プロローグ
私はルーチェ。この世界ケルテラにある国の一つ、テラントの王宮に仕えている魔術師の一人です。
今日もいつもと変わらない一日になると思ってました。
……こんなことが起きるまでは。
本当に、どうしてこんな事になっちゃったの!
~回想~
「良いこと考えた。お前、今から勇者を召喚しろ」
今朝、テラントの王宮にある食堂で朝食を食べた直後に王様に火急の要件で呼び出され、何事かと思って王の間に駆け込んだ私に王様――――王の間の入口正面にある玉座に座った、白髪でマントを着けた青年が言い放った第一声はこんな意味不明な発言でした。
「は? 王様……いきなり何を言ってるんですか?」
突然王の間に呼び出された挙句にいきなり「今から勇者を召喚しろ」なんて言われても……。
「今日異世界からの召喚を行えば勇者が召喚できる! そうわしの勘が告げておるのだ!」
「はあ!?」
テラントの王様は元からちょっとアレな人だったんですが、今日は特に頭が駄目になっているみたいです。
……今日召喚を行えば勇者が召喚できる……なんて、そんな馬鹿な話あるわけないでしょ!?
「そんなこといきなり言われても、私異世界召喚の準備も何も全くできてないんですけど!? というか、そういうのってもっと早くに説明するべきものですよね!?」
当日にいきなり言われてもどうしろって言うの!
「大丈夫だ。準備など不要! 今やれば絶対にできるのだ! わしには分かる! なぜなら、わしには未来が見えるのだからな!」
あまりに意味不明な事を言われて困惑している私に更に王様が滅茶苦茶な妄言を言い放つ。
……ほんと、何考えてるんだろこの馬鹿王……。
「準備も無しにどうやって勇者を召喚するんですか! そんな事出来ません!」
勇者召喚には専用の魔法陣や道具が色々必要になるのに……。
「ああ、その点は全く心配いらん! 勇者召喚はな、お前の気合でやるのだ! 大丈夫だ、お前なら絶対に勇者を召喚できる! わしの勘は絶対に外れん!」
……何言ってるのこの人。
頭が痛くなってくるよ……。
「そもそも気合で勇者召喚は出来ません! そんな物で出来るんだったら、誰だって勇者を召喚できますよね!?」
当然私は勇者召喚の準備なんて全く出来ていない。
というか、私以外にも魔術師はこの王宮に居たはず。
どうして私なんだろう。
……それに、何で気合だけで勇者召喚が出来るのか教えてくれるかな王様!? 気合で出来るなら王様自らやった方が良いんじゃないかな!?
「何を言うのだ。お前ならできる! わしの勘がそう言っているのだ!」
だから何で勘だけで判断してるの!?
「いきなり言われても、そんな事出来ません!」
「問答無用! 今すぐやるのだ! 今すぐ勇者を召喚しろ! 今なら絶対に成功するのだからな!」
「何ですかその理不尽!」
……どうして私こんな王様に仕えてるんだろう。
でもまあ、こうなったらこのアh……王様は話を全く聞かないから、やるしかないよね。
~準備中~
そんなわけで、今朝いきなり王様に言われた勇者召喚をしぶしぶやることに。
準備は一応やったけど、もうどうなっても知らないからね!
「召喚者ルーチェの名において命ず。異世界より、この地に勇者を呼び出したまえ……」
「そうだ。それでいい。それで絶対に勇者が召喚できるぞ! テラント王宮に勇者が降臨するのだ!」
仕方ないので私は勇者召喚の儀式を行った。
私の詠唱と共に床に描かれた五芒星の魔方陣が赤色に怪しく輝き、起動する。
そして光に包まれた魔法陣の上に何かが現れた。
ここまでは良かった。……ここまでは。
「……何だここは? まあいい。アイテムはどこだ? お宝はどこだ!? お宝抱えたモンスターはどこにいる!? この世に存在する全てのアイテムは俺の物だ! 俺以外が持っているアイテムは、すべて俺が奪い取ってくれるわ!」
私が魔法陣から召喚した者、それは邪悪などす黒いオーラを身にまとった大男だった。
その身長は私の背丈よりもはるかに高く、一瞬巨人系の魔物かと見間違えてしまうほどの大きさでした。……恐らく250センチはあるんじゃないかな?
次に目を引くのがその体つき。異常に背が高いのも驚きだけど、その腕の太さは尋常じゃありません。私の腕の数倍はありそう。
そしてその装備。背中には大きな斧を担いでいる。
まあ、斧は武器としても優秀なので特に言う事は無いんだけど……その赤黒い鎧はちょっと不気味すぎないかな!?
身にまとっているどす黒いオーラと合わさってもう恐ろしいとしか言えないよ!
