第12話 干し葡萄添えのカステラ
淑雪は于家で七泊した。
崇文門を南へ歩きながら、彼女は意を決した。
天姑小観に戻ると、杜巧娘は神殿奥の小部屋で、八卦見の女から情報を買っていた。八卦見は旨味のある秘密や裏話に加えて、役所の公布や個人の貼り紙まで儲けの種を売りにくるのだ。
黄沁華がついて来いと顎をしゃくった。事務室に入った。
「蔡知堂、随分ゆっくりして来たじゃないの」
淑雪は于家の清貧さを誇張して語った。黄は落胆どころではなかった。
「錦衣衛の妻? おお、手を出さなくて良かった。命拾いした気分だわ。噂どおり于巡撫徹底した清官だこと。家がそんなのだったら、はぁ、この前の官銀は何だったのさ」
「夫が妻に預けてあったそうです」
「賄賂で回ってる世の中でよくやっていけるものだね。女だけの道観が運営できるのはお金の力よ。蔡知堂、次は良い獲物を頼むわ」
淑雪はその言葉にはうなずかないで、訊いた。
「于巡撫の噂は他に何かありますか?」
「あんたね、当の于家にいて何も聞いてこなかったのかい」
「巡撫の夫人は巡撫について話すのは御法度にしていました」
「変わった家だねぇ。夫が獄に下されたなら、普通はあちこちに手を回すか、嘆き悲しんでいるだろうに」
「于巡撫は家に戻れるでしょうか」
「八卦見の話だと山西省と河南の民や治水関係者からも助命嘆願が集まっているそうだ。清官だけあって人望はたいへんなものだねぇ。老天爺が巡撫の運を見放さないければ助かるさ。土産を寄こしな」
淑雪は蒸しカステラを一切れ渡し、自分の丹室へ行った。
すぐ隣は施療堂だ。彼女は丹室から施療堂に直接入る扉を押した。誰もいない堂にホッとした。ここで危険な堕胎や秘密出産を何度も手伝った。
杜巧娘は言ったものだ。
「蔡女冠が来てから安心だ。今までは怪しい産婆やもぐりの医者を頼るしかなかったから」
杜巧娘にとって自分は道具でしかない。
「趙師傅は杜巧娘とどんな関係だったのかしら」
「知りたい?」
陳三娘が扉から滑る足取りで来て、袖を引っ張った。
「城内のお土産があれば教えてやるよ」
淑雪は三娘にも蒸しカステラを出した。干し林檎の他に干し葡萄が添えてあった。
「いいね! 蔡知堂、お茶を淹れてよ。杜功娘のことを話してやるからさ」




