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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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バグリャを覗いてみましょう

 三人称side


「無事にバグリャに帰ってこれたわね。ようやく一息つけたかしら?」

「何言ってるのよ。こんなところで休んでいる場合じゃないわ。すぐにでも旅を続けなければ!」


 少しだけこの場所に戻ってきたルーチェ達が去った翌日、バグリャにある宿の一室で、二人の女の子が椅子に座り、何やら話し合っていた。

 片方は厚手の鎧と兜を着こんだ……鎧の胸の部分と声で判断すると少女で、もう片方は活発そうな雰囲気の赤毛の少女だった。

 どうやらこの一行、ルーチェ達とすれ違った後、そのままバグリャまで戻ってきたようである。


「あのねえ……あんなもの持って旅なんかできるわけないでしょ! ここの店で、全部処分するからね! あの鎧と兜! ついでに要らない盾も!」


 部屋の端に山積みにされた大量の荷物を指さし、赤毛の少女が強い口調で告げる。

 荷物は部屋の天井に届くくらいの高さであり、その大半がこの厚手の装備で固めた少女が今まで着ていた鎧や兜であった。


「何ですって!? そんなことはさせないわ! あの防具達は、私の事を守り続けてきた守護神なのよ!」

「何言ってるのよ! あんなに大量に鎧を抱えてても、そもそも着ないでしょ! それに、かさばるし、重くて邪魔になるし、あの子の負担も増えるし……」

「何を言っているの? あいつに全部持たせているじゃない。それで問題ないでしょ?」

「問題よ! どう考えても、あんなに大量の荷物を持たせるなんて間違ってる!」


 彼女たちが話している「あの子」「あいつ」とは、ルーチェ達がすれ違った際、自分の背丈以上もある大量の荷物を背負い、彼女たちのかなり後方を歩いていた可哀想な少年である。

 今も、荷物はとりあえず彼女たちの泊まっている部屋に入れたものの、空き部屋が無いと言う理由と宿泊費の増大を避けるためと言う理由で部屋には入れてもらえずに外の路地で寝泊まりさせられている。


「あんな軟弱な奴、鍛えなければ使い物にならないわ!」

「鍛えるとか鍛えないとか以前に、身体を壊すじゃない!」

「何言っているの? この方法をすれば絶対に強くなるわ。……いえ、この方法についてこれないような奴では話にならないわ」

「あんな方法で強くなるわけないじゃない! 今すぐ止めさせるわ!」


 そして、宿の中で二人が話していた内容は、件の荷物持ちの少年に対する扱いであった。

 厚手の防具に身を固めた少女は少年に全ての荷物を持たせても何とも思っていないようであり、赤毛の少女の方は今すぐ止めさせないといけないと思っているようである。


「大体アスカ、貴方どうしてあの軟弱者に入れ込むの? あんな軟弱者戦闘では何の役にも立たないじゃない」


 厚手の装備の少女がアスカ――――赤毛の少女にそう尋ねる。

 どうやらこの厚手装備の少女は、荷物持ちの少年を軟弱者扱いして見下しているようである。


「入れ込むって……一緒に旅してるんだから、普通気遣うでしょ!? あんたは何でそこまで滅茶苦茶な態度が出来るのよ! あの子があんたに何かしたの!?」


 その言葉を聞いたアスカは即座に厚手装備の少女に反論し、逆に尋ねる。


「何もしていないわ。何もできるはずないしね。……だけど、あいつは明らかに足手纏あしてまといじゃない。力の無い男なんて、戦闘で何の役にも立たないわ。女の私に力で劣る時点で、論外よ」


 それに対する彼女の返答は、自分より力が弱い男=戦闘で何の役にも立たない足手纏という、滅茶苦茶な理屈であった。

 女の私に力で劣る時点で~と言う言葉が、明らかに件の少年を見下していることを認めたような発言になっている。


「女の私に力でって……重騎士のあんたと、僧侶のあの子じゃそもそも身体の作りが違うじゃない!」

「そんなの知ったことじゃないわ。私に力で劣っている時点で、そんな男に価値は無いの。それに、僧侶だからなんだと言うの? 私はこの装備がある以上、ダメージを受けることなどありえない。今まであいつに頼ったことなど一度も無いわ」


