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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
105/168

魔法陣を作ってみましょう

元旦投稿は出来ました。心機一転して少しでも執筆のペースを上げたいところですが……。

「ジル、いくらなんでも出鱈目でたらめは不味いよ……」


 バグッタへ通じる門の前まで戻ってきたとき、私はギルドでのさっきのジルの対応の事を口にした。

 確かに、ジルが交渉という名の脅しをしたおかげでバグリャギルドで無事に報酬は手に入れられた。

 だけど……いくらなんでも、嘘を報告するなんて不味いよ……。

 バグッタがそこまで危険な場所じゃないことは分かってるでしょ?


「何言ってるんですかルーチェさん。もし真実を知ったら、バグリャの勇者などが今度はバグッタに踏み込んでくるかもしれませんよ? そうなったら困るのは私達です」

「……それはそうだけど……でも、こんなの詐欺だよ? 嘘の報告をするなんて」


 いくら相手が敵同然の立場でも、さすがにこれは……。

 嘘を報告するなんてもうギルドと冒険者の信頼すら成り立たないよ……。


「甘いですよ、ルーチェさん。バグッタではここを捨てた人たちがようやく安心して暮らしています。彼らを守る方が、よほど正しい事だと思いますよ」

「……」


 ジルの言う事に納得はできる。

 実際、酒場の人の話でも、全財産を勇者に奪われ、お嫁さんもろとも失った人の話とかあったし……。

 ああいった人たちにとってみればバグッタは安住の地なんだし、そこを守ることの方が大事だとは思う。

 でも……。


「ルーチェ。お前は経験が少ないから分からないかもしれないが、場合によっては、嘘をついて真実を知らさない方がいいことだってある。今回みたいにな。覚えておいた方がいいぞ」

「……」


 ルシファーが諭すようにそう言ってきた。

 ……でも、やっぱり間違ってるような気がしなくもないよ……。


「さて、急いでバグッタに戻りましょう。バグリャ勇者に見つかりたくないですからね」

「……そうだね。急いで戻ろう」


 ……まあ、そんな話は後でゆっくりすればいいよね。

 早く門の中に入ってバグッタに戻ろう。


「しかし、この身体が強引に引っ張り込まれる感覚は、どうにも慣れないですね」


 転移が始まる前、ジルがバグッタへの転移について呟いた。

 ……まあ、これはどうにも慣れないよ。

 強引に身体を引っ張り込まれたり、浮上させられるような感覚は……。

 でも、転移の魔術ってこんな感じなんだろうな……。




ーーーー




「……無事に戻ってきましたね」

「うん。……ところで、これからどうする?」


 無事にバグッタに戻ってきたところで、これからの予定を考える。

 今日頼んだばっかりで防具はまだ出来ていないし、防具ができていない以上、土管の途中の壁の奥に進むのも危険が伴う。

 ……何かできることはないかな?


「……と言っても、何もできないな。完成した装備があったらルーチェが持っている魔法陣の本の中身を実際に使えるか試してみたいものだが……」

「そうだよね……って、待って。それだよ!」

「ん?」

「魔法陣! ちゃんと使えるのかどうか試しておかないと!」


 確かに、裏鍛冶屋で魔法陣の本は貰ったけど、実際に使えるかどうか分からないから試した方が良くないかな?


「……確かに、使えるのかどうかの確認は大事ですよね。実際に使うことができないと宝の持ち腐れです」

「じゃあ、これから魔法陣を実際に使えるかどうか試してみる?」


 本命が来る前に、魔法陣そのものが使えるかどうかの確認は大事だと思うし。


「そうだな。……だが、どこで魔法陣を描くつもりだ? 言っておくが、一度完成した魔法陣は、その後使えなくなったとしても魔力を流し込んだら誰でも使えるようになるんだぞ?」

「そこなんだよね……」


 変な場所で魔法陣を作って、誰かに悪用されたら困るしね……。


「……そうですね……。魔法陣を刻んだ板を持ち運ぶというのはどうでしょうか?」

「魔法陣を刻んだ板を……?」


 いったいどういう事なの、ジル?


