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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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服屋に向かいましょう

 あれからしばらく、ジルと私は貰った魔法陣の本を読んでいた。

 どうやらルシファーが言ったように、呪いと加護は向いている方向が違うだけでほとんど変わらないみたい。

 ルシファーに渡された闇の力を付与する魔法陣や精霊を殺す魔法陣までちゃんとこの本に載っていた。


「……精霊殺しって凄いですね。選ばれたもの以外でもその武器や防具を使えるようにする画期的な魔法陣ですよ、これ」


 ジルが精霊殺しの魔法陣が載っているページを見ながら感心したように呟く。

 精霊殺しの魔法陣のページには「特定の人間しか装備できないような武器、防具はそれらの装備に宿る精霊が装備することを拒んでいるからだ」という旨が書いてあり、この魔法陣を使う事で装備品に宿る精霊を無理矢理消し去って誰でも使える武器、防具に変えてしまえるらしい。

 ……伝説の勇者とかそう言う類の人が聞いたら激怒するよね、これ。


「自分が「選ばれし者」という特権事態に関わりますからね。勇者専用装備を他の誰かが自在に使えるようになった、なんてことになったら当事者からすると許されざる事態です」

「良い事のようで、実は滅茶苦茶悪い事なんだよね……」


 誰にでも使えるようになる。って、一見素晴らしいけど、それって誰かの特別を奪う事になってるから、影響を受ける人からすると冗談じゃないよね。

 自分にしか出来ないって言う特別な価値を失うことになっちゃうもん。


「ま、私達からするとそれでもいいと思えますけどね。これって、私たちがそういった事と関係ない立場だから思えるんでしょうか」

「そうかもしれないね」


 もし……もしの話だけど、自分にしか使えないはずの装備を他の人が使えるようになっちゃったら、それはそれですごく嫌な気分になるだろうから……。

 自分がそれまで味わっていた「特別」扱いされてる感覚を失っちゃうわけだし……。


「どうせ使われるならより強い使い手に渡った方が武器も幸せだと思うんですけどね」

「精霊にとっては、そう言う問題じゃないのかもね」


 特定の相手……これって要するに、運命の人みたいなものだもん。


「ルーチェさん、装備品に選ばれた人は装備の恋人か何かですか? ……とはいえ、精霊の考える事なんて分かりませんからね」

「精霊と話せる人なんていないだろうしね」


 そもそも加護自体見えない人ばっかりだし。

 というか、どうして私には加護が見えてるのかな?


「お待たせ~」

「待たせたな。……何を読んでるんだ?」

「魔法陣の本。……もう鎧の採寸は終わったの?」


 ジルと精霊のことを話しているとルシファーとマディスが戻ってきた。


「ああ、明後日には仕上げる、って言ってたな。……しかし、作らせてくれればそれでいい! 金なんか要らないよ! って言われるとは思わなかった」

「本当だよね~。むしろこっちが生活の心配をしちゃうよ」


 ……あの人、まさか無料ただで引き受けちゃったの?


「ああ。最後に「向こうじゃ絶対に勝負にならない、最高の鎧を仕上げてやるから楽しみにしてな!」って言われたよ」

「その言葉が真実なら、わざわざ表の鍛冶屋に行く必要ないですね、ルシファーさん」

「真実ならな」


 ジルと会話を交わすルシファーは鎧の完成を楽しみにしているようだった。

 ……これで鎧の作成依頼も終わったし、次はどこに行く? 服屋?


「そうですね……やはり服屋でしょうか。私もルーチェさんもマディスさんも鎧は着ませんからね……」

「じゃあ、手当たり次第に向かうか?」

「うーん、どうだろ? ここみたいに、またどこか変な場所に服屋があるのかも……」


 裏服屋、とか言って本当に商売してそうな気がするよ。


「いや、いくらなんでもそれは無いだろ、ルーチェ。向こうの町の人間が普通にあの衣装を持ってたんだぞ?」

「あ、そっか……」


 あの導師の衣装を持ってる人が居る時点で、普通の人でも手に入るって事だよね。


「でも、どこにあるのかな?」

「ここで聞いていきます? 人形を相手に何か言っているあの人なんか、絶対詳しそうですよ」


 ジルの指さす場所には、私たちが入ってきたときからここに居る、人形に向かって変な事を言っている人が。

 人形がいつの間にか変わっているけど、その人形の着ている服は黒色のローブととんがり帽子……確かに、何かの物語に出てきそうな格好だよね。


「ぼ、僕はお前の上官なんだぞ! その僕に逆らう気か!? 人形風情が!」

「すいません。尋ねたいことがあるんですけど、少しよろしいでしょうか?」


 黒色のローブを着た人形に向かって変な事を言っている人にジルが話しかけた。

 ……この人、人形劇でもやってるのかな?