 厚手の装備の少女は重騎士――――全身を分厚い鎧で覆い、更に頑丈な兜と盾も装備した、大半の武器に対して圧倒的な強さを誇る部類の騎士であった。

 その厚手の鎧や兜は人の腕程はある厚さを誇り、その関節部分以外に攻撃が当たってもダメージを与えることは困難だろう。

 部屋でアスカと話している今はさすがに外しているが、盾も当然非常に巨大であり、自分の背丈の半分ほどはあろうかという大きさである。

 当然鎧や兜と同じくらいの厚さであるため、重量も凄まじい事になっているだろう。


「だから、そんなの今まで魔術を使う敵が出なかったからでしょ!」

「魔術も当然この鎧があれば防げるわ。何も恐れるものなど無いのよ」


 そして、運が良いのか悪いのか、魔術を使って攻撃してくるような相手に彼女達は今まで一度も出会ったことが無かった。

 それがこの重騎士の少女の慢心を助長させているのである。

 無論、彼女は魔術など防げると言っているが、実際にサンダーボルトのような電撃を使った魔術や、金属そのものにダメージを与えて一気に過熱させる炎の魔術など食らおうものなら、致命傷を受けるのは必然である。


「それに、私とあなたが居れば魔王討伐は成し遂げられるわ。あんな軟弱者は要らないの。ベルツェの騎士団長の娘であるこの私と、同じくベルツェの勇者に選ばれたあなた。この二人でも十分なのよ」

「何言ってるのよ! いくら私が勇者に選ばれたって言っても、まだ何も成し遂げてないのよ!? それに、私とあんたの二人になったら、それこそ荷物はどうするのよ!」

「そんな物、どこかで力のある男に持たせればいいじゃない。あの軟弱者には無理でも、もっと力の強い男になら持てるでしょ。入れ替えるべきよ」


 更に二人の会話は続く。

 重騎士の少女は、今荷物持ちをしている僧侶の少年をどこかで切り捨て、もっと力の強い男を入れるべきだと主張する。


「……大体ねえ……」

「何?」

「元はと言えば、あんたが余計な事をやらかしまくったからたくさんいた傭兵や護衛も全員辞めちゃったんじゃない! あんたの素行を知って辞めちゃった人だけでも相当な数になるわよ!?」

「ふん。くだらないわ。私に力の劣る男など皆軟弱者なのよ! 女の私に力で勝てない男など、大したことないわ!」


 重騎士の少女の「もっと力の強い男に入れ替えるべき」発言を聞いて怒りを露わにするアスカ。

 彼女――――重騎士の少女は、旅立ちの当初からこんな態度で周囲と問題ばかり引き起こし、ベルツェの王国がせっかく彼女達に付けてくれた大量の傭兵も護衛も皆辞めさせてしまったのだ。

 当然アスカは他の地域で新しい傭兵や護衛を雇おうとしたのだが、この重騎士の悪評は既に知れ渡っており、誰一人として雇う事は出来なかった。

 更に、そのために浮いたお金を、この重騎士の少女はあろうことか自分の防具コレクション(件の少年が押し付けられていた大量の荷物)を買い集めるために全部回してしまったのだ。

 これで無能ならば「お前の方が邪魔なんだよ! 出ていけ!」とでも言えたかもしれないが、残念なことにこの重騎士、腕力だけは強いので追い出すこともできないのであった。


「はあ……頭が痛くなってくる……」

「何であなたはあんな軟弱者の事を気にするの……。軟弱者には価値なんてないじゃない、あなたは間違っているわ。少しでも私の話を聞いて、考えを改めなさい」


 そう言い放つと、話は終わりだとばかりに立ち上がって部屋の入り口に向かって歩いていく重騎士の少女。

 その手には愛用しているのであろう三又の槍と巨大な盾が握られていた。


「え? ちょっと、どこへ……」

「鍛錬よ。護衛護衛とあなたは言うけど、護衛なんか必要ないって事をこれからも私が証明してあげるわ」


 それだけ言って重騎士の少女は部屋を出て行ってしまった。

 彼女が出て行った後、アスカは一人頭を抱える。


「……あんたの極論なんか、聞けるわけないじゃない……。それにしても、あの子との話し合いはこれで何度目なのかしら……」




ーーーー




 金属同士がぶつかり合う非常に騒々しい音を立てて鉄の塊がバグリャの町の中を駆け抜けていた。

 先ほどの重騎士の少女である。

 彼女は、町に居る時にはこの走り込みを欠かすことは無く、それはこの町でも同様だった。

 両手にはちゃんと武器と盾を持ち、時折武器や盾を構えて実戦を想定したような動きを行っている。


「……こんな物ね。それにしても、この町は素晴らしい町だわ。軟弱そうな男の姿がどこにも見当たらない。軟弱な男は、見ているだけで苛々するもの。居ないと言うのは実にすばらしいわ」


