タイムリミットは一年後
「春日先輩ってかっこいいよねぇ」
とある高校の昼下がり、一緒にお弁当を食べていた田嶋杏子は、秋野美智子のそんな一言に、思わず飲んでいたお茶を吹き出すところだった。
「いきなり何を言い出すの!」
「いやぁ、勉強できてスポーツできて、後輩の面倒見も良いし性格も良い。競争率高くて当たり前だよねぇ」
また始まった…。
杏子は深いため息を吐いた。
「分かった。私が悪かったわよ。いつまでも片想いでごめんなさいね」
「そんなことはないけどね。一緒にパリまで行くつもりかと思ってた」
「…パリ?」
杏子はきょとんとしながら聞き返した。
「あれ、やっぱり知らなかったのか。春日先輩来年からパリ留学なんだってさ」
「えー!?」
杏子は思わず立ち上がって絶叫してしまった。
「もう、そんなに叫ばないでよ…」
ハッと我に返り、赤ら顔で「ごめんなさい」と呟きながら座る。
「でも、誰からそんな話聞いたの?」
まだ半信半疑な杏子は美智子に問いただす。
「誰にって、本人からだけど」
そうだった、美智子は春日先輩と同じ部活なんだった…。
杏子も同じ部活に入ろうと思ったことが無いわけではない。しかし、遠目で見るだけでテンションがマックスになり。近付くと顔から湯気が出るんじゃないかと思うほど真っ赤になってしまうという、なんとも分かりやすい性格なので、泣く泣く同じ部活は諦めたのだった。
「来年って言ったら、丁度あと一年後?」
「そうだね」
何気ないこの会話から、田嶋杏子の恋愛成就大作戦が始まったのだった。
お昼が終わり、教室に戻っての作戦会議が開かれた。杏子の後ろに美智子の席があるので、会議は割と簡単にできる。
「先ず杏子の分かりやすい性格を直したら?」
「一年以上頑張ってるけどダメでした…」
これに関しては美智子も小学生からの付き合いだけあってよく知っていた。
「じゃあ、逆にその性格を利用するとか」
「どうやって?」「猫かぶってかわいく近付くとか?」
「無理無理! 絶対無理!」
「だよねー」
そんなことができるなら、杏子はとっくに猛アタックしていることだろう。
「あっ、ならさ、今度の休日にプール行く話出てるから一緒にくる?」
「プール?」
「少し前に出来たレジャー施設あるでしょ」
「ああ! 私も行きたいと思ってたんだ」
「部活メンバーだけど、杏子だったら皆知ってるし大丈夫でしょ?」
「大丈夫! 今度の休日って…」
「明後日だよ」
「水着買いに行きたいなぁ、今日の放課後買いに行かない?」
「いいよ」
杏子はすでに水着のことで頭が一杯で、本来の目的を見失っていたが、悪戯好きな美智子は、面白そうなので黙っていることにした。