第9話:囁かれた犠牲者
キャンパスの夕暮れ。
講義を終え、颯太と遥は並んで歩いていた。
空は茜色に染まっているのに、影は不気味に濃い。
――ザザッ……。
耳に、またあの声が響いた。
『欲しい……女……器にする……』
颯太の背筋に冷たいものが走る。
遥の背後に、黒い影がゆっくりと立ち上がっていた。
その姿を認識できるのは、颯太だけ。
「遥、後ろに下がれッ!」
「え、え? なに――」
彼女の視界には何も映っていない。
だが颯太には見える。
――牙をむき、蠢く無貌の怪物。
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戦闘開始
颯太は即座にカードを抜き放つ。
――《クローモード!》
白い虎のアーマーが颯太の身体を覆う。
爪が閃き、怪物の腕を切り裂く。
「……ここは俺が食い止める!」
しかし怪物の動きは速く、影のように地面を滑る。
狙うは――遥。
「キャアッ!」
颯太は歯を食いしばり、牙カードを挿入。
――《ファングモード!》
狼の脚力を得て、瞬時に遥を抱き寄せ、影の牙を防ぐ。
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悪魔の囁き
『ククク……守りたいか……?
ならば奴の力を奪え……女の魂と引き換えにな……』
「黙れ!」
颯太は無地カードを突き立てる。
怪物の攻撃を受け止めながら、力を込め――
――《必殺、クローファングブレイク!》
虎の爪と狼の牙が一体化し、閃光の一撃が怪物を切り裂いた。
断末魔の叫びと共に、怪物は霧散。
残されたのは、無地のカード一枚。
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戦いの後
遥は震えながら颯太を見上げる。
「さ、颯太……さっきの、あれ……何……?」
彼女には断片的にしか見えていなかった。
けれど、確かに“何か”を感じ取っていた。
颯太は答えられず、拳を握りしめる。
腰のベルトは静かに囁いた。
『……次は……守れるか……?』
颯太は心の中で、強く誓った。
「絶対に……守る」
だがその決意の裏で、無地カードが脈動していた。
まるで、新たな呪いが刻まれるかのように――。