14章:それでも我がいる
さて、その後の話だ。
我ら5人は、デイスと先生に保護された。
王家のダンジョンを叩き潰したのは、緊急時ということでお咎めなしということになった。
だが、なぜか我だけは先生に怒られた。
いわく、先生やデイスの救助を待つのが正解だったと。
理屈はわかるが、我が動かなければ間に合わなかったかもしれんのだぞ!?
「ごめんなさい、フォルクくん。
気持ちはとてもわかる。友人達が閉じ込められているってなったら、先生も冷静でいられないかもしれない。
でも、フォルクくんが危ない目に合わないよう、先生たちを信じて待っていて欲しかったのよ」
…とても申し訳なさそうに、そう言われた。
そこまでいうなら、まあ、我も何も言わん。
それと、試験はやり直しとなった。
ダンジョン探索ではなく、筆記と実技のつまらない試験だ。
だが本来はこれがいつもの試練であり、今回のダンジョン探索は特例的に決まったものだそうだ。
まあ、良いだろう。改めてテストでいい点を取り、今度こそあの4人を屈服させ四天王に任命するのだ。
そう思っていたのに、くだらない引っ掛け問題でずっこけ、学年1位の座はスバリオのものとなった。
「うふふ、フォルク。私たちを屈服させるんじゃなかったのかしら?」
スバリオは意地悪く笑っていた。
なに?我の順位?
そ、そんなことどうでも良いではないか…
「やったー!師匠に勝ちました!」
「いやーみんなで試験勉強したお陰ーって感じー」
「あの、ごめんなさいフォルク様」
ああ、そうだよ!5位だ!悪いか!?
スバリオやシデル、ウィケはいい。だがトレンに負けるのは納得いかないぞ!?
「あははー、みんなの力で100万パワーってやつー?」
ーーー
試験のことが落ち着いてしばらく、スバリオとトレンから談議の約束を言い渡された。
「なんだ、傷が癒えたとて無理はするものではないぞ」
「そうですわね。でも伝えておかないといけないことがありますの」
「お願いー、大事な話なんだー」
何やら真剣な目をして伝えてくるから、約束を受けてスバリオの部屋に来た。
「で、なんだ。大事な要件とやらは?」
「ダンジョンのゴーレム、覚えていらして?」
「忘れたな、あんなくだらないもの」
「フォルクー、怒ってるのはわかるけどー、それじゃ話進まないよー」
呆れたように、二人は笑っている。
だが、すぐに神妙な顔つきに戻った。
「ゴーレムが言っていたことを考えてみたのです。わたくしとシデルが出会ったゴーレムは私を狙っていた。トレンとウィケが出会ったゴーレムはトレンを狙っていた」
どうやら真面目な話だな。あのゴーレムのことは今思い出しても腹立つが、仕方ない。ちゃんと聞こうか。
「…うむ」
「でねー、フォルクがやってきた時ー、ゴーレムの両方がー、最終ターゲットかくにーんって、言ってたんだよー」
「それでわたくしは考えたのですわ。あのゴーレムはフォルク、あなたを狙っていたのではないかと」
なんだと?
「どういうことだ。我...僕が狙いなら、何故貴様らが襲われた?」
「そこですわ、フォルク」
「あのゴーレムはーわたしたちをー狙ったー。でもー真の狙いはーフォルクー。
つーまーりー、わたしたちはー人質にするために狙われたんじゃーないかーって考えたのー」
「人質?なんのためにだ!?」
スバリオは息を吐いた。自分を落ち着けようとしているようだ。
トレンもいつものとろけた口調だが、目はずっと笑っていない。
「フォルク、あなたを亡き者にするためですわ」
「それがー、わたしたちの結論ー」
「…なるほど」
「フォルクも確か、閉じ込められたとおっしゃっていましたわよね。
ここからわたくしの予想ですが、フォルクを閉じ込め、なお脱出された時の保険として、わたくしたちを人質にしてあのゴーレムをぶつけるつもりだった。」
スバリオが震えている。再び長く息を吐いた。
何を言うつもりだ?
「王家のダンジョンを自在に操作し、かつフォルクがわたくしたちと仲が良いことを知っている、そしてシデルとウィケをターゲットにしない。つまり、魔法学校での出来事を知らない。
今回の事件を起こしたのは、これに該当する人物。つまり…王族ですわ」
ーーー
談義が終わり、我はスバリオの自室を後にする。
「ごきげんよう、フォルク、トレン」
スバリオが見送る。我は足を止め、振り返った。
「スバリオ。あまり重く考えるなよ?しょせんは予想に過ぎん。貴様の親族が今回のことを起こしたなどと、あまりにも突飛だ。」
「しかし、それが1番可能性が高い、そう結論づけましたの」
「仮にそうだとしても、貴様は何も悪くない。責任の範囲を履き違えるなよ?」
「ええ」
平静を装って答えているのが手に取るようにわかる。
仕方のないことを悩んで。本当に仕方のない奴だ。
「それでも辛いなら、僕がいる。いつでも呼べ」
「…ありがとう、フォルク」
スバリオの部屋から離れながら、トレンと話す。
「優しいんだー、フォルクー」
「貴様もだ、トレン」
「何がー?」
「魔物を倒せなかったこと、自分のせいだと思っていないか?」
「…」
「貴様はまだ、自分を制御できん。あの場での最適解を選んでいた。だから自分を責めるなよ?」
トレンは目を伏せて、つぶやく。
「…考えちゃうよー。わたしの獣を制御できるならー、きっと違った結果になってたー。ウィケにー申し訳なくてさー」
「貴様にだって、僕がいるのだ。剣術稽古だけじゃない。獣の制御だって付き合ってやるさ」
「…ほんと、優しいねー、フォルクはー」
「…ふん」
優しいなどと、我は魔王ぞ?
全ては我が力にひれ伏す。
我にひれ伏す以外の悩みなど、あってはならないのだ。