「例えばですよ。大きな板に魔法陣を刻み込んだものを持ち運ぶとしたらどうでしょうか? これなら、私達が常に持ち運んでいるので他の誰かの手に渡ることはありません」

「確かに、それなら大丈夫だよね。私達には収納用のアイテムもあるわけだし」


 マディスが持ってるあの丸い入れ物なら何でも入るしね。

 ……じゃあ、さっそく空き地に移動して、そこで試しに魔法陣を作ってみる?

 どのみち明後日まで暇なわけだし。


「そうしましょう。……誰も来ない空き地……あの土管のある場所でしょうか?」

「もしかすると誰か来るかもしれないが、空き地の隅に集まっていれば恐らく大丈夫だろうな」


 じゃあ、土管のある空き地に移動してさっそく始めよう。




ーーーー



「着いたな。……この辺なら大丈夫か?」

「大丈夫だと思うよ」

「じゃあ、やっていきましょうか」

「うん」


 隣の区画――――鍛冶屋や服屋のある場所に向かうための土管のある空き地に到着し、さっそく魔法陣の作成に取り掛かることに。

 ……まずは魔法陣を刻むための土台かな?


「魔法陣を刻む土台の材料は何にする気だ? ミスリルか?」

「いえ、木材で良いでしょう。幸い、匠の家から押収していますし」


 そう言いながら匠の家だった木材を取り出し、まとめて縄で縛りはじめるジル。

 ……待って。木材だと微妙に隙間ができるような気が……。


「本当ですね。微妙に隙間が出来てしまいます」

「大丈夫だ。この上にこれから固めた土を乗せて、ファイアボールで土を焼いて固めてしまえば、そこに魔法陣を刻める」

「……じゃあ、これを焼いてもらえます? ルーチェさん」

「分かった。じゃあ、少し離れてくれる?」


 ……土を焼いて固めるのかな? まあ、それなら力ずくで叩き割ったりしない限り崩れたりはしないし、大丈夫だよね。

 でも、普段通りに撃っても土が固まるほどの火力は出ないだろうから……。


「業火収束し焼き尽くせ。――――ファイアボール!」


 詠唱して魔力を練り集め、普段放っている物より大きめの火球を放つ。

 土台になってる木まで燃やさないように注意しないと……。


「これで土台の方は大丈夫そうですね。さて、次は――――」

「どの魔法陣から作る? 軽く目を通しただけだけど、数百個は魔法陣があるよ?」


 本を見ていたマディスがジルにどの魔法陣を作るのか聞いてきた。

 ……土台は土が焼ければ完成するけど、魔法陣はどれから作ってみる?


「……最初ですし、ヒローズで買った安物の武器に特殊効果をつけて遊びましょう。面白い効果が良いですね」

「特殊効果……と言っても、面白い物、みたいに言うんじゃなくて、もっとどんなものにするのかはっきり決めないといけないよ?」


 数百単位で魔法陣があるから、事前にしっかり計画しないとどの魔法陣を作れば良いのか迷っちゃいそうだよ。


「何言ってるんですかルーチェさん。そんなの適当でも良いじゃないですか。気分で決めましょう」

「良くないよ!? 行き当たりばったりで決めちゃうのは問題だって!」


 だって、もし適当に作って変な効果をつけちゃってたりしたら……。

 ……まず無いと思うけど、呪いをかけていたのに気付かずうっかり私達で使ったりしたら、それこそ大変なことになっちゃうよ!


「何馬鹿なこと言ってるんですかルーチェさん。そんなことするわけないでしょう?」


 口ではそう言っているけど、マディスと一緒にジルが見ているのは呪いの頁だった。


「そう言いながら魔法陣の本の呪いの項目を探すのは止めようよ! マディスも!」

「呪い、か~。面白そうだけど、自分たちが使う事を考えると止めた方がいいよね?」


 マディスがルシファーの方を見て言う。

 自分たちが呪いをかけた装備を使うなんて、完全に馬鹿みたいだよ!


「ああ、はっきり言って自殺行為だ。好奇心でやったら確実に自分の首を絞めるぞ」


 ほら、ルシファーもこう言ってるし!


