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12章:くだらぬダンジョン探索のはずだぞ!?

強がりによって1人ダンジョンに潜るハメになった我は、そのダンジョンの入り口に立つ。

腰に剣を携え、準備は万端だ。

よくよく考えれば悪くない。1人で潜るなら、猫をかぶる必要もないわけだ。



ーーー



いややはり1人は寂しい。

先生にしっかり相談すれば、代わりをあてがうなり先生が代わりにペアを組むなりできただろうが、それでは魔王の名がすたる。

いやしかし、やはり1人は寂しい。


そういえば、勇者の息子として生まれてこのかた、1人であったことはほとんどない。

親に恵まれ、友に恵まれ、誰かとともに育った。魔王として生きて来た時とは大きく違う。

あの頃は1人だなどと気にすることはなかった。ただ、自由であれば良かった。


…我は弱くなってしまったのか?

力だけではなく、心までも?


首を振り、考えを飛ばす。

ええい、ままならんことを気にしてもしょうがない。今はダンジョンに集中しよう。

王家のダンジョン。

魔王たる我ですら踏み入れたことのないダンジョン。

いささか緊張するな。思い返せば、今生で初めてのダンジョン探索でもあるわけだ。

めいいっぱい楽しまなければ損というものだ。

だが、できればこの楽しさを共有できる誰かがいれば…って!

また余計なことを考えている!


もう良い!出発だ!

こうして我はダンジョンへと潜っていった。



ーーー



ダンジョンの中はほのかに明るかった。


入り口の方は少々歩きづらい岩肌だったが、途中から紋様の刻まれた、整然とした石造りの構造となっている。

なるほどな。流石は王家のダンジョン。こんなところまで優雅とはな。

ふと、スバリオを思い浮かべる。

奴がいれば、このダンジョンの成り立ち・成立時期についてひと談義できただろうな。


そんなことを考えながら歩いていると、前方から魔力の気配を察知した。

これは…人工の魔物か。


魔物と呼ばれるものには2種類ある。

この世に生を受けたものと、人工的に創造されたものだ。

種族として成り立つものたち、例えばエルフやリザードマンなどは魔物と呼ばれるのを嫌う。彼らにとって、自分たちは一つの種族であり、人工的に創造されたものが魔物である、と考えているからだ。


