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強奪勇者物語  作者: ルスト
バグリャ
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鍛冶屋に入りましょう

 外でルシファーに呪いと加護の話を聞いた後、私たちは厚手の鎧を売ってた人に紹介された鍛冶屋の中に。

 ……中は鍛冶屋というよりむしろ魔術の研究をする場所のような若干暗い雰囲気で、床、壁、天井問わず見たこともない模様がたくさん描かれ、弱い黄色の光を放っている。

 建物が暗い理由はこの模様が光っているのを見せるためかな?


「……本当にここは鍛冶屋ですか? なんだか、私の知っている鍛冶屋とは全然雰囲気が違います……」


 建物の中を見たジルが驚きを隠さず呟いた。

 ……私もびっくりだよ。一見しただけだと、ここは鍛冶屋には見えないもん。


「これが鍛冶屋に見えたら驚きだよ。鍛冶屋って工房みたいなイメージがあるのに、工房が無いんだよ?」


 マディスが私に話しかけてきた。

 ……そうだよね。多分奥にあるんだろうけど、ここだけを見たら鍛冶屋には見えないよ……。


「耐久強化したアイアンシールド、お待たせしました」

「おお! これなら長持ちしそうだ!」


 そんなやり取りが奥の方から聞こえたのでそちらに意識を向けると、受付が大きな鉄の盾を冒険者に渡しているところだった。

 ……確かに、あの盾からほんのわずかにだけど魔力を感じる……。

 白いオーラが盾を覆うように包んでいるような……。


「ルーチェ? どうした?」

「あ、ううん。なんでも……」


 ……鉄の盾を覆うように包んでいる白いオーラ……あれが「加護」なのかな……。

 渡された盾を装備した冒険者がここを出るために私たちの横を通って行ったときに、盾を包む白いオーラがはっきりと見えたよ。


「……また変なものが見えたんですか?」

「変な物、なのかな……。さっきの冒険者が持ってた盾を白色のオーラが包んでいたのが私には見えたんだけど……」


 盾を包んでいたあの白色のオーラは、教皇の身体に纏わりついていた黒い煙と違って害があるようには見えなかったけど。

 あの盾から盾を持っていた冒険者に纏わりつくこともなさそうだし。


「ルーチェには加護が見えてるのか? まさか、な……」

「……私には何も見えませんでしたよ?」


 ……やっぱり、私だけなのかな……。


「そのうち、ルーチェには呪いが目視できたりしてね~」

「冗談言わないでよ……マディス」


 ……けど、あれって本当になんなんだろ?

 ただの白いオーラにしか見えないけど……。


「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」

「……これが壊れにくくなるように加護をつけてくれ。壊れたら大変だ」


 そんなやり取りが聞こえたので受付の方に再び目を向けると、男の人が包丁を受付に渡していた。

 ……包丁に加護……包丁が壊れるような硬い食材なんて無いよね?


「いえ、包丁も刃こぼれはしますし、金属なので少しずつ劣化しますよ? 普通の人は刃物を手入れすることはできないでしょうし、そう考えるとあれはなかなか役立つんじゃないでしょうか?」


 ……そういうものなのかな……。


「それよりも、どうします? ルーチェさんに加護が見えていたと仮定したら、加護は実在するわけですけど」

「……加護が何か知りたい、と言って聞いてみるか?」

「そうだね……聞いてみていいかもしれないね」


 ……というか、聞かないことには始まらないよね。

 加護を与える方法は駄目でも、ここでつけてくれる加護の効果くらいなら教えてくれるかも。




「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「すいません。ここで取り扱っている「加護」について詳しく聞きたいんですけど」


 受付まで歩き、受付の人に加護について聞いてみた。


「加護ですね。どんなことが聞きたいんですか?」

「まず、加護って一体なんですか?」


 ……まずはここからだよね。

 いきなり加護のやり方を聞いたりするのもあれだし。


「分かりました。……加護は、武器や防具にこちらの人間が魔法陣を使った特殊な魔術をかけることで、その魔術がかかった武器や防具を強化するものです。このバグッタにおいては我々しか扱っていない特殊技術になりますね」


 受付の人が私たちに加護の事を説明してくれる。

 ……加護って本当に、ルシファーが言っていた「聖剣を魔剣に変えた時の方法」そのままなの……?

