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巻き込まれ再スタート

 静まり返った室内に、バットラーの声音だけが落ちた。


「あくまでも〝我〟を通すのであれば、ヴァルフェリア家としての支援は致しません。それでも宜しいのですね?」


 覚悟を問うような質問にレオノーラの答えは「もちろん」の一択。一瞬の迷いもなく、秒で即答したのであった。


「始めたからには中途半端など愚の骨頂、やるからにはとことん冒険者を極めますとも」

「意訳すると、もっと遊びたいと言っている」

「侯爵令嬢としてのお勤めは、どうなさるのですか?」

「オーガスタでのお仕事は、全部片付けましてよ」

「意訳すると、やることやったんだから文句を言うな。と」

「侯爵令嬢としての、と申しています。オーガスタでの仕事はその一部に過ぎません」

「わたくしには、それほど必要ではない筈では?」

「意訳すると、サロン活動がめんどい。派閥を作る気がない。と言っている」

「いや、心の声が酷過ぎなんだけど」


 ヒルデの意訳にユウリは呆れ「それ、世間だと単なるワガママだってことだよな」と小声でごちる。


「力があればムリも通る」

「ごり押しだろ」

「それも権力」


 とか言っている間に話が佳境にさしかかる。


「そのことを侯爵閣下にご報告しても?」

「ええ、構わないわよ」


 梃子でも動かぬレオノーラにバットラーが根負けしたのである。


「……承知しました。ご自身の決断に後悔なされますように」


 言外に〝最後通牒はしたぞ〟という雰囲気を放ちつつバットラーが部屋を後にすると、レオノーラが「ヨシ」と小さく拳を握り締める。


「煩いのがいなくなったし、これからが本番よ。先ずはギルドに乗り込んで新しい依頼を受けますわ」


 勇んでギルドに向かうレオノーラの背中を見つつ、ユウリは〝コイツ、ゼッタイに当初の目的を忘れているな〟と確信。

 レオノーラが勇んでギルドに向かい、ヒルデが〝しかたがない〟という空気を漂わせながら後に続く。

 そもそも冒険者は、ユウリがこの世界で生活基盤を得るための手段であり、レオノーラが冒険者になる必要などどこにもなく侯爵家は登録保証人に名を連ねるだけだった。


「それでお嬢様が納得するはずがない」

「だよな」


 ユウリは諦めヒルデが達観。レオノーラが「早速出発よ」と勝ち鬨をあげて支度を促す。


「はいはい、分かりましたよ」


 部屋を出ようとしたユウリをレオノーラが「お待ちなさい」と引き留める。


「まさか、その格好でギルドに行くつもり?」

「いや、さすがに着替えるけど」

 

 男の尊厳を守りつつ爆散しないギリギリの線がこれだったが、さすがに貫頭衣では屋外には出れない。


「ですわね。ヒルデは着付けの手伝いをしてあげなさい」

「いや、自分で着れるから」

「お嬢様の命令です」

「だから、なんでだよー!」


 

    *



 3人がギルドに入館すると、なぜか受付嬢を制してグレンダがカウンターに座ったのだった。


「あら、貴方が受付をするの?」

「はい。ヴァルフェリア家のご令嬢の対応に、通常の担当では力不足ですので」

「殊勝な心掛けね、良くってよ」


 レオノーラが満足げに頷く横で、ユウリは(いや、どっちかっていうとカスハラ対応では?)と心の中で突っ込む。

 身の丈を顧みず「新しい依頼を斡旋しなさい。野草採取以外で」な要求をする侯爵令嬢など、ふつうの受付嬢では身分を楯にされなくても御せるはずもない。 

 眉ひとつ動かさず「そうですね」と応対するグレンダの胆力が規格外なだけだ。


「それでは野草採りより難易度は上がりますが、薬草の採取では如何ですか?」


 で、提示したのが地味さでは五十歩百歩な薬草採取。

 それだと見た目一緒じゃないかと思ったユウリの予想通り、レオノーラの目つきがどんどん険しくなる。


「葉っぱ摘みが地味で嫌だと言ったのに、どうしてまた葉っぱを摘ませるわけ?」

「野草と薬草では買取価格がまったく違いです。野草だと精々小遣い稼ぎ程度にしかなりませんが、薬草は種類によってはかなりの値が付きます。中には金貨相当の価値を持つ薬草もあり、採取専門の冒険者もいますよ」

