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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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国境を見てみましょう

 ヒローズの出口を封鎖し、バグリャ側に行商人カモを入れようとしないヒローズ兵士。

 こんな事をされてバグリャ勇者が怒らないわけがなかった。

 即座に腰に着けている鞘から剣を抜き、駆け出す。


「僕の邪魔をする貧乏国家のゴミ虫め! 今すぐに死ねええええええええ!」


 ヒローズの東門の前に立ち塞がり、頑なに行商人達の通行を阻むヒローズの兵士に対し、バグリャ勇者が叫びながら斬りかかる。

 バグリャ勇者に反応し向き直ったヒローズ兵士に対し、殺意剥き出しで放たれたバグリャ勇者の一閃。

 その一撃が兵士の構えた盾を弾き飛ばす。

 直後、盾を弾き飛ばされた兵士の息の根を止めんと放たれる勇者の鋭い突き。

 喉目掛けて繰り出されたその突きが当たれば、即死は免れないだろう。


「くっ!」

「ちっ! 防がれたか!」


 しかし、その突きは兵士の喉を捉える寸前に兵士の剣によって弾かれ、兵士の喉を貫くには至らなかった。

 舌打ちしつつも剣を引き戻したバグリャ勇者に対し、盾を飛ばされた兵士が剣を振り上げて反撃する。 

 振り上げられた剣を飛びのいてかわしたバグリャ勇者がそのまま距離を取り、互いに警戒したまま向かい合う。


「……これはこれは、バグリャの勇者様ではないですか。いきなり斬りかかってくるとは、なんと物騒な」

「黙れ! 彼らのためにも今すぐその封鎖を解け、この屑が!」


 互いに相手の様子を窺うような状態になり、ヒローズの兵士がバグリャ勇者に話しかけてきた。

 バグリャ勇者は自分に反応を返したヒローズの兵士に対し、通行止めに遭っている商人たちのために即座に封鎖を解くよう命令する。


「何を言うんです。私がここを封鎖しているのは彼らのためですよ。それに、私が従うのはヒローズの命令です。あなたの命令ではありません」


 しかし、ヒローズの兵士はバグリャ勇者の言葉など聞く耳持たなかった。


「我々のため?」

「何を言っているんだ! これでは商売すらできないじゃないか!」

「通行止めのどこが我々のためなんだ!」


 そして、ヒローズの兵士の言った「行商人たちのため」という言葉に反応した行商人たちが抗議の声を上げる。

 彼らにしてみれば、ここを通ってバグリャや先の土地に行商に向かいたいところなのだが、ここで通行止めに遭ってしまってバグリャ方面に通れないのだ。

 抗議の声が出るのも当然であろう。


「この先に進むと、あなたたちが築いた財産も仕入れた商品も何もかも失ってしまいます! 行ってはいけません!」

「黙れ! 商人たちよ! こんな屑の言葉に騙されてはいけない! ヒローズは、君たち行商人を自国に閉じ込めて税金を巻き上げようとしている悪逆国家なのだ! その兵士の言っていることは完全な出鱈目でたらめだ!」