 魔法陣を使った魔術って言ってるし……。


「我々はこの魔法陣を用いた加護によって、非常に壊れにくい装備品を作成することに力を入れています。戦いの際、最も恐れられるのが戦闘中の装備品の破損ですからね」


 ……強度、か……。

 確かに、グリーダーの鎧みたいに強敵との戦闘であっさり壊れたら意味がないもんね。


「なるほど。確かに戦闘中における装備品の破損ほど恐ろしいものはないですからね」

「はい。多くの冒険者が戦闘中の武器の破損によって帰らぬ者となっています。私達は、少しでもそういった人たちを減らせるように装備に耐久強化の加護を与えているというわけです」


 納得したジルの言葉に受付が答える。

 戦闘中に武器が壊れたら本当に不味いもんね。


「ところで、本日の用件は以上でしょうか?」

「……いえ、まだあります。耐久強化以外の加護を与えることはできるのでしょうか?」

「耐久強化以外の加護……例えば、何でしょうか?」

「魔術に対する耐性や、より防御力を上げる方法です」


 ジルがさらに質問する。

 ……耐久強化だけだと肝心の性能が足りないかもしれないからね。

 魔術に対する耐性とか、欲しいものがたくさんあるもん。

 ……どうかな?


「……申し訳ありません。そのような加護は残念ながら……。こちらで取り扱っている魔法陣には耐久強化の物しかございませんので……」

「そうですか……。ちなみに、魔法陣の載っている本、もしくは魔法陣の拝見は可能でしょうか?」

「秘蔵技術にあたりますので、残念ながらお断りさせていただいております」


 魔法陣の書いてある本や魔法陣を見ることは断られた。

 完全に駄目か……。仕方ないや。他の場所に行こう。


「待ってくださいルーチェさん。先に盾を作ってもらいませんか?」

「盾?」


 ……って、ああ。鍛冶屋同士で比べるんだっけ?

 ミスリルの盾を作ってもらうんだよね?


「盾ですか。どのような盾をご所望で?」

「ミスリル製の盾が欲しい。大きさはこの紙に書いてある通りだ」


 ルシファーが受付に紙を渡した。

 ……いつの間に決めたんだろ?

 私たちが説明を聞いてる間に書いたのかな?


「……分かりました。ミスリルはこちらで用意しましょうか?」

「いや、これを使ってくれ」


 そう言ってルシファーが受付の机に置いたのは匠から押収したミスリルの塊だった。


「分かりました。では、出来上がり次第どちらに届ければよろしいでしょうか?」

「いつまでかかる?」

「急いで作ったとして、二日になるでしょうか」

「二日……なら、二日後に取りに来ればいいんだな?」

「はい。加護は、どうしましょうか?」

「完成した品にも普通にかけられるのか?」

「はい、問題なく」

「なら、今回は加護無しで頼む」


 加護無し……? そっか、他の店では加護をつけられないから……。


「……? わかりました。では、代金は……素材持込み、加護無しなので6000ゴールドになります」


 金額を聞いたルシファーが6000ゴールドを受付に手渡した。

 ずいぶん安いね。……それとも、単に材料のミスリルが高いのかな?


「ルーチェさん、ミスリルは高級品ですよ。軽くて硬くて非常に丈夫、と高性能ですからね」

「ええ。私共でも、それほど多くは手に入りません。なので、素材持込みなしだと46000ゴールドとなります」


 ……高い……。盾でこれなら、ローブや鎧は一体どれだけの値段になるんだろ?