「……ええと、何だい?」


 まさか話しかけられるとは思ってなかったのか、男性は数秒固まった後にこちらに振り返った。


「こんな感じの服を売っている店、知らないですか?」


 そんな男性に対し、ジルが導師の衣装を見せる。


「ああ「職衣装ジョブコス」に行きたいのかい?」


 ジルが見せた服を見た男性は考えるそぶりもせず、即座に答えを返してきた。

 ……職衣装? そこで、こんな服が売ってるの?


「職衣装? そこが、この服を売っている場所ですか?」


 ジルが私の聞きたいことを代弁するように尋ねた。


「ああ、最高の服屋、職衣装だ。その服も、これも、あの店でしか作れない」


 人形に話しかけていた男の人はジルの言葉を肯定した。

 ……職衣装……そんなにすごい店なの?


「そこでしか作ってない……すごい店なんでしょうね」

「すごいなんてものじゃない。あらゆる衣装が揃っていると言っても過言ではない!」

「そうなんですか……あらゆる衣装が……」

「見たまえ、この子(人形)の着ているこの衣装! 闇の力を使う魔術師のような雰囲気を出しつつも、どことなく幻想的な感じがするだろう!?」

「え? ええ……(そんなこと言われても全然わからないですけど……)」

「こんな雰囲気の衣装を作り出せるのは、あの店だけだ! あの店の店主にしか、こんな衣装を作り出すことは出来ないのだよ! ああ! この三角形のとんがり帽子! 実に見事な手触りだ! 無論、この黒色のローブの方も最高級の素材で作られている! 絹や羊毛! ミスリル糸! 貴重な素材も高級な素材も惜しみなく投入されているだけあり、まさに最高級品だ!」

「は、はあ……」


 男の人は突然ジルに凄い勢いで人形の衣装の事を話し始めた。

 ……話を聞いているジルはついて行けなくて引いてるけど……。


「あの、どこにあるのか教えてほしいんですけど……」


 このまま放っておいたら延々と話し続けると思ったので、会話に割り込んで話を中断させ、さっさと場所を教えてもらう事に。

 ……そもそも私達にそんなこと言っても全く分からないよ。


「え? ああ、すまない。職衣装の場所は町の西側にある転移用の魔法陣の近くだ。あの魔法陣は凄く目立つから見たらすぐにわかると思うよ」

「ありがとうございます。……それでは、これで失礼します」


 とりあえず場所は聞いたし、行こう。

 人形の着ている服の事なんか言われてもわけ分からないよ。




ーーーー




「結局、何だったんでしょうか。あの人……」


 鍛冶屋を出て路地を抜け、表通りに帰ってくるとジルが呟いた。

 間違いなく人形に話しかけてた変な人の事だよね。


「まったく理解できない世界の人間だな。人形に服を着せて楽しむ趣味でもあるのか?」


 それもなんか違うような気がする……。

 人形に着せる服の事を語りたいだけならそもそもその服屋に居ると思うし……。


「……まあ、あの人の事は忘れてしまっても問題ないですよね。それより、服屋の場所ですが……」

「確か、転移用の魔法陣の近くだっけ?」


 鍛冶屋での会話を思い出す。町の西側に行かないと。

 目印になってる転移用の魔法陣はかなり目立つらしいけど……。


「町の西側にはまだ行ったことが無いよね、ルーチェ?」

「うん。鍛冶屋を探すときには入らなかったよ」


 鍛冶屋を探すときには町の東側しか歩いていない。

 鍛冶屋がここに集まっていたからなんだけど。


「西側には……あの分かれ道を左に曲がればいいんでしょうか。看板が立っていますし」

「みたいだな」

「ちょっと見てきます」


 前を歩いていたジルが看板を見つけたらしく、看板の所まで駆けていった。


「ジル、道は合ってる?」

「はい。この看板に左の道:転移用魔法陣、右の道:バグッタ鉱山と書いています」

「鉱山? それって……」


 右手に見える大きな山かな?

 見上げると遠くに煙が上がっている大きな山が見えるし。


「鉱山が無ければ鉱石なんて取れないでしょうしね。ああいった山が無いとこの場所が鍛冶屋、武器屋、防具屋の集まりになることも無いでしょう」

「鉱石か……」


 ……もっとも、匠からの押収でもう鉱石なんか必要ない! ってくらい沢山のミスリルを手に入れたわけだけど。


「ですよね。でも……」


 マディスの方を見るジル。

 どうしたの?


「まあ、鉱石は調合に必要だけど、わざわざ鉱山から盗み出そうとは思ってないよ? 大体、普通の金属でも問題ないしね。鉱石の方が小さい塊だから使いやすいってだけだし」

「そう言えばマディスの薬に使うっけ」


 あの身体を頑丈にする薬……。

 材料は鉱石と樹皮だったっけ?