 行商人たちの抗議の声に対し、ヒローズの兵士が封鎖の理由を説明する。

 バグリャ勇者は当然その言葉を即座に否定し、出鱈目だと切り捨てる。


「嘘ではありません! こことバグリャの間には、無数の関所が設置されており、片道70万ゴールドという法外な通行料を奪われます!」

「違う! 出鱈目だ! そんな根も葉もない嘘偽りを僕の前で言うな! ……この屑があ! その口、二度と動かないようにしてやる!」

「い、一体どっちが正しいんだ……?」

「言っていることが正反対じゃないか……」


 ヒローズの兵士が行商人に告げた情報はもちろん嘘ではない。

 だが、バグリャ勇者が全力で否定するので、行商人たちはどちらが正しいのか分からなくなってしまった。

 そして、困惑する行商人たちを無視して、戦いはますます激しくなっていく。

 更に激昂したバグリャ勇者が、魔術を乱射しながら戦い始めたのだ。


「焼け死ねゴミ虫! ファイアボール!」


 勇者の手から放たれた無数の火球。しかし、その火球の矛先はヒローズの兵士だけでは無かった。


「う、うわああああ!?」

「ひい! 助けてくれー!」


 暴言と共にバグリャ勇者の手から放たれた無数の火球は、兵士を襲うのみならず行商人たちの方にも飛んでいく。

 流れ弾の一部が行商人を直撃し、容赦なく吹き飛ばして行った。


「くっ……行商人たちを巻き添えにするつもりですか!?」

「煩い! お前が死ねば封鎖は解けるんだ! だから死ね! 今すぐ死ね! ……アイスランス!」


 行商人たちを巻き添えにしているのも構わず、バグリャ勇者は兵士への攻撃を続ける。

 その右手に冷気が収束したと思うと、次の瞬間には無数の氷の槍を四方八方に飛ばし始めた。

 バグリャ勇者は制御など考えてもいないため、この氷の槍もヒローズの町中に飛来することとなった。

 一部の氷の槍が行商人たちの荷物を直撃し、文字通り氷漬けにしていく。

 中に入っていた物は恐らくすべて駄目になっただろう。


「う、うわあああ! 私の荷物が! ……ひいぃ!」


 そして、荷物を台無しにされた行商人本人にも氷の槍が襲い掛かる。

 その辺の市販品の槍よりも鋭く、冷たい槍が、行商人の命を奪わんと次々に飛来し、襲い掛かってくる。

 何とか串刺しは免れたものの、避難した行商人たちは全員傷だらけになっていた。


「……そうだ! 封鎖などできないようにすればいいんじゃないか! 名案だ!」


 ヒローズの兵士を攻撃して門から引きはがしたところでバグリャ勇者の頭に名案が浮かぶ。

 相手が門を封鎖して通れなくしているのなら、初めからこの門を壁ごと叩き壊せばよかったのだ。

 そのための力が自分にはある。自分は天に選ばれた正義の勇者なのだから。


「何をすると言うのです! これ以上の行い、いくら勇者様と言えども……」

「煩い! こんな門があるから僕の所に金が入ってこないんだ! だから壊してやる! お前ら、僕がこの門を破壊するまで僕を守れ!」

「はっ!」


 暴走を続けるバグリャ勇者は、今度はヒローズの町を覆う壁を破壊するための魔術を詠唱しはじめる。

 魔術の詠唱に入ったバグリャ勇者を守るように取り囲むバグリャの兵士。

 ここでようやく騒ぎに気づいたのか、ヒローズの兵士が町の方から集まって来た。

 兵士達の後ろにはヒローズの役人の姿もある。


「これは一体何の騒ぎですか!?」


 ヒローズの役人が東門を封鎖していた兵士に尋ねる。


「それが……バグリャの勇者が兵を引き連れて……」

「こんな壁があるからいけないんだ! 僕がこんな壁破壊してやる!」

「バ、バグリャ勇者様!? 一体何を……!」


 兵士に囲まれたバグリャ勇者の姿を見て動揺するヒローズの役人。

 そんな彼の方に意識を向けることも無く、バグリャ勇者はヒローズの壁目がけて魔術を放った。


「ヒローズのゴミ虫共! これが解放をもたらす勇者の正義の力だ! 見るがいい! ジャスティス・ブラスター!」


 狂気に染まった顔をヒローズの門と壁に向け、バグリャ勇者がヒローズの町を覆っている壁目がけて魔術を放つ。

 天に掲げられた勇者の手から怪しげな光が空に立ち上る。

 直後、無数の紫色の毒々しい破壊光線が空から降り注ぎ、ヒローズの壁を直撃。粉々に粉砕していく。


「な、なんという事を! 我が国の防護壁が……!」

「はーはっはっはっはっ! 壊れろ! 潰れろ! 僕の邪魔をする者は全部壊してやる! 正義を阻む物は、皆僕の手で壊してやる!」


 ヒローズの町を魔物などから守っていた石の壁はバグリャ勇者の魔術によって粉々に砕かれ、砕けた壁の残骸や壁の奥に向かって放たれた光線ジャスティス・ブラスターがヒローズの町をも破壊していくが、バグリャ勇者は気にも留めない。


