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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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実験しましょう

「この盾……本当にどうしてこうなったんだろうね」

「いかにも「炎攻撃を防ぎます!」って主張している見た目ですよね」


 テーブルに置かれた真っ赤な盾を見て、私とジルが思った事を口にする。

 魔方陣の加護を受けた盾は、原型を留めないくらいに姿が変わってしまっていた。


「魔法陣の効果なんだろうとは思うが……まさか完全に別物になるとは思わなかったな」

「本当だよね~。てっきり見た目はそのままで炎の攻撃に対する耐性がつくだけかと思ってたけど」


 魔法陣について知っていそうなルシファーがこう言うって事は、ここまでの加護はつけなかったって事?


「当たり前だ。一人で旅をしていたんだぞ? 自分の魔力を完全に使い果たして倒れた隙に魔物に襲われたらひとたまりもない」

「まあ、私達も「安全が保障されてたから」全力で魔力を使って加護をつけましたしね」


 安全だと確信してなかったら、倒れるほどに魔力を出すことは出来ないよね。


「まあ、それもそうだな。ところで……」

「何?」

「何ですか?」

「いったいどれだけの量食べるつもりだ?」


 私とジルがいつまでたっても食事の手を止めないからか、呆れたようにこちらを見るルシファー。

 外の屋台で買ってきた串に刺してある肉、魚、野菜の唐揚げを宿の部屋で食べているんだけど、昨日一日寝てたからなのか、普段と同じ量の食事を食べても足りないんだよね……。


「ええ。全然足りません」

「ジルはもう食べすぎなんじゃないかな?」


 串に刺さった巨大な肉や魚の唐揚げを頬張るジルを見て、マディスが食べすぎなんじゃないかと告げる。

 実際、ジルだけで串唐揚げを20本は食べていると思うけど……。


「何言ってるんですか。丸一日何も食べていないんですよ?」

「そうだとしても、明らかに食べ過ぎのような気がするな……」


 ジルの食事の手は会話の最中も止まらず、ひたすら食べ続けている。

 って、それ私の……!


「足りませんから」

「既に20本も食べた人の言う言葉じゃないよね、それ……」


 まあ、私は10本くらいでお腹いっぱいになってきたから残りはジルにあげても別にいいんだけど。


「良いんですか? じゃあ、遠慮なく」


 それだけ言うと、今度は私の方の串も取り始めるジル。

 ……どれだけ食べるの……。


「昨日食べられなかったですからね。そう考えると、沢山食べたくなりました」

「……一応この後出発するんだから、食べ過ぎないでよ?」


 食べたいのは別に構わないけど、食べ過ぎて動けないなんてことになったら笑えないからね?


「分かっています」

「……それよりもこの盾だよ。見た目が完全に変わっちゃってるけど、中身はどうなったんだろ?」

「あの魔法陣の効果が本物なら炎による攻撃を防ぐはずだが……」


 まだ実験はしてないの?


「まあ、気軽に実験できるような効果じゃないからね。二人が寝てる間に、僕とルシファーのどちらかがこれを装備して炎の攻撃を相手にしてもらう、って方法を考えたんだけど……」

「マディスの薬で安全対策をすると盾の効果が把握できないから、この方法は使えなかった」

「だけど、薬を使わずに炎攻撃を当てようと思ったら僕の薬かルシファーの攻撃しかないから火力の調整が出来ないんだよね。だから、仮に失敗してた場合非常に危ないから実験できなかったんだよ」


 ……威力をある程度調節したファイアボールで実験する?


「そうしようと思ったんだけど、ルーチェが寝てたからそれもできなかったんだ」

「だから起きるまで待っていたんだ」


 まあ、私が起きてなかったらそれも出来ないか……。

 じゃあ、この後は盾の効果の確認からしてみようか。


「ああ、この盾がちゃんと炎を防げるのか知りたい」

「もしこれがちゃんと炎攻撃を防げれば、次に加護を与える防具も炎による攻撃に強く出来ますね」


 これで炎を防げれば、敵の炎攻撃を気にせずに戦えるようになるよね。

 それを確かめるためにも、一度実験してみよう。




ーーーー




「さて、始めるか」

「うん。まあ、威力はかなり抑えるから大丈夫だと思うけど。万が一のことがあったらマディス、お願いね」

「分かったよ」


 食事が終わった後、私たちは土管のある空き地に戻ってきた。

 ルシファーの右手には加護を与えた元鉄の盾。

 ファイアボールをあの盾にぶつけて反応を調べるわけだけど……準備は良い? ルシファー。


「ああ。いつでも構わない」


 そう言って盾を構えるルシファー。

 それと同時に私も詠唱に入る。


「どうなりますかね」

「分からないよ。まだ実験したことが無いからね」

「……ファイアボール!」


 ルシファーの構えた盾目がけ、火球が飛んでいく。

 威力は抑えたとはいえ、そこそこの威力があるから当たったらかなり痛いはず、だけど……。

 そう思っていた時、私は信じられない物を見ることになった。


「え!? 消え、た……?」

「……突然消えましたよ?」

「あれ? ファイアボールは?」


 ルシファーの構えた盾に当たったファイアボールが、文字通り突然消えてしまった。

 横で見ていたマディスとジルにもファイアボールが突然消えたようにしか見えていないみたい。


「……どうなったんだ? 確かに飛んできたはずなんだが……」


 盾を構えていたルシファーも不思議そうな表情をしていた。

 ……いったいどういう事なの?