「うん。……そう言えば、こうやって旅をしてる以上材料の補充も簡単には出来ないよね」

「確かに、マディスさんが使っている鉱石やあの結晶なんか、道具屋では買えませんよね」

「ヒローズの店には定期的に行ったけど、少なくとも店では見たことが無いよ。自発的に歩き回って集めていたしね」


 ……マディスの薬の材料の補充も考えた方がいいかな?

 どこかで鉱石を大量に買い付ける?


「……そういう店があるなら考えなくもないかも。でも、まだまだ余裕はあるよ? コストが悪くなるけど、最悪金属でも代用が利くからね」

「だが、いつ補充できるかは分からないだろ? 見つけたら遠慮せず補充しておけ」


 まだまだ余裕はある、か……。

 でも、ルシファーの言う事も尤もだよね。

 いつ補充できるかなんて分からないし。


「分かったよ。じゃあ、見つけたら買って行って構わない?」

「もちろん。薬の材料は必要だからね」


 あの薬に助けられてる場面がかなり多いし、無いと困るからね。


「ところで、左の道に行けば良いんですよね?」

「この看板にはそう書いてあるけど……」


 ジルが見ていた看板に目を通すと、さっきジルが言ったことそのままの内容が書いてあった。


「……あれ、何でしょうか?」

「……え? 何あれ?」


 ジルが左の道の先を指さしたのでその方向に目を向けると、七色に輝く塔のような物が遠くに確認できた。

 ……七色に輝く塔? ……何で塔が輝いてるの?


「なるほどね~。確かに、目立つよね」

「まさか、あれが魔法陣なのか?」


 マディスとルシファーが次々に感想を口にする。

 ……あんな魔法陣……というか、あれってもう魔法陣じゃないよね!?


「まあ、行ってみるしかないだろうな。あれの近くに目的の服屋があるかもしれない」

「その可能性は高いですよね。鍛冶屋に居た人の話だと、目立つ魔法陣の近くらしいですし」


 ……あれはただの輝く塔にしか見えないけど、あれの中に魔法陣でもあるのかな?

 転移用魔法陣って書いてあったし。






ーーーー






「……近くで見ると、また壮大ですね」


 遠目に見えた七色に輝く塔の近くまで来ると、その全貌が明らかになった。

 輝く塔のように見えた物は全て一本の巨大な柱に刻まれた魔法陣で、魔法陣一つ一つが違う輝きを放っているから七色に輝く塔のように見えたみたい。


「ここまでやると、もはや芸術だな」

「隙間なく魔法陣が刻まれてるから、所々魔法陣同士が重なってしまってるね」


 マディスが呟いた通り、巨大な柱に隙間なく敷き詰められるように刻み込まれた魔法陣の中には隣の魔法陣と重なり合ってしまっている物も少なからず存在している。


「使えるのか、この魔法陣?」

「どうだろ……重なり合ってる時点で使えそうにないけど……」


 所々重なり合っている魔法陣を見てルシファーが疑問を口にした。

 中には半分重なってる魔法陣まであるけど……。


「まあ、今はこれの事は置いておくか」

「そうだね。早く服屋を探さないと」


 この魔法陣だらけの柱も気になるけど、今は服屋が優先だよ。


「この近くでしたよね? 何処にあるんでしょうか?」

「……一見そんな人気の店は見当たらないけど……」


 魔法陣の刻まれた柱の近くにはまばらな人通りしかなく、大人気の店があるようには見えなかった。


「とりあえず歩き回って……ん? あれは……」

「どうしたの、ジル……」


 辺りを見ていたジルの目線が何かに釘づけになったように固まったのを見て不思議に思った私もジルの向いていた方向を見た。そこには……


「騎士の服、なかなか似合うじゃん! あたしもそういうの買った方がよかったかな?」

「いや、君の戦い方は騎士には見えない……それに、こんな鉄板の付いた服を着て自由に動けるのか?」

「うーん、そのくらいならあたしでも着れそうな気がするけど……」


 ジルが貰った服と同じような名前の服を着ている騎士のような格好の男性と、鍛冶屋で見た三角形のとんがり帽子、黒色のローブの女の子が歩いていた。

 ……二人が出てきたのは……あの建物!


「行ってみましょう!」

「うん! 行こう、ルシファー、マディス!」

「え? え?」

「おい、どうした? ……見つけたのか?」


 先に走り出したジルを追うように、私も二人の腕を掴んで走り出す。

 騎士の服を着た男性と魔術師の格好をした女の子が出てきた建物に向かった。

 

「……ここみたいですね。この看板に「職衣装」と書いてあります」

「本当だね。でも、なんだか、イメージと違うかも……」


 鍛冶屋であった人の話を聞く限り、相当な人気があると思ったんだけど……。

 人で溢れかえっている店をイメージしてたよ。


「まあ、この辺自体行き止まりみたいなものですし、人が少ないでしょうからね。さあ、入りましょう」

「そうだね。服を作ってもらえるといいんだけど」


 そんな会話を交わしながら、私達は店の中に入って行った。

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