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続、令嬢の回想。拾われた美少女(仮)の真相

ストックが尽きました。

毎日更新は今日までですが、できるだけ間を開けないように頑張りますので、よろしくお願いいたします。

 楽しい玩具が手に入ったら、手元に置いておきたくなるのは当然というもの。ましてや保護という名の拉致でオーガスタの町に連れてきたのだから、ここで「以後気を付けなさい」と突き放すなどレオノーラのお楽しみ……矜持が許さない。


「遅くなったことだし、今日はユウリも一緒に泊まりなさい」


 当然の流れとしてユウリを宿に引き連れるが、無論それだけでは保護と称すにはおこがましい。


「湯あみをして、身綺麗になりなさい」


 侯爵令嬢の玩具たるもの、バッチイままでは遊べない。

 ヒルデを付けてユウリを洗おうとしたら、驚愕の事実を知ることになった。

 

 なんと〝感覚のズレた美少女〟だと思っていたユウリが、実はどこか〝感覚のズレた女装するヘンタイ〟だったとのである。

 しかもこの女装、本人の意思ではなく理解不能な呪いの類袖を通した男物がすべて襤褸切れになるという、ふつうの恰好ができないというオモシロ体質……もとい、可哀相な身の上だったのだ。


 ふつうならば厄介ごとに首を突っ込んだと後悔をして、当座生活できる小金を握らせて放逐する案件だろう。

 しかしレオノーラにしてみれば〝面白そうと拾った玩具が更に面白かった〟という一粒で二度美味しい思わぬ収穫、これだけ可憐で可愛ければ中身が男だなんてこの際どうでも良い。

 というか、むしろちょっとしたスパイス。

 ますます市中に解き放つのは惜しいと思ったところに、バットラーが勧めた仕事は冒険者。


「その根拠は、なんなの?」

「理由は幾つかございますが……」


 バットラーが言うには身元の審査が緩くて、就業にあたって紹介状が不要なこと。また仕事の内容次第では即日現金収入が得られるので、手っ取り早く生活基盤を確立できるとのこと。


「それがお嫌なら。男なら商船の漕ぎ手に、女なら娼館の門を叩くくらいでしょうか? 奴隷という手もございますが、あまりお勧めはしませんな」


 その他の選択を聞いてユウリがプルプルと首を振る。

 まあ当然だろう。

 漕ぎ手も娼婦も高給取りだが高級娼婦の一部を除けば職業カースト的には最底辺、皆が進んでなりたがる商売ではない。

 奴隷はもちろん言わずもがな。借金で首が回らなくなった人間が、己を担保にして金を借りる最後の手段だ。担保自体にピンキリがあるうえ扱う奴隷商や買い手にもピンキリがあるので、アタリならば衣食住が保証された年期奉公となるがハズレなら一生を棒に振るリスクの高いギャンブルだ。


 ヴァルフェリア家が保護したのだからそんなことはさせないが、ユウリが選択したのは冒険者。

 その選択にレオノーラはほくそ笑む。


 良いじゃない。良いじゃない。良いじゃない!


 勧めたバットラーもグッジョブだし、勧めに従ったユウリも褒めてあげたい。

 奴隷に堕ちるのは論外だが、己の意志で商船の漕ぎ手や軍にでも入られたら、如何にヴァルフェリア家といえどもおいそれとは介入できない。

 しかし半ば自由業な冒険者ならば話は別。ヴァルフェリア家の保護という名目で構い倒せる……じゃなくて、支援してあげることができる。


 流れを察したヒルデが面倒くさそうに顔をしかめるが、レオノーラはそんなことはお構いなしに「明日、ギルドに行ってユウリの冒険者登録をするわよ」と宣言。

 途中。バットラーが「お勤めをお忘れになられては困ります」と本来の用向き(視察に監査という退屈で窮屈なお仕事だ)を盾にレオノーラのギルド動向を渋ったが、本来の用向きを超高速で片付けて一切の反論を撥ねつけたから無問題。



 そうして訪れたギルドのオーガスタ支部である。

 侯爵家の威光はここでも健在で、手続き説明は当然個室でマンツーマン。付いたのはグレンダ・ベドナーシュという、フロントリーダーを務めるいかにもやり手な女性。

 アッシュブロンドの髪を胸前で束ねメタルフレームの眼鏡をかけた怜悧な姿は、とある性癖を持つ男たちに受けそうだ。

 それよりもレオノーラの目に映ったのは、一見スレンダーだが意外と胸部の盛り上がりがあること。

 いわゆる隠れ○○というヤツだろうか?

 ほんの僅かに殺意を憶えたが、侯爵令嬢たるものそんな狭量ではダメだと思い留まる。


 それはともかく。


「冒険者登録をということですので、説明させていただきます」


 おべんちゃらな無駄話が一切なく、それでいて丁重で分かりやすい説明は聞いていて気持ちが良い。

 その中でも殊のほかレオノーラの興味を引いたのが冒険者の資格について、だ。


「冒険者登録に必要な条件は規定の登録料を納めて必要書類を提出するだけ、本人に意思があれば奴隷や犯罪者を除けば誰にでも門扉を開いています」


 グレンダの説明に「本当に?」と思わず訊き返すくらいレオノーラには新鮮だった。

 尊きき青き血を受け継ぐ選ばれた存在。民を導く主導者たる者。

 貴族令嬢たる己の立場に誇りと尊厳を持ってはいるが、同時に狂おしいほど自由に対する憧れもある。


 実際、この視察旅行が良い例だ。

 家令のままにこなしていたら、代官館で形ばかりの書類のチェック。そのあと代官と会食をして、続けて町の有力商人の陳情を聴く。

 侯爵屋敷で留まり型通りの社交をするよりは息抜きになるだろうが、それとて刺激的かと問われたら籠の鳥がリードを付けて外に出してくれたに過ぎない。


「ええ、冒険者に身分や家柄などは関係ありません。ギルドは実力主義ですから」


 事実、家督の相続権を持たない貴族の三男坊四男坊がギルドに登録している実例もあるという。


「それは、初耳だわ」

「それを快く思っていないお家もございますので……」


 なるほどね、と頷く。

 完全なる実力主義ならば、失敗する者もいるということ。外醜を気にする貴族ならば、身内の恥になりそうなことは絶対に口外しないだろう。


「大半は凡庸で終わりますが、中には」

「大成するものと、さらに堕ちていくものがいる?」

「ご理解が早いようで」


 それを考えた途端、レオノーラの好奇心がムクムクと頭をもたげる。


 わたくしならばそんな不安に怯えることはないわ。なぜなら、わたくしは〝選ばれた高貴なる存在〟なのだから。


 それに、なによりも楽しそう。

 社交界で優雅に振舞うのも悪くはないが、おべんちゃらを言い寄る連中が正直うざったい。特権に付随する手間暇だとは理解しているが、あからさまなヨイショなど聞いていて不快なだけ。

 美しい? 優雅? 知的? そんな当たり前なことを囃し立てられても嬉しくもなんともない。

 どうせなら、もっとスリリングでエキサイトなことを楽しみたい。

 気付いたら、レオノーラはグレンダに告げていた。


「面白そうね。わたくしも登録するから、書類を3枚用意してちょうだい」


 それは当然かつ必然の結果だった。



読んでいただきありがとうございます。


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