13章:これこそ我が奥義!
ダンジョンの壁を爆砕して進む。
嫌な予感がどんどん膨らんでいく。
スバリオの意地の悪い笑顔が浮かぶ。
トレンのとろけた言葉が蘇る。
シデルの鬱陶しかった師匠呼びが耳にこだまする。
ウィケの弱々しい、しかし力強い返事を思い出す。
駄目だダメだ!
ここで倒れるなど許さぬ!
何故だ?
四天王が倒れた時もそうだっただろうか?
我は失うことも恐れるほど、弱くなってしまったのだろうか?
いや。
あの時は確信があった。我が四天王は、戦いの果てに倒れたのだと。
ここにあるのは、底知れぬ悪意。
敵意や対抗心とは異なる、憎悪とも違う、何だ、この気持ち悪さは?
だが、ひとつ確かなことがある。
こんな悪意などに、我の大事なものが奪われるなど!あってはならぬのだ!
壁を爆砕する音に、戦闘の音が混じってきた。
これはスバリオ達か!?
「我が攻撃にそなえろ!スバリオ!トレン!シデル!ウィケ!」
一呼吸おいて、再び壁を殴りつける。
「…上級火魔法拳」
破壊に破壊し尽くしたダンジョンの果てで我は見た。
魔力を限界まで絞り切り、憔悴しきったスバリオを。
傷だらけになりながら、スバリオを守るシデルを。
血を吐き、それでも立ち上がるトレンを。
トレンにしがみつき、攻撃からかばうウィケを。
そして、我の大切なものに悪意で触れる、不快な魔法生物を。
この怒り、もう抑えることはできぬ。
「みな、我の後ろにこい!!」
スバリオが叫ぶ。
「フォルク、こちらのゴーレムは魔法が効きませんわ!」
ウィケが同時に声を上げる。
「フォルク様、このゴーレムにはトレンさんの攻撃が通じません!」
なるほど。我の大事なものを前に、戦いすらも避けたというわけか?
普通に戦えば、スバリオが、トレンが、ウィケが、シデルが負ける道理はないものな?
だからこちらの攻め手を封じて、一方的な勝負を仕掛けたと?
悪意にたがわぬ、卑怯な戦い方だ。
潰してやるぞ…その悪意を、もう2度と持てぬほどに。
「最終ターゲットに遭遇、優先順位変更」
「最終最終ターゲット遭遇、優先順位順位変更」
2体のゴーレムが我に向かって襲いかかってきた。
「…上級火魔法剣」
片手に剣をたずさえ、もう片手に炎の剣を構える。
全力を足にこめ、地面を蹴る。
すれ違い様に、渾身の力を込めてゴーレムを切りつけた。
物理が効かない岩のゴーレムには、炎の剣を。
魔法が効かない鉄のゴーレムには、剣の刃を。
ゴーレムは力を失い、崩れ落ちた。
「…や、やったー!一撃だなんて、さすが師匠」
「あ、ああ、よかった…」
シデルとウィケが歓喜の声を上げる。
「トレンもウィケも、大丈夫なのですか?」
「スバリオこそー、顔が青いよー」
スバリオとトレンは安心し、互いを心配しあう。
我はその様子を見て安堵し、奴らのところに歩み寄っ
ーーー
っ、なに?が、起きた!?