「バグリャ勇者様! いくら勇者様と言えど、このような仕打ち、許すわけにはいきませんぞ!」


 ヒローズの役人が怒りの声を上げる。

 彼にしてみれば、バグリャの勇者がいきなり攻めてきて、わけのわからない理由で自国の防護壁や町を破壊して行ったのだ。

 怒らないわけがない。


「煩い! 僕の邪魔をする物は皆壊す! これは正義のためなのだからな!」


 しかし、そんな役人の言葉などバグリャ勇者は耳を貸さない。

 ヒローズの防護壁を破壊するだけ破壊し、町の建物や行商人に被害を与えるだけ与え、満足そうな表情を浮かべて悠々と去って行った。

 頭の中で「僕は正義のために正しい事を実行した!」とでも思っていそうである。


「な、なんという事だ……! 今すぐ議会を招集する! バグリャ勇者の横暴に対して、バグリャ王宮に謝罪と被害の修繕に関する賠償を求める使者を立てるのだ! 急いで招集せよ!」

「はっ!」


 ヒローズの町を破壊するだけ破壊して去って行ったバグリャ勇者。

 突然の凶行であるが、ヒローズの役人はすぐに対策を話し合うべく議会の他の人間を集めるよう兵士に指示した。





ーーーー





「さあ、アスカ! 今すぐ町を出発しましょう!」


 所変わってバグリャの町の宿の一室。

 僧侶の少年を奉仕と言う名の強制労働に出したパトラ――――厚手の鎧と兜で身を固めた少女が、アスカ――――赤毛の少女に強引に出発を促す。


「はあ!? いくらなんでも急すぎるでしょ! それに、あの邪魔な荷物処分しないと!」


 しかし、アスカは当然のように反対する。

 そもそも、この宿に置かれた邪魔な荷物も早く処分しないといけないのだ。 

 今すぐの出発など出来るわけがない。


「何を言っているのよ! あれは私の大事な……」

「あんな邪魔な荷物押し付けてこれ以上旅が出来るわけないでしょ! 今すぐ売り払うわよ!」


 それに当然のようにパトラは反発する――――が、聞き入れられるわけがない。

 アスカはやっぱりあの軟弱者を気遣うのか――――。

 そんな思いがパトラの胸の中に現れる。


(……待って。あの軟弱者は売り渡したわよね。……じゃあ、誰があの鎧を持つの? アスカ? ……論外よ。だってアスカは非常に強いもの。戦えるのに、あれを持たせるわけにはいかないわ。じゃあ、誰が持つの? 軟弱な男でしょ? そう言えば、あいつを売り飛ばしたら代えが居ないわね……)


 その時、唐突にパトラは大切な事を思い出した。

 そう、大量の荷物を持たせる相手が思いつかないのである。

 今まで四ヶ月もの間荷物を持たせてこき使っていた少年はもう強制労働の現場に売り渡してしまってここには居ない。

 では誰がこの荷物を持つのか。

 理屈で考えるとアスカか自分になるだろう。だが、戦える自分が荷物持ちになるなど論外であるし、アスカだってちゃんと戦えるのに戦力外にするわけにはいかない。

 ……このままではアスカの言うとおり処分するしかないのだ。


(ま、不味い! 不味いわ! 私の守護神たちを、このままだと失うことになる……!)


