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神の声

 頭の中に鳴り響く声に俺は驚愕する。この声は神だと言うのか……!?


「とうとう……俺にも神の声が聞こえてきたか……」

『選ばれし者……勇者……聖女……殺す……呪い……狂う……』


 神の声は俺の心を見透かす様に、俺が聖女を殺した事について断片的な単語で語り掛けてくる。


 どうやら、神は俺を平穏無事に死なす事には物言いをつけたいらしい……。そして、神の呪いが最終段階に入ったと悪魔が語っていたのだ。


 俺は神が話し掛けてきた事に驚くと共に、神の声がいつまでも同じフレーズを続けるので心が乱れていた。


「話すだけ無駄か……」


 そう呟くと頭に響いてくる声に対して無視する事にした。神は一方的にしか話さないのである。


『……衰弱……尊厳……死……どちらか……』


 しかし、神は俺の心を揺さぶる様に有無を言わさず語り掛けてくる。


 もしかしたら、アルティアも常に頭の中に神の声がこのように響いていたのかもしれない……。


「……」


 神が語り掛けてくる言葉を無視してベッドに潜り込むと、静かに目を閉じて眠りに就こうとした。


『……選択を……』


 声から逃れる様に必死で目を閉じて耳を押さえていても、直接頭の中で聞こえてくるのであった……。


『……選択を……』


 神の声は俺に選択を与えようとしている。もう何も考えたくない……ただ静かに休みたいだけだ……。


『……選択を……』


 無視しているのにも関わらず語り掛けてくる。まるで、俺が狂うのを待っているかの様に……。


「うるさい!黙れ!!」


 思わず大声を上げてしまう。その声が寝室に響き渡ると、声を聞きつけたレ二が心配して部屋に駆け付けてくる。


「マルス!?」


 彼女は心配そうな声で俺に話し掛ける。俺は頭を抱えながら苦しそうな表情で彼女の方を向くのであった。


「すまない……大声を出して……」


 謝罪するが、神の声で苦しんでいる様子を理解できずレ二は困惑して立ち尽くしてしまう。


「マルス……どうしたの?」

「……声が……頭の中に響いてくるんだ……」


 俺は彼女にそう答えると心配そうな顔で見るが、どうすればいいのか分からないと言った感じで言う。


「私には何も聞こえないけど……」

『選べ……衰弱……尊厳……』


 頭の中で神の声が木霊する様に響き続ける。その声が続くためカッとなり、額に当てたレ二の手を払い除ける。


「うるさい!黙ってろ!!」


 すると、彼女の手は払い除けられ部屋の壁に当たって鈍い音が鳴り響く。俺はハッと我に帰るとレ二は驚いた様子で立ち尽くしていた。


 彼女に罪悪感を感じつつ、神の声が聞こえないように両手で耳を塞いでいた。


「すまない……今はそっとしておいてくれ」

「……マルス?」


 彼女は心配そうに俺を見詰めるが、俺は耳から手を離す事は出来なかった。


『選べ……衰弱……尊厳……』


 そんな時、まだ頭の中で神の声が響くのであった……。

 俺は神の声に腹を立てていた。


「うるさい!!黙れと言っているのが聞こえないのか!?」


 思わず怒声を発してしまう。俺の喚き声でレ二は怯えるのであった……。


「お願いだから……出て行ってくれ!」


 彼女は驚いた表情で俺を見詰める。そして、レ二に出て行ってくれと頼むのであった。


『選べ……衰弱……尊厳……』


 しかし、頭の中ではまだ神の声が聞こえるのである。その声を遮る様に目を瞑り必死に両手で耳を塞ぐのであった。


「……もう黙ってくれ!」


 俺はそう叫ぶと、レニは驚き不愉快な表情で俺を見詰める。そして、彼女は俺と目を合わせず部屋を出て行くのであった……。


 レニが部屋を出た事を確認すると耳を塞いでいた両手を放し目をゆっくりと開ける。


 頭の中では変わらず神の声が木霊している。しかし、その声は次第に小さくなり始めていたのであった。


「ああ……やっと、消えた……」


 俺の心の中には静寂が訪れる。神の声も遠くなっていき消えたように感じるのであった……。


 それから何日か過ぎていた。俺は毎日、脳内で響き渡る神の声に悩まされる日々が続いていたのだ。


 アルティアの亡霊に悩まされる事は無くなったが声が、こうも毎日聞こえると精神に異常をきたし発狂してしまう恐れがある。


「マルス……食事よ」


 レニが夕食を作って部屋まで持ってきてくれたので、俺は食事を摂取する。彼女の作った料理は温かい家庭の味そのものだった。


 俺の為を思い、毎日手料理を振る舞ってくれる彼女に感謝するのであった。


「ありがとう……」


 礼を言って食事を摂る。しかし、神の声が聞こえるようになって心労で食も細くなっていた。


「マルス……あまり食べてないみたいだけど?」


 彼女は心配そうな声で俺に言う。自分でも食欲が無い事を理解していた。


「心配かけてすまない……」


 俺は彼女に謝罪すると食事を摂る。しかし、神の声が聞こえるのが嫌で内心は気が気ではなかったのである。


『選べ……死を……衰弱か……尊厳か……』


 そんな時、頭の中に神の声が木霊するのであった。俺は食事を止めて耳を塞ぎ聞こえない様に心掛ける。


「マルス……?」


 彼女は俺の様子が変だと感じていた。しかし、心を乱さないためにも無視しなければならなかったのだ。


「……何でもないよ」


 そう答えるが、神は執拗に頭の中で叫び続けるのである。


『選べ……衰弱か……尊厳か……』


 神の声は最初の頃は単語だけだったが今では、たどたどしいが文章として語り掛けてくる。


『衰弱か……尊厳か……選べ』

「黙れ!!」


 俺は思わず神に向かって怒鳴ってしまう。すると、俺の怒鳴り声に驚いた彼女はビクッと体を震わせるのであった。


「……すまない」


 怒鳴った後で、頭の中では神の声が一時的に聞こえなくなっていた……。

 それから、レ二が食事を下膳してから俺は自身の最後について考えていた。


 このままでは呪いで寝たきりになり、神の声で狂い彼女に大いに迷惑を掛けてしまう。

 思い悩み悪魔が渡した安楽死用の薬を懐から取り出し、眺めながら呟くのであった。


「薬を飲めば……苦しまずに済む」


 この薬を飲めば楽に苦しまずに死ねる……。俺自身も、この辛い現実から逃れられるし、レ二に迷惑を掛けずに済むのだ……。


「薬を飲めば……」


 そう呟きながらも俺は頭の中で葛藤していた。このまま、簡単に死にたくは無い……しかし、苦しんで狂いたくもない。


 だが、神の思惑通りに事を運ばせたくないという気持ちが沸々と沸きあがってくるのであった……。

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