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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
101/168

裏鍛冶屋に入りましょう

11/19 ダッシュ修正。詳細は活動報告に書きました。

「ねえ、裏鍛冶屋って何?」


 私の口から飛び出したのはその言葉だった。

 この鍛冶屋の建物が壁の奥にあったことなどよりも一番聞きたい言葉がそれだった。


「……外で話すのもなんだし、中で話す」


 私の言葉に淡々と答えた男の子はそのまま鍛冶屋の中に入っていく。

 男の子を追いかけるように鍛冶屋の中に入っていく私達。そこには――――。




「クックックッ……黒水晶……」


 何かに操られたように不気味な声を出して、机の上に置かれた人の頭ほどのサイズの黒水晶に抱き着く逆立った金髪の男の人や


「所詮神の作りだしたデク人形か……」


 自分の目の前に置かれた等身大の人形相手に訳の分からないことを言っている男性の姿があった。

 ……来る場所間違えた?


「……ねえ、どうして帰ろうとするの?」

「…………来る場所間違えたかな、って思って……」


 なんだか踏み入ってはいけない世界のような気がしたので帰ろうとしたら引き止められてしまった。

 ……私たちが行きたいのは鍛冶屋であって、こんな変な人たちの集まる場所じゃないんだけど……。


「……間違ってないよ。ほら……」


 私の考えを否定するようにある一角を指差す男の子。

 そちらには……。


「全く、金属は最高だぜ!」

「表の奴らには金属の魅力が分かってない! 金属というのは、愛でるための物であるのだ!」


 金属の部分を少し変えたら非常に危ない言葉になりそうな会話を繰り広げる二人組の半裸の男性が棚に置かれた鉄の塊を撫でまわす光景があった。

 ……ごめん。これを見て鍛冶屋とはとても思えないよ……。

 変な人の集まる場所だっていうなら納得いくんだけど……。


「ルーチェさん、本当にここで大丈夫なんですか?」

「不安しかないんだが……」

「私も、二人と同じ気持ちだよ……」


 私たちをここに連れてきた男の子はここを裏鍛冶屋だって言うけど、どう見ても変な人の集まる場所にしか見えないよ……。




「……お客」

「ん、客? 腕のある冒険者か?」


 そんな私たちの心配を完全に無視するように男の子はカウンターの奥に声をかけた。

 すると、奥から若い女の人の声が返ってきて、直後に声の主が顔を出す。

 声の主は、短く切りそろえられた若干暗い金髪と意志の強そうな青い釣り目が特徴的な女性だった。


「……ほう……」

「……?」


 ……どうしたのかな? 私たちの方を見て何か考え込むようなしぐさをしてるけど……。


「なるほど。腕に覚えはある、というわけか。確かに、市販品じゃ満足しないだろうね」


 女性は私たちを見た後、納得したようにそう呟いた。

 ……実力の事を言ってるのかな?


「あ、あの……? この人は……?」

「……鍛冶屋」


 ここに連れてきてくれた男の子に尋ねると、そんな答えが返ってきた。

 いや、そんなことは分かってるってば……。

 私が聞きたいのはそっちじゃなくて……。


「ずいぶん動揺してるね。――まさか鍛冶屋が女だった、とは思わなかったかい?」

「それは……まあ……」


 だって、まさか女の人が鍛冶屋をやってるなんて思わなかったもん……。


「だろうね。まあ、私はその辺の女と違ってちょっと「特別」なだけさ」

「特別……?」


 ……どう特別なんだろ?

 一見特に変わったところは無さそうだけど……。


「まあ、その話はいいや。それより、あんたらはこんなところまで来て、何が欲しいんだい?」

「盾を作ってほしいんです」


 私の代わりにジルが答えた。


「盾? ……じゃあ、あたしじゃないね。あんたの客じゃないか」

「……だから、連れてきた」


 盾を作ってほしいという旨を伝えると、女の人は私達をここに連れてきた男の子にそう告げた。

 ……い、いったいどういう事なの?

