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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
109/168

バグリャを見てみましょう

事前に構成が思いついていたら割と早いですね。

……反対に、思いついていないと遅くなるんですけど。

「これできっと金がまた僕の所に入ってくるはずだ! そうすれば、また前みたいに……!」


 ヒローズの町を破壊した後、バグリャ勇者は再建中のバグリャ城に戻って来ていた。

 彼が座っているのはあろうことかバグリャの玉座である。


「ゆ、勇者様……いくら今は王不在とはいえ、さすがにそれは……」


 玉座に座り、頬杖をつき、まるで王様気取りのようなバグリャ勇者に対し、横に立っている僧侶――――ヒルダが苦笑しながら注意する。

 いくらバグリャの支配者が実質この勇者一行とはいえ、やはり形だけでも王は王なのだろう。


「構わないんだよ。今この城の中には僕と君しか居ない。他の連中は今頃戦準備に大忙しさ。キーモンとアルテも忙しいからね。まあ、おかげで君としか居られないんだけど……」

「本当にヒローズと戦うんですか? ……勇者様~、私、怖いです……」


 すでにヒローズと戦う事を決めているかのような対応をしている勇者に対し、不安げに尋ねるヒルダ。

 バグリャ勇者はそんなヒルダの頭を優しく撫で、安心させるように耳元で囁く。


「大丈夫だよ。僕たちはバグリャの勇者一行だ。天に選ばれ、神の加護を得た者達なんだ。僕たちのやることは間違っていない。正義は必ず勝つし、僕たちは正義だ。だから、僕たちは何を相手に挑んでも負けない」

「それはそうなんですけど……ヒローズの勇者一行が私たちの陣営に居るじゃないですか~。勇者様~、あいつら、裏切ったりしないですよね~?」


 ヒルダの疑問は尤もである。

 ヒローズの勇者、と言う事はすなわち、ヒローズと縁のある者達だ。

 そして、そんな一行を身内に引き入れてヒローズと戦えば、当然内側から攻撃される可能性がある。

 ヒルダはそれを警戒している。


「大丈夫だよ。ヒローズの僧侶……レミッタと何度も話したけど、どうも、彼らはヒローズに追い出されたらしいね。教会が潰れて今のヒローズは議会政治が始まっているらしい。そして、勇者一行は教会の一派だ」

「つまり?」

「僕たちが勇者教会の復権と保護を掲げてやれば、簡単になびくだろう。幸い、彼らの仲間の戦士と魔術師はそれぞれ勇者教会の教皇に恩義がある。つまり、簡単には僕たちを裏切れないはずさ」

「なるほど~。なら、安心ですね~」


 バグリャ勇者がヒルダに話したように、ヒローズの勇者たちは現政権に追い出されるようにしてバグリャにやってきた。

 頼る物も何もない彼らをバグリャ勇者が招き入れ、手厚く保護してやったのだ。

 これに加え、勇者教会を復活させることを大義名分に掲げてやればヒローズを追い出されたヒローズ勇者一行は簡単にバグリャ勇者の味方になり、自分たちの祖国を裏切るだろう。


「ふふふふふ……それに、まずありえないけど、追い詰められたら敵軍を町に引き入れ、そのまま町の門を閉ざしてバグリャの町を焼き払ってやる。炎の包囲網を作ってやるんだ。逃げ場も無い炎の包囲網で一気に追い詰め、僕たち正義のバグリャ軍が城から町を攻撃する。完璧だろ?」

「だから町中に油の入った入れ物を町人にもそれと気づかれないように置き始めているんですね~。敵軍が全員町に入ってきたら、その入れ物に火をつけて、油に浸した紐で次々に引火させていって……」

「くくく……バグリャの町は焼き尽くされるかもしれないね。だが問題はないよ。その作戦が決行されることは絶対にありえない。僕たちが負けることなど絶対にないんだ」

「ですよね~。私達は正義を掲げるバグリャ勇者ですもんね~!」


 バグリャ勇者の作戦は勇者を引き入れるだけではない。

 仮に敵軍に町への侵入を許した時には文字通り町を火の海に変える作戦まで用意していたのである。

 実際今バグリャの町にはそれと分からないように偽装されているが、油の入った入れ物や油で浸した道具が町のあちこちに設置されていた。

 本当にヒローズの軍がバグリャの町に入ってきたとなれば、軍を敢えて引き入れ、城の城壁で食い止めている間にバグリャの町を火の海に変え、文字通り皆殺しにしようとするだろう。