視界が回る。背中に強い痛み。スバリオ達の顔がブレてよく見えない。
そうか、我は後ろから奇襲されたのか。そして吹き飛ばされたと。
無理やり体制を整えて着地する。
喉の奥に違和感。軽く咳をすると血が吹き出した。
我としたことがぬかった。怒りで頭に血が上り、冷静さを欠いていた。
相手は悪意のかたまり。あれしきで倒れるわけがない。
ゴーレムの方を見ると、液体のような金属が岩を包んでいる。周りの瓦礫も巻き取り、体長は10メートルほどまでに膨らんでいた。
男女のお面が、こちらを嘲笑うかのようにくるくると回っている。
これが真の姿か。ふん、悪趣味な。
「フォルク、大丈夫ですの!?」
「まっててー、今治癒魔法をー!」
「…我の後ろにいろ、そう言ったはずだぞ?」
いいだろう。見せてやる。
両手で拳を握り、前に突き出す。
「創世の破、終いの赤、炎よ、全てを焼き払う炎よ、我が敵を燃やし尽くせ、上級火魔法拳」
両拳が炎に包まれる。炎は我が怒りを表すかのように吹き上がり、拳に集まる。
「創世の地、昏き振動、地よ、全てを砕く大地よ、命のくびきの力を見せよ、上級地魔法拳」
炎が圧縮される。大地の力は拳をひとつの星となす。周りの瓦礫が拳の衛星として回り浮かぶ。
ゴーレムが雄叫びを上げ、我に襲いかかる。
物理も魔法も効かぬだろうそのゴーレムに、常人が勝ち目などあるはずもない。そう確信して我に向かってくる。
下卑た笑いを浮かべる面に、全力で拳を叩きつける。
「オラァ!!」
ゴーレムは衝撃に怯むが、効いた様子はない。下卑た笑いはますます吊り上がり、悪意を隠そうとしない。
「オラオラオラオラオラ!!」
我は気にせずに拳を叩き込む。
最初のうちは余裕のあったゴーレムは、しかし徐々に押され始める。
ゴーレムの表情から余裕が消える。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
それを無視して拳を叩き込む。
ゴーレムの体は徐々に崩れ、形を保てなくなっていく。
当然だ。我が全力の魔力を乗せた、渾身の連打。戦士バルトーすら受けられなかった我が奥義。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
さらに拳を叩き込む!
「これこそ奥義!、魔王烈震爆光!!」
最後に拳を空に振り上げる!
魔力と衝撃の許容範囲を超えたゴーレムは爆ぜ、今度こそその動きを止め、崩れた。
我の拳はひび割れ、血が流れる。
ふん、やはり脆くなっている。我も随分弱くなった。
「終わったぞ?」
我は振り返り、笑いかけた。
今度こそ安堵したシデルが泣き出す。
「ししょ〜…し、しんじでましだ〜」
ウィケはこちらの心配をし出す。
「ああ、なんて酷いお怪我。今すぐ治癒魔法を!」
スバリオは笑っている。
「ふふ、何ですのさっきの技?おかしな名前をつけて」
トレンは安心してへたり込んでいた。
「ふー、フォルクが吹き飛んだ時はヒヤッとしたよー。あー、治癒魔法唱えなきゃー」
それぞれに安心した様子を見せた。
我は皆のもとに歩み寄り、抱きしめた。
「シデル、よくスバリオを守った!」
「スバリオ、限界までよく頑張った!」
「トレン、獣を出さずよく耐えた!」
「ウィケ、逃げずによく戦った!」
強く抱きしめて宣言した。
「貴様らを、我の四天王に任命しよう!」
何故か顔が赤い皆は、しかし予想外の反応を返した、
「四天王…いくら師匠でもそんな魔王みたいのはちょっと…」
「あ、あの、ちょっとそれは恥ずかしいです、はい」
「ふふふ、さっきの技といい、フォルクったら魔王に憧れてますのー?」
「フォルクー、憧れる先はー別のにしなー?」
な、なな、なんだこやつら!?
助けてもらったのにこの反応は!?
もっと喜んでも良いのではないのか!?
「な、な、な、なんだ貴様ら。我に助けられたのに!」
思わず顔が熱くなってきた。さっきとは違う意味で頭に血が上ったようだ。
我もまだ子供という事か?
四天王や両親が見たら、大笑いしているだろうな。
おっと。
安心して力が抜けた。我は地面に倒れてしまったようだ。
遠くにデイスや先生が駆け寄ってくるのが見える。
これで万事解決だ。
我は大切なものを守れた心地良さに満足して、目を閉じた。