 というか、裏鍛冶屋に関することまだ全く聞いてないよ?


「あんた、その様子じゃまだ何も言ってないって事かい? 客には先に説明しないと駄目じゃないか」

「……」


 男の子に呆れた目を向ける鍛冶屋の女性。

 男の子は黙ったまま何の反応も示さない。


「一体どういう事なんですか? それに、裏鍛冶屋って……」


 ジルが女性に尋ねた。

 というか、中で説明するって言ってたんだからもう説明してくれても……。


「ああ、裏鍛冶屋って言うのは、鍛冶が好きすぎて頭のねじが外れた人間の集まりだよ。表でやってる鍛冶屋と違って金儲けすらどうでもよくなってる連中の集まりさ」

「……金儲けがどうでもいいって……」


 お金って絶対必要なはずなのに……。

 金儲けしないと生活できないような……。


「……金のためなんかじゃない、盾を作るのが好きだから僕は盾を作る。それだけ。生活できなくなっても構わない。作りたい物を作るだけ……」


 私達の方に向き直ってそう告げた男の子の目は本気だった。

 ……盾作り以外はどうでもいい! って目が訴えているみたい。


「あんたらと年齢的には大差ないはずなんだけどね……。でも、盾に命をかけてしまったからね。盾以外この子にはどうでもいいんだろうよ」


 ……まさか、そこの変な人たちも……。


「……道は違うけど、仲間」

「そうさ。あんたらからしたら変――いや、あたしから見ても変なんだけど、あいつらもあいつらで自分の好きなことに文字通り命をかけてる連中さ」


 ……自分の好きなことに熱中してる、って事……。


「……そう言う事。盾が欲しいんでしょ? どんな盾を作れば良いの?」

「……材料はミスリルで、この紙に書いてある通りに作ってくれ」


 作ってもらう盾に関することを書き込んだ紙をルシファーが男の子に渡す。 

 ……言ってることが本当ならきっとすごい職人なんだろうけど……どうなんだろ?


「あ、ミスリルは用意してあるよ。これを使って」


 渡された紙を見てカウンターの奥に入って行こうとした男の子の背中にマディスが声をかけ、振り向いた男の子にミスリルを渡す。

 ……ルシファーが渡した紙に書いてある大きさ等は最初に尋ねた鍛冶屋と同じだけど、どうなるのかな?


「……分かった。じゃあ、明後日に取りに来……ううん、宿に送るよ」

「分かりました。それでお願いします」

「……ちょっと待って、ジル。まだ私たちこっちで泊まる場所見つけてないんだけど……」


 こっちに来てから今まで歩き回っていたのはあくまで鍛冶屋探し。

 宿の事なんか全く考えていなかった。


「……そう言えばそうですね。……明後日にここに取りに来ます」

「……分かった」


 ジルの言葉を承諾して男の子はカウンターの奥に消えた。

 ……明後日にどうなってるのか楽しみだね。


「……盾だけで良いのかい? あんたらの着てる防具……というか、それって防具っていうよりただの服なんじゃないのかい?」


 帰ろうとしたらさっきまで男の子と話していた女性にそんな事を言われた。

 ……確かに、ローブじゃ防御力は無いも同然だからね……。

 ルシファーの物なんか本当にただの服だし。


「……そうですね。今ここでルシファーさんの鎧、作ってもらいません?」

「そうだな。どのみち頼むなら、早い方がいい(……盾だけなどと思わず、あちらでも頼めばよかったな。失敗した)」


 ついでに鎧も作ってもらうの?


「よしきた。じゃあ、悪いんだけどちょっと奥で身体の大きさを確認させてもらっていいかい? 鎧を作るにしろ、具体的な大きさが分からないとどうしようもないからね」

「分かった。マディス、ミスリルがどれだけ必要になるかわからないからついでに来てくれ」

「分かったよ」


 そんな会話を交わして三人はカウンターの奥に消えて行った。

 ……私たちはどうしよう?


