第13話 帳簿を寝台の下に置く
彼女によると杜巧娘は南京の医官の家に生まれ、趙若薇と意気投合したが、靖難の役で一族は流刑になった。二人は流刑地に向かう途上で逃亡し、北京を目指した。南京から移住した豪商がいて、かつての縁故を頼れるかもしれない。幸運にも杜巧娘は天姑小観の跡目を継ぎ、趙若薇は男たちの侮蔑を受けながら女医を続けた。
「良いことは長く続かないものさ。道禄司の業突張りが官吏のくせに上納金を出せと言う。そんな規則あるもんか。いいかい、悪いのは杜巧娘より道禄司だ。あいつら、皇家が大きな道観に下賜する金品を抜き取って自分の懐に入れてるに違いない。バレちまえばいいのにねぇ。ああ、ひどく眠い」
三娘が床几で眠ると、淑雪はそっと三娘の腰袋から鍵を取った。
「三娘、官吏は二つに分かれている。官は皇帝陛下直属の科挙官僚、吏は官衙に雇われた庶民出の胥吏。使い走りの下っばがここで荒稼ぎせずにいられると思う? 干し葡萄には麻仙散を仕込んだのよ」
彼女は施療堂の棚の一つに素早く鍵を挿した。扉の中の帳簿を取り出し、鍵を陳三娘の袋に戻す。黄沁華の丹室に行き、帳簿を寝台の下に置いた。
数日して、錦衣衛の一隊が来て杜巧娘と黄沁華を連行した。表立った罪状は『裏で白蓮教と通じていた』だが、捜索で例の帳簿が見つかると嫌疑は人身売買と道禄司への多額の賄賂に切替わった。
住持(住職)を失った天姑小観は道禄司の監査を受け、その際に蔡淑雪と夏児は還俗を申し出た。二人は杜巧娘が隠していた銀を使い、良戸の戸籍を買った。
天姑小観を去り際、淑雪は仮住持となった陳三娘に言った。
「あなたは牙婆に向かない。天地壇や花街が近いから、他に稼ぐ方法はある。本気で修業してきたのだから、上手くいきます」
「帳簿を動かしたの、あんたかい?」
「碧霞元君ではないですか」
「誰にしても、私は命拾いしたよ。蔡知堂、いや、蔡姑娘。あんたのカステラを食べて寝てたのがバレると私が売られる破目になるから私はカステラのことは黙っていると考えたね?」
「私のカステラじゃありません。于家のカステラですよ」
三娘はもう行けと手をひらひらさせた。
「あんた、怖い女になったね」
「はい」
崇文門外の牌楼の下で、于璚英は待っていた。
「さあ、私たちの岐黄(医学)の道を始めなくては」