「失礼します!」


 バグリャ勇者がヒルダと話しているとき、玉座の間に一人の魔術師が入ってきた。

 バグリャ勇者の一行の魔術師、アルテである。


「君か、アルテ。さて、戦闘の準備はどこまで進んでいるかな?」

「既に兵士たちは戦えるようになっています。後は……王様の裏部隊と何も話していないヒローズの一行だけですね」

「分かった。じゃあ、今から話してくるよ」


 バグリャ勇者はそのままヒローズの一行の所に向かって行った。




ーーーー




 時を同じくしてヒローズ議会。

 突然攻撃を仕掛けてきたバグリャに対する非難と賠償を求める決議が採択されていた。


「我々の要求はバグリャ勇者の引き渡しとバグリャ王宮による我々への謝罪と賠償。これを無視されれば、報復攻撃もやむを得ませんな」

「我々は町の壁を壊され、民や町にも被害を受けた。これは完全な先制攻撃です。許すわけにはいきません」


 議会は全会一致でバグリャへの非難決議を採択。

 即座にバグリャに派遣する使者と同行させる兵士を選定し始める。

 さすがのヒローズも、バグリャに向かわせた使者が無事に帰ってくるとは思っていないのだろう。

 出来るだけ無能な者を選ぼうとしているようである。


「それと……新しい勇者の件ですが、どうなさいます?」

「勇者は勇者だ。使わないといけないだろう。……ただ、この前の勇者ほどではないが、まだ戦闘力に不安がある」

「では今回はヒローズの兵士のみで応戦いたしましょうか?」

「それがよかろう。新ヒローズ勇者一行には、北に向かわせて修行でもさせておこう」

「了解しました。では、軍の準備だけしておきます」

「頼みましたぞ」


 次に彼らは新しく召喚した勇者を実践に投入する話をしていたのだが、その話は流れることとなった。

 結果的に、ヒローズは軍だけでバグリャ勇者と戦うことを決定したのである。

 もっとも、追放されてしまったかつてのヒローズ勇者一行に毛の生えたような変化しかないヒローズ勇者の一行では、戦争に出してもそこまで役には立たなかっただろう。




ーーーー




「パトラ。何か知っているの?」


 ヒローズとバグリャが戦争一歩手前まで進んでいる頃、バグリャの町の路地の中ではピリピリとした空気が漂っていた。

 パトラを問いただすために、アスカは詰め寄っていく。

 その手には、パトラが僧侶の少年を売り飛ばして手に入れた金貨が握られていた。


「し、知らないわ。何なのそれ。金貨がここに落ちているからって、私を疑うの?」

「そういうわけじゃないわ。だけど、こんなところに金貨が落ちていて、あの子が居なくなった。普通何かあるって思わない?」


 突如疑いの目を向けられたパトラ。当然反論する。


「知らない。私は何も知らないわ! 本当に、ただ走りに行っただけよ!(ど、どうしよう……何とかして言い訳を考えなければ……)」

「……本当に、何も知らないのね?」

「あ、当たり前じゃない! 私が知るわけないでしょう! 嘘をつく理由も無いわ! 私を信じて、アスカ!」

「……そう。……どうして突然居なくなったのかは分からないけど、早く見つけないと……」


 そう呟くなり、アスカはパトラの横を通り抜け、町の方に向かって走り出した。


「えっ!? アスカ、どこへ行くと言うの!?」

「あの子を探しに行くに決まってるでしょう!?」


 突然走り出したアスカにパトラが声をかけるが、アスカは振り返りもせずに町の方に走って行ってしまった。

 置き去りにされたパトラはその場に俯き、ぶつぶつと何かを呟きはじめる。


「どうしてあなたはそこまであんな軟弱者の事を気遣うの? 私の方がよっぽど役に立つじゃない。私の方があんな奴よりずっとずっと強いじゃない。どうしてなの……」


 軟弱者を売り飛ばして、ようやくすっきりした気分で旅ができると思っていたのに、肝心のアスカが自分に接する態度はそのままである。

 その事実が、彼女をますます苛立たせるのであった。


「……ふん。どうせバグリャの城に売り渡したんだから、見つかるわけないわよね。そんな事より、アスカが勝手に処分しようとしていた兜を回収して……そうだわ! 運ばせる男を見つけないといけなかった! このままじゃアスカに私の守護神が処分されてしまうのよ!」


