここにただ立っていてもどうにもならないため、私たちは受付を目指して歩き出した。

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