Part3
薬を止めて、そのままというわけにもいかない。私は脂質異常症の対策を新たに考えなければならなくなった。
女医さんに連絡することも考えたが、また別の薬を処方されるのも嫌だった。そもそも薬を飲みたくないのである。糖尿病の薬だけで、もうたくさんだった。
結局、食事を工夫して悪玉コレステロール値を下げるしかないのだろう。血圧は、ある程度成功した。今度も何とかなるさ。
そんなわけで食事による、悪玉こんちくしょうを下げる方法をじっくり考えようと、このコーヒーショップにやって来たのである。
私はバッグからスマホと《ポンちゃんクリニック》でもらった説明書を取り出し、考え始めた。説明書を一通り読んでから、スマホでネットの世界に入ってゆく。
脂質異常症は進行すると、動脈が硬くなって脳や心臓の血管が詰まってしまい、その臓器が壊死してしまう恐ろしい病気だ。やはり放っておくわけには、いかない。
まず、悪玉コレステロールを上げるといわれている食品を調べる。それを食べなければいいのだから、話が早い。動物性油、豚や牛などの肉の脂身、バターやマーガリン、魚卵、動物の内臓。それほど多くない印象を与える。総じて動物の脂肪が多く含まれている食べ物がダメなようだ。
そこまで調べて、私は困ってしまった。もちろんそれらは食べることは食べるが悪玉を上げてしまうほど、食べているのだろうか。最近、のめり込んで食べ過ぎたという記憶もない。仮に挙げられている食品を全部断ったとしても、それほど現在の食生活が変わるとは思えなかった。
今までは高血糖には炭水化物、高血圧には塩分と犯人は明らかだった。それらを多く含む食品を、できるだけカットしていけば、それで良かった。しかし、今回は犯人が見つからないのである。
待てよ。卵はどうなんだ。あれはコレステロールが多い食品じゃなかったっけ。私は卵について調べ始める。
わずか卵一個で、成人が一日に食べている脂肪分の半分以上が、摂れてしまう。いうまでもなく栄養たっぷりの食品なのだ。私も今までは、世間一般の説にならって一日一個は食べるようにしてきた。半年前からは特に。いろいろ食べ物を節制するようになると、どうしても栄養面で心配になって二個ぐらい食べてしまう日もあったりした。カツ丼とかオムライスとか天津丼とか定期的にどうしても食べたくなり、三食のうち二食の塩分と炭水化物を削ってでも、時には一食抜いたりして、腹に入れる日もあった。
これではないか。┄┄しかし、卵は悪玉コレステロールの値には影響を与えない食品であるとされていた。厚生労働省も発表している。卵は気にせず食べてますという医師のネット動画もあった。逆に悪玉を下げる成分が入っているらしいので問題ないらしい。
私は味噌の時と同じような、不可思議な気分になった。ほんとかよ? 魚卵はダメだけど鶏卵はいいんだ。では、うずらの卵はどうなんだ? 何となく大人の事情という言葉が、頭をかすめたりした。
困った果てに、私は卵を仮の犯人に仕立て上げることにした。しょうがない。他に有効そうな作戦が思いつかないのだ。
卵は控える。肉も控える。ステーキなどは白いところとか取り除いて食えばおそらく問題ないだろうが、ハンバーグとかになると脂肪分だけ取り除いて食べるなんてことは、できない。
それから揚げ物も、できるだけ控える。肉を揚げたものはむろんだが、その他の食材についても。だがこれは、どっちかというと心理的な問題だった。見た目が、いかにも悪玉コレステロールを上げてしまう感じなのだ。まあ、揚げる時に植物性油を使っていれば特に問題ないとは思われるが、店に入る度に「おたくで使っている油は、植物性ですか、それとも動物性ですか」と訊ねるわけにもいかないだろう。今どき動物性油を使っているところは少ないとは思われるけれども。そうだな。これはゆるめの目標にしておくか。
さらにレバ、モツの動物の内臓系も控える。タラコ、イクラの魚卵系も。うわあ。いよいよ食べる物が、無くなってきたな。だが、そう決めたものの、これだけで悪玉コレステロールを減らすことができるのか、まだまだ不安だった。
私は発想の転換をして、次に悪玉コレステロールを下げる食品を調べ始めた。上げてしまうものが分からなければ、下げてくれる食品を多く摂ればいいのだ。
数十分後、私はニコニコしていた。いけそうな気がしてくるラインナップが出そろったのである。
私はコーヒーを、飲もうとして止めた。フレッシュクリームも悪玉コレステロールを上げる食品のひとつだった。これからはブラックになるんだろうな。
私は、また飲みかけのコーヒーを返却口の棚に入れて店を出た。
本日の昼食は、お寿司である。治っていない腰の痛みに耐えながら歩いて、何とか回転寿司のチェーン店にやって来た。
この店に来るのは久しぶりだった。寿司だとつい食べ過ぎて糖分を摂り過ぎてしまうし、何よりも塩分が多い。ネタにも酢飯にもワサビにも、付けて食べる醤油はもちろん、ガリにだって塩分は含まれている。そんなわけで敬遠していたのだが、もうそんなことは言ってられない。寿司は解禁にすることにした。幸いにも、血圧は低めの位置で安定してくれている。