「分かりましたよ。……じゃあ、呪いをかけた武器は武器屋に高値で売りつけますね」

「余計悪いよ!」


 武器屋に売りつけるって事は、他の誰かの手に渡るって事じゃない!

 呪いのかかった装備品をばらまくとか論外だから!


「ええ。ですから呪いをかけたとは言わずに……あ。良い事を思いつきましたよ、ルーチェさん」

「……絶対ロクな事じゃない気がするけど……何?」

「悪い人に呪いのかかった装備品を伝説の武器などと嘘を言って送り付けて、呪いの効果で自滅させるのはどうでしょう?」

「……相手がやった悪事にもよるけど、流石にそれは酷くないかな……?」


 呪いの内容次第では悪い意味で伝説になりそうだけど……。


「悪い意味なんかじゃありませんよ。悪人を破滅させるんですから、良い意味で伝説になるはずです」

「……悪人か善人かはともかく、破滅させる時点で悪い意味での伝説にしかならないような……」


 いくら悪人でも、装備した人を破滅させるような装備が良い意味で伝説の装備になるなんてことはありえないよ……。


「最初なんだし、無難に何かしらの属性でも付加したらどうだ?」

「属性付加、ですか?」


 ルシファーが唐突に提案をしてきた。

 属性付加……えっと、それってどういう事だったっけ?


「マディス、その本に属性の魔法陣は――――」

「載ってるよ。えっと――――武器や防具、その他の物に属性を付加させることで、以後その属性に対する耐性やその属性での攻撃を行えるようにする、って事みたいだよ」


 耐性? 強くなるって事?


「ルシファーさんの剣も確か……」

「精霊を殺した後で闇属性の加護を与えた。だから、この剣は闇の魔法と同じような効果を発揮する」


 あの無数の黒い光線を発射する技とかね。

 ……じゃあ、それと似たようなことができるようになるの?


「……いや、あれはこの剣に元々あった能力が闇属性付加の魔法陣の影響を受けただけだ。元々そう言う力が武器に備わっていなければ使えない」

「……闇属性の加護を与えたところであの攻撃を使えるようになるわけじゃないんですね」


 まあ、それは仕方ないのかな?

 ルシファーが持っている剣はもともと勇者の使う聖剣だったみたいだし、素材からして特別だもんね。


「……じゃあさ、ヒローズで買った安物の盾に属性付加してみようか」


 属性の話を聞いていたマディスが盾に属性をつけることを提案した。


「盾ですか? まあ、最初ですし、試しにやるなら何でもいいでしょう」

「そうだね。ところで、どの属性をつけるの?」

「燃えないようにできるかどうか試したいから、炎属性を付加してみようと思ったけど、どうかな?」


 燃えないように……か。悪くないね。


「良いんじゃないか? 幸い実験ならすぐに出来る」

「決まりですね。……では、固めた土に魔法陣を刻んでいきましょうか」


 最初に作る魔法陣は炎属性の加護を与える物に決まった。

 さっそく作業に取り掛かる私達。

 魔法陣の本を見ながら焼けて固まった土に円を描き、文字を刻み、不可思議な図形のような物も円の中に書き込んでいく。

 魔法陣の本に書いてある通りになるように注意し、寸分の狂いも無いように注意する。

 慎重に魔法陣を作り上げていった。


「……これで合ってるかな?」

「……合ってると思うけど、どうだろ?」


 作業が一通り終わり、完成した魔法陣を本の中に書いてある魔法陣と見比べる。

 ……一見違う所は無さそうだけど……。


「……ええと、次は……触媒ですか? 炎結晶を魔法陣の真ん中に置く、と書いていますけど」

「炎結晶? これを魔法陣の真ん中に置けばいいの?」


 ジルが呟いた炎結晶という名前に反応してすぐに赤く光る石を取り出し、魔法陣の真ん中に置いたマディス。

 この○結晶って名前、聞き覚えがあったと思ったけど、やっぱり……。


「……マディスさんの薬の材料ですか?」

「みたいだね。聞き覚えがあったんだけど、そう言う事だったんだ」


 まあ、これなら魔法陣を作ること自体は苦労しないかな?