「参考程度に……ローブと鎧は一般的なサイズで66000ゴールド、兜は盾と同じく46000ゴールドですね。剣や斧は大きさにもよりますが軽く50000を超えます」


 た、高すぎるよ…………。

 難易度5のクエストの報酬が一瞬で消し飛びかねないじゃない……。


「超高級品ですね」

「ミスリルですから。これ以上の性能を誇る金属はおそらくありません」


 ……そんなものを家にしてたなんて……。

 あの匠は本当にもったいないことをしてたんだね……。


「……ところで、盾だけでよろしいのですか?」

「ああ。今のところはな。……二日後に取りに来る」

「分かりました。それでは、またのご来店を」


 盾を作ってもらう依頼だけして、私たちは鍛冶屋を後にした。




ーーーー




「ルシファー。どうして盾にしたの?」

「ん?」


 鍛冶屋を出た後、私はルシファーに盾を頼んだ理由を聞いてみた。


「ああ。盾は形が単純だからそれほど手間もかからないだろう、と思ったんだよ」

「……形が単純?」


 訳が分からないよ。


「ルーチェ、お前は、ほとんど水平の盾と複雑な形に加工した兜、どちらが手間がかかると思う?」

「ああ、そういう事か……」


 まあ、盾の方がすぐに形は整いそうだよね。

 でも、型に流し込んで作る分にはどれも一緒のような……。


「まず1つ依頼できましたね。他の鍛冶屋も回ってみましょう」

「そうだな。とりあえず、同じ状態でどれだけ優秀なものが作れるのか調べたい」


 さて、他の鍛冶屋はどうなんだろ? とにかく回ってみようか。




ーーーー




 あれからしばらく歩き回ってみたけど、鍛冶屋はなかなか見つからない。

 ……ううん、見つかることは見つかるんだけど……。


「すみません。ミスリルで盾を作っていただきたいんですけど……」

「ああ、無理だ……。ミスリルなんて触ったこともねえよ」


 こんな風に断られることの方が圧倒的に多い。

 というか、最初の鍛冶屋以外全部断られてしまっている。


「……仕方ないですね、次に行きましょう」

「……うん」


 はあ、ここも駄目か……。

 仕方ない、その向かいの鍛冶屋に行ってみよう。


「ミスリルを使えってんだろ? 無理無理、俺たちみたいな連中にはとても手が出せねえよ!」

「……」


 いきなり全否定って……。

 もう何も言えないよ……。


「そ、そんな目で見るなよ! 無理なものは無理なんだよ!」


 こんな風に、ミスリルを加工すること自体できない鍛冶屋にばっかり行き当たってしまってあれから全くミスリルを加工できる鍛冶屋には当たっていない。

 ……というか、そもそもあんな高級品になってる時点でお金のあるところにばっかりミスリルが流れちゃってるのかな?


「その可能性は高いですね。人気もないところでは、ミスリルみたいな超高級品そうそう扱えないでしょう」

「これは厄介だな……。作らせて比べるはずが、これでは比べられないな」


 さすがにこれは想定してなかったよ……。

 この分じゃ、他の防具も怪しいんじゃないかな?

 ミスリルで作ってもらわないと駄目なのに、そもそもそのミスリルが使えないなんて……。


「困りますね……。ミスリルを加工できるような鍛冶屋がほとんど無いなんて……。こんなの、全く考えていませんでした」

「無名でも優秀なら構わない。と言いたかったが、そもそも無名だと誰も知らないんだよな……。聞いても完全に無駄だ」

「これは想定外だったね~。えっと、何軒訪ねたっけ、ルーチェ?」


 確か……13軒かな?

 これだけ探して最初の1軒しかミスリルを加工してくれる鍛冶屋が無いなんて……。

 ……はあ、ちょっと休憩しようかな?


「……君たち、鍛冶屋を探してるの?」


 途方に暮れていたとき、誰かが声をかけてきた。

 声のした方に顔を向けると、薄い紫色の髪の男の子が私たちの方を見ていた。


「……ええ。そうですけど、私たちが行っていない鍛冶屋を知っているんですか?」

「あるよ。……まあ、無名どころか誰も知らないと思うけど」


 誰も知らないって……。


「……ちょっと胡散臭いですね……。本当ですか?」

「信じる信じないは勝手。……どうする?」

「……ミスリルでも加工できる鍛冶屋の場所、知っているなら教えて」


 ……ジルの言うとおり、ちょっと怪しい。

 でも、このまま延々と彷徨うわけにもいかないよね。

 知ってるっていうならそこに連れて行ってもらうだけだよ。


「分かった。ついてきて」


 言うなり歩き出した男の子。

 ……いったいどこに向かってるんだろ?


「……でも、どのみち行き詰ってるし、ついていくしかないよね。行こう」

「探しても見つからないですから、やむを得ないですね」


 ただ見送るわけにもいかないので、歩き出した男の子を追いかけていくことにした。




ーーーー




「……ここだよ」

「って、ここはどう見ても行き止まりじゃない……」


 男の子に連れてこられたのは建物と建物の間の狭い路地。

 もちろん、ただの行き止まりだった。

 どこを見ても鍛冶屋なんて見当たらない。


「行き止まりじゃないですか」

「どこに鍛冶屋があるの?」


 ジルとマディスが疑いの眼を向けて男の子に尋ねる。

 真剣に探してるのに案内されたのがただの行き止まりじゃ、そう思っても無理はないかも……。


「ここの壁の中。……ほら、一見通れないように見えるけど、実はこの壁は通れるよ」

「え……!?」


 唐突に男の子が腕を伸ばし、壁の方に近づけた。

 そのまま壁に当たるかと思った男の子の手は、そこの奥に通路があるかのように壁を通り抜けてその奥へと伸ばされている。


「何ですか、これ……」

「特殊な術で壁のように見せかけた道。ほら、ぶつかることはないから安心してついてきて」


 驚きを隠せないジルの言葉に淡々と答えた男の子の身体が、そのまま壁を通り抜けていく。

 ……すごく不気味だけど、行くしかないよね。……行こう!


「ぶつか……ってない?」

「どういう仕掛けだ……?」

「……この壁は幻覚、かな……?」

「どういう事なんですか……?」


 ぶつかると思っていたら何故か壁を通り抜けた事に困惑する私達。

 目の前には確かに鍛冶屋の看板を掲げた立派な建物が建っていた。

 そして私たちをここに連れてきた男の子が私たちの方に向き直り、こう告げた。


「ようこそ。バグッタの裏鍛冶屋に」


 え……? 裏……鍛冶屋?

執筆に結構躓きましたが、無事100話目達成しました。

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