さて、そんな人工的に創造された魔物だが、大抵は知能がなく、創造主にプログラムされた通りに動く。侵入者を消せだったり、宝を守れだったり。

命令を間違えて、自らの創造物に殺められたなんて、悲しい事例もあったりする。


前方からポヨポヨと音がしたかと思うと、固形化した液体のようなものが目の前に躍り出た。


これは、人工のスライムだな。しかも、水から創造されている。

スライムといえば生きた液体であり、命を溶かし喰らう凶悪な魔物である。

が、人工のスライムはそうではない。

液体にベースに創造される、非常に簡素な魔物である。特に水から創造されるものは極めて危険が少なく、魔物にとって遊び道具ともなる。


ダンジョンに期待して入ったものの、出てくるものがこれでなは…

我は頭を抱える。

水に毒でも混ざっているなら歯応えもあっただろうに、子供の遊びレベルときた。

貴族に傷をつけるわけにはいかない以上、このような措置になるのはわからなくもない。

だが、これはあまりにも歯応えが足りない。文字通り水を噛むようなものだ。


仕方なく剣を構えて、一太刀切りつける。

切り付けられたスライムは、あっさりと崩れて、元の水に戻った。


崩れる水を見て、昔のことを思い出した。


ダンジョンで出会った、名もなきスライム。

四天王との最初の出会いだった。

彼女は冒険心溢れる、珍しいスライムだった。

そして、命をそのまま喰らう仲間を忌避し、料理をたしなむ面白いやつだった。


最初はライバル心を持っていた彼女だったが、共にダンジョンに閉じ込められ、食料も尽きたとき、せめてのも足しになればと我が体の一部を与えた。

生まれ変わる前の我は再生能力を持っていたからな。多少の無理は効いたのだ。


それ以降、助けてくれたからと冒険についてくるようになった。

最初の内は、やっかいなものに好かれたと思ったものだ。


だが彼女は、我が魔王を名乗るようになってからもずっと付いてきてくれた。

勇者一行により四天王のひとりが倒れてからは、2人の仕事をして魔王軍崩壊を防ぐべく奔走していた。


「生きた海」


彼女はそう恐れられていた。我の命を取り込んだ影響か、通常のスライムよりはるかに長命となった彼女は、魔王軍で我に次ぐ、四天王最強の存在だった。


それでも、勇者一行には勝てなかった。


「申し訳ありません、魔王様。私は死んだようです」


彼女は、魔王軍本陣に体の一部を残していた。曰く、猪突猛進な魔王を抑えるために、冷静になるよう常に言い聞かせるためにと。

今になって思うと、四天王をひとり失った我を慰めるためだったのだろう。


「体の一部を残しておいてよかったです。こうして遺言が残せます」


小さな彼女は笑っていた。

そして、今後の作戦・勇者一行という強敵の存在・魔王軍をまとめるための演説の仕方などなど、ひとしきり話して、水となって消えた。


ちょうど、目の前で水になったスライムのように。


流石にこのダンジョンでは、彼女のようなスライムには出会えないだろうな。

しかし、ひとりだと感傷に浸ってしまう。

やはり我は弱くなったのだろうか。


昔のことを考えるのはよそう。

足を止めてしまえば「時間がかかってしまった」などと減点されかねん。

思い出は遠くにある。今大事なのは、新たな四天王だ。


さて、出てくる魔物には期待できなくなったが、王家のダンジョン自体は非常に興味深い。

何重にも刻まれた紋様は魔法陣だ。パッと見る限りだが、頑丈にする魔法、誰かの指示によって経路を組み替える魔法が読み取れる。

許可なくこのダンジョンに入ってしまえば、構造が変わり脇道も掘れないこのダンジョンから逃れる術なく、あっさりと死を迎えることになるだろう。


ま、我や彼女なら楽々に突破するだろうがな。


スライムを切り伏せつつ、適当に進んでいく。

が、途中で違和感を感じた。

試験の時間はそれほど長くない。確か2限分の講義時間が取られていたはずだ。

にしてはあまりにも長すぎる。体感は2時間過ぎているはずが、今だに出口に辿り着けない。


不審に思った我は、試すことにした。


「…下級火魔法剣ブレイズ・ソード


無音詠唱で呪文を簡略化し、炎を剣の形に整える。片手に炎の剣、もう片手に剣を携え、壁を十字に切りつけた。


ふむ、硬いが傷はつけられるな。


今度は左手側の壁に剣を構えて、走りながら切りつけた。壁に傷をつけながらしばらく走って確信する。

このダンジョン、構造がループしている。

いや、構造が変わるダンジョンだ。道が組み変わって閉じ込められたというのが正しいだろう。


思わず、我は笑い出した。

面白い。退屈なダンジョン探索かと思いきや、死へと繋がるトラップだったということか?

誰が、何のために?


時間が経てば、異常に気付いた先生が助けを出すだろうが、そんなものを待っている余裕はない。

いや、これを仕掛けたのが先生の可能性も…それはないか。先生の権限や力では、王家のダンジョンをどうこうできまい。


とにかく、我は自力でここを出る。

奇しくも1人で都合も良い。これなら本気を出せるというものだ。


壁に手を向け、拳を握る。


「創世の破、終いの赤、炎よ、全てを焼き払う炎よ、我が敵を燃やし尽くせ、上級火魔法拳ブレイエスト・ナックル


今回は無音詠唱は使わない。

詠唱を簡略化せずに行うことで、意志の力たる魔力は燃え上がり、魔法の威力はそれに比例して上昇する。

つまり、手加減はなし。そういうことだ。


呪文に合わせて炎が上がる。炎は行き場を失ったかのように燃え盛り、しかし拳に集中する。

我は炎を纏った拳を引き、壁に叩きつけた。


凄まじい轟音。外まで伝わったであろうそれは、魔力を纏い頑丈な石の壁をあっさりと砕いた。


「ふむ、やはり出力が落ちているな」


無音詠唱による簡略化をやめ、全力をこめた上級火魔法ブレイエストでこの程度か。

やはり、鍛え直さなければない。


今後の課題を見つけつつ、我は出口を目指した。



ーーー



「無事でしたか、フォルクくん!」


先生から声をかけられる。汗をかいて顔が青くなっている。これはやはり先生が原因ではなさそうだな。


「先生、このダンジョンですが、途中で構造がループしていました。僕は何とかなりましたが、試験は中止した方が良いでしょう」

「そんなことが…どうしましょう」

「…先生?」

「スバリオさんシデルさんペア、トレンさんウィケさんペアがまだ戻って来ていないのです!」


我は頭に血が昇るのを感じた。

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