 日課としている訓練を終えたのか、バグリャの広場で一休みしている重騎士の少女。

 今の彼女はかなり上機嫌だった。と言うのも、彼女が町を駆け抜けたとき、町中に男の姿が全く無かったのだ。

 これは彼女にとっては実にすばらしい事であった。

 どこの町に行っても、目につくのは線の細い軟弱な男ばかり。たまに強そうな見た目の人間に出会っても大抵見かけ倒しで、最近は見る事すら嫌になっていたのだ。


「あら? 何かしら、あの立札は」


 そのとき、彼女の目に広場の一角に突き刺さった立札が映った。

 気になった彼女はその立札の所まで歩いていき、書いてあることを読み始めた。


「……バグリャ王宮再建のための奉仕労働、労働者が足りないので冒険者からも募ります。男であるなら年齢などは一切問いません。協力してくれる方、もしくは誰か紹介していただける方は、気軽に近くの兵士に声をかけてください。……これは……」


 彼女が見た立札に書かれていたのは、バグリャ王宮の再建事業の立札だった。

 匠の手によって爆破され、マグマを流し込まれて半壊した王宮は、未だに元の姿を取り戻せてはいなかったのだ。

 だが、そんな事よりの彼女の目に留まる物があった。


「誰か紹介していただける方……つまり、私があの軟弱者を紹介しても構わないと言う事かしら?」


 この立札には、バグリャ王宮の再建に携わる労働者を「紹介していただける方」も募集していたのだ。

 つまり、それが本人の意思かどうかは完全に無関係である。


「……とりあえず、兵士と話をしてみようかしら」


 思い立ったら行動あるのみ。彼女は見回りで広場の外を歩いていた兵士と青年の所に行き、さっそく話しかけたのであった。






「ねえ。城の再建のために労働力を提供できる人が居るのだけど、紹介しましょうか?」


 広場の外を歩いていた兵士と青年の前に走っていき、声をかける重騎士の少女。


「勇者様。ここに勇者様がいる以上、対応は……」

「分かっているよ。……助かるけど、一体誰が手伝ってくれるんだい?(……この子は……女の子か? 声は女の子だし、この鎧の突き出た胸の形状は多分女の子だからだな、うん。…………だからって、この不恰好な鎧と兜は……これじゃあ肝心の顔も身体も全く見えないじゃないか!)」


 彼女が声をかけた兵士と共に歩いていたのはバグリャ勇者だった。

 しかし、そのバグリャ勇者もこの少女の珍妙な鎧だけは微妙な表情をしていた。


「私の知り合いに一人居るの、そういう作業にうってつけの男の子。あげるわ。城の再建に使って(勇者? ……まさか、こんなひ弱そうな見た目の勇者が居るわけないわね)」


 あっさりと荷物持ちの少年をバグリャ勇者に売り飛ばしてしまった重騎士の少女。

 いくら軟弱者扱いしているとはいえ、最低である。


「……話は分かった。つまり、君の知り合いが労働力になると言う事だね?」

「ええ。そうよ。あんな軟弱者、好きに使って構わないわ」


 話はあっさりと終了した。

 この場に居ない本人の承諾など不要である。


「勇者様。今から回収に向かいますか?」

「当然だ。君、その協力者の所に連れて行ってくれないか?」

「ええ。こっちよ。ついてきて(やっぱり勇者呼ばわりね。……こんな軟弱者がどうして?)」


 話をまとめた一行は「協力者」の回収のためにその協力者の所に向かって歩きはじめたのだった。




ーーーー




「こいつが貴方たちの城の再建事業に協力したいって申し出たのよ」


 宿の横の狭い路地に居た荷物持ちの少年を引きずり出し、アスカなど無視して勝手に引き渡す重騎士の少女。

 少年は何も言えずに兵士に連行されていってしまった。


「労働力の提供、感謝するよ。少ないが、これは紹介してくれた君へのお礼だ……。それじゃあ、ね」


 城に連行されていった少年を見送ると、バグリャ勇者は、労働力を提供してくれた重騎士の少女に袋詰めの金貨を手渡して去って行った。


「い、いったいどれだけの金額があるのかしら? ……それにしても、あの軟弱者を売り飛ばしてこの大金。こんな事があると知っていたなら、確かにアスカの言うとおりだったわね。下手に追い出さずにここで売り飛ばせばよかったわ」


 袋に入った金貨を数えながら、彼女はそんな事を呟いていた。

次話もバグリャ編になると思います。

売り飛ばされた少年の運命は……。

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