 アスカとの話が終わり、当初の予定を思い出したパトラ。アスカが路地に置いて行った兜を抱えて宿に戻っていくのであった。









「見つからない……一体何処に行ってしまったの……」


 パトラと別れた後、町の中を必死の形相で走り回るアスカ。

 何があったのかは分からない。

 けど、突然いなくなってしまった以上、急いで見つけ出さないといけないことだけは明らかであった。


(でも、本当に妙だわ。あのパトラの態度、やっぱり何かあるような気がするんだけど……)


 走っている途中で彼女の頭に浮かぶのはパトラのあの不審な態度。

 ……どう考えても怪しいのである。


(もしこれで見つからなかったら、一度しっかり問い詰めた方がいいかしら)


 どう考えても怪しいパトラを、もう一度問いただすことに決めたのであった。


(それにしても、パトラは旅立ちの当初から雇った傭兵の人やあの子と問題ばっかり引き起こしたわね。ベルツェの騎士団長の娘だから実力があるのは確かだけど、あの協調性の無さは本当にどうしてなのかしら)


 パトラの事を考えた途端、ふと頭の中に旅立ちから今までの記憶が蘇ってきた。

 騎士団長の娘と言う事で、将来有力、いや、今でも十分有力な戦力として計算されており、事実この魔王討伐の旅にも同行しているパトラ。

 しかし、実力は高いものの、ベルツェの王宮が雇った傭兵の人達や僧侶の少年とは旅立ちの当初からトラブルばかり引き起こしていた。


(実力が無いから私は認めない。軟弱な男など私は認めない……。パトラはいつもそんな事ばっかり言っていたわね)


 ベルツェの勇者一行の一団の中で女性はアスカとパトラの二人だけだった。

 故に、宿ではいつも二人は同じ部屋に泊まることになっていたのだが、その時もパトラは軟弱な男など認めないというような発言を常日頃からしていたのである。


(……まさか、ううん。やっぱり、パトラが絡んでいるのかしら? 軟弱な男が嫌いだと言っているのはいつもの事だけど、もしこの町に何か身体を鍛えるようなイベントがあるのだとしたら……)


 パトラに関する記憶が頭に出てきたことで逆に冷静になったのか、走るペースを若干下げて辺りを観察するように走り出すアスカ。

 彼女はそのままバグリャの町の広場にたどり着いた。


「……何かしら、この箱? これと似たような物があちこちに置かれてるけど……」


 たどり着いた広場の様子は彼女たちが町に到着した当初とは様変わりしていた。

 広場のあちこちに木箱や椅子のような形をした台座が設置され、兵士が地面を軽く掘り返して細い管のような物を埋めている。


「まあ、そんなことはどうでもいいわね。何か手がかりでもあれば……」


 しかし、今はそんな事気にしている場合ではない。

 一刻も早く僧侶の少年を探さねばいけないのだ。


「……あれは何?」


 僧侶の少年を探して広場の中を歩き回っていたアスカ。

 そんな彼女の目に、ある物が留まった。


「……立札?」


 それは小さな立札だった。

 だが、その立札に書かれていた内容は、僧侶の少年の行き先を予想させる内容であった。


「奉仕労働……人を紹介できる……まさか!」


 奉仕労働の労働者の募集を募る立札には志願のみならず、紹介まで許可されている。

 いくら仲間を信じようと心掛けるアスカでも、こんな立札を見てしまったら何があったのか察しはつくだろう。


「あの馬鹿! まさかあの子を奉仕労働に出したって言うの!? だから私の質問に対する返事も……。それに、軟弱者が嫌いだっていうなら、それこそ「こういう場所で鍛えなさい!」とか言い出しそうだわ!」


