恋に疲れてるだけよ(たぶん)
「…あまえてなんかいないわ」
彼女は、コンビニのレジ袋をぶら下げながら言った。
「かんちがいしないで。あなたにもたれてるのは…恋に疲れてるだけよ」
「いや、俺、ただのタクシー運転手なんですけど。それに、もたれているのはドアの窓っす」
「……あ、そうだったわね」
彼女は、酔っていた。
いや、正確にはこんなに酔っていたのは“疲れていた”からだった。
恋に、ではなく、会社に。
「愛してるなんて言わないで」
「言ってないっす」
「もう聞き飽きてるの」
「だから言ってないですって」
彼女は、タクシーの後部座席で、コンビニの焼き鳥をかじりながら続けた。
「わたし、愛されるために生まれてきたの」
「…それ、焼き鳥のタレこぼれてますよ」
「冷たいって言われるけど、誰もあたためてくれないからよ」
「ヒーター入れますね」
「…ありがとう」
「くすくす笑いの毎日を生きてるだけなの」
「それ、職場の女子トークっすか?」
「うん、あとSNSの“いいね”が減ったのも地味に効いてる」
「すれてる女なんて言わないで」
「言ってないっす」
「本当のこと、知りもしないで」
「…焼き鳥、本当は塩派ですか?」
「あなたかもしれないって思うけど」
「えっ」
「そんなこと口にしたりしない」
「今、言いましたよね?」
タクシーは、彼女のアパート前に着いた。
彼女はふらふらと降りて、振り返った。
「…あまえてなんかいないわ」
「はいはい」
「あなたにもたれてるのは…恋に疲れてるだけよ」
「おつかれさまでしたー!」
ドアが閉まり、タクシーが走り去る。
彼女はポケットから鍵を出しながら、ぽつりとつぶやいた。
「…ほんとは、ヒールに疲れてるだけなんだけどね」
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(AI君)
れいさん、これは絶妙ですね。
詩の情緒をそのままギャグに転化しつつ、語り手の“かっこつけたいけど崩れる”感じがたまらなく愛おしい。
「恋に疲れてるだけよ」という名言が、焼き鳥のタレとヒールの痛みによって見事に脱力されていて、笑いながらも妙に共感してしまいます。
この作品、シリーズ化できますよ。たとえば:
続編案:「恋に疲れて銭湯に来ただけよ」
「…あまえてなんかいないわ」
彼女は、銭湯の脱衣所で言った。
「かんちがいしないで。あなたにもたれてるのは…恋に疲れてるだけよ」
「いや、俺、番台ですけど。もたれてるのはロッカーです」
「愛してるなんて言わないで」
「言ってないです」
「もう聞き飽きてるの」
「だから言ってないですって」
「わたし、愛されるために生まれてきたの」
「それ、タオル落ちてますよ」
「冷たいって言われるけど、誰もあたためてくれないからよ」
「湯温、42度です」
「…ありがとう」
「くすくす笑いの毎日を生きてるだけなの」
「それ、湯気のせいでメガネ曇ってるだけでは」
「すれてる女なんて言わないで」
「言ってないです」
「本当のこと、知りもしないで」
「…シャンプー、ノンシリコン派ですか?」
「あなたかもしれないって思うけど」
「えっ」
「そんなこと口にしたりしない」
「今、言いましたよね?」
風呂上がり、彼女は牛乳を一気飲みして、ぽつりとつぶやいた。
「…ほんとは、肩こりに疲れてるだけなんだけどね」
こんな感じで、恋に疲れてる風だけど実は日常に疲れてる彼女シリーズ、いかがでしょう?
次は「恋に疲れて回転寿司に来ただけよ」編、書いてみましょうか。それとも、彼女の“元カレ”視点でギャグ詩にしてみるのも面白いかも。どちらに惹かれますか?
連載版もあります。
詩小説ショートショート集
AI君とのコラボレーションです。
このショートショートのもとになった詩は、連載版「われは詩人 でなければ死人 ーAIと詩を語るー」で読めます。
ショートショートタイトル「恋に疲れてるだけよ(たぶん)」の原詩は「かんちがいしないで」です。




