天狗の円舞曲
翌朝。
バットラーに「目にものを見せる」と啖呵を切ったレオノーラが向かったのは孤児院だった。
「なぜに、孤児院?」
教会と思しき? 建物を前にして、ユウリは訳が分からんと首を捻る。
ちなみに教会と言い切れないのは、建物のどこにも十字架がないから。かといってお寺とも違うし、モスクの類も見当たらない。ところ変わればではないけれど、今さらながらに異世界に来たのだと実感したのであった。
それはさておき。
「痛い! 髪を引っ張るな! うわっ! テメエ、他人のケツを触るんじゃない!」
ユウリは施設の孤児からセクハラ攻撃を受けていた。
背後から髪を引っ張られ、横から腰に抱きつかれ、前からは謎のちびっ子がスカートの裾をめくろうとしてくる。
「お姉ちゃん、ふわふわー!」
「お姉ちゃん、じゃねー!」
「ねーねー、なんでスカートなのー?」
「好きで穿いているんじぇねーや!」
「おっぱい、ぺったんこー?」
「じゃかぁっしー! いや、合っているか?」
「ぱんつ、しましまー」
「捲るなー!」
「でも、前のほーうに〝ぱおーん〟みたいなの、あった」
「ややこしいから、オマエ黙っとれ」
ユウリの悲鳴が響き渡るその横で、レオノーラは優雅に微笑んでいた。
「まあまあ、元気があってよろしいですわね」
「やかましい! この、諸悪の元凶が!」
半ギレ涙目で睨み付けると、レオノーラが扇子でも持っていそうな優雅さで「まあ、怖い」と肩をすくめた。
「子どもというのは好奇心の塊ですもの。ユウリが〝珍しいもの〟を身に付けているのが悪いのですわ」
「珍しいって言うな! ていうか、そもそもなんで孤児院なんかに来たんだ?」
「お嬢様の命令だから」
「いや。それ、理由だけど、理由じゃないだろ」
「もちろん、ちゃんとした理由がありましてよ」
レオノーラが得意げに言い放つと、パンパンと手を叩いて「お聞きなさい」孤児たちに注目を促す。
「今からアナタたちに仕事を与えます。森に入って昼までに野草を採っていらっしゃい」
頭ごなしな突然の命令に戸惑う孤児たちに「採った野草はこのわたくしが買い上げます」と付け加えると空気が一変。
「葉っぱを買ってくれるの?」
「やるー!」
「森いくー!」
「なら、お行きなさい」
レオノーラが再び手を叩くと、まるで我先にとばかりに一斉に森へ駆け出していったのである。
これに驚いたのは、もちろんユウリ。
「なに勝手に命令しているんだよ。ガキ相手だからって好き勝手し過ぎだろう!」
レオノーラの行動を非難するが「園長の許可なら取ってあるわよ」とどこ吹く風。
「あの子らには幾ばくかの小遣い、わたくしたちには売り捌く野草、バットラーにも大義名分。すべてヨシじゃない?」
「そんな近江商人みたいなことを……」
呆れを通り越してもはや感心すら覚えるほどの屁理屈にレオノーラが胸を張り、まるで自分の論理が世界の真理であるかのように堂々としている。
「だいたい、昨日は人手不足が敗因だったのよ。ならば今日は人海戦術で挑めばいいだけのことだわ」
自信満々に言い放つが、それって冒険者のすることか?
ユウリは心の中で首を捻るが、あえて黙して語らず。というか要らんことを言えばどうなるか、しっかり学習したのである。
「まあ、観てなさい。目にものを言わせて見せるから」
得意満面なその言葉にウソはなく、昼にはレオノーラの許に籠一杯の野草が集まった。
「いっぱい採ってきた」
「森でがんばったー」
「ぜんぶ、食べれるよー」
孤児たちが成果を自慢する中、レオノーラが「よくやりましたわ」と褒め称え、ヒルデを介して駄賃を手渡す。
「下々に仕事を回してこそ上に立つ者の勤めというもの。おかげでギルドに収める野草も確保ができたわ」
扇子を仰いで、まさしく左団扇。
「これをギルドの買取りに叩きつけて差し上げるわ」
意気揚々と成果を謳うや、その足でギルドに直行。
量の多さに驚いて目を丸くする買取り担当者に向かって「わたくしが本気になれば、こんなものよ」と鼻高々に自慢したのであった。
「こんなにたくさん集められたら、さすがにイロを付けないといかんな」
そう買取り担当者が言って査定した金額は銅貨25枚。訊けば大きめの木桶に汲んだ牛乳とほぼ等価格で、野草採取としては破格の金額らしい。
「野草採りは新人や経験の浅い冒険我がするのが定説。難易度が低く誰でもできるが、主だった場所は採り尽くされているから量を確保するのが難しい。だから腕の良い冒険者でも、稼げるのは精々銅貨10枚程度なんだが……参った、たまげたわ」
「そうでしょう、そうでしょう。もっと褒め称えても良いのよ」
褒められたレオノーラが上機嫌。おまけにあのバットラーが「これでは……瑕疵を咎めれれませんな」と遠回しに敗北宣言をしたのだから笑いが止まらない。扇子を振りながらガンガンに胸を張り、そのうちイナバウアーするのではないかと思うほど仰け反りまくっている。
というか、いくらなんでも燥ぎすぎ。
「調子に乗ってるなー」
「数字が出ているから浮かれている。普段する裁可では、お嬢様は細かな数字を知らない」
「どういうこと?」
「そのまんま」
スッと差し出された書類にユウリは「あちゃー」と頭を抱える。
レオノーラの言う〝成果〟は素直にスゴイと感嘆するし、冒険者に反対していたバットラーを黙らせたのも事実ではあるが、今回の成果はいわば孤児たちが森を駆けずり回った上米を撥ねたようなもの。
搾取はしていないので違法性こそないが、逆にいえば搾取をせずに人員を大量投入すればどうなるか?
「かかった経費が多過ぎるって」
浮かれるレオノーラに、ユウリは現実を突きつける。
野草採取としては破格の収益だが、使った金額もまた破格。
しかし、そこはレオノーラ。
「ま、まあ、多少は使ったでしょうね。ステップアップのためには止むを得ない出費よ」
多少のはした金は必要経費と斬って捨てるのであった。
「ふ~ん。止むを得ないね。これを聞いても言える?」
ユウリの合図でヒルデが書面を読み上げる。
「孤児たちへの駄賃が銅貨10枚、買い上げした野草の代金の合計が銅貨10枚」
「そ、それでも、銅貨5枚の利益がありますわ」
「孤児院への心付けに銅貨1枚」
「はあ?」
「ギルドへの上納金が、同じく銅貨8枚」
「ちょ、ちょっと! 心付けやら上納金とは、どういうことですの?」
訝るというより「信じられない」という顔をするレオノーラに、ユウリは「さっき言ったじゃない」とため息。
「ステップアップのためには止むを得ない出費。だって」
「言いましたわ。言いましたけど、心付けとか上納金とはなんですの?」
半ギレするレオノーラに、ヒルデがやれやれと首を振り説明。
「孤児院に話を通すのに心付けは礼儀。売り上げの2割をギルドに収めるのは規則。ギルドはそこから手数料と、冒険者の納税代行をしてくれる」
「そ、それでは丸損ではないですかー!」
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