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 その日、純は沢山のお供え物や、立派な花を持ってきていた。

「今日はね、翠の…妹の命日なんだ」

「そっか。…ね、妹さんって、どんな子だったの?」

「鈍臭い子」

 純は思い出したように、笑った。

「動きはとろいし、すぐ泣くし、ドジだし。いつもあたしの後ろをひっついてきてた。あたしはそんな翠が放っておけなくて、いつも翠と遊んでたの」

「へえ…。正反対ね、純と」

「よく言われてた」

 純はそう言うと、墓を丁寧に洗いはじめた。まるで生きているものを扱ってるみたいに丁寧に、墓石を拭いている。

「あたしはね、学校の成績は結構優秀だったんだけど。翠は逆ね。音楽以外はアヒルさんだった。その代わり、歌うのはすごくうまかった」

 懐かしそうに笑いながら、純は墓石を拭いていく。それを見ながら、私は純に言った。

「ね、私も手伝っていい?いつもおねーさんにはお世話になってるし、翠ちゃんに挨拶したい」

 それを聞いた純は一瞬だけ戸惑ったような顔でこちらを見た。何かまずいことを言っただろうか、と思っていると

「…いいよ」

 薄い笑顔で、純が答えた。


 純が墓石を拭いているので、私は周りの雑草を抜くことにした。

 純の話を聞く限り、妹の翠ちゃんは私に似てるかもしれない。そんなことを考えながら、ちまちまと雑草を引っこ抜いていく。純は何か考え事をしているようで、真剣な顔で何も言わずに墓石を拭いていた。

 

 墓石の近くに生えている雑草に手を伸ばした時、私はそれを発見した。

 ズラリと刻まれている、純のご先祖様たちの名前。その一番端。


 その名前は、



 『純』



「…え?」

 上を向くと、純と目があった。とても悲しそうな顔をしている、純と。

「…純?」

 私はもう一度、墓石に彫られている純という文字を見た。享年11歳。

 何度見ても、それは、純で。

「そうだよ」

 困惑している私に向かって、純は笑った。いつものような明るい笑顔ではなく、暗い影を宿した瞳で。


「わたしは、純じゃない。わたしの本当の名前はね、…翠なの」



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