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魔法と誤解と美少女(仮)と

 どうしてこうなったのやら?

 摩訶不思議な現象で森の奥底で目覚めた優理は、同時に見た目までもが女の子に変貌していた。

 高い位置で結われたポニーテールは凛々しくも可憐で、加えて勝ち気そうな黒い瞳と桜色の頬に艶やかに光る唇が絶妙なバランスで配置され、可もなく不可も無くなモブ顔男子代表が誰もが見惚れる美少女へと変化していた。


 変わったのは顔立ちや髪の毛だけではない。

 ファッションに無頓着だった服装が深い臙脂のシャツに鞣し革の黒いベストというスタイリッシュな装いに。さらにボトムがライトブラウンのフレアミニスカートとショートブーツのコンボで、美脚を惜しげもなく魅せ付けるオマケつき。

 耳に心地よいアルトの美声と相まれば、誰も優理を男だとは思うまい。街中ですれ違ったら、10人中12人が振り返るほど魅力的な美少女だ。


 …………見た目だけは。


 なので魅力的な女の子なのは外見だけで、中身は依然男のまま。

 性格的な本質が変わらないという意味ではない、肉体的・遺伝子的・性染色体に至るすべてにおいて男のまま据え置かれているのである。

 なので胸はどこまでも平たんだし、声だってよくよく聴けば変わっておらず無意識に高くなっているだけ。そしてなにより決定的なのは、股間に〝パオーン〟な突起物が次元信管のように何時爆発するかわからない状態で配備されているのである。

 世間ではオブラートに包んで〝男の娘〟なんて呼ばれるが、コイツはフェイク・パチモン・パッケージ詐欺なだけである。

 誰よりもそれを知ってショックを受けたのは他ならぬ優理自身。股間の〝パオーン〟に気付いたときに、喜んだのかショックを受けたのかは死ぬまで誰にも明かさないと心に誓ったのは言うまでもない。


 それはともかく。

 この見た目ゆえにレオノーラが優理を女の子と誤認しているのは間違いなく、それが「手ぶらで森の奥底にいるなんて正気の沙汰とは思えない」のセリフにつながる。

 森の奥底にいたのは優理の意思とは関係ない不可抗力だが、性別をカン違いされた挙句に〝正気の沙汰〟云々とまで言われるのは少々……いや、かなりの剛腹もの。

 強い口調で「あのさ……」と誤解を解きに口を開けるが、途端に「しっ!」と遮られる。


「静かにしてくださる」


 しっ責するかのようにレオノーラがそう言うと「ニードル!」と扇子を軽くひと振り。

 直後、優理の首筋を撫でるように微かな風が吹き、おくれ毛が1本2本とはらりと舞う。


「えっ、なに、いまの?」

「お嬢様の魔法」


 優理の疑問にヒルデがボソッと答えると、無言で背後の地面を指差す。

 つられて視線を移すと、蜘蛛を思わす拳サイズの節足動物がひっくり返ってジタバタしているではないか。

 見たこともない生き物に目が止まった優理に、レオノーラが「フォレストタランチュ」と扇子で指して教えてくれた。


「樹上で待ち伏せして毒牙で獲物を捕らえる、クラッガリの森奥に棲む魔物ね」

「うわ、キショ……てか、こんなのが頭上にいたのかよ!」


 黒い体躯に原色の赤く禍々しい斑点をした姿に顔をしかめると、レオノーラが「貴女、危うくコレに刺されるところだったのよ」とキッパリ。

 確かに樹上にこんなのがウロウロしていたら森奥の一人歩きは危険極まりないだろう、自分のすぐ後ろにこんな毒虫が潜んでいたと思うと背中が寒くなる。


「わたくしが退けたのだから、ありがたく感謝することね」

「いや。ありがたいけど、自分で言うなよ」

「生意気な口を利くわね。それとも黙って刺されたほうが良かったと?」

 