「ファイアボールが盾に当たったと思ったら、いきなり消えましたよね?」

「うん。いきなり消えちゃったよ」


 盾に当たるまではちゃんと飛んでたのに……。


「もう一回試す?」

「そうですね。いきなり消えてしまいましたし」

「今度は威力を少し上げてくれ」

「……分かった」


 短い会話を交わした後、再び私はファイアボールの詠唱に入る。

 さっきのファイアボールはもしかしたら威力が足りなかったのかも。

 今度はさっきより威力を強くして放とう。


「準備できたぞ」


 そう言って再び盾を構えるルシファー。

 その言葉を聞いた私は、ルシファーの掲げる盾に狙いを定め、再び火球を放つ。


「今度はどうかな? ファイアボール!」


 先ほど放った物より二回りは大きい火球がルシファーの掲げる盾目がけて突き進む。

 小さな岩くらいの大きさに成長したこの火球が当たれば、普通の鉄製の盾などひとたまりもないはず。

 しかし――――。


「ま、また消えました!」

「魔術の効果すら発揮されてないの……?」


 私が放ったファイアボールは、またもや盾に当たった途端に消えてしまって効果を発揮することすらなかった。

 ……まさか、無効化されてる?


「……なあ、俺の見間違いでなければ、ファイアボールが盾に当たった瞬間、文字通り盾に吸い込まれるように消えた気がするんだが……」

「盾に吸い込まれる……?」


 困惑する私たちの所に戻ってきたルシファーが気になることを呟いた。

 ……盾がファイアボールを吸い込んだって事?

 加護をつけただけの盾が……?


「盾が魔術を吸収するなんて一見信じられないけど……」

「だが、そうとしか思えないんだ。盾に当たった直後にまるで盾が吸い込んでいくようにファイアボールが消えていった」


 ……ルシファーが言っていることを考えると、盾が文字通り「吸収」したって事?

 じゃあ、今度は別の実験をしてみる?


「別の実験? 今度は何をするの、ルーチェ?」


 ファイアボールだけじゃどうにもならないから別の実験の提案をすると、マディスが内容を聞いてきた。


「松明みたいなものを作って、それにその盾を当ててみる。もし炎を吸収するんだったら、松明の炎を吸い込んでしまって炎が消えるはずだから」

「なるほど。確かに、やってみる価値はあるかもしれないね」


 まあ、あくまで勝手な思い込みかもしれないけど。

 でも、ファイアボールが文字通り吸い込まれてるわけだし……。


「分かりました。じゃあ、松明の用意をしますね」

「手伝うよ、ジル」


 ジルとマディスが持っていた素材で簡単な松明を作って地面に突き刺し、火を点ける。

 松明に炎が灯り、松明の先端が燃え上がる。


「ルシファー、横からその盾を近づけてくれる?」

「横から? ああ、分かった」


 指示通りに横から松明に盾を近づけるルシファー。

 ……もし私の予想が正しかったらきっと松明の炎は……。


「ある程度近づけると、炎が盾に吸い寄せられてるな」

「やっぱり……」


 ルシファーが盾を松明に近づけると、松明に灯っている炎はまるで盾に吸い寄せられているかのように盾の方に傾いていく。

 風も無いのに炎がこんな不自然な動きをするって事は……。


「盾自体が炎を吸収するって事で良いでしょうか」

「そうとしか思えないよ。松明の炎を吸い寄せてるくらいだもん」


 ルシファーが盾をさらに近づけると、松明の炎は盾の中に吸い込まれるように消えていく。

 ……盾が炎を吸い込んでいくなんて、一体どういう仕組みなんだろ。


「そこまでは分からないですね。まあ、今分かっていることだけでも、戦力として加護を使うのは良い考えだという事だけは確信できますけど」

「持っている装備が炎を吸収できれば、例え火の海の中に閉じ込められても脱出できるようになるからね。ルーチェ、あの魔法陣、また今度使ってみる?」

「そうだね。今度また、時間が出来たときにでも使ってみようか」


 ……魔法陣の効果の確認は出来たね。

 じゃあ、土管の向こう側に行って盾をもらってこようか。


「そうですね。さ、土管の中に入りましょう、ルーチェさん」

「うん」


 ルシファーが頼んだ盾は、ちゃんと出来てるのかな?