「戻ってくるまで待っているしかないでしょうね。まあ、いいんじゃないですか?」

「うん……そうだね」


 と言っても、何もできないと暇になっちゃうよね。


「暇つぶしにそこの本でも読みません?」

「本?」


 ジルが指差した方を見ると、一冊だけ本が入った大きな本棚が。

 なんで一冊しか入っていないんだろ?


「本を買う必要もないか、持ち出しているかのどちらかでしょう」


 私にそう言いながら本棚に入っていた本を手に取るジル。

 本棚に入っていた本は非常に分厚く、まるで図鑑みたいな厚さだった。


「この本、結構重いですね……。それに、すごく分厚いですし……」

「何が書いてあるんだろ? 見てみようか」


 ジルが持ってきた本を間近で見る。

 ただの本とは比べ物にならない程に分厚く、千ページはあるかもしれない。

 だけど、本のタイトルすら書かれていないってどういう事なの?


「じゃあ、開けますよ」

「うん」


 カウンターに本を置き、ジルが頁をめくり始めた。

 目次の頁にあったこの本のタイトルは……呪いの魔法陣!?


「なんだか物騒な名前の本ですね……」

「あろうことか呪いの魔法陣って……」


 でも、いったいどんな魔法陣なのか気になるし、ルシファーやマディスが帰ってくるまで暇なことに変わりはない。

 せっかくなので目を通すことにした。


「えっと――この本に書かれている魔法陣は使い方次第では装備品を呪ってしまいます。恋敵に呪いのかかったアクセサリーを送りつけて破滅させるような楽しい使い方もできますが、莫大な労力の割に見返りが少ないのでお勧めしません。……何この注意書き……」


 目次の次の頁に書かれていたのは、この本に対する注意書き……のようでいて、呪いを推奨するようなよくわからない文章。

 恋敵に呪いのアクセサリーを送りつけて破滅させるって……。


「……なかなか楽しそうな本ですね。次の頁も読んでみましょう」

「恋敵に呪いのかかったアクセサリーを送りつけて破滅させるって時点でどう考えても楽しそうな内容じゃないよ!?」


 というか、そんなこと堂々と書いてる時点で怖いよ!

 なんなの楽しい使い方って! それ絶対楽しい使い方じゃないよね!?


「ルーチェさん、次の頁に行きますよ。――この本の魔法陣の中には属性を付加するものもあります。これを悪用することでいかにも炎を発しているはずなのに実は氷属性の剣だった、一見氷の塊なのに実は青い炎だった、みたいな意表を突いた装備品も作れます。……なんですか、この悪戯に使えます、と主張しているような文面は……」

「……実用例も実用例だよ……」


 実用例がジルの読み上げた文の下に絵と一緒に書いてあるけど、光に弱いはずのゾンビやスケルトンをこの魔法陣で強化することで光無効、闇弱点の魔物に変えた、とか水の精霊の加護を受けた槍なのに実際に振りかざすと灼熱の炎が発射された、なんてとんでもないことが書いてある。

 ……確かに見ている分には面白そうだけど……。


「これを悪用すると、ルーチェさんに触った人間が次々に感電死するような呪いも使えるんでしょうか」

「……それをやったら真っ先にジルに抱き着くよ?」


 まあ、そんな呪いなんて無いと思うけど……。


「私を感電死させるなんて、そんな酷いことやめてくださいよ? やるなら敵でお願いします。……それはともかく、魔法陣の内容による、との事なんですが、そもそも魔法陣には効果を与える触媒が必要みたいですね」

「触媒……」


 まあ、一部の魔術には発動のために何かしらの特殊な材料が必要だって言われてるしね。

 チャームとか実際に材料を渡したわけだし。


「どうやら、耐久強化もそういう類の物らしいですよ。見てください、この頁。耐久強化について書かれています」

「――鋼鉄、ミスリルなどの金属類の素材を触媒として使用した魔法陣を作成することで、耐久度を底上げすることができる。この方法で強化された装備品は著しく耐久度を引き上げられ、長期の使用にも耐えることが可能になる」


 ……つまり、あの鍛冶屋では金属を触媒にした魔法陣を作ってるってことかな?