 自分の大切な鎧や兜を失うことになる。

 そう考えたパトラは必死で考える。

 この鎧や兜を失わなくて済む方法を、必死で考える。


「どうしたの、パトラ? 何必死に考え込んでるのよ。あんたもこの鎧や兜、運びなさい。さっさと処分するわよ」

「……」


 アスカの口から告げられた「処分」という言葉を聞き、パトラの頭は真っ白になる。


「……や」

「え?」

「嫌よ。嫌、絶対に嫌。嫌ったら嫌! 私の守護神たちを捨てるなんて、そんなの絶対に嫌!」


 何も考えられなくなったパトラの口から出たのは、防具に対する執着だった。


「……あんたね……こんな物誰が運ぶって言うのよ! 言っておくけど、私はこんなの運ばないから」

「あ、あなたが運ぶ必要はないわ。あなたは強いんだもの。だけど、それと鎧や兜を処分するのは違うと思わない?」


 まるで幼児の駄々みたいなパトラの反発に、呆れかえるアスカ。

 そんなアスカの言葉に、あなたが運ぶ必要はない。けど、だからって捨てるのは違うのではないかとパトラは必死に言い訳をする。


「確かに違うわね。でもね……邪魔なの! そして、行商人でもないのにこんなの持って旅をするなんて馬鹿みたいじゃない! ……あんたと話しても時間の無駄ね。あの子にも頼んでこの防具の山を処分しないと」


 話にならないと思われたのか、とうとうパトラをスルーして部屋を出て行ってしまったアスカ。

 その手には、パトラがこれまで購入した兜の一部が入った手提げ袋が。

 とりあえず、邪魔な防具を片っ端から売り飛ばすつもりらしい。


「ま、待って! 考え直して! こんな大事な防具を売り飛ばすなんて、とんでもないわ!」


 部屋を出て行ったアスカの手にあった物を見て正気に戻ったのか、パトラは大慌てでアスカを追いかける。




ーーーー




「……」

「アスカ! 待って! 考え直して!」


 大慌てでアスカを追いかけたパトラは、宿の外の路地でアスカに追いついた。


「私の話を聞いて! その守護神たちは……」

「ねえ、パトラ」

「え? 何?」

「宿に泊めるのは別の部屋に泊めても宿代がかさむから駄目だってあなたが主張して、ここに押し込めたのよね? ……あの子はどこ?」


 その言葉を聞いた瞬間、パトラは自分の顔から血の気が引くような感覚を感じた。

 ……自分が売り飛ばしたのがアスカにばれたら不味い。

 なんとしても誤魔化さなければ……。そんな思いが頭をよぎる。


「さ、さあ……散歩くらいするでしょ?」

「今までずっと一緒に行動していたのよ。個別行動なんてありえないわ。あの子は勇者の使命を何よりも大事にするから、独断行動をして勝手に居なくなるなんてありえない」

「い、今までだって、時々居なくなったりしたでしょ?」

「その時も、事前にちゃんと離れるって言っていたわ。何も言わずに居なくなるなんて……」


 アスカは口ではこう言っているが、自分を疑っているのではないのか?

 パトラの胸の中にそんな思いが生じる。


「あ、ありえないと思うけど……アスカ、私を疑ってるの?」

「パトラに限ってそんなことは……と言いたい。けど、あなたが外出してから戻ってきたときに持っていたあの袋の中身がお金だったとしたら……」

「ありえないわ! そんなことするわけないじゃない!」


 図星である。しかし、パトラはそんな物認めるわけにはいかない。

 仮にも勇者の一行に居るのに、まさか仲間を売ったなんて言われたら……。


「そう……そうよね。でも――――」


 そう言って振り返ったアスカが、パトラに自分の手を見せる。

 その手の中にあった物を見て、パトラは何も言えなくなった。


「どうして、ここに金貨が一枚落ちているの? この金貨、貴方が来るほんの少し前にこの場所で拾ったんだけど、一体どういう事なの?」


 パトラが僧侶の少年を売り飛ばした時にバグリャ勇者から渡された金貨と同じ物が、アスカがパトラに見せた手の中で光を反射して輝いていた……。

何でだろ。まだルーチェ達に戻れそうにない。

そして、安定の外道である。

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