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第22話 淑雪を探す女

 大明の医師養成には厳しい制度があった。エリート階級の太医院の試験は院考試と呼ばれ、官僚登用試験である科挙を思わせるほど苛烈だった。太医院の医生は三年間の習養後に卒業のための礼部考試があり、それに合格しない場合は医籍を削られ、一般の良民と同じく賦役を課せられた。いわば、エリートからの脱落である。

 太医院に倣い、恵民薬局の医生も四半期に一度の試験を設けていた。こちらは三度までの落第は認められたが、四度目は医生を止めねばならない。ゆえに淑雪と璚英は必死だった。


 次の年、正統七年の初夏、淑雪と璚英は次の段階へ進んだ。

 もう見習いからは遠く、何を専門にする医士となるか、考えろと言い渡された。太医院と同じく、専門は内科・小児科・婦人科・外科・眼科・鍼灸科・接骨科・口腔科などがあった。が、女である二人に選択の幅は狭かった。恵民薬局の誰もが小児科と婦人科を勧めるのだ。他の科目ではどうしても男性の体に触れることが大きな壁になっていた。


 璚英は「私は母親ですから小児科と言いたいところです。しかし! あえて私は外科と接骨を専門にいたします!」と宣言した。程玄村は「ここは太医院ほど専門化する余裕はない。小児科もしっかりやればいいではないか」と意見した。

 それを聞いた淑雪は「では、私は婦人科と鍼灸科、そして祝由を」と方針を決めた。外科の元十三は「それに按摩科を加えると良いと思う」と助言する。「鍼灸と按摩は表裏一体。習得しておいて損はないぞ」


 恵民薬局はいつしか二人の女を受け入れていた。淑雪と璚英の強い意志が彼らを変えていた。そうしてぽつりぽつりと女の入学志願者が現れ始めた。


 北京が冬を迎える頃、一人の婦人が恵民薬局の門を叩いた。

 厳しい眼をした女で、年は四十を越えた頃か。

 女はいきなり「淑雪!」と叫んだ。気が狂ったように「淑雪がいる! 淑雪がいる!」と喚き、門番と小競り合いになった。


 慌てたのは劉大使だった。太医院の副院長が医士の太医院受験を実施するか相談に来ていたからだ。程玄村は「任せろ」と表に出た。

 彼は門番を叩く女に告げた。

「診療中なので静かに。確かに淑雪という医生がいます。ただし、ここは洪武帝に定められた大明の公的機関で、今生陛下の勅命を受けることもある場所。わきまえない者は追い出しますぞ」


女は不敵に振り向いた。

「陛下の勅命なら、天下の誰もが受けているようなものだ。私は娘を何年も探したんだ。八歳になったばかりで行方不明になった娘だ。でも、眼をみたら分かる。淑雪の眼は父親そっくりだからね」


 程玄村は厄介事を避けた。元十三に目配せしてから、ゆっくり手を腰に当てる。

「なるほど。父親そっくりか。今日は淑雪はいない。宣武門外の広慧寺へ薬を配布に出ている。会いたいならそっちへ行ってくれ」

女はむっとした。

「女の医生に会わせなさいよ。会わせないというなら毎日門の前で銅鑼を叩いてやる」

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