Re:ゼロから始まる討伐準備
「査定してくださいませ。これがモリカケ鳥、そしてこれがモリカケ鳥を襲おうとしたゴブリン」
「の〝残骸〟です」
ギルドの素材受付カウンターにて。
レオノーラが職員相手に革に包んだ物体を広げると、間髪入れずにヒルデが補足をする。
赤ん坊の拳大の小さな肉片は、言われなければただの焼け焦げた半生肉。元が食用鳥か害獣かなど、専門家でも見分けがつくまい。
「嬢ちゃんらが堂々と持ち込んだ、その胆力はスゴイと思うぞ」
ギルドの職員が言葉を選ぶと、レオノーラが「当然ですわ」と根拠もなしにふんぞり返る。
「いや、褒めてねえから。これに査定が付くと思う、嬢ちゃんらの気が知れん」
親指を立ててキルポーズを作ると「帰れ!」と即答。けんもほろろに門前払いを食らったのである。
*
「まったく、失礼な職員ですわね。あの程度のことで感情をむき出しにするとは、庶民とはいえ人物が出来なさ過ぎですわ」
素材受付カウンターから本館へ向かう道すがら、レオノーラはこれでもかというほど悪態をついていた。
持ち込んだ素材……の残骸は当然のごとく査定ゼロ。というか、査定そのものを拒否られたのだが……
「アレを査定できると思うほうが、逆にスゴイわ」
ユウリもギルド職員の考えに一票。
肉片1個のモリカケ鳥をどこに卸せというのか? ゴブリンは指定害魔獣とかに指定されていて駆除対象らしいが、あれも肉片1個で「これがゴブリン」と主張していったい誰が信じるのやら?
至極まっとうな対応だと思うが、あいにくと常識の枠外に存在するのがレオノーラという種族。
「……なんですよ。まったく、信じられませんわ」
真っ当な意見を述べたユウリを完全シカトして、グレンダに不満をぶつけるであった。
「って、おい! オレの諫言は何処にいったんだ?」
「はぁ? ただの愚痴でしょう」
「このわたくしがモリカケ鳥とゴブリンだと保証しているのですよ。これ以上の信頼などありませんわ」
鼻を鳴らしてレオノーラがキッパリと断言。
傲慢ともいえる言動にユウリは呆れて天を仰ぎ、ヒルデは触らぬなんとやらとばかりに視線を逸らす。そんな中、グレンダが「ギルドにも規定がありますから」と構文を指し示す。
「素材の買取りはギルドに決定権がありますので、担当が拒否したらそれが結果です。ゴブリンは指定害魔獣ですので駆除の報奨金が出ますが、全身もしくはギルド指定の部位を持ち込んだ場合に限ります」
「つまり、わたくしの持ち込んだ部位では規定を満たさないと?」
「そうです」
キッパリと言い切る。
いや、まあ、それが普通だろうな。
儲けが出なきゃギルドだって運営できない。
「だとしたら。オレたちには、どんな狩猟が合うと思います?」
現実的な質問をすると、哀れな肉片を眺めながら「……そうですね」とグレンダが思案。
「今までの実績からも素材の採取は不得意なようだし、先ずは指定害魔獣の駆除をしみては?」
指定部位さえ持ち込めば討伐証明になるからと奨めてきたのであった。
とはいえ、それですんなり決まるほど、世の中は単純ではない。
「駆除ねぇ……イマイチ地味ではなくって?」
案の定レオノーラが難色を示し、暗礁に乗り上げそうな気配。
ここでごねられたら面倒くさいことは請け合い。ユウリは内心「やれやれ」と思いつつ、ひと言つけ加えることにした。
「グレンダさんが〝駆除〟なんて言ったからイメージがアレだけど、仕事の内容自体は〝討伐〟と同じじゃないのか?」
そう指摘すると、グレンダも「ユウリさんの仰る通りですね」と首を縦に振る。
「ドラゴンやフェンリルのような災害級ではありませんが、放置できない相手という意味では同じく討伐対象と言えるでしょう。むしろ人外魔境にいる災害級より、人家近くにいる指定害魔獣のほうが緊急度は高いですね」
グレンダの説明に、レオノーラの眉がぴくりと動く。
〝駆除〟という言葉には乗らなかったが、〝討伐〟という響きには弱いらしい。
「そ、そうね。討伐ならば、考えなくもないですわね」
「ゴブリン単体の強さはそれ程でもありませんが、繁殖力が旺盛なので数が揃うと厄介です。なので是非とも〝討伐による間引き〟をお願いしたいですね」
「困りますわね。是非ともと請われてしまったら、断れないじゃありませんか」
そう言いながらもレオノーラの口角はムニムニと上がりっぱなし。困ったポーズをとりつつも「短弓で仕留めるには不向きですわね」と受ける気満々。
「そうですね。距離があるならクロスボウ、接近するならワンハンドソードかバスターソードがお勧めです」
グレンダが武具を指南すると「だとしたら、すぐに買いに行かないとダメね」と即答。間髪入れずに「ユウリの刀も買うわよ」と言い放ったのである。
「は? オレの刀まで?」
いきなりの急展開で呆気にとられるユウリにレオノーラが「当然でしょう」とキッパリ。
「手勢の獲物を整えるのも、わたくしの役目ですわ」
*
その足で向かった弓具店はディスプレイが一切ない簡素で静かな佇まい、店主が用意した軍用品を「まあ、悪くありませんわね」とレオノーラが答えてその場で購入と相成った。
「なんか、イメージと全然違う」
呟くユウリをレオノーラが「高級店はこんなものよ」と聞き流し。ヒルデから「ユウリの剣は冒険者が使う店で見繕う」と告げられて、武具本体だけでなく購入する店にも格式があるのだと知る。
そして入った冒険者相手の武具店は、まさしくユウリの想像通り。
壁一面に所狭しと剣や楯が飾られ、商品棚には胴当てなどの防具に矢などの消耗品が置かれ、さらには床のバケツにも〝お買い得〟と記された中古の件が無造作に並べられていた。
男の子マインドをくすぐる店舗に、購入客もいかにもな雰囲気の男たち。
この手の店に入れば、否が応にも気分が高まってくる。
が……
「ほら、好きなのを買いなさい」
「分かった……って、分かるかー!」
たとえ心が男の子でも、所詮ユウリはド素人。
玄人でもミリオタでもないのに、刀の良しあしなんて審美眼があるはずもない。バケツに突っ込んであるひと山幾らの屑剣がダメなのは理解できるが、それ以上となればどれが業物でどれがダメダメかなんてまったくもって理解の外。
「値段だって相場が分からないのに、どれを選んで良いのかなんか判断つかないって」
当然のごとくユウリはしり込み、選択肢がありすぎるから絞れないのである。
そしてレオノーラが呆れるのもまた当然。
「ユウリはおバカですの? 店員が何のためにいるのか知っています?」
「分からなければ、分かる相手に選んでもらえば良い」
ヒルデにまでバカにされ、店員を呼びつけ「良いのを選んであげて」と言われる始末。
結局、ユウリの容姿に鼻の下を伸ばした店員に見繕ってもらったが、代わりにねちっこくもイヤらしい視線を全身に浴びてしまった。
「うわぁぁぁ。気持ち悪い」
全身を悪寒が走り寒イボが出るほどキショかったが、一緒にいたレオノーラなどは「見られて減るものでもないし」と気にする様子などまるでなし。
「可愛いのだから、有名税」
ヒルデも素知らぬ顔なあたり、生粋の美少女の神経はきっと宮地嶽神社のしめ縄くらい太いのだろう。
「まあ、サービスはしてもらえたけど……」
購入したショートソードのは定価の2割引き。そのうえ革のホルダーも付けてくれたのだから、大盤振る舞いといっても過言ではないだろう。
失ったものも多かったが……特に男の尊厳。
そんなこんなで店を出て、ホテルに帰ろうとした帰路。
とある店先の軒下に木箱が1個置かれていたのが、ふと目に入る。
「……いや、なんだこれ」
木箱の中には漆黒の鞘に納められた刀が一振りポツンと横たわっており、その横には雑に書かれた札が1枚置いてあった。
【可愛い捨て刀です。貰ってください】
だから、なんなんだ! 捨て刀って!
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