幕間8:獣はわたしー?
「トレン、起きなさーい!」
お母さんの声でー目がーさめーるー。
「あーれー?なんで学校にーお母さんがいるのー?」
「その寝言は6回目よ。さっさと起きないと!今日はフォルクくんが遊びにくる日でしょ!」
「あーれー?そーだったっけー?」
フォルクの名前で目を覚ますー。自分で招待したのにー、ねぼーしたら大変だー。
「はーい、起きますおきますー」
そう言ってわたしはー、冒険を辞めてからちょっとぽっちゃり気味のお母さんにー向き合ったー。
「おはよーお母さん」
「おはよう、トレン」
お母さんはそんなに大きくないけどもー、その緑の瞳と髪を見るとー、やっぱり親子なんだなーって思うなー。
着替えて部屋を出るとー、お父さんがご飯を用意していたー。
お父さんはー、お母さん以上にーぽっちゃりー、でもー力はまっーたく衰えていなーい。
浅黒くてー健康的な肌はー、その下から溢れんとする筋肉ではち切れそー。
「あーれー?、今日の食事当番はーお父さんだっけー?」
「おう、トレン!起きたか!」
お父さんはー、わたしにー皿を渡しながら言ったー。
「今日はスペシャル目玉焼きランチだ!早速食べな!」
「いつもの、の間違いじゃーないかなー?あと、ランチじゃなくて朝食ー」
「そうだったな、わっはっは!」
いつも通りの朝だけどー、今日「も」、ちょーっと憂鬱ー。
だってー、フォルクと約束したもんねー。
獣についてー、制御の糸口を探すんだーって。
だけどわたしはー、両親に相談できないままーに、時間だけが過ぎていくー。
情けないよー、うえーん。
あのゴーレム騒ぎー、わたしは、自分でもおもーった以上に引きずってるー。
だってだってー、勝てる相手だったんだよー?
それに負けてーウィケを危険に晒したー。
フォルクにー助けてもらったー。
…獣さえ、ホントーの自分さえ制御できてたらー違った結果になっていたー。
それがー頭から消えてくれなくてー、なんだかずーっと、もやもやなんだよなー。
あの騒ぎの後ー、ガラじゃなく本をいっぱい読んでー知ったんだー。
わたしみたいなのをー、「狂戦士」ってー、そう呼ぶんだってー。
誰彼構わずにー傷つけるー、自分が制御ーできなーい、そういうのー。
わたしはー狂戦士ー!
なーんていうと格好いい気もするけど、実態はただ自分を制御できないだけの変なやつー。
そーいうねー、自虐思考ってやつー?
陥るとなかなか抜け出せなくてさー。ずーっともやもや続いてくー。
ほんとはー今日フォルクにあってー、糸口を見つけたーって自慢したかったのにねー。
そんなことを考えてるとー、いつの間にかースペシャル目玉焼きランチはなくなっていたー。
正確にはー、わたしのー腹の中に収まったー。
いつもの服に着替えてるとー、玄関から聞きなれた声が聞こえてきたー。
「おうフォルク、久しいな!」
「バルトーさんはお変わりなく、元気そうで何よりです」
「いやいやよく見ろ!筋肉がさらに成長しているだろう!俺の進化はまだ止まらんのさ、わっはっは!」
「ははは、バルトーさんの向上心、僕も見習いたい限りです」
フォルクがやってきたー。
このやりとりを聞くのも懐かしいなー。魔法学校での生活ー、思ったよりも長ーく感じるよー。
「フォルクー、今日は早かったねー」
「なに、バルトーさんにも稽古つけてもらいたくてな、早めにきたのだ」
フォルクはーわたしの隣に座って続けるー。
「どうだトレン、あれは進んだか?」
「あれってー?」
「貴様自身の制御だ、忘れたのか?」
「ううん、とぼけただけー。全然進んでないー」
「そうだろうと思っていたぞ、食事が終われば稽古だ、まずは貴様から相手にしてやる!」
フォルクに引きずられてー、広場に出たー。
フォルクは通りがかる顔見知りにー挨拶しつつ、剣をこちらに投げよこしたー。
うちには専用の稽古場とかないからー、家前の広場でー稽古するんだー。
フォルクと剣を交えるー。心なしかーフォルクの斬撃の速さと精度がー、上がっている気がするー。
「フォルクー、強くなったー?」
「勇者…父上と何度か剣を交えてな。少しばかり、得たものがあった」
「すごいやー、わたしもそろそろ追いつけなくなるかなー?」
「バカいえ、隠し玉を持ったまま本気を出さないやつ相手に、勝ったと言えるものか」
「出せない本気はー、実力がないのと一緒ー、って気がするなー」
フォルクの打ち込む速度が上がるー。わたしはーそれについていくのがやっとー。
本当にー?
「貴様自身…疑問に思っているだろう、自分の実力はなんなのか」
「…」
「貴様は獣を制御できん。だが、制御すれば我をも超える剣技に目覚めるだろう。それがわかっててこのまま腐らせるのは惜しい、実に惜しい」
「そー言われてもなー」
「我と初めて会った日の、あの美しさをまた見たいものだ」
そーいうこと言われると弱いんだよなー。
顔が赤らむのを自覚しながら、
「はーい、善処しますー」
あてもなくーそう答えちゃうー。
「トレン、ひとつ聞きたい」
「なにかなー?」
「貴様は、自分と獣を別のものだと考えていないか?」
「…」
「そう考えているなら、まずそこから直せ。」
フォルクは剣を止め、こちらをまっすぐと見つめたー。
「獣は、貴様だ。どうしようのない破壊衝動だとしても、制御不可能な獣だとしても、それはトレン、貴様なのだ。美しく力強い貴様自身なのだ」
「…うん」
「悪く言っているんじゃないぞ?素晴らしいことじゃないか。未だ制御できぬ可能性の塊、力の伸び代なのだ」
そういうふうに考えられるフォルクだからー、自分を隠さなくて済んじゃうんだよなー。
「怖いんだー、わたしー」
思わず地面を見ちゃうー。
怖くて、フォルクを見られないー。
「なにが?」
「誰かを傷つけるんじゃないかーって、フォルクにしちゃったみたいにさー」
わたしは、どうしてもフォルクの目が見れなくてー、俯いて続けたー。
「自分が怖いー。制御できない自分の力がー」
「自分が嫌いー。本気を出せない自分がー」
「自分が情けないよー、ウィケに庇われてー。庇うのは、わたしの方なのにー」
フォルクは黙って聞いていた。が、やがて口を開く。
「ひとつ、訂正しよう。ウィケを守るべき存在だと思っているなら、それは思い上がりだ。」
えー?
思わず顔を上げるー。
「あやつは、弱々しく見えて折れない心を持っている。貴様と力の差はあれど、対等な存在だ。」
フォルクは、やれやれと言って続ける。
「奴に聞いてみるといい。自分の芯を保つコツを。きっと答えをくれるだろう」
あー、この説教は効くなー…
わたしー、自分を情けなく思うあまり、ウィケちゃんのこと舐めて考えてたー
あの子の懸命な姿を、弱々しく見えて確かな芯、見ているはずなのにねー。
「フォルクーありがとー。ちょーっと目が覚めたかもー」
「ふん、もっと感謝するがいい」
「ありがたやーフォルクサマー」
わたしはー恥ずかしさと感謝の気持ちを隠したくてー、ふざけたフリをしながらフォルクに抱きついたー。
フォルクは相変わらず面倒そうに払うだけだけどねー。
「ほんとうにーありがとー…」
ーーー
その後フォルクと一緒に、自分が狂戦士って奴じゃないかーって、両親に相談したー。
お母さんは、今まで我慢してえらいね、そう褒めてくれたー。
お父さんは、衝動を抑えられていたことを褒めつつもそれは伸び代だから、一緒に制御するすべを見つけようって言ってくれたー。
フォルクはフォルクで、人を傷つけない魔法の剣の作り方を教えてくれたー。
これさえ覚えれば、人を傷つけることは無くなるだろう、フォルクはそう言っていたー。
「貴様は治癒の魔法が得意だな。これはその応用だ」
「おーよー、およよー?」
「ふざけるな。全く」
フォルクはため息を吐きながら説明する。
「原理は我の...もとい僕の炎の剣と変わらない。魔力の流れを手に集め、それで刃を形成する」
「ゴーレムの時のー、あの炎の剣だねー」
「言うはたやすい。だが、人の身で習得するのは時間がかかるだろう」
「ひとのみー?」
「あーっと...とにかくだ。夏休みの間、毎日魔力が切れるまで練習しろ。貴様の集中力なら、必ず結果がついてくる」
ーーー
遅い時間になってー、フォルクを乗せた馬車が小さくなっていくー。
わたしはー、宿題増えちゃったなーなんて思いながらー、それを見送ったー。
弱さを見せてもー、それを君は笑わないー。
「フォルクー、だからわたしー、君が好きなんだなーって。そう、思ったよー」
ふと、そうつぶやいていたー。
その言葉が聞こえたであろうお母さんがー、キラキラーした笑顔でわたしの方を見たー。
何を隠そう、わたしのお母さんはー、恋愛話が大スキー!
だから、急いで付け加えるー!
「友達としてねー!」