 そう思った直後、刻んだ魔法陣から光が放たれた。


「光ったと思ったら、魔法陣に色がついたよ?」

「刻んだ魔法陣が赤色になりましたね。……これで準備できたと言う事でしょうか?」


 マディスとジルの言葉通り、さっきまでただ焼いた土に刻んだだけだったはずの魔法陣は、今はうっすらと赤色の光を放っていた。


「さて、ここからが大変だ。魔法陣は魔力を注がなければ機能しない。つまり……」

「私達でこの魔法陣に魔力を注ぐって事?」

「そう言う事だ」


 ……魔法陣に魔力を注ぐ……。

 ここまで来たんだし、やるしかないよね!


「どうやって魔法陣に魔力を注ぐんですか?」

「俺がやった時は単に魔法陣目がけて魔力を放出し続けたな」

「ルーチェさん、やりましょう」

「うん。やろう、ジル」


 ジルと私は魔法陣を挟んで向い合せになるような位置に立ち、魔力を魔法陣に向かって放つ。

 魔法陣に魔力を流すと、魔法陣の放つ光が少し強くなる。

 これを続ければいいのかな?


「マディス。加護を与える予定の盾を魔法陣の真ん中に置け」

「分かった。じゃあ、これを置くよ」


 マディスが魔法陣の真ん中に盾を置くと、魔法陣の放つ赤い光が盾に集まり始めた。

 この光が、加護……なのかな?


「本当にこれで良いんでしょうか? 何も変わった様子がありませんけど……」


 ジルが呟いたのが聞こえた。

 ……また、何も見えないの?


「……また不思議そうな顔をしてますね。ルーチェさんには何が見えてるんですか?」


 ……魔法陣から放たれた赤い光が盾に集まって、包み込もうとしている光景が見えているんだけど……。

 やっぱり何も見えないの?


「ええ。全く……。私には違いがまったく分からないので、完成したら教えてください」

「分かった。……と言っても、まだ終わらないみたいだけど」


 盾を赤い光が包み終わったと思ったら、その上から更に赤い光が盾を包み込み始めた。

 ……二重になってるけど……。


「……デュランダルはオーラの色が変わって判断できたが、全く分からないな」

「何が違うんだろ?」


 ……これも私にしか違いが分からないんだ……。

 ……でも、出来るところまで包み込ませればいいかな?

 限界まで来たら多分止まると思うし。








ーーーー








「……変わらなくなった? 一旦止めて、ジル」

「はい。……確かに、魔法陣を動かすのは大変ですね」


 赤い光が五回盾を包み込んだところで光に変化が起きた。

 さっきまでは盾に集まるように動いていたのに、盾に全く集まらなくなってしまった。

 代わりに魔法陣の中に吸い込まれるように光が集まって行って、魔法陣に赤い光が蓄えられているような状態になっている。


「終わったのか? ずいぶん長かったが」


 魔力を流すのを止めた私に、ルシファーが声をかけてきた。


「……うん、五回、赤い光が盾に纏わりついてたから、どこまで纏わりつくのか、って思って……!?」


 その直後、急に身体から力が抜けるような感覚に襲われ、私は身体を支えきれずにその場に座り込んだ。

 見ると、ジルもテーブルナイフを支えにして立っている。

 駆け寄って行ったマディスに肩を借りていた。


「……大丈夫か?」

「大丈夫……。急に、力が抜けちゃって……」


 何でかな? 魔力を魔法陣に注ぐときは全然疲れなんて感じなかったのに……。


「魔法陣に魔力を注いだからだな。立てるか?」

「ちょっと、無理かも……」


 力が入りそうにない。というか、身体がすごく怠くて……。


「少し休んでろ」

「……分かった。……でも、こんなに疲れる物なんだ……」


 魔法陣……思ったより大変かも……。


「おまけに、失敗したら何の効果も発生しない。……少しでも異変を感じたらすぐに止めろよ?」

「分かった……」


 盾は無事に出来たのかな?

 マディスが……魔法陣の上に置かれた盾を、回収して……。

 魔法陣を収納……し、て……。


「……ルーチェ?」

「なんだか、凄く……眠くて……」


 ルシファーの顔を見ようとしても、身体に力が入らない。

 そのまま私の意識は途切れてしまった。

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