そんな外見なのに、その顔も、一瞬鬼か何かかと見間違えるほどに恐ろしい形相でした。
……ただでさえものすごく背が高いのに、そんな鬼みたいな表情で見下ろされたら怖いなんてものじゃないよ!
町を歩いている子供とか普通に泣き出しそうだよ!
というか、私も普通に怖いもん!
「貴様ら……聞いているのか? アイテムは! お宝は! 何処にあると言うんだ! 俺の質問に……答えろ! モブ共が!」
それにこの大男、なんか言っていることが凄く怖いよ!
ついでに、モブって言葉がどういう意味かは知らないけど、絶対良い言葉じゃないよね!?
「何故誰も答えんのだ。……まあいい。貴様あ!」
「ヒイッ! 何でしょうか!」
その大男がそばに居た神官にいきなり詰め寄っていきました。
大男に上から目線で睨まれた形になった神官は完全に震え上がってしまっています……。
「アイテムはどこにある!? お宝はどこだ!?」
神官に詰め寄って行った男の口から放たれた第一声はそんな内容でした。
……そんなの知らないよ!
「す、すみません! お宝は、魔王を名乗る不届き者によって全て確保されてしまってるんです!」
……魔王なんてこの世界に居たっけ!?
居なかったんじゃないの!?
「魔王だと!? 魔王はどこにいる! 俺が手にするべきアイテムやお宝を独占するとは……その罪は万死に値するぞ! その魔王とやらには天罰が必要だな! 俺直々に天罰を与えてやろう!」
……凄いこと言ってるけど、私にはあなた自身が魔王にしか見えないよ。
それはともかく、魔王なんてそもそもいなかったはずなのにでたらめを言うなんて……。
もしばれたら後でどうなるのか……。
「魔王は……東の果てに存在すると言われる地獄山脈の頂に居るとか……」
「分かった! その魔王とやら、アイテムを没収してやるために叩き潰しに向かうとしようか!」
動機が明らかに物欲なんだけど!
世界を救うためとかじゃなくてアイテムを没収するためなの!?
そんな動機で襲われる魔王が哀れに見えるよ!
「だがいかに悪魔のようなオーラを放つ貴様でも一人では危険だ! よし、護衛を出そうか!」
そんな大男の話の直後に召喚の元凶となったテラントの王様が唐突に口を挟んでくる。
……ちょっと待って。護衛って何……?
何か凄く嫌な予感しかしないんだけど……。
「任せたぞ、ルーチェ! お前ならできる!」
「どうしてそうなるんですかー!」
案の定これだよ!
もうわけが分からないって!
……とまあ、こんな感じで追い出されるように出発の決定をされ、その後すぐさま出発するために準備をさせられた。
そして……。
~回想終了~
「アイテムを寄越せ雑魚どもがああああ!」
そして現在。私に押し付けられた大男が先導し、私は彼についていく形で東の地獄山脈目指して進んでいく。
……え? 魔物や野盗?
一応出るけど私が出る必要は全く無く……。
「やばい! 回復するぞ! 薬を」
傷だらけになった野盗が持っている薬に手を伸ばす。その直後に……。
「俺が手にするべきアイテムを勝手に使ってんじゃねえ! 勝手に俺のアイテムを使った罪を知るがいいわ屑が! 大地もろとも砕け散るがいい! アース・ブレイカー!」
「何がお前のアイテぎゃああああああああ!」
大男が斧を地面に叩きつけ、天まで届くほどの高さの衝撃波を野盗の足元から発生させた。
薬を使おうとした野盗は衝撃波で文字通り粉砕されてしまい、倒れ伏す。
「はっ! くだらん。この程度か、雑魚どもが……! 殺すほどの価値も無いとは、貴様らの事だな!」
召喚しちゃったこの大男が勝手になぎ倒していきます。
ものすごい勢いでなぎ倒しているのでこの人にも後ろをついて行くだけの私にも全くダメージがありません。
そして私はただこの人の後ろを歩いていくだけです。
……本当に、何してるんだろう私。
「さあ、アイテムを頂くとしようか!」
戦闘が終わったらしく、強奪タイムです。
野盗の身ぐるみを剥がしてからどんどん捨てていく。
……どうして私まで一緒になって敵の所持品の強奪をしてるのかな……。
それと、テラントの馬鹿王はこの人の事を勇者って言ってたけど、本当にこの人勇者なのかな?
実は山賊か強盗なんじゃ……。
「何、そんな下らんことをいちいち気にする必要はない!」
「むしろ気にしないと駄目だよね!?」
タグ追加に合わせて大改訂しました。一部台詞と描写を強化しましたが、内容に変化はありません。