 それはゴメン被ると首を左右に振ると「刺されても、ちょっとチクッとするだけ」とひと言メモのように横からヒルデが補足する。


「えっ、それだけ?」

「それだけ」

「……」


 しばし考え「ああ、そうか」と合点とばかりにポンと手を叩く。


「コイツは即効性の毒じゃなくて、後からジワリと効いてくる遅効性の毒なんだ」

「違う」

「違うの?」

「フォレストタランチュに刺されたら、毒で赤く腫れて痒くなる。治まるまでに3日はかかる」

「蚊か!」

「ただし痒みは強烈。夜は眠れない」

「地味に嫌なタイプの魔物だな」


 あそこまで緊迫させて結局それかい。拍子抜けし過ぎて、思わず突っ込んでしまう。


「まあなんにしても痒いのなんて真っ平だから、追い払ってくれたことには感謝しておく。それはそれして、あの毒虫を掃い落とした風みたいなのが魔法なのか?」


 仰いでもいない扇子が風を放つはずもなく、目の前で起きた現象は非科学的でファンタジー一直線。

 そこのところを改めてヒルデに訊くと、逡巡することなく短くひと言「そう」と答える。


「アレは風魔法の一種。お嬢様が得意としている」

「風魔法?」

「先ほど見せたのは風を錐もみ状にして放つ〝ニードル〟と呼ばれる風系統の魔法。これをフォレストタランチュに放ちましたのよ」


 ヒルデの説明に気を良くしたのか、レオノーラが上機嫌にバッサバッサと扇子を仰ぎながら、上から目線で間に割って入ってきた。


「風を錐もみ?」

「ええ、そうよ」


 と言われてもピンとこない。

 すると絶妙なタイミングで「小さな空気の矢を射ったと思えばいい」とヒルデが注釈。


「なるほど」

「それくらいは察しなさいな」


 いや、解るか。

 話半分も理解できていない優理に「庶民が魔法を見る機会が少ないから、信じられないのも無理もないかもだけれど」とマウントを取りつつレオノーラが話を続ける。


「そのニードルとかいう魔法で、あの毒虫を掃い落としたと?」

「正確には違うわね。フォレストタランチュは樹上から獲物を捕りに糸を出して下りてくる。そんな相手に魔法を当てても、糸がブラブラと揺れるだけで効き目がないわ」


 そう言って自分の髪をひと房手に取ると、同じようにブラブラと揺らして「ホラね」と優理に見せつける。

 地上数十メートルもの高いところから糸一本でぶら下がっているので、暖簾に腕押しではないが力技はダメージを与えることなくいなされるだけ。

 なるほど理屈はよく分かったが、よく分からないのがその後のセリフ。

 

「なのでニードルを放って、その糸を切ったのよ」

「ホントかいな?」


 目の前で見せつけられても、これが事実だとは信じがたい。

 いくら魔法だからといわれても、メートル単位で離れた先の細い糸を切断するなんて信じられるか。例え高性能なセンサーを搭載したドローンでだって不可能だろう、ましてや肉眼で誤射することなく射掛るなど人間業とは思えない。

 疑心暗鬼に優理は吠えるが、にヒルデが「お嬢様の魔法は針の穴を通すほど正確無比」と反論。

 荒唐無稽にもほどがあると優理は一笑に付す


「魔法精度の高さで、お嬢様は王国でも五指に入る」


 キッパリ言い切ったのである。 


「ふふん。そうでしょう、そうでしょう」

 

 ヒルデの補足にレオノーラがますます鼻高々、胸も張りすぎてイナバウアーになるんじゃないかと思うほど。


「わたくしは狙った的は絶対に外さないわ」

「まるで伝説のスナイパーやん。背後に立たないように気をつける」

「その心配はない。お嬢様はそんなことをしない」

「当然ですわ。侯爵令嬢たるわたくしが、武器を持たぬもの相手に刃を向けるようなことは断じてないわ」


 貴族の矜持とばかりに答えるレオノーラに、ヒルデがひと言「アレはお嬢様の本気の全力」と暴露。


「魔法の精度は王国で五指に入るけど、魔法の威力は下から五番目」

「えっ、ショボっ」

「お嬢様は生活魔法の達人」

「いや、その達人て要る?」


読んでいただきありがとうございます。


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