冒険者デビュー。気付けば三人で
この世界での生活基盤を整えるために勧められた、というか選択せざる得なかったのが冒険者の仕事。
いかにもトレジャーハンターみたいな名が付いているが、詰まるところはそういう仕事も請け負うという謂わば何でも屋。
登録のためにギルド内で説明を受けていたら、なぜかレオノーラまでもが冒険者に登録すると言い放ったのである。
これに公然と反対したのが執事のバットラー。
「ヴァルフェリア家の令嬢が冒険者になるなど、おふざけが過ぎます!」
侯爵令嬢が冒険者になるなど言語道断前代未聞と、家名を盾に強い口調でレオノーラを諫める。
門戸が広いこともあって出自が貴族という冒険者は珍しくないが、その大半は爵位を継げない3男以下の男子である。稀に女性貴族もいるにはいるが、困窮する下級貴族の娘であり高位貴族の令嬢に前例などない。
「オーガスタでの行事予定を変更して、ユウリ嬢の冒険者登録に同行するまでは良いでしょう。関係各所に多大な負担は強いましたが、この程度ならば我が儘の範囲内で済ませます。しかし一緒にお嬢様窓もが冒険者登録をするのは看過できません」
頭から湯気が出てきそうなバットラーの勢いに、ユウリも「そらそうだろうな」と思う。いくらなんでも自由奔放にもほどがありすぎる。
しかし当のレオノーラときたら「バットラーの指図は受けないわ」と諫言など丸っと無視。
「わたくしのことはわたくしが決めます、バットラーは後ろに控えていなさい」
有無を言わせぬ迫力でバットラーを黙らせたのである。
「さて、改めて仕切り直しよ」
高らかな声で宣言するが、これに反応したのはメイドのヒルデ。
レオノーラの予想外すぎる行為に目が完全にテン。油の切れたからくり人形のように、ギギギというようなぎこちなさでレオノーラのほうに身体を向ける。
「お嬢様。何故、書類が3枚も要るのでしょうか?」
「だって面白そうじゃない。ユウリだけが冒険者なんて、ズルくない?」
「いやオレは、他に手立てがないから冒険者をするのであって……」
そんなことをする必要もないのにとユウリは翻意を促すが、冒険者に興味津々なレオノーラに聞く耳はない。
「わたくしは冒険を楽しみたいからなるの」
理屈でない理屈を強引に押し通し「冒険者にわたくしはなる!」と両手を腰に当て高らかに宣言。
泣く子とレオノーラには勝てぬと達観したヒルデが「申請書は2枚で良いのでは?」と訊くが、唯我独尊なご令嬢は「いいえ」と否定。
「それは、なぜ?」
「もちろん。ヒルデも冒険者になるからよ」
「…………」
「なんかスマン」
ただ空気がどんよりと重かった。
*
グレンダが説明をした通り、冒険者になるための登録申請は至ってカンタン。
申請書に規約を承諾する旨の署名をして、既定の登録料を払えばそれで完了。なので極論すれば読み書きができて少々の小銭があれば、登録するのは童でもできる。
いや、たとえ読み書きができなくともギルド職員が代読して署名してくれるので、必要なのは登録する意思と若干の諸経費だけ。
「本当にカンタンですのね」
なのでいの一番でレオノーラが署名したのはなるべくして。彼女にしてみれば人気アトラクションの年間パスに署名した程度の認識なので、気負いも緊張もないからお気楽なものだ。
次いでヒルデも同じく署名。
「…………」
なにか悟りを開いたようだった。
で、肝心のユウリはというと。
「あら、まだ書いていないの?」
未だ空白のままで、しびれを切らしたレオノーラに叱責さていた。
「それとも申請書類が読めないのかしら? でしたら手伝ってあげるからお貸しなさい」
言うや否や「要らねえよ!」と叫ぶユウリをガン無視して申請書類を掻っ攫うと、優雅な筆致でさらさらと書き始める。
「氏名はユウリ。年齢は、幾つなの?」
「16歳」
「16。と」
「って、おい! なに勝手に書いているんだよ!」
「代筆ってそういうものでしょう。ひょっとして知らなかった?」
「庶民の識字率は凡そ5割、その可能性はある」
ヒルデの分析に「違うわ!」と牙を剥く。
「文字くらい読めるってーの」
異世界補正か特典なのか理由は一切不明だが、未知の言語や文字にもかかわらず、ユウリはリスニングもヒアリングも普通にできる。
ったく。
この能力の十分の一でも英語の授業で活かせたら、苦心惨憺しなくて済んだのに思うと恨めしい。
「ホラ。これで良いんだろう!」
レオノーラから書類を奪い返すと残りの項目に記載と署名、足をドンドンと踏み鳴らして個室を後にする。
背後から「お子様ねぇー」というクスクス笑いが聞こえるが知ったことか。
といきがったが、その直後。
「……ゴメン。登録料は貸してください」
回れ右をして、両手を合わせて拝むことになる。
「後先考えていない、本当にお子様」
レオノーラに代わって財布を開けたヒルデが、やれやれと肩をすくめたのであった。
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