「確証はないですけど、こんなものが書いてあるくらいですからね」

「って、どう考えてもこれ加護だよね? この本、呪いの魔法陣について書かれた本だよ?」


 加護と呪いってどう考えても一致しないよね?

 耐久強化は明らかに加護の一種だよ?


「ルシファーさんも呪いと加護が似たようなものだと言ってたでしょう? もしかしたら、この本は呪いと加護両方載ってるんじゃないですか?」

「……そんな万能な本なのに、なんで普通に私達でも手に取れる位置に置いておくのかな?」


 どう考えても客が見ていい内容じゃないよね?


「ですよね。すぐそこの本棚に入ってたんですよ?」

「そうだよね……」

「……さて、久々の仕事、腕が鳴るね。……ん、その本を見てたのかい?」


 魔法陣の本を見ながらジルと話してたら鎧鍛冶の人が戻ってきちゃった。

 ……本を見てるところ見られちゃった。不味かったかな?


「あ……勝手に見たら不味かったですか?」


 本棚に入ってたとはいえ、これってどう考えても表の鍛冶屋の秘蔵医術と関連してそうだし……。


「ああ、気にしないでよ。どうせあたしたちにはそれを使える魔力はないからね。あたしたちが持ってても完全に宝の持ち腐れさ」

「……使えないんですか? どうしてです?」


 本当だよね……。

 表の鍛冶屋が耐久強化限定とはいえ使えるのに、なんでここで使えないんだろ?


「魔力が足りないんだよ。あたしたちみたいなただの鍛冶屋の魔力じゃとても足りない。一度ここの全員で協力して魔法陣を作ろうとしたけど全員が魔力を込めても魔法陣を作ることができなかったんだよ」


 ……本当に魔力がすごくたくさん必要になるんだ……。


「……そうだ、どうせだからあんたにあげるよ、その本。その恰好……あんた魔術師だろ? 魔術師なら使えるんじゃないかい?」

「え!? ……良いんですか? こんな貴重そうな物……」


 私もジルも驚きを隠せない。

 いくら使えなくても、魔法陣の作り方とかが書いてある時点でかなり重要な物なんじゃ……。


「使えない物に意味はないからね。使えるところに回した方がいいだろ? それに、その本も、あくまで本棚に入れる本が無かったからそこに入れただけだからね」


 良い、のかな……?


「……大体、魔法陣を作るときに必要な物の大半があたしたちじゃ手に入らないんだよ。なんなんだい、水結晶とか雷結晶って……。そんなの聞いたこともないよ」

「確かに、聞いたこと……」




 ……あれ?

 どこかで聞いたような気が……。


「本当ですね。属性に関するところでは魔法陣の生成に対応する結晶が必要だって書いてあります。他の魔法陣の素材も……見たことも聞いたこともないものばかりですね」


 ジルが見ていたページを私も覗き込む。

 ――属性付加の魔法陣の作成にはそれぞれ対応する属性の結晶(例・水属性なら水結晶)が必要であり、武器や防具の性能を底上げする加護共々、特定の素材が必ず必要です……。

 おかしいな……。やっぱり、この○結晶って言葉、聞き覚えがあるんだけど……。


「まあ、冒険者ならどこかで拾うんじゃないかい? 気にせず持って行ってよ」

「は、はあ……ありがとうございます……」


 ……なんだかあっさりと手渡されたけど……本当にいいの?


「さて、と。それじゃ、今から仕事の時間だ。悪いけど、採寸にもう少し時間がかかるからそれまで待っててくれ」

「……向こうは全く気にしていないみたいですし、気にしない方がいいですよ。ルーチェさん」

「はあ……」

これまた長く躓きましたが、ようやくできました。

……遅れて本当に申し訳ありません。

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