幕間1:決戦、そして勇者の独白
運命があるならば、ありったけの感謝と、抱えきれない憎悪を。
俺は勇者だ。魔王を倒すために王より見出され、故郷より旅立った。
並び立つのは、戦士のバルトー、魔法使いのマル、僧侶のレリー。冒険の始まりから一緒だった、大切な仲間たち。
バルトーはお調子者で、辛い旅でも仲間たちを励ましてくれた。その眩しいほどの明るさに、バルトーこそ勇者に相応しいと思うこともあったな。
朴念仁すぎるのには、思うところもあるけどね。
マルとはよく意見が対立した。彼女は現実がよく見えていて、理想ばかり先行する俺のストッパーになってくれたな。
戦いが終わったら伝えたいこともある。
レリーは何事にも懸命だ。戦いも、恋も、治療も全力。空回りすることも多かったけど、辛い旅も彼女の懸命さに助けられた。
バルトーに言いたいことがある様子だ。お互い、成功するといいな。
彼らと出会えたのが運命ならば、彼らと共に旅することが運命だったならば。
俺は運命に、ありったけの感謝を贈ろう。
「勇者ブレスよ、よくぞここまで辿り着いた」
「我は魔王、全ての力の頂点であり、全ての生物は我が前にひれ伏す」
相対するは魔王。
力の頂点を自称し、多くの魔物たちを従え、世界へ宣戦布告した恐るべき魔王。
「魔王」
「なんだ、もはや言葉は不要」
「戦い以外に道はなかったのか?」
「ない」
皆が切望する平和な世界。
そこに存在できない命がある。
皆の望む世界に、魔王だけがいらない。
なんてひどい矛盾だろう。
一時の沈黙。そして。
「バルトー、マル、レリー、最後の戦いだ。力を貸してくれ」
「く、ははは」
「ようやく覚悟を決めたか、勇者よ」
「この力のぶつかり合いの果て、立っているのはどちらだろうな」
「ああ.楽しみだ」
魔王は楽しそうに笑う。
平和のため、敵を切り伏せ、屍を踏み超え、ここまで辿り着いた。
今更、何を悩むことがあるのか。
それが運命だというならば、俺は抱えきれないほどの憎悪を叩きつけてやる。
「いくぞ、魔王」
運命があるならば、ありったけの感謝と、抱えきれない憎悪を。