 土管の向こう側に行って取りに行こう。

















「ふう。土管の向こう側に渡るだけでも一苦労だよ」

「今回みたいに敵が出なかったとしても、道自体が長いですからね」


 私達は土管から通じる地下道を抜け、地下道を越えた反対側にある鍛冶屋や武器屋、防具屋が立ち並ぶエリアに戻ってきた。

 さ、盾を受け取りに向かおうか。


「そうだな……ん? 階段の下の方で誰か騒いでいるのか? 何か聞こえるが」


 ルシファーがそう呟く。

 私には何も聞こえないけど……。


「行ってみればわかるでしょう。行きましょう」

「そうだね。行ってみるしかないか」


 それに、今から防具を受け取りに行くんだしね。


「そう言う事だ。行くぞ」


 階段の方に向かうルシファーとマディスを追うように私とジルも歩き出す。

 階段を下りていくと、ルシファーが言っていた通り、誰かの話し声が聞こえた。


「だから、防具は防御力で決めるべきだって!」

「何言ってるんだ! 防具は見た目で決めるべきだ!」


 二人の男の人の声、かな?

 どうやら防具を買う際に重視する点を話しあっているみたいだけど……。


「いいか、よく考えろ! いくら見た目が派手で素晴らしい物であってもな、魔物に攻撃されて一発で使い物にならなくなるような防具は戦闘では役に立たないんだ。だから、考え直すんだ!」

「お前こそ考えろ! いくら防御力が高くてもな、見た目があんまりにも不恰好な防具なんか買ってみろ! 町を歩くたびに「何あの鎧。キモイ」「あんな物着てよく旅ができるね」とか女の子に言われまくる羽目になるんだぞ!」


 ここまで声が響いてくるけど、階段の下で一体何の話をしてるの……?


「防具に求める物は見た目か、守備力か、らしいな」

「見た目か、守備力か……」


 実際に見てみるまでは守備力さえあれば良いよね?

 とか思ってたけど……。


「ルーチェさん。あの不恰好な厚手の鎧兜や、薄緑一色の輝きを放つローブを見てなお、ああいうのが良いよね! とは言わないですよね?」

「流石にそれは言わないよ……」


 いくら守備力があってもさすがにあれは……。


「なぜ分からないんだ! 魔物に殺されるくらいなら、多少の不恰好さは覚悟するべきだ!」

「お前こそどうして理解できないんだ! 不恰好な鎧など着ていては、悪い印象しか与えないだろう!」


 階段を下りると、階段から少し離れた所で二人の男の人が大激論を交わしていた。

 その二人の周囲でも「防具は美しさか、それとも防御力か」という内容で何人かの冒険者が話し合っている。


「見てください。冒険者だけじゃなくて、鍛冶屋まで話し合いに参加していますよ」

「本当だ……」


 彼らの会話を聞いていたのか、鍛冶屋の人達も数名防具に求められる物について話し合いをしている。

 当然、防御力を強く推す人たちの中には厚手の鎧を作っている鍛冶屋の店主の姿が。

 防御力推進派のリーダーみたいな存在になっている。


「防御力あってこその防具なんだ! 見た目に拘って防御性能を落とすなど言語道断! 鉄板のような頑丈さこそ、防具に求められるものなんだ!」


 その鍛冶屋が自分の意見を強い口調で主張する。

 厚手の鎧ばっかり作っているだけあって、防御力への執着のような物があるみたいだね。


「まあ、そのせいでごく一部の人しか使えないですけど」

「あんな鉄の塊を着て動くのはちょっと……ね」


 ……そう言えば、あの厚手の鎧。

 グリーダーなら着れたのかな?


「……仮にグリーダーの姿のままここに来ていたとしたら着ることはできた。けど、着れるからと言ってアレを着るのはさすがに……」

「だ、だよね……」


 ルシファーの言葉を聞く限り、一応グリーダーのままここに来ていたと仮定すればあの鎧も着れたみたいだけど、やっぱり装備したいとは思わないらしい。あまりに不恰好だししょうがないよね。

 ……それでもグリーダーがあの厚手の鎧をつけたとしたら……元々怖い形相だったし、厚手の鎧や兜で隠せばちょっとはマシに……ならないよね。

 むしろ、身体が完全に鎧の中に隠れて、どす黒いオーラが鎧の外に出るから今度は「鎧の化け物」なんて呼ばれるかも……。


「全身からどす黒いオーラを放ち、大斧を振り回す全身鎧の巨人のような大男……想像しただけで怖くなってきますね」

「……英雄になるためのグリーダーだったのに、英雄どころの話じゃなくなるね」


 私よりはるかに背が高く、身体がごついグリーダーに私の腕と同じくらいの太さの鉄板鎧を着せたら……。

 見た目があまりにごつくなりすぎて、魔物に鎧を着せてると勘違いされてもおかしくないかも……。


「……本来の姿に戻って正解だったのか?」

「まあ、さすがに強引に着せることはしなかったでしょうけど……怖いもの見たさに着せたくなったりはしたかもしれませんね」


 全身を厚手の鎧で固めたグリーダー……非常に恐ろしくなりそうだけど、確かにちょっと興味はあるかも……。

 まあ、もう見ることはできないだろうけど。


「……注文した鍛冶屋の人はいないみたいだよ、ルーチェ」

「そうなの? じゃあ、防具を受け取るためにも、鍛冶屋に早く行かないとね。行こう」

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