 何があったのか大体把握したアスカはすぐさま宿の方に走り出した。










「パトラ! あんたねえ!」

「な、何!? アスカ……そんなに怒ってどうしたと言うの?」


 宿の部屋にパトラは居た。

 もう怒りを隠すことも無く、アスカはパトラに詰め寄る。


「あんたでしょ! あの子をあの場所から連れ出させたの!」

「な、何を言っているの!? そんなことするわけ……」


 この期に及んでまだ否定するパトラ。


「見たわよ! 広場にあった奉仕労働の立札! 紹介でも構わないって書いてあったわ! 大方、あんたがあの子を城の奉仕労働に出したんでしょ!」

「……っ!」

「あんたが持ってたあの袋の中身は、大方あの子を奉仕労働に出したことで得たお金でしょ! そして、あんたの事だから「軟弱者は鍛えなければいけないわ!」とか思って、あの子の意思など無視して無理やり城の奉仕労働に出した! 違う!?」

「……(不味い、不味いわ! このままじゃ……だけど、言っていることは事実だし……。けどそのまま認めるなんてできないわ……)」


 しかし、アスカが奉仕労働の立札の事を知ってしまった以上、言い逃れは不可能だ。

 だが、事実をそのまま認めるのは絶対に出来ない。

 もしそのまま認めたりなんかしたら、自分が勝手にやったことであると認めることになるからだ。


「パトラ! どうなのよ!?」

「……(このまま認めるわけにはいかないけど、奉仕労働に出したことは事実……。そうだわ! 言ってみたらあの子が自発的に向かったことにすれば……!)」


 奉仕労働の紹介を行ったことは認めるしかない。

 しかし、私が無理やり奉仕労働に行かせたと言う部分だけは認めない。

 それがパトラの出した答えだった。


「……ごめんなさい! すっかり忘れていたわ!」

「え? な、何の話よ……」


 理由も告げず、唐突にアスカに謝るパトラ。

 いきなり「忘れていた」と言われてアスカは当然困惑する。


「そうよ! 奉仕労働に紹介したのは私よ。あいつが身体を鍛えられるようにと考えて」

「やっぱりあんたの仕業だったんじゃない! あの袋の中身は大方礼金でしょ!」

「待って! 礼金なのはその通りよ。でも、違うの! 私は、無理矢理奉仕労働に出したりなんかしていない! ただ、奉仕労働の立札を見たことを話しただけなのよ!」


 もちろん、パトラの話は大嘘である。

 実際には、パトラは本人には何も言わずに直接勇者に紹介し、僧侶の少年を連れて行かせたのだ。

 この出鱈目でたらめは、ただ単にパトラが自分の立場を守ろうとして言っているだけだ。


「……あんたが奉仕労働を強制させない? やっぱり怪しいわね……。いつも、身体を鍛えないととか軟弱なのはいけないとか言っているじゃない。どういう風の吹き回しよ」

「わ、私だって、ちゃんと相手の事を考えているのよ。ええ。こんな奉仕労働に出したりしたら、さすがに旅への同行は出来ないでしょう? だから、ちゃんと話はしたの。ちゃんと話はしたわ。その上で、あいつは参加することを認めてくれて、城に向かったの」


 半信半疑な目でアスカはパトラを見ている。

 いくらなんでも、出来すぎているような気がしなくもないからだ。


「そうだわ! 伝言も預かっていたのよ! ああもう、何でこんな大事な事忘れてしまうのかしら、私は!」

「伝言?」


 だが、そんなアスカを信じ込ませるために、パトラは伝言を預かっていると嘘を言う。


「ええ。この奉仕労働で少しでも身体を鍛えて、役に立てるようにならないといけない。だから、少し離れるって言ってたわ」

「……そんな大事な事を忘れるあんたの頭って……。だから、すぐに出発しようって言ってたのね?」


 伝言すら忘れていた自分が呆れられてしまったが、アスカはパトラの言葉を一応は信じたようである。

 それどころか、自分が話した「すぐに出発する」発言の真意も勘違いしてくれたようである。

 もちろん実際には、僧侶の少年を置き去りにしようと考えていたのだ。


「……まあ、そう言う事なら一応信じてあげるわ。だけど……」

「だけど?」

「尚更、この邪魔な装備は処分しないといけないわね。あの子が抜けたんじゃ、持てないでしょ。どうしても捨てたくないなら、代わりに持ってくれる人を探さないとね」

「わ、私が何としても見つけるわ! だから、待ってて! 勝手に捨てたりしないで!(ひ、ひとまず私の首は繋がったわね! ああ、良かった……)」

次話以降やっとルーチェに戻れます。

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