「お金は魅力的だけど……このヒトが気にしているのは、ソコじゃないと思う」

「当然でしょう。地面を這いつくばるなどわたくしには合いませんわ」


 グレンダの提案など端から無視。真っ向からのケンカ腰に頭を抱えるユウリの横で「このわたくしに相応しい依頼を用意なさい」と息巻くのであった。

 

 高飛車な物言いに「やれやれ」と首を振ると「そういうのは実績を挙げてから言ってください」と一蹴。

 グレンダの売り言葉にレオノーラも負けじと「幾らでも挙げて差し上げるから、仕事を寄こしなさい」の買い言葉。


 そこから先はまさに卵が先か鶏が先かの喧々諤々な大闘争。


「ああなったら、お嬢様は梃子でも動かない」

「……そんな感じがする」


 結果、根負けしたのは予想に違わずグレンダのほう。


「……分かりました。この狩猟の仕事を貴方がたに依頼します」


 げっそりとやつれて裁可印を押すとレオノーラを邪険に追い払うと、強引なカスハラに精魂尽き果てたのかカウンターに頭から突っ伏した。

 見るからに女傑なのにあそこまでやつれるか?

 そう思ったのもつかの間。


「ところで、ユウリさん」


 唐突にユウリを呼び止めると、まるで思い出したかのようにガラリと話題を切り替えて話しかけてきた。


「その服。可愛くてよくお似合いですよ」

「いや、なんで、いまその話!」

「オカマにも衣装」

「誰がカマやねん!」



    *



 それからさらに時間が経って。

 ユウリたち3人は、再び森を目指していた。

 

「良いこと。今日の目的はモリカケ鳥の狩猟、最低でも2羽を持ち帰ることを目標としますわよ」


 森に向かう道すがら。レオノーラが拳を振り上げて宣言する。

 ギルドのグレンダと喧々諤々な闘争の末に勝ち取った〝狩猟の依頼〟だけに気合の入れ方もひとしお、手にした短矢を空打ちしてイメージトレーニングに余念がない。

 張り切るレオノーラに対して、ユウリはというとテンション低め。


「そう上手くいくのかな?」


 狩猟なんて生まれてこのかたやったことがない。唯一の捕獲体験が縁日での〝金魚すくい〟なのだから、不安を持つのはむしろ当然のこと。

 それに、だ。


「で、初歩的な質問だけど。モリカケ鳥って、どんな鳥なの?」


 レオノーラが呆れた表情でヒルデが無表情で見返すが、そんな名前の鳥なんて見たことも聞いたこともない。


「だって、オレ。こっちの世界の鳥の種類なんて知らないもの」


 開き直って暴露すれば、レオノーラがやれやれとばかりに盛大なため息。


「はあ。無知蒙昧とはユウリのことですわね」

「そうだよ、悪かったな」

「まったく、しょうがないですわね」


 そう言いながらも説明してくれたところによると、森の中を駆け回る小型の飛べない鳥だという。


「臆病で動きが素早いのが特徴ですわね。敵の気配を察知したら一目散に逃げだしますわ」

「でも、肉がとても美味しい。高いけど……」

「網とか罠を張ったら?」

「鳥のくせに頭が良いから、引っ掛からないわね」


 9級にも狩猟が許されているのは、危険度は低いが難易度も高いからとか。


「結局、博打じゃん」

「いいえ。わたくしたちの名を知らしめて、早急に9級を脱するためですわ!」


 レオノーラが力説。そのうえ「どんな手段を使っても成し遂げますわ」と嫌なフラグもしっかり立てる。


「レオノーラは貴族なんだから、狩猟の経験はあるんだよな?」

「もちろんありますわよ。……見学なら」

「は?」


 ダメじゃん。


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