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9級からの反逆。令嬢、常識を踏み抜く

 晴れて冒険者登録をした? ユウリ・レオノーラ・ヒルデの三人ではあるが、身分はお試し仮登録の9級冒険者。所詮9級では世間では冒険者などとは認められておらず、扱いとしては原付免許証以下で最低限度の身分証明書として使える程度。


「先ずはこの屈辱的な〝9級〟からの脱出ね。登録したばかりだとはいえ、このわたくしが最下層にいるなど断じて許せませんわ!」


 名ばかり以下な9級冒険者など彼女のプライドが許さないのだろう。部屋を出るや否や開口一番、拳をギュッと握り締めつつレオノーラが力説する。


「まあ、9級はないな」


 屈辱かどうかはさておき、言わんとすることはユウリも納得。

 登録とともに冒険者の証となる通称〝ライセンスカード〟を渡されたのだが、9級のそれは単なる厚紙で仮カード感がハンパない。プラチナ製の【特級】やゴールドでできたの【一級】と比べてあんまりにもあんまりだ。

 いくら実力や功績に圧倒的な差があるとはいえ、こうまで露骨に差をつけられたら最早笑うしかない。

 なので、木製のライセンスカードとなり最低限冒険と呼べる8級への昇格は急務だが、侯爵家のご令嬢はそんな程度では納得しない。


「要は有無を言わせぬ功績を挙げて、一気に駆け上がれば良いのです」

「いや、おい。慌てるなって」


 あまりの性急ぶりにユウリは「段階を踏め」と宥めにかかるが、それで止まればレオノーラなどやってはいない。

 ユウリの制止など我関せずと、ひとりずんずんと突き進むや受付カウンターで仁王立ち。


「このわたくしが1級冒険者になれるような依頼を、今すぐに出しなさい」

「ムリです」


 即答で断られた。


「いくらなんでも、身の程知らずだろう! どこの世界に登録初日の人間相手に、最上級クラスの仕事を任せるところがあるんだ」


 暴発直後にレオノーラに「ちょっと来い」と言うと、ユウリは柱の隅で非常識令嬢相手に世間の常識を説く羽目に。


「そりゃオレだって9級なんかさっさとオサラバしたいさ。だから早く依頼をこなすのは賛成だけど、いきなり1級冒険者にステップアップ依頼ってなんだよそりゃ! 魔王でも倒しにいくのか?」


 多分それくらいの功績でも示さないと、一足飛びに1級冒険者になるなんて絶対に不可能。そもそも魔王相手に挑もうと思ったら、最低でも勇者レベルの力量が必要だ。

 さすがに魔王討伐はムリだと思ったのだろう、レオノーラも「少し勇み足が過ぎたわね」と反省。


「さすがに登録してすぐに1級冒険者昇格は、ムリがあったとわたくしも反省いたしますわ」

「いや、解ればいいんだよ。解れば」


 神妙にするレオノーラにユウリはホッと胸をなでおろし、9級冒険者の戯言かお茶目な冗談と受け取ったのか「2級に昇格したら斡旋してあげますよ」と受付嬢が苦笑交じりに答えるが、レオノーラの辞書から〝冗談〟という言葉は早々に削除済み。


「ならば今すぐ2級に昇格できる仕事を斡旋なさい」


 反省の色もなくマジモンで言うものだから、受付嬢の堪忍袋は即満杯。


「は?」

「スミマセン、スミマセン。此処のシステムが良く分かっていない初心者ですから、奥でよーく言って聞かせますから」


 眉がピクリと撥ねてこれ以上ないくらい侮蔑に無知た視線の受付嬢にペコペコ頭を下げると、ユウリは再度レオノーラを柱の隅に連れ出したのであるが、高周波焼入れをしたSCM鋼より硬い令嬢の鼻っ柱が折れるはずがない。

 すぐさまへそを曲げ「どういうつもりかしら?」と怒りの矛先をユウリに向ける。


「このわたくしに、見習いの真似をしろと?」

「仰ってるんだい!」


 というか、9級冒険者なんだから見習いだろう。


「もう忘れたのか? たった今、順番を踏めって言っただろう!」

「だから、ちゃんと順番を踏んだじゃない? 1級の間にワンクッション入れましてよ」

「もっと刻めよ! オレたちゃド素人なんだから、先ずは初心者推奨の依頼から始めるべきだって」

「ヘンタイが真っ当なことを説いている」


 ヒルデの皮肉を睨むだけで無視すると、レオノーラに向かって「それとも。9級の依頼が出来ない言い訳をするに、ムチャを言っている?」と挑発。

 この安い挑発に乗ってしまうのがレオノーラ。


「バカを言いなさい!」


 秒で反発すると「このわたくしには役不足なだけです」とピシャリ。


「ふ~ん。だったら余裕でできるよね」

「当然よ」


 売り言葉に買い言葉。

 ユウリの誘いにまんまと乗り、レオノーラが初心者用の依頼を受けたことで、彼女ら3人の最初の仕事が決まったのである。

 

 一連のやり取りを傍観していたヒルデがユウリを「猛獣使い」と呟いたのは誰にも聞かれていなかった。



     *



 一方。

 そんな騒動が起きているなど知る由もない、応接室のグレンダ。


 姦しい3人が部屋から退出すると本当に〝シーン〟という音が聞こえてくる。

 閉じた扉を見つめながら、グレンダはやれやれと肩の荷を下ろした。

 ポニーテール娘の身元保証で来たかと思ったら、なにをとち狂ったのか侯爵令嬢自らが登録するときた。

 説明を聞いている間ウズウズしていたから、嫌な予感がしていたのだが案の定。世間知らずのお嬢様だけに、冒険者の仕事を舐めてかかってらっしゃる。

 誰でも簡単に登録できるのが冒険者だが、言い換えれば〝なり手の数だけ離れていく者が多い職業〟でもあるのだ。華々しい活躍を繰り広げる1級2級の冒険者など数えるほど、大多数の冒険者は地味でしんどい仕事に従事している。

 有体にいえばハイリスクハイリターンかローリスクローリターンの二極なのだ。

 

「まあ〝現実〟を見れば、熱も下がるでしょう」


 冒険者の深淵をちょっと覗いて「面白かった」と満足してくれれば良いのだけど、その辺りはお付きの二人に期待するしかないか。提出された申請書を見ながらしみじみと思う。


「ムダに几帳面な書類がヒルデさん、と」


 お嬢様に無理やり登録させられた可哀そうなメイドね。と幾ばくかの同情を添える。

 おそらく毎度毎度令嬢のムチャ振りに付き合わされているのだろう。ひょっとしてあのけしからんお胸は、ストレスが蓄積して盛り上がったもの? そんなこと考えるあたりグレンダも既に社畜に片足を突っ込んでいるのだろう。

 まあとにかく、ストッパーになってくれるようさり気なく情報を流す相手は彼女だなと心に刻む。


 で、そもそもの冒険者志望はユウリさんか。

 ポニーテールでちょっとがさつ……活発な印象だったから適正はありそうね。


「ああ、でも。この娘はそそっかしいか注意力散漫だわ」


 性別記載が〝男〟になっている。

 この程度の書類で書き間違いをされると困るのだけど。


「とりあえずは〝誤記〟を直しておきましょう」


 追々その辺りは〝教育〟するとして、ユウリの性別欄を女に書き直すと、グレンダは申請受理の手続きを行ったのである。 


読んでいただきありがとうございます。


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