登録。冒険者ギルド
冒険者に対する……正式名称が長いので通称【ギルド】のオーガスト支部。
町の中心部から少し離れたところにあるその施設は、町の中枢を担う代官屋敷に信仰の要たる教会に次ぐ第三の規模を有している。
小さめの体育館を思わせるホールには掲示板が掲げられ、そこに今日の依頼物件が無秩序に載っている所謂ファンタジー小説等でおなじみの光景。
冒険者たちは得られる報酬と仕事の難易度、それと己の力量を天秤にかけて、各々が依頼票を受付カウンターに持ち込むのである。
夢と希望と危険にあふれるギルドの裏側、いわゆる事務方は正直ハローワークや市中の買取ショップと同じ、夢も希望も危険もない9時~5時の単なるオフィス。
ギルド職員の一人グレンダ・ベドナーシュは、朝から厄介ごとに付き合わされていた。
「冒険者の登録申請、ですか?」
「そう、それだ。今朝来た登録希望者に対して、内容の説明から受理までを、グレンダ君に任せたいのだが」
頭頂が少々寂しくなった支配人が、汗を拭き拭き話を持ち掛ける。
「登録希望者に冒険者の説明はカウンター業務の一環ですが、わざわざ部屋を取ってする仕事ですか?」
たかが登録業務ごときに、支配人が直接話を持ち掛けることにグレンダは違和感を感じる。
門戸が広い冒険者は登録者の質もそれこそ玉石混淆、ピンは貴族の三男坊四男坊からキリはホームレスの棄民まで様々。中には読み書きはおろか自分の名前すら書けない者もいて、申請書類の代読・代筆もフロント業務の一環となっている。
グレンダの質問に支配人は汗を拭き拭き困った顔。
「それは分かっている。分かっているが、相手が相手だから、そうもいかんのだ」
「どういうことでしょう?」
「ヴァルフェリア家のご令嬢が執事殿と一緒に来られている。侯爵家が絡む希望者を窓口で応対などできん」
うわっ、面倒くさい。
というか、コイツ面倒ごとを押し付けやがったな。
「はぁ……」
ため息とも返事とも何とも言えない言葉を発し、グレンダは渋々了承したのであった。
*
個室の扉を開けた場にいたのは見目麗しい3人の少女と白髪交じりな壮年の男性。壮年の男性がバットラーと名乗りヴァルフェリア家の執事とのこと。
まあ恐らく、令嬢のお目付け役だろう。
侯爵令嬢がオーガスタの町に用があるとすれば、侯爵の名代で代官に視察といったところ。令嬢自身は儀礼要員で、実務を取り仕切るのがこの執事とみて間違いない。
執事の隣に立つショートボブの小柄な少女、これは間違いなく令嬢付きの侍女かメイドね。珍しい青い髪と白皙すぎる無表情というい特徴があるのに、グレンダの視線はメイドの豊かすぎる胸元についつい吸い寄せられてしまう。
とにかく、強引に視線を外して、っと。
来客用ソファーの三分の二を占拠し座る、金髪縦ロールで長身スレンダーな美少女がヴァルフェリア家のご令嬢だろう。普段着でありながら着ているドレスは高級品、装飾は控えめに抑えつつも仕立てと素材の良さはグレンダでもすぐに分かる。それを嫌味なくさらりと着こなすのが、高位貴族の令嬢たる所以か。
最後に残った黒髪ポニーテールの美少女が、冒険者希望なのかとグレンダは予想。
勝気な雰囲気を漂わせながらもスカートの裾を何度も引っ張り、どこかおどおどとした印象。必要以上に緊張している様子からも、この手の仕事の経験が皆無なのは明らか。
庶民臭漂う少女に令嬢自らが付き添う理由は不明だが、訊いたところで貴族の考えなど想像もつかない。丁重に対応したほうが良いのだけは間違いないだろう。
「お待たせしました。冒険者登録をということですので、説明させていただきます」
丁重な口調で説明しても、話す内容は他の登録希望者と変わることはない。
登録に際しての経費の徴収とランクの説明、報酬に対するギルドのマージンと失敗時の違約金、それと登録書類の書き方についてだ。
「登録に際しての費用は以上。これは各冒険者の身元保証金でもありますので、割引の類は一切ありません」
高くはないが決して安いとも言えない冒険者の登録費用。ここでごねる希望者も多いが、そこはヴァルフェリア家のご令嬢。
「はした金はどうでもいいから、先に進めてちょうだい」
肝心なところに早くいけとレオノーラが先を促す。
「それではランク制度の説明です」
といっても、これも難しいものではない。特級冒険者を頂点に1級冒険者、2級冒険者、以下~9級冒険者まであるだけのこと。
「特級冒険者は〝勇者〟レベルで、国中当たって10人といませんので考えなくてよいです。1級冒険者が常識的な頂点で、2級も含めていわゆる一流冒険者と呼ばれる存在です。3級から8級までが世間一般に認知される冒険者で、9級は仮登録みたいなものとお考え下さい」
「その違いは何で決まるの?」
「特級以外は単純に功績です。あと、ランクはあくまでもギルド内での評価ですので、指名依頼以外でランクによる仕事の制限はありません」
己の力量の指標でもあるのだが、それは敢えて言わない。身の丈を知らない冒険者は生き残れない、ただそれだけのこと。
「つまり仕事の選択は自己責任でしろ。ということかしら?」
「その通りです」
さすがは高位貴族のご令嬢。教育が行き届いてるだけあって呑み込みが早い。
これが農民の三男以下だったら、これだけの説明にヘタすれば半日要することもある。
で、肝心の登録希望者の女の子はというと「ふーん。なるほど」と頷いて、以外にもちゃんと理解している。
「仕事の内容は、ホールの掲示板に貼ってあるやつを見ればいいの?」
「そうです。指名依頼やより難易度の高い依頼は、個別に受け付けることもありますが」
「うん。分かった」
皆まで言うことなく首を縦に振る。
少なくとも知能水準だけなら貴族レベル。見た目の良さという付加価値も加味すれば、冒険者なんてヤクザな仕事を選ばなくとも引く手数多だと思うのだが、貴族令嬢がわざわざ同伴するのだから色々と事情があるのだろう。
そこは触れないほうが良いとして、グレンダは頭の中でユウリに対する情報を書き換える。
これなら説明は最小限で問題ない。
手取り足取り教える必要がなければ、必要な書類を渡せば事足りる。
「それでは、此方で登録の手続きを」
ヨシ。これで厄介ごとは片付くな。
ホッとした次の瞬間、令嬢がとんでもないことを口走ったのである。
「面白そうね。わたくしも登録するから、書類を……そうね、3枚用意してちょうだい」
いや、何故にそうなる?
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