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幕間7:スバリオの戦い

フォルクが狙われている。

しかも、わたくしスバリオと同じ王族から。


その予測に至って以来、わたくし、気になっていることがありますの。


王族でも、さらに一部の人にしか開示されない予言。これが、前のダンジョン騒ぎに関わっているのではないかと。


「予言」


それは、千年王国が成立する以前から存在するとされるもの。

お父様が屈服し、服従する呪い。


そこに、フォルクが出てくるのでないか?

わたくしはそれを確かめるために、王城に戻ってまいりましたの。


「スバリオ」


廊下を歩いていると声をかけられた。

振り返ると、長身で金髪の男が立っている。

その瞳はわたくしと同じく青く輝いていて、血のつながりを思い出させる。

わたくしの腹違いの兄、キガがそこに立っていた。


「キガお兄様、ご機嫌麗しゅう。スバリオでございます」

「このワタシに、そんな他人行儀な挨拶はよしてくれないかい?」

「あら、礼を尽くしたまでですわ」


キガは、王城内で孤立しているわたくしが、唯一対等に接することができる相手だ。

ただし、味方というわけではない。

対等とはすなわち、未来の王を目指す上での敵対者であるという意味だ。


わたくしは妾の子。そのうえ末子。次の王から最も遠い存在だ。

しかし、わたくしがいうのもなんですが、王族は腐敗している。

父は呪いに囚われ、子供たちは皆その様子に怯え、今を楽しむことしか考えない。

当然だろう。皆が目指すべき父の、王たる父の、あの様子を見てしまっては。


勇者を見出した当時、父は賢王とうたわれていた。今も内情を知らぬものからはそう呼ばれている。

しかし、わたくしが物心ついた時には既に、予言に打ちのめされた、ただの男でしかありません。

そんな父が予言に頭を抱え、王宮魔導士デイスに当たりちらし、時には主従が逆転したかのようにこびへつらう。

そんな姿を見て、未来に希望を持つのは難しい。


その中でただひとり、キガだけは違った。

父の打倒を目指し、王たるを目指し、日々勉学に励み、公務に励み、努力を続けている。

キガが在籍している時の魔法学校では、彼は常に成績優秀者として名を連ねていたらしい。


だからこそわたくしを敵視している。

王族の中で、キガとわたくしのみが未来を見ている。

キガは、王を目指すうえでのライバルとして、わたくしを見ているのだ。


そんなわけで、彼とは安心して話すことができますの。

必要以上に忌み嫌い遠ざけるものと違い、「ライバルとしてみている」からこそ、まともに話が通じるのですから。


もっとも、わたくしは王になる気などありませんが。

予言に縛られるなどまっぴらですし、わたくしは、わたくしより王に相応しい人物を知っているのですから。


「相変わらず生意気だね。だからこそ敵としてふさわしいというべきか」


キガは、こうやって敵対心を隠そうともしない。


「しかし不思議だね。我々から孤立しているスバリオお姫様は、別荘にこもるか、魔法学園から出てこないと思っていたのだがね」

「わたくし、両親への挨拶を忘れるような親不孝ものじゃなくてよ?」

「ふふ、あの冷え切った関係で、よくも親などと言えるね?」


肩をすくめて、笑って返す。


「事実は変えられませんわ、残念ながら」

「ははは、父上が聞いたら発狂しそうだな。あれは人を嫌うが、人に嫌われるのは我慢ならんからな」


話していて思いつく。

この男に探りを入れてみましょう。


キガは、王座に最も近い男だ。

お父様の仕事を手伝う事も多い。継承権も近く、次代の王であると周りのものも考えている。


キガなら、予言について知っているかもしれない。


「キガお兄様」

「なんだい、可愛い愚妹?」


可愛い愚妹。珍妙な表現に笑いそうになるのをこらえる。

心の底ではわたくしを怖がっているのでしょう。自分でいうのもなんですけど、年齢以外で、キガがわたくしを上回る点は1つとしてないのですから。


「この前のダンジョン騒ぎを覚えていらして?」

「ああ、君が巻き込まれたという」

「ええ、あれから調べたのですが、わたくしを襲ったあれは、どうやら王家のゴーレムと呼ばれるものだったようですの」


キガは眉をひそめる。努力家で未来を見ている、それは認める。

しかしこの男には腹芸ができない。思ったことがそのまま顔に出る。

...どうやら、知らないようですわね。


「ほう、続けろ?」

「王家のゴーレム、千年前に時を見る魔法使いによって作られた存在。現存するものは少なく、王家の命令によってのみ動く、とのことですわ」

「それで?」

「わたくし考えたのですわ。わたくしを狙った王家のゴーレム。これはわたくしが消えたら都合がいい存在が仕掛けたのではないかと。例えば、キガお兄様…とか」


キガは耐えられないといったふうに笑った。

この反応は予想できた。わざと間違った推理を披露したのだ。

わたくしに頭で勝てないこの男のこと、わたくしが間違えたとあればそれは逃さない。その勢いで機密を話すかもしれない。

それが狙いだ。


「我が妹ながら、面白い推理をする。だが、全くの間違いだよ。ワタシには君を狙う理由がない」

「あら、そうでした?」

「そうとも、君など眼中にない。王になるのはこのキガなのだからね。君が消えようがどうしようが、どうでも良い」


これは嘘。

キガ。敵を許さないあなたは、あなたに反目し、未来を見据えるわたくしが目障りでしょうがないでしょう?

さあ、このまま口を滑らしてくださいな?


「第一、君が死にかける事件だろうが、些細なものに過ぎない。未来に何も影響はないよ」


わたくしはほくそ笑んだ。

わたくしは優しいやさしいキガお兄様に微笑んで、この場を後にする。


「さようなら、キガお兄様。お話ししてくださってありがとうございます」


キガは顔色を変えてわたくしの肩を掴んだ。


「おい、調子に乗るなよスバリオ。いま、ワタシを馬鹿にしただろう?」

「いいえ、なんのことだかわかりませんわ?」

「とぼけるな!?勝ち誇ったような笑い!貴様はいつもそうだ、そうやって全てを見下す。頭が良い以外何もできない小娘が、いい気になるなよ!?」


叫んだかと思うと、わたくしを突き飛ばして去っていく。


「ワタシは貴様よりもずっと王国のことを知っている。貴様がどうあろうとな!」



ーーー



うふふ、相変わらず扱いやすい男。大きな情報を落としていきました。


「私は貴様よりもずっと王国のことを知っている。貴様がどうあろうとな!」


これはつまり、私がどうあろうと知り得ない情報があることを物語っている。

大方、予言のことだろう。キガは予言の詳細を知っているのだ。

そして...


「第一、君が死にかける事件だろうが、些細なものに過ぎない。未来に何も影響はないよ」


未来に影響がないと言う言い回し。

ここから考えられること。

少なくても予言には、今回の事件は明言されていない。

そこから推理できることはふたつ。


ひとつは、今回の出来事は予言に全く関係ないということ。

王家のゴーレムがなぜ襲ってきたかは調査しなければならないが、予言と関わらない以上、フォルクに危険が及ぶ可能性が低くなる。

だが、推理は真実から遠いだろう。王族が今回の事件をおこしたなら、間違いなく予言に関連してのことだろうからだ。


もうひとつ。それは今回の事件が、予言を変えるために無理やり引き起こされたのではないか、ということ。


キガは、「君が死にかける事件だろうが、些細なものに過ぎない」と、そう言った。ならば、わたくし以外の「誰か」が死にかけるなら些細ではないのだ。

この「誰か」がフォルクである可能性は高い。なれば、今後もフォルクの周りで事件が起きる可能性がある。


予言を変える...お父様が思いつきそうなことだ。

あの様子を見るに、実行したものはキガではない。

ならば、犯人は...


トレンやシデル、ウィケたちにこの考えを共有しなければ…


「スバリオ様?」


はっ!?

気づくと王宮魔術師デイスが、わたくしの肩に手を置いていた。


「どうされましたかな?何やら怖い顔をしておいででしたけど」

「デイス、心配かけてごめんなさい。なんでもありませんわ」


デイスと別れ、わたくしは自室に戻る。


フォルクを狙う予言があろうとなかろうと、わたくしがフォルクを守ってみせますわ。

フォルクがわたくしを守ってくれたように!

それが、例えお父様を